この記事で分かること
- 米国の2019〜2022年のデータで、ターゲットデートファンド(TDF)の保有が多い株式ファンドほど資金の出入りが穏やかで、間接保有が多い銘柄ほど変動が小さかったという研究の中身
- 「下落の約10分の1を和らげた」という概算が何に依存するか。同じ論文の係数で編集部が計算し直すと0.90〜2.51%に開くこと
- 企業型DC・ラップ口座・バランス型で、自動で生じる売買の量を計算し、説明と商品選定で確かめる手順
想定読者:ウェルスマネジメント・投信販売の担当者、企業型DCの事務局・運営委員、運用会社の商品企画の担当者
前提知識:投資信託と資産配分の基本(回帰分析の用語は本文で説明します)
株価が急落した週に、ターゲットイヤー型のファンドを持つ顧客から「このままでよいのか」と電話が入る。手元の運用会社の資料には、目標の比率へ戻すために下がった株式を買い増す仕組みだと書いてある。ここで「年金の買いが相場を支えています」と答えてよいのだろうか。
Jonathan A. ParkerとYang Sunの論文は、この仕組みが市場に与える影響を米国のコロナ期のデータで調べた。ファンドの資金と銘柄間の差については安定化を示す結果が得られている。一方、市場全体をどれだけ支えたかは、著者ら自身が現時点では十分に測れないと書いている1。この二つを分けて読むことが、顧客への説明でも、確定拠出年金の商品選定でも出発点になる。
この記事が主に参照する研究
Jonathan A. Parker、Yang Sun(2025)「資産市場の安定装置としてのターゲットデートファンド:パンデミックからの証拠(Target Date Funds as Asset Market Stabilizers: Evidence from the Pandemic)」Journal of Pension Economics & Finance 24(1)
- 公表:初版 2023年8月(NBER WP 31640)。掲載誌のオンライン公開は2023年11月、号は2025年1月。参照した版:WP版を通読し、掲載誌のオープンアクセス版で本文の主要な数値の一致を確認。査読:掲載誌版は査読済、数値・ページはWP版
- データ:米国。CRSPのTDF、米国株式ファンド、上場株式。2019年1月〜2022年12月(投信の月次17,218件、株式の月次48,928件)
- 方法:株式と債券のリターン差とTDF保有比率を掛け合わせたパネル回帰。自然実験ではなく、統制変数と事前の保有比率で他の要因を除こうとする分析
- 位置づけ:既存の理論(目標配分を保つ投資家の逆張り)を、極端な変動の時期の新しいデータで検証した研究
目標比率を守るファンドは、下がった資産を買う
TDFは、退職予定年に向けて株式の比率を下げていく投資信託である。下げ方の設計をグライドパスと呼ぶ。日本ではターゲットイヤー型と呼ばれる。多くは株式ファンドと債券ファンドを組み入れるファンド・オブ・ファンズで、論文によれば、米国では2006年の年金保護法でデフォルト商品として認められたことが普及を後押しした2。401(k)の投信資産に占めるTDFの比率は、2005年の3%から2022年には約4分の1へ高まった3。Vanguardの統計を引いて、論文は参加者の81%がTDFを使い、保有者の69%が口座全体を1本のTDFに入れていたと紹介している4。
TDFが市場に関わるのは、目標の資産配分を保つからだ。目標の株式比率をS、株式と債券のリターンをRE、RBとすると、資金の出入りがなければ、株式の純購入額は資産1に対して−S×(1−S)×(RE−RB)になる5。株式が債券を下回れば買い、上回れば売る。Sの二次式なので、図1のように必要量は株式比率50%で最大になり、0%と100%ではゼロになる6。論文の例では、株式比率65%のファンドは、差が10%ポイントのとき資産の2.3%を売ることになる7。
前身の研究(Parker, Schoar and Sun、2008〜2018年が対象)は、TDFがこの式どおりに動くことを確かめた。予測額に対する実施の割合は、同月に44%、1か月後までに70%、2か月後までに83%だった8。同じ研究は、TDFのリバランスが投信全体の順張りの資金の約20%を相殺したと推計している9。残された問いは、経験のない変動の中でも、運用者と加入者がこの動きを続けたかどうかだった。
資金の出入りは穏やかになり、銘柄の間にも差が出た
