想定読者:銀行・証券・IFAで投信やラップ口座を扱う担当者、プライベートバンキング・ウェルスマネジメントの実務家、運用会社の商品企画・営業企画、販売会社のKPIを読むアナリスト
前提知識:IRR(内部収益率)の考え方と、投資信託の基準価額・トータルリターンの基本

架空の場面で考える。顧客との定期面談で、担当者が運用報告書を開く。保有している外国株式の投信は、この5年間に年率で8%近い成績を上げている。ところが、同じ投信を3回に分けて買い増してきたこの顧客の実績を口座の入出金から計算すると、年率は5%台にとどまる。差の説明として担当者の頭に浮かぶのは「売買のタイミングが悪かったから」という説明である。

米国では、この説明に数字を与える調査が毎年公表されている。投信の評価会社Morningstarの「Mind the Gap」だ。2025年版は、2015〜2024年の10年間に米国の投信とETFの投資家が得た年率のリターンを7.0%、同じファンドを期首に買って持ち続けた場合のリターンを8.2%と推計し、差は買い持ちのリターンの約15%に当たるとした1。以前の版には、時機の悪い売買が買い持ちのリターンの約5分の1を失わせたという趣旨の記述もあった2。

本稿が取り上げる論文は、この差を時機の悪さの証拠と読むのは誤りだと主張する。日本の販売の現場で顧客と商品の成績の差を説明するときにも、差の測り方を見直す材料になる。

この記事が主に参照する研究

Jon Fulkerson、Bradford Jordan、Timothy Riley、Qing Yan(2026)「売買の時機の悪さは投資家からファンドのリターンの15%を奪っていない:Morningstarの『Mind the Gap』調査の検証(Bad Timing Does Not Cost Investors 15% of Their Funds’ Returns: An Examination of Morningstar’s “Mind the Gap” Study)」Financial Analysts Journal 82(3)

  • 公表:初稿は2024年7月作成、同年8月にSSRNに掲載(旧題は“…One Fifth of Their Funds’ Returns…”で、Morningstarの2023年版を検証)。参照した版:掲載誌の版(2026年5月12日オンライン公開、オープンアクセス)。査読:済
  • データ:Morningstar Directから取得した米国の投信のシェアクラス別の月次リターン・資金の出入り・純資産(2015年1月〜2024年12月。Morningstarの2025年版と同じ期間)
  • 方法:Morningstarの計算を再現したうえで、Hayley(2014)の方法で差を「時機」と「後知恵」の成分に分ける。集計値の分解で、因果の識別ではない
  • 位置づけ:新理論ではなく、既存の分解方法を業界の代表的な調査の標本に当てはめた検証(短い論考)

二つの​リターンは​何を​測っているか

投信の成績として通常示されるのは、時間加重収益率である。期首に一括で投資し、分配金を再投資しながら持ち続けた場合の年率である。1口当たりの基準価額は投資家の購入や解約では動かないので、分配金を再投資したとみなした基準価額の騰落率も同じ性質を持つ。資金の出入りの影響を除くので、運用者や商品の評価に向く。これに対して金額加重収益率は、投資家が実際に入れたお金と引き出したお金、最後の評価額から計算するIRRで、残高が大きい時期のリターンほど重く効く。

Morningstarの手順は次のとおりだ。対象の投信を一つのポートフォリオにまとめ、期首の純資産で加重し、その後は組み替えない買い持ちの複利で​均した​年率(幾何平均)を「トータルリターン」とする。一方で、期首の純資産と期中の購入を投資家の支出、期中の解約と期末の純資産を投資家の受取りとみなしてIRRを解き、これを「投資家リターン」とする。差(Return Gap)は後者から前者を引いた値で、投資家リターンが低ければマイナスになる3。

これはファンド全体を一人の投資家とみなした集計値である。Morningstar自身も、この推計は平均的な投資家の金額加重リターンの代理ではないと方法の説明に書いている。標本は調査期間の期首に存在したファンドで、期中に合併・償還されたファンドも含める一方、期中に設定されたファンドは含まない4。償還分を含めてサバイバーシップバイアスを避ける一方、新設ファンドへの資金の流れは見えない。

