この記事で分かること
- 金額加重収益率(MWRR)と時間加重収益率(TWRR)の定義の違い
- 同じ運用実績でも計算方法によって数字が変わる整数設例(検算つき)
- 運用者評価にTWRRが使われ、投資家の実感にMWRRが近い理由
- 日本の投信・DC年金における両者の使われ方
30秒で分かる定義
金額加重収益率(Money-Weighted Rate of Return、MWRR)は投資家の資金流出入のタイミングと金額を反映したリターン測定方法(実質的にIRRと同じ考え方)で、時間加重収益率(Time-Weighted Rate of Return、TWRR)は資金流出入の影響を取り除き、運用者の純粋な運用スキルのみを測るリターン測定方法です。読み方はそれぞれ「エムダブリューアールアール」「ティーダブリューアールアール」で、同じ運用結果でも、この2つで算出される数値は一致しないのが通常です。
なぜ実務で重要なのか
機関投資家・年金コンサルタントは、運用者(マネージャー)のスキルを評価する際にTWRRを用います。これは、いつ・いくら資金を追加したかという投資家側の判断(TWRRの計算からは除外される要素)に運用成績が左右されないようにするためです。PEファンド・個人投資家にとっては、実際に自分の懐に出入りしたキャッシュフローに基づくMWRR(IRRと同じ考え方)の方が、実感に近いリターンになります。ヘッジファンドとPEファンドの違いで扱ったように、PEファンドの実績評価にIRR(MWRR的な指標)が使われるのは、この資金流出入への感応度が背景にあります。両者の違いを理解していないと、「ファンドの実績は良いはずなのに自分のリターンは悪い」という食い違いを正しく説明できません。
計算式
整数設例で確認する
設例(架空数値・単位:百万円)。当初1,000を投資し、1年目末に1,200まで増加。ここで投資家が追加で800を投資し、残高は2,000に。2年目末に残高は1,800になりました。
- 1年目のリターン = 1,200 ÷ 1,000 - 1 = +20%
- 2年目のリターン = 1,800 ÷ 2,000 - 1 = -10%
TWRR(2年累積) = 1.20 × 0.90 - 1 = 1.08 - 1 = +8%(年率換算では√1.08-1≒3.9%)。運用者は1年目に20%のプラス、2年目に10%のマイナスを出しましたが、期間ごとの複利連結では2年間で+8%のプラスです。
一方MWRRは、キャッシュフロー:t0で-1,000(投資)、t1で-800(追加投資)、t2で+1,800(最終回収額)として、次の式がゼロになる割引率rを解きます。
x=1+rとおいて整理すると 1,000x²+800x-1,800=0、両辺を200で割ると 5x²+4x-9=0 となり、解の公式より x=(-4+√196)÷10=(-4+14)÷10=1 が得られます(x=1でr=0%)。検算:x=1を代入すると-1,000-800+1,800=0で一致します。MWRR=0%となり、TWRRの+8%とは大きく異なります。これは、運用成績の悪かった2年目の直前に大きな追加投資(800)を行ったため、その資金がマイナス10%の影響を丸ごと受けてしまったことが原因です。運用者の腕前(TWRR)は良くても、投資家自身の実感するリターン(MWRR)はゼロだった、という典型例です。
投資判断への影響
TWRRとMWRRの乖離が大きい場合、それ自体が「資金の追加・解約のタイミングが結果として悪かった」ことを示すシグナルになります。機関投資家は、この乖離を分析することで、資産配分の変更タイミング(リバランスの実施時期)が適切だったかを事後的に検証できます。またリスク調整後リターンの指標(シャープレシオ等)を計算する際の基礎データとしても、どちらのリターンを使うかで結果が変わり得る点に注意が必要です。
財務モデル・Excelでの使い方
- MWRRはExcelの
XIRR関数で近似できます(各キャッシュフローの日付と金額を入力するだけで内部収益率が求まります)。 - TWRRは、外部キャッシュフローが発生するたびに