まず集計の姿である。2008〜2011年には、米国株式ファンドへの資金の流れと株式リターンの相関が0.78あった。2019〜2022年の図では、2020年2〜3月の流出は軽く、2021年の上昇局面でも流入が見られず、2022年の下落局面ではむしろ流入があった10。ただし著者らは、順張りの資金が投信から直接の株式売買へ移った可能性を認めている11。そこで個々のファンドと銘柄を比べる(表1)。
表1 研究の主な数値(米国、2019〜2022年)
表は横にスクロールできます →
| 調べたこと | 比較 | 結果 | 統計的な確かさ |
|---|---|---|---|
| 2020年3月の株式ファンドの資金 | TDF保有の少ない群と多い群 | 流出 4.2%と2.9% | 差の p値 0.026 |
| 2020年4月の資金(株高の月) | 少ない群と多い群 | 流入 1.0%と流出 0.3% | 差の p値 0.028 |
| 株10%下落時の流出 | TDF保有10%ごと | 2か月で流出が38%減 | 交差項は5%・1%水準 |
| 交差項の係数(4因子アルファの、株式と債券のリターン差に対する感応度の差) | 保有1%ポイントあたり | 同月 −0.051、翌月 −0.027 | ともに5%水準 |
| 月次リターンの標準偏差 | 保有1%ポイントあたり(全統制) | −0.40%ポイント | 1%水準 |
| ±10%超の月の比率 | 保有1%ポイントあたり(全統制) | −1.64%ポイント | 1%水準 |
資金の面では、株式が債券を12.7%ポイント下回った2020年3月に、TDF保有の少ない群は資産の4.2%、多い群は2.9%の流出だった。反発した翌4月には向きが逆になり、少ない群に資産の1.0%が入る一方、多い群は0.3%の流出だった。いずれも差は統計的に有意である12。ただし、差が±8%ポイントを超えた7か月のすべてで有意だったわけではなく、2019年5月、2020年8月、2020年11月は有意な差が確認されなかった13。
全期間の回帰では、TDF保有のない指数連動でない投信は、株式の10%下落で当月に資産の0.46%、翌月に0.22%流出する関係が推定された。ファンドの10%をTDFが持つごとに、2か月合計の流出は38%小さい14。インデックスファンドでは同月に、アクティブファンドでは翌月に強く現れた15。社債ファンドには、株高の翌月に資金が入る逆の動きも確認された16。
銘柄の面では、株式が債券を上回る月に、TDFの間接保有が多い銘柄ほどリスク調整後のアルファが低かった。下げの月には逆になる。効果は翌月にも続いた17。変動についても、2018年の保有比率が高い銘柄ほど2019〜2022年の変動は小さかった。統制前の五分位の比較では月次標準偏差が14%と11%、±10%超の月の比率が39%と32%である18。規模や配当利回りなどを統制すると係数は元の3〜4割に縮むが、有意なまま残る19。保有比率の四分位範囲(0.85%ポイント)に当てはめると、編集部の計算で標準偏差は約0.34%ポイント、±10%超の月の比率は約1.39%ポイント低い。平均は12.96%と37.34%なので、統計的には明瞭でも、大きな差とまではいえない20。
「下 落の約10分の1」という数字を分解する
最も引用されやすいのは、2020年2〜3月の下落についての概算だろう。著者らは、平均的な銘柄のTDF間接保有が1.3%なので、表VI列1の係数から(0.051+0.027)×1.3=0.1014が得られ、21%の下落に対して2.13%、下落の約10分の1を和らげたと計算した。資金面では、同じ下落で平均的なファンドに1.9%の流出が見込まれるところ、TDFが0.71%を買ったとする21。著者ら自身が大づかみの試算(back-of-the-envelope)と呼ぶ22。
同じ表には7つの仕様が並ぶ。編集部の再計算では、各列の係数を同じ式に入れると、図2のとおり0.90%から2.51%に開き、下落に対する比率でいえば約4〜12%になる23。
開きの大部分は、リスク調整に使うベータの推定期間から来る。列1〜5は1996〜2005年、列6・7はそれより後の期間で推定しており、後者では同月の係数が小さくなって有意でなくなる。翌月の係数は残る。著者らは、後の期間のベータがTDFの効果をすでに吸い込むためだと説明し、古い期間を使うのはその影響を避けるためだとする24。この説明には筋が通っているが、編集部の見方では、同月の効果の推定がベータの窓に左右されることは、数字を引用するときに伝えるべきだ。翌月の係数だけなら、列6・7で0.87%と0.74%である25。