差には​「後知恵」が​混ざる​——Hayley​(2014)の​分解

論文の議論の土台は、当時ロンドンのCass Business Schoolに所属していたSimon Hayleyの2014年の論文にある。IRRは各期のリターンを残高で加重した平均とみなせるので、ある時点の資金の流入は、それ以後の期の重みを増やすと同時に、それ以前の期の重みを相対的に減らす。したがって差には、資金の出入りと「その後の」リターンの関係(時機。投資家の富に影響する)と、資金の出入りと「それ以前の」リターンの関係(後知恵。富には影響しない)の二つが混ざる5。

後者が富に影響しない理由は単純だ。ファンドが上がった後に買った人は、それ以前の上昇を「取り逃した」わけではなく、買った後のリターンを受け取るだけである。それでも上昇期の後に残高が増えたぶん上昇期の重みが下がり、IRRは買い持ちより低く出る。リターンが月ごとに無関係に動くなら、過去のリターンを追う売買は富を減らさないが、差はマイナスになる。

論文の付録にある小さな例がわかりやすい。期首100、1か月目と2か月目の末に10ずつ流入し、月次のリターンが+1%、+1%、−1%だった場合、年率の差は−0.75%ポイントになる。分解すると、後知恵が−0.35%ポイント、時機が−0.40%ポイントで、差の約47%は「上昇の後に買った」ことによる見かけの部分だった6。投信の投資家が過去の好成績を追うことは多くの研究が示しており、著者らは実際のデータでも後知恵の成分は大きいはずだと考えた7。

研究が​示した​結果:時機の​損失は​年0.10%ポイント

著者らはまず、Morningstar Directから2015〜2024年の米国の投信の月次データを取り、2025年版の主要な表を再現した8。全体の差はMorningstarの−1.2%ポイントに対して再現は−1.4%ポイントで、買い持ちのリターンに対する比率は15%と17%だった。データの取得時点などによるずれはあるが、著者らは計算を正しく理解できていると判断した9。

次にHayleyの方法で分解すると、全体の差は−0.17%ポイント、そのうち時機の成分は−0.10%ポイント、後知恵は−0.07%ポイントだった。時機の損失は買い持ちのリターンの約1.2%にすぎず、著者らは、時機の判断が投資家全体の富に与える影響は経済的に小さいと結論づける10。これは統計的検定による判断ではなく、大きさの評価である。後知恵は全体の差の約41%、ファンドの分類ごとの平均では約50%を占めた11。

図1 投資家リターンの差と時機の損失図1 投資家リターンの差と、時機の損失米国の投信(2015〜2024年)、年率の差の大きさ棒は差の絶対値(%ポイント/年)。差はすべて負① Morningstar 2025年版の報告値−1.2② 著者らの再現(同じ方法)−1.4③ 期末残高を推定し直した差−0.170.00.40.81.21.6差の絶対値(%ポイント/年)時機 −0.10:売買とその後のリターンの関係後知恵 −0.07:売買と過去のリターンの関係時機の損失は買い持ちのリターン8.2%の約1.2%
出所:R1(Fulkerson et al. 2026)​表1(p.37)と​表2(p.38)の​全体​(Overall)の​値を​基に​大手町​プレップ​作成。​①は​Morningstarの​報告値​(投資家リターン7.0%、買い持ち8.2%)、​②は​著者らの​再現​(6.7%、8.2%)。​③は​Hayley​(2014)の​方法で​分解する​ために、​取引が​すべて​月末に​起きたと​仮定して​期末残高を​推定し直した差​(7.99%、8.16%)で、​①②の​差を​直接分解した​ものではない。​数値は​米国の​投信を​集計した​もので、​個々の​投資家の​結果ではない。​統計的な​検定は​示されていない。​丸めに​より​表示値どうしの​差と​一致しない​場合が​ある。

図1で③の棒が①②より極端に短い点は、読み方に注意が要る。分解には日次の資金の出入りが必要だが、使えるのは月次のデータだけなので、著者らは取引がすべて月末に起きたと仮定して期末の残高を推定し直した。その結果、差そのものが−0.17%ポイントまで縮んでいる。著者らも、③はMorningstarの報告した差を直接分解したものではなく、同じ考え方に基づく別の推計だと明記している12。つまり「1.2%ポイントのうち時機は0.10%ポイント」という読み方は正確ではない。言えるのは、分解できる形で計算し直すと時機の成分は小さく、差のかなりの部分は時機と無関係だった、というところまでだ。