もう一つ、推定の方向が分からない誤差がある。著者らは、TDFの外に同額の資金があり同じ戦略・保有構成で動く場合には係数が2倍に過大推定される例を挙げる。逆に別の銘柄を持つなら、係数に偏りはないが、測られていない安定化の効果が残る26。以下は編集部の見方である。回帰が識別するのは銘柄の間の差であり、すべての銘柄に共通する水準の押し上げではない。それを平均的な銘柄に掛けた2.13%を、市場全体の下落が和らいだ大きさと読むには追加の仮定が要る。著者らが結論で市場全体の影響は測れないと書いているのは、この点と整合する27。
研究の範囲と、反対側から見た研究
対象は米国の投信型TDFとその組入先で、期間は4年である。著者らは、変化はTDFによるところが大きいが、それだけが理由ではないと明記している28。係数の大きさは前身研究と近く、時期による違いの主因は規模だという。TDFが国内株式ファンドの資産に占める比率は、2008年に高々0.2%、パンデミック前に少なくとも5%と見積もられている29。TDFの保有は無作為に割り当てられたものではなく、要旨の「引き起こした」という言葉は、統制変数と事前の保有比率による識別を前提に読む必要がある30。TDFと一緒に売買する戦略は期間中に利益を生み、逆らう実行可能な戦略は4年で約30%の損失だったとも報告されるが、これは特定の4年の累積で、取引費用には触れていない31。
安定化が望ましいとも、著者らは言っていない。価格の変動が一時的なものなら効率性を高めるが、配当の恒久的な変化への反応なら効率性を下げ、TDFの投資家が損を負う可能性もあるという32。
別の角度の研究が二つある。Foley-FisherとLeeは、コロナ危機の間にファンド・オブ・ファンズが債券ファンドの流出の約3分の1を占めたと推計し、一方の市場の安定が他方の不安定化を伴うと論じた33。この債券側の経路は、株安で債券ファンドが売られる経路で詳しく扱った。Harvey、Mazzoleni、Meloneは、米国の1997〜2023年について、株式と債券の配分の乖離を示す指標が1標準偏差高いと翌日の株式リターンが16〜17bp低く、2週間ほどでほぼ戻ることを示した。費用は年8bpを超えうるとし、約160億ドルと概算し、時期を予想する戦略のシャープレシオは1を超えたという34。同論文は、TDFの規模だけでは市場全体への影響は小さいとする前身研究の見方を紹介したうえで、年金やソブリン・ファンドなど幅広い機関投資家を対象にしている35。
大手町プレップの考察:安定化は副産物であり、商品の便益ではない
ここからは編集部の見方である。第一に、この研究は加入者にとっての得を示したものではない。TDFはもともと個人の配分を改善するために作られ、市場への影響は意図された目的ではなかった36。投資家の成果と市場の変動は別の問いであり、「相場を支える」は商品の説明として使えない。
第二に、この効果の源は式だけではなく、加入者が動かなかったことにある。著者らは、TDFの自動の売買と加入者の惰性が合わさって逆張りの資金が続いたと述べる37。同じ式で計算できるファンドでも、保有者が下落局面で解約すれば資金の動きは変わりうる。日本の投信で目標配分を保つ商品が、DCの外でも同じように動くとはいえない(仮説であり、検証されていない)。
第三に、Parkerらの「市場の安定」とHarveyらの「投資家の費用」は矛盾するとは限らない。月次で変動を和らげる売買が、時期を読まれれば翌日の価格を不利に動かす。前者は市場の側から、後者は運用者の側から同じ売買を見ている、と編集部は考える。安定化を論じるなら、その費用を誰が負うのかも同時に問う必要がある。
日本の実務への応用:DCの指定運用方法と、DCの外の目標配分
制度の出発点が違う。米国ではTDFがデフォルトの中心になったが、日本の確定拠出年金法第23条の2は、運営管理機関等が指定運用方法を「選定し、企業型年金加入者に提示することができる」と定める任意の仕組みである38。選定の基準は施行規則第19条にあり、損失の可能性が加入者集団の属性等に照らして許容範囲にあること、必要な収益の水準、損失と収益の合理的な関係、費用が過大でないことを求めている39。指定運用方法の設定の扱いについては、2024年12月の社会保障審議会の部会の整理でも、引き続き慎重に検討すべきとされた40。
企業年金連合会の2024年度調査では、指定運用方法を採用する企業は43.0%で、その内訳は元本確保型60.1%、ターゲットイヤー型23.2%、資産配分固定型12.2%、リスクコントロール型3.9%だった41。2017年の社会保障審議会の専門委員会の報告書が、デフォルト設定は元本確保型が95%と記していたのと比べると、大きな変化に見える。ただし調査と定義が異なるので、厳密な時系列ではない42。投信の配分割合は回答企業の平均で残高の66.2%である43。企業型DCの資産額は2026年3月末の速報で27兆8,288億円44。ターゲットイヤー型の残高を示す一次統計は、本稿では確認できなかった。