もう一つの発見は付録にある。Morningstarは買い持ちのリターンの計算方法を版ごとに変えていた。2023年版は月末の残高で加重して毎月組み替え、2024年版は月初と月末の平均で加重し、2025年版は期首の残高で加重して組み替えない。同じ2015〜2024年の標本に三つの方法を当てはめると、分類ごとの平均の差は−2.14%ポイント、−1.64%ポイント、−0.93%ポイントと縮み、オルタナティブ分類では−5.54%ポイントが−0.06%ポイントになった13。著者らによれば、月末の残高による加重は実際には組めないポートフォリオで、上昇したファンドの重みを後から増やすため、買い持ちのリターンが上振れする。Morningstarは初稿を確認していたが、計算の変更がそれを受けたものかは明らかでないという14。

研究の​対象・方法・​限界

結論の範囲は著者ら自身が狭く設定している。一部の個人や機関、一部のファンドの投資家が時機を誤っている可能性や、特定の期間に時機の悪さが現れる可能性は否定していない。主張は、Mind the Gapを「時機の悪さが投資家全体の富を減らした証拠」と解釈するなという一点に限られる15。対象は米国の投信の集計値で、個々の顧客の口座ではない。

方法にも弱点がある。著者らは、期末残高の推定という仮定が結果を左右すること、Hayleyの方法の一般的な妥当性には異論があることを認め、投資家の行動とその後のリターンを直接結び付ける方法のほうが望ましいかもしれないと書く16。その異論の一つはHayley自身の2019年のワーキングペーパーで、リターンが系列無相関で資金がリターンを追って一定の形で動くモデルでは、分解の出発点を標本期間の平均リターンに置くと、時機の効果がなくても、長い期間の近似として差の約3分の1が時機の悪さに分類される偏りが生じると示した。この論文は、米国の国内株式投信全体の差1.80%ポイントのうち時機を0.71%ポイントとしたMuñoz and Vicente(2018)の推計について、偏りで0.60%ポイントを説明できるとしている17。本論文の付録Bも全リターンを期間の幾何平均に置いた状態から分解を始めるので、同様の偏りが生じる可能性はある。ただし本論文の標本で偏りの有無や大きさは検証されておらず、時機の損失0.10%ポイントの補正値は示せない(編集部の推論)。

先行研究との関係も見ておく。Hayley(2014)は、米国のNYSE・AMEX上場株式の1926〜2002年について、買い持ちと金額加重の差−1.26%ポイントのうち時機は−0.21%ポイント、後知恵が−0.95%ポイントだったと推計した18。投信の投資家の時機の能力については、悪さを示す研究と巧みさを示す研究が併存している。同じMuñoz and Vicente(2018)は、比較的大きいファンドに限ると時機の成分を年−0.17%ポイントと推計している19。

Morningstarの側も慎重な書き方をしている。2026年8月6日付の版は、2016〜2025年の差を約1.2%ポイント(買い持ちのリターンの約12%)と推計しながら、毎月の給与からの定額の積立や定期的なリバランスのような望ましい行動でも差は生じうるので、結果を投資家の愚かさの証拠とみるべきではないこと、差は文字どおりの機会費用ではないことを序論で断っている20。

大手町​プレップの​考察:差は​「結果」、​時機は​「原因の一つ」

編集部の見方では、この論文の実務上の意義は「投資家は賢かった」という結論よりも、差という一つの数字に性質の違う三つのものが入っている、と気づかせる点にある。一つは時機(資金を入れた後のリターンの良し悪し)、一つは後知恵(資金を入れる前のリターンとの関係で、富に影響しない)、もう一つは計算の約束事(買い持ちのリターンをどう定義するか)だ。付録Aが示したように、三つ目だけで差が数倍に変わることがある。

もう一つの含意は、差の大きさを望ましくない行動と結び付ける前に、資金の出入りが過去のリターンの後に起きたのか、将来のリターンの前に起きたのかを分けて見る必要がある、ということだ。上昇の後に買い増した顧客を「高値づかみ」と呼べるのは、その後に下がった場合だけだ。ただし分解の結果も仮定に依存するので、時機の成分を助言の巧拙の物差しに使うのは時期尚早だと考えられる(仮説)。

日本の​実務への​応用:KPIと​顧客報告を​どう​読むか

日本で同じ種類の比較が公に行われている場面として、金融庁が2018年6月に示した投資信託の販売会社の「比較可能な共通KPI」がある。三つの指標のうち、運用損益別顧客比率は基準日に投信を保有する個人顧客ごとの運用損益率の分布を示し、預り残高上位20銘柄のコスト・リターンとリスク・リターンは商品の成績を示す21。定義を確かめると、運用損益率は(基準日の評価金額+累計の払戻金額−累計の払込金額)÷評価金額で、取引開始日まで遡る累計の金額ベースの比率である。商品側のリターンは過去5年間のトータルリターンの年率で、時間加重の考え方に立つ22。

両者は単位も期間も違うので、論文の差とは同じものではない。それでも「商品は年率で何%上がったのに、顧客の多くの損益率が低い」という比較から、顧客が売買の時機を誤ったと読む構図は共通しており、同じ注意が当てはまる(編集部の推論)。損益率は保有の長さや入金の時期で大きく変わる。顧客ごとの差を説明するには、少なくとも資金の出入りの日付と金額から顧客のIRRを計算し、商品のリターンと同じ期間・同じ年率で並べる必要がある(ExcelのXIRR関数で計算できる)。

ウェルスマネジメントやプライベートバンキングの顧客報告では、運用者の評価には時間加重、顧客の体験には金額加重を並べ、差を説明するときは「タイミングが悪かった」と結論づける前に、どの入出金が上昇・下落の前後にあったかを示すほうが、顧客の納得を得やすいと考えられる。顧客の売買の判断に助言が関わっていた場合、その説明は適合性の​原則に沿った記録にもなる(編集部の提案)。

設例:同じ​投信で、​三人の​顧客の​差を​分解する

学習用の設例(架空)

  • 投資信託X(架空)の5年間の年次リターン(分配金再投資)は+20%・+10%・−15%・+5%・+8%。基準価額ベースの年率(幾何平均)は4.94%
  • 顧客A:期首に100万円を一括投資して保有。顧客B:期首と第1〜4年末に20万円ずつ定額で積立(5回、計100万円)
  • 顧客C:期首20万円、第1〜4年末に「20万円+前年のリターン1%につき1.5万円」を入出金する追随型(元の経路では50.0・35.0・−2.5・27.5万円。マイナスは売却)
  • 第5年末は評価のみで入出金しない。入出金は年末に行い、手数料・税は0とする。分解は論文の付録Bと同じ反復IRR法で計算した

表1のとおり、出入りのない一括のAは差が0である。定額で積み立てたBは、売買の判断を何もしていないのに差が−1.68%ポイントになった。前半に上昇が続き、残高が増えた3年目に−15%を受けたからで、内訳は後知恵が−1.18%ポイント、時機が−0.50%ポイントである。上昇の後に買い増し、下落の後に売ったCは差が−2.88%ポイントに広がるが、その約75%は後知恵だった。

表1 設例:同じ投資信託X、顧客ごとの数値

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項目A 一括B 定額積立C 追随型B 逆順C 逆順
累計の払込(万円)100.0100.0132.5100.0114.5
5年後の評価額(万円)127.2110.2139.1121.8132.7
基準価額ベースのリターン(年率)4.94%4.94%4.94%4.94%4.94%
顧客のリターン(IRR、年率)4.94%3.26%2.06%6.66%5.62%
差(IRR−基準価額ベース、%ポイント)0.00−1.68−2.88+1.73+0.69
 うち時機(%ポイント)0.00−0.50−0.72+1.14+0.76
 うち後知恵(%ポイント)0.00−1.18−2.16+0.59−0.07
運用損益率(共通KPIの形、累計)21.4%9.3%6.5%17.9%15.6%
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成(すべて架空)。​入出金は​図2の​注の​とおりで、​Cは​どちらの​経路でも​3年目末に​2.5を​売却​(払戻)。​運用損益率は​金融庁​「投資信託の​販売会社に​おける​比較可能な​共通KPIの​定義」​(2018年6月29日、別紙1)の形​(評価金額+累計払戻金額−累計払込金額)​÷評価金額で​計算した​累計の​値で、​年率ではない。​手数料・税は​0と​仮定。​時機と​後知恵の​和は​差に​一致する​(期あたりの​率で​計算。​年次の​設例なので​年率と​同じ)。