論文の式は米国以外でも計算できるが、結果を日本へ移せるかは別である。編集部の見方では、確かめるべき点は三つある。第一に、株式100%の投信は式の上ではリバランスの必要がない。積立の流入は続いても、株式と債券の間で逆張りの売買は生じない。第二に、株式ファンドと元本確保型を別々に持つ加入者では、商品の中では何も起きず、比率は個人が動かさない限り戻らない。第三に、DCの外にも目標配分の資金がある。論文はモデルポートフォリオを似た動きの候補に挙げており45、日本ではラップ口座の契約金額が30兆3,706億円に達する46。ラップ口座の売買の規則は本稿では確認しておらず、米国と同じ効果があるとは本研究からはいえない。プライベートバンクの資産配分でも、どの規則で比率を戻すのかは契約ごとに確かめる点になる。
公的年金では、GPIFの基本ポートフォリオは内外の株式と債券が各25%で、株式全体の比率は50%と、式で必要量が最大になる配分である。ただし債券・株式全体に±9%の乖離許容幅があり、毎月機械的に戻す運用を意味しない47。論文も、年金や基金のリバランスはTDFより頻度が低く、裁量も大きいと述べている48。
学習用の設例:同じ100億円で、自動の買いはどれだけ違うか
学習用の設例(架空)
- 残高100億円の架空の企業型DCプラン。ある期間に株式−20%、債券・元本確保型+1%で、差は−21%ポイント
- 案A:株式ファンド60億円と元本確保型40億円。案B:60/40のバランス型100億円。案C:表2の4本のターゲットイヤー型
- 加入者の売買、掛金、解約は0。ファンドは目標比率へ完全に戻す。銘柄や本数の推奨ではない
表2 設例:案Cの内訳(架空)
表は横にスクロールできます →
| ファンド | 残高 | 目標株式比率 | 株式の買い |
|---|---|---|---|
| TY2055 | 40億円 | 90% | 0.76億円 |
| TY2040 | 30億円 | 70% | 1.32億円 |
| TY2030 | 20億円 | 50% | 1.05億円 |
| TY2025 | 10億円 | 40% | 0.50億円 |
| 合計 | 100億円 | 平均71% | 3.63億円 |
案Aと案Bは全体の株式比率が同じ60%だが、案Aのファンドの中では自動の売買が起きない。下落後の株式比率は約54.3%に下がったまま、戻すかどうかは加入者次第である。案Bでは5.04億円の買いが生じ、期首資産の5.04%に当たる。案Cは株式比率の高い若い層のファンドの残高が多いため、全体の株式比率は71%と高いが、買いは3.63億円と案Bより少ない。
10年たって各ファンドの目標比率が70%、50%、40%、40%へ下がったと置くと、残高が同じでも買いは4.85億円と約34%増える49。高齢化とともに効果が強まるという著者らの指摘と同じ向きである50。設例が示すのは、自動の売買の量が商品の組み合わせと加入者の年齢構成で決まるということで、どの案が加入者にとって良いかではない。
明日から使える確認項目
- 必要量を計算する。商品ごとに「−残高×目標株式比率×(1−目標株式比率)×(株式の騰落率−債券の騰落率)」を出し、差−20%ポイントで合計する。正の値が買いである。株式100%と元本確保型はゼロと置く。
- 運用会社に尋ねる。「直近の急落で目標比率から最大何%ポイント離れ、何営業日で戻したか」「戻す方法は組入ファンドの売買、先物、資金流入のどれか」。論文は運用方式で速さが異なると示している51。
- 時期の読まれやすさを確かめる。リバランスの日が月末や四半期末に固定されていないか、分けて執行しているかを見る。Harveyらは、時期を無作為にすると費用の大半が消える一方で、約35bpの追跡誤差が生じると試算している52。
- 口座全体の比率を見る。企業型DCやポートフォリオの点検では、商品単位ではなく、株式ファンドと元本確保型を合わせた口座の株式比率の変化を加入者や顧客に示す。設例の案Aなら、60%が54.3%へ下がる。
- 指定運用方法の選定の記録を見直す。施行規則第19条の4項目(損失の許容範囲、収益、両者の関係、費用)に沿って根拠を書き、市場の安定化を加入者の便益の欄に書かない。
- 説明の文言を点検する。「年金の買いが相場を支える」は使わず、「目標の比率へ戻すために下落時に買う仕組みで、損失を防ぐものではない」と書く。適合性と説明の実務の文脈でも、研究の結果を商品の効能のように語らない。
- 組み入れられる側の運用者は、上位ファンドの保有比率を把握する。編集部の仮の目安として、保有が10%を超えたら、資金流出の想定を上位ファンドの規則から別に試算する。10%という水準は研究で検証されたものではない。研究の標本の平均は13%だった53。
よくある質問
TDFを持っていれば、急落時の損失は小さくなりますか。
研究が調べたのは、組入先の株式ファンドの資金と個別銘柄の値動きで、TDFの保有者の損益ではありません。損失の大きさは主に、その時点の株式比率で決まると考えられます。
日本のターゲットイヤー型でも同じ結果になりますか。
分かりません。研究は米国のデータによるものです。リバランスの必要量は同じ式で計算できますが、規模、保有者の行動、組入先の構造は確かめられていません。
株式ファンドと債券ファンドを自分で組み合わせても同じですか。
定期的に比率を戻せば売買の向きは似ます。ただし論文の結果は、自動の売買を加入者が放置したという条件のもとで得られたものです。自分で戻す場合は、下落局面で実行できるかが別に問われます。
まとめ
Parker and Sunの研究は、米国の2019〜2022年に、TDFの自動のリバランスが極端な変動の中でも続き、保有の多い株式ファンドの資金と銘柄の値動きが穏やかだったことを示した。一方、下落の約10分の1という数字は大づかみの試算で、同じ表の仕様で編集部が計算し直すと0.90〜2.51%に開く。市場全体の影響は著者らも測れないとしている。日本で使えるのは結論の言い回しではなく、S×(1−S)で必要量を計算し、誰が動かず、誰が費用を負うのかを問う手順である。
脚注
- R1(NBER WP 31640、2023年8月)p.36(結論)。市場全体への影響は、市場の変動の大きさ、弾力性の推定、TDFの現在の規模から、十分に測定できないとしている。ページはPDFの物理ページ(印刷ページ+2)。↩
- R1 p.3〜4(序論)。年金保護法(Pension Protection Act of 2006)はTDFとバランス型ファンドをDCのデフォルトの選択肢として認めた。↩
- R1 p.4。比率はTDF投資の67%が401(k)経由と仮定した推計(p.5 図1の注)。↩
- R1 p.4。Vanguard(2022)を引用した2021年末の数値で、同社の顧客プランの統計である。↩
- R1 p.9〜10(1節・表I)。グライドパスの移動はなく、期首に目標比率どおり保有していると仮定した式。↩
- R1 p.8、p.10。↩
- R1 p.13。0.65×0.35×10%=2.275%で、中央値のファンドの売却額もこれと同程度だったと述べている(図4の結果。Parker, Schoar and Sun(2023)の再掲)。↩
- R1 p.13〜14(表II、列1)。R2の表3の再掲。債券側のリバランスは弱く遅い(p.14)。↩
- R2(NBER WP 28028、2022年8月改訂版)p.5(序論)。↩
- R1 p.5〜6(図2)。相関0.78は2008〜2011年。2019〜2022年の相関の数値は本文にない。↩
- R1 p.6。一方で2022年の流入は個人の行動では説明できず、TDFのようなファンド・オブ・ファンズによる可能性が高いというのが著者らの解釈である。↩
- R1 p.18〜19(表IV)。差はそれぞれ1.278と−1.277(%ポイント)。本文は3月のp値を0.03と丸め、表は0.026。↩
- R1 p.19(表IV)。p値は0.277、0.707、0.577。残る4か月のうち2022年10月は10%水準(p=0.055)。↩
- R1 p.21〜22(表V列1)。↩
- R1 p.22。著者らは、ファンド側の差よりも、組み入れるTDFの運用方式の差によるとみている。↩
- R1 p.21〜22(表V列5〜8)。↩
- R1 p.22〜23、p.25(表VI)。アルファはMarket、SMB、HML、モメンタムの4因子モデルによる。間接保有は、投信の銘柄保有比率とTDFの投信保有比率の積の合計(p.24)。↩
- R1 p.7(図3)。低い群は最下位の五分位、高い群は標準偏差が第4・第5五分位、比率が最上位の五分位。著者らも単なる相関と断っている。↩