同じリターンを逆の順に並べると(+8%・+5%・−15%・+10%・+20%)、幾何平均は変わらないのに、Bの差は+1.73%ポイント、Cの差は+0.69%ポイントとプラスに転じる。定額積立のBに現れた「時機」の成分(元の経路で−0.50%ポイント、逆順で+1.14%ポイント)は、判断ではなく経路の巡り合わせであることがわかる。分解で時機と呼ばれるのは資金の出入りとその後のリターンの関係であって、投資家の能力そのものではない。

図2 設例 差を時機と後知恵に分ける図2 設例:差を時機と後知恵に分ける投資信託X(架空)、差の内訳(%ポイント/年)上段は元の経路、下段はリターンを逆順にした経路元の経路:+20%から始まるA 一括差 0.000.000.00B 定額積立差 −1.68−0.50−1.18C 追随型差 −2.88−0.72−2.16逆順の経路:+8%から始まるB 定額積立差 +1.73+1.14+0.59C 追随型差 +0.69+0.76−0.07−2−10+1時機後知恵(%ポイント/年)
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(投資信託​Xと​顧客A〜Cは​架空。​入出金額の​単位は​万円、​差・内訳は​年率%ポイント)。​Xの​年次​リターンは​元の​経路で​+20%・+10%・−15%・+5%・+8%、​逆順で​+8%・+5%・−15%・+10%・+20%。​分配金再投資の​幾何平均は​どちらも​4.94%。​Aは​期首に​100を​一括投資、​Bは​期首と​第1〜​4年末に​20ずつ​(5回、計100)、​Cは​期首20と、​第1〜​4年末に​「20+前年のリターン1%につき1.5」を​入出金​(元の​経路で​50.0・35.0・−2.5・27.5。​マイナスは​売却)。​差は​顧客の​IRR​(金額加重)から​幾何平均​(時間加重)を​引いた値。​内訳は​R1 付録B​(p.41〜42)の​反復IRR法​(Hayley 2014)を​同じ​手順で​計算した​もの。​手数料・税は​考えない。

表1の最後の行は共通KPIの形の運用損益率で、元の経路ではAが21.4%、Bが9.3%、Cが6.5%で、Bの損益率はAの半分以下だが、Bは資金を後から少しずつ入れたので、そもそも平均の投資期間がAより短い。累計の値で年率ではないから、商品の5年リターンとは直接比べられない。

明日から​使える​確認項目

  1. 差の数字を見たら、まず二つのリターンの定義を確かめる。買い持ちのリターンは期首残高で加重しているか、月末残高で加重して組み替えているか。期間・年率化・手数料の扱いが両者でそろっているか。
  2. 顧客の差を説明する前に、入出金の日付・金額と、その前後6〜12か月の商品のリターンを1枚に並べる。上昇の後の入金が多いなら、差の一部は富に影響しない後知恵の可能性が高い(期間の目安は編集部の仮の目安で、研究で検証されていない)。
  3. 顧客のIRRをXIRRで計算し、同じ期間の基準価額ベースの年率と並べる。定額積立の顧客でも、経路次第で差がプラスにもマイナスにも出ることを、説明の前提として共有する。
  4. 共通KPIの運用損益率は累計・金額ベースで、保有期間の分布に左右される。他社と比べるときは、積立の新規顧客の比率や基準日の相場水準を併せて確認する。
  5. 「差の何%が時機か」を助言の評価に使う場合は、分解の出発点(期間平均か、事前の想定リターンか)を記録し、結果が仮定で変わる幅を示す。