- R1 p.30〜31(表VII)。標準偏差の係数は−1.298(列1)から−0.398(列3)へ、±10%超の月の比率の係数は−4.173(列4)から−1.641(列6)へ。本文の統制変数は2018年の値、表の注は2019年の平均と書かれており、一致していない。↩
- R1 p.30(表VII)。四分位範囲は0.60%〜1.45%。計算は編集部による。列3・列6の係数に掛けた。↩
- R1 p.27〜28(4.B節、注14)。資金面の38%は0.034÷0.089、全米国株式ファンドで約19%(標本のファンドは資産の約半分)。↩
- R1 p.27。↩
- 編集部の計算。係数はR1 p.25(表VI)。論文が示しているのは列1の2.13%だけである。21%は(1−0.097)×(1−0.127)−1(p.28 注14)。↩
- R1 p.26〜27(表VI列6・7)。著者らは、列6・7の結果が列1〜5を否定するものではないと位置づけている。↩
- 編集部の計算。↩
- R1 p.31(4.D節)。2倍はTDFの外に同額の資金があり同じ戦略で動く場合の例で、上限として示されたものではない。別の銘柄を持つ場合は推定に偏りがないとし、実際は両者の間にあるとみている。↩
- R1 p.28、p.36。銘柄間の差から市場全体の水準へ読み替える点の指摘は編集部の見方である。↩
- R1 p.4(序論)。↩
- R1 p.28〜29(4.B節)。2008年の値は保有データの質が低く、著者らも非常に粗い推計としている(注16)。↩
- R1 p.2(要旨)、p.19〜20、p.22〜24、p.28〜29。無作為ではないという指摘は編集部の整理。著者らは統制変数の追加と2018年の保有比率の使用で対処している。↩
- R1 p.34〜35(5節、図6)。同月に売買する戦略は実行不可能で、累積40%(月83bp)を上限とみなしている。↩
- R1 p.36〜37(結論)。↩
- R4(FEDS 2025-106)p.6(序論)、p.34(結論)。↩
- R3(NBER WP 33554、2026年1月改訂版)p.2(要旨)、p.4〜6(序論)、p.21。先物による60/40ポートフォリオの模擬から作った信号で、実際の売買そのものではない。未査読。↩
- R3 p.3(序論)。↩
- R1 p.3(序論)。↩
- R1 p.22(3節末)。↩
- R5 第23条の2。↩
- R6 第19条。↩
- R9 p.19〜20。全世界の分散投資の低コスト投信をデフォルトにする意見と、ターゲットデートファンドにすると継続投資教育が疎かにならないかという懸念の両方が記録されている。↩
- R7 p.16。採用状況はn=807、内訳はn=336。↩
- R10 p.13〜14(報告書の印刷ページ)。「デフォルト設定」と現行の「指定運用方法」は制度上の位置づけが異なる。↩
- R7 p.17。n=618の平均。↩
- R8 p.1。規約数7,586件。↩
- R1 p.32(4.D節)。2019年で約4兆ドルと紹介している。↩
- R11(数字で見る投資信託、2026年10月14日)項目23。2026年6月末。項目12のファンド・オブ・ファンズは44兆4,673億円(公募株式投信の12.9%)だが、これにはバランス型以外も含まれうる。↩
- R12(GPIF「基本ポートフォリオの考え方」、2025年4月適用)。実際の売買を本稿で検証したものではない。↩
- R1 p.33(4.D節)。米国の機関投資家についての記述である。↩
- 10年後の目標比率は学習用の仮定で、特定の商品のグライドパスではない。↩
- R1 p.8、p.36。↩
- R1 p.13〜14、p.22。受動運用のTDFほど速く完全に戻す(2008〜2018年)。↩
- R3 p.5、p.22、p.44。仮想の戦略による試算である。↩
- R1 p.28。TDFに組み入れられたファンドを含む標本の平均。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Parker, J. A. and Y. Sun (2025), “Target date funds as asset market stabilizers: evidence from the pandemic,” Journal of Pension Economics & Finance 24(1), 183-208. DOI: 10.1017/S1474747223000197(オンライン公開 2023年11月3日)。初版:NBER Working Paper No. 31640(2023年8月), DOI: 10.3386/w31640. 参照した版:NBER WP 版を通読(ページ・表番号はこの版)、掲載誌のオープンアクセス版で本文の主要な数値の一致を確認(表の中の数値は WP 版)。査読:掲載誌版は査読済、数値・ページはWP版。 nber.org (参照箇所:PDF の物理ページ p.2〜37(要旨・本文)、表I〜VII・図1〜6。表1・図2は数値を選んで整理した独自の図表で、原図表の転載ではない。閲覧日:2026年10月)