よく​ある​質問

投資家​リターンが​基準価額の​リターンを​下回るのは、​個人投資家が​下手だからではないのですか。

本稿の​論文は、​米国の​投信全体の​2015〜2024年に​ついて、​差の​うち売買の​時機に​起因する​部分は​年0.10%ポイント​程度と​推計しました。​ただし集計値の​分析で、​個々の​投資家に​時機の​誤りが​ない​ことを​示した​ものではありません。​差には​それ以外に、​上昇の​後に​資金が​入った​ことに​よる​見かけの​部分や、​計算方法の​違いが​含まれます。

​積立投資を​すると、​差は​必ず​マイナスに​なりますか。

なりません。​本稿の​設例では、​同じ​平均​リターンでも、​上昇が​前半に​集まる​経路では​マイナス、​後半に​集まる​経路では​プラスに​なりました。​定額の​積立でも、​差の​符号は​相場の​経路に​左右されます。

まとめ

Morningstarの推計した投資家リターンの差は、米国の投信について年1.2%ポイントと大きいが、Fulkersonらは同じ標本を計算し直し、売買の時機による損失は年0.10%ポイントにとどまると推計した。差には富に影響しない後知恵と、買い持ちのリターンの定義という約束事が混ざり、分解自体も仮定に左右される。日本で商品のリターンと顧客の損益を比べるときは、期間と年率をそろえ、入出金が相場の前後どちらにあったかを確かめてから原因を語るのが、研究から引き出せる手順である。