- R2 Parker, J. A., A. Schoar and Y. Sun (2023), “Retail Financial Innovation and Stock Market Dynamics: The Case of Target Date Funds,” Journal of Finance 78(5), 2673-2723. DOI: 10.1111/jofi.13258. 参照した版:NBER WP 28028 の2022年8月改訂版(初版2020年10月)。査読:掲載誌版は済。本稿が読んだ WP 版は未査読。 nber.org (参照箇所:p.2〜5(要旨・序論)。対象は2008〜2018年。閲覧日:2026年10月)
- R3 Harvey, C. R., M. G. Mazzoleni and A. Melone (2025), “The Unintended Consequences of Rebalancing,” NBER Working Paper No. 33554. 参照した版:2026年1月改訂版(初版2025年3月)。査読:未査読(WP)。 nber.org (参照箇所:p.2〜6(要旨・序論)、p.21〜22、p.44。閲覧日:2026年10月)
- R4 Foley-Fisher, N. and J. Lee (2025), “Funds of Funds’ Portfolio Rebalancing during the COVID-19 Crisis,” Finance and Economics Discussion Series 2025-106, Board of Governors of the Federal Reserve System. DOI: 10.17016/FEDS.2025.106. 参照した版:FEDS 2025-106。査読:未査読(WP)。 doi.org (参照箇所:p.2、p.6、p.34。閲覧日:2026年10月)
- R5 確定拠出年金法
(平 成13年法律第88号) laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第23条の2。閲覧日:2026年10月) - R6 確定拠出年金法施行規則
(平 成13年厚生労働省令第175号) laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第19条。閲覧日:2026年10月) - R7 企業年金連合会「2024(令和6)年度 企業型確定拠出年金実態調査結果(概要版)」2026年3月26日 pfa.or.jp (参照箇所:p.16〜17。閲覧日:2026年10月)
- R8 運営管理機関連絡協議会・信託協会・生命保険協会「確定拠出年金(企業型)の統計概況(令和8年3月末現在)」2026年6月5日 shintaku-kyokai.or.jp (参照箇所:p.1(速報値)。閲覧日:2026年10月)
- R9 社会保障審議会企業年金・個人年金部会「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」2024年12月27日 mhlw.go.jp (参照箇所:p.19〜20。閲覧日:2026年10月)
- R10 社会保障審議会企業年金部会 確定拠出年金の運用に関する専門委員会「確定拠出年金の運用に関する専門委員会 報告書」2017年6月6日 mhlw.go.jp (参照箇所:印刷ページ p.13〜14。閲覧日:2026年10月)
- R11 一般社団法人資産運用業協会
「数 字で見る投資信託」2026年10月14日 toushin.or.jp (参照箇所:項目12・23。閲覧日:2026年10月) - R12 年金積立金管理運用独立行政法人
(G PIF)「基 本ポートフォリオの考え方」 gpif.go.jp (参照箇所:第5期(2025年4月適用)の資産構成割合と乖離許容幅。閲覧日:2026年10月)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。