脚注

  1. R4(Morningstar, Mind the Gap 2025, 2025年8月13日)p.1(要旨)。米国の投信とETFの合算で、投資家リターン7.0%、トータルリターン8.2%、差約1.2%ポイント。R1(Financial Analysts Journal 掲載版, 2026年5月)p.34・表1 Panel A(p.37)でも同じ値を引用。ページは誌面の印刷ページ(以下同じ)。↩
  2. R1 p.35。R1 が引用する Morningstar 2023年版 p.1 の記述(“poorly timed purchases and sales … cost investors roughly one fifth the return…”)の要約。R1 は、2025年版を報じた米紙の記事も差を売買判断の誤りによるものと書いたと紹介している(記事そのものは本稿では読んでいない)。↩
  3. R1 p.35(“Morningstar’s Return Gap” の節)。計算の詳細は R4 の方法の説明(p.20〜21)による。2025年版は、各ファンドの期首の純資産を月次のネットリターンで期末まで複利で伸ばして合計する方法に変えた(R4 p.20〜21)。↩
  4. R4 p.20(Methodology)。合併されたファンドは最終の純資産を存続ファンドへの移転として扱い、償還されたファンドは期末まで現金で保有したものとみなす。期中に設定されたファンドを除くため、設定の偏り(creation bias)は補正していないと明記。↩
  5. R1 p.35〜36(“Components of Return Gap” の節)。R1 は Hayley(2014)の “the IRR can be considered to be a dollar-weighted average of the individual monthly returns” という説明を引く。Hayley(2014)の要旨(R2 受理稿 p.3)も同じ2成分を示す。↩
  6. R1 p.36 と付録B(p.41〜42)。付録Bの月次の値は、元の IRR 0.269%、幾何平均 0.329%、時機 −0.033%ポイント、後知恵 −0.027%ポイント。年率の差は本文 p.36 では −0.75%ポイント、付録B(丸めた月次率から年率化)では −0.744%ポイント。本稿の calc.py は同じ手順でこれらの月次の値を再現した。↩
  7. R1 p.36。過去のリターンを追う投資家行動の例として Ben-David, Li, Rossi and Song(2022, Review of Financial Studies)を挙げる。原論文は本稿では読んでいない。↩
  8. R1 p.36〜37(Data)。シェアクラス単位の月次ネットリターン・推定ネットフロー・純資産、設定日、ファンド・オブ・ファンズの区分、閉鎖情報、US Category Group を使う。Morningstar の社内データとはデータ源・取得時点が同じでなく、分類の変数は上書きされうると著者らは注記する。↩
  9. R1 表1(p.37)と p.38。再現の投資家リターンは6.7%、トータルリターンは8.2%。比率は R1 の計算(1.2÷8.2、1.4÷8.2)。↩
  10. R1 表2(p.38)の全体(Overall)と p.38 本文。投資家リターン7.99%、トータルリターン8.16%。時機の比率は R1 の計算(0.10÷8.2)で、著者らは “economically insignificant” と表現する。標準誤差・検定統計量は示されていない。↩
  11. R1 p.38。全体の比率は 0.07÷0.17。オルタナティブ分類では、期末残高を推定し直すと差が−0.06%ポイントから−0.40%ポイントに広がる一方、後知恵がその52%を占めた。↩
  12. R1 p.36・p.38 と注5(p.39)。期末残高は、取引がすべて月末に起きたと仮定し、各キャッシュフローをその後のリターンで期末まで複利計算して推定する。著者らによれば、2015〜2024年は期間全体でリターンが正、資金は純流出だったため、推定し直すと差は小さくなりやすい。↩
  13. R1 付録A(p.40〜41)と表A.1。全体(Overall)の差は三つの方法で−1.83%ポイント、−1.40%ポイント、−1.43%ポイント。分類ごとの平均は R1 本文(p.40〜41)の値。2ファンドの例では、正しい加重で0%のところ、2023年方式では+4%、2024年方式では+2%に上振れすると著者らは示す。↩
  14. R1 付録A(p.41)。R1 によれば、初稿は Morningstar の2023年版を対象にしていた。↩
  15. R1 p.35(序論の末尾)。↩
  16. R1 p.38〜39(Conclusion)。異論として Hayley(2019)と Johnston, Hatem and Paul(2015, Quarterly Journal of Finance and Accounting)を挙げる。後者は本稿では読んでいない。↩
  17. R3(Hayley, Working Paper, 2019年3月22日版)p.2(要旨)・p.4・p.6・p.9・p.16(3節)・p.18(表1)。ページは City Research Online の投稿版 PDF の物理ページ。査読誌への掲載は確認できなかった。約3分の1は、リターンが系列独立で、資金の出入りがその期のリターンの平均からの乖離に比例する(流出入=w×(その期のリターン−平均))と仮定し、期間が長い場合の近似として導いた値で、R3 の模擬計算(表1)では投資期間4〜16年で時機に分類される割合は約28〜35%。追随の仕方が異なる場合の値は示されていない。R1 付録B(p.41)は、全月次リターンを「元の幾何平均」、全フローを0に置いた状態から、各月のリターン、フローの順に元に戻して分解すると説明しており、本稿 calc.py もこの順で実装した。↩
  18. R2(Hayley 2014, JFQA。City Research Online の受理稿, 2012年3月12日版)p.21〜22・表V。対象は Dichev(2007)と同じ NYSE・AMEX 上場株式の1926〜2002年で、買い持ち(幾何平均)9.87%、金額加重8.61%。ページは受理稿 PDF の物理ページで、掲載誌の頁とは照合していない。R2 表V の注は、月次では時機と後知恵の和が差に一致するが、年率に直した値の和は近似にとどまると記す(本文の年率値では−0.21−0.95=−1.16で、差−1.26とは一致しない)。↩
  19. R1 p.35。悪さを示す例として Friesen and Sapp(2007)等、巧みさを示す例として Keswani and Stolin(2008)等を挙げる。Muñoz and Vicente(2018, Journal of Empirical Finance 45)の数値は R1 p.35 と R3 p.16 の紹介によるもので、原論文は本稿では読んでいない。↩
  20. R5(Morningstar, Mind the Gap 2026, 2026年8月6日)p.1(要旨。投資家リターン8.7%、トータルリターン9.9%)と p.5(序論)。主な結果の節(p.6)は対象を “US stock funds and ETFs” と書くが、要旨は米国の投信とETF全体としており、本稿は要旨の表記に従った。↩
  21. 金融庁「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIについて」(2018年6月29日)p.1〜2。↩
  22. 金融庁、同上 別紙1「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIの定義」。評価金額は投資一任報酬等の期中費用控除後の金額。基準日は毎年3月末。上位20銘柄は設定後5年以上の銘柄に限り、リスクは過去5年間の月次リターンの標準偏差(年率換算)。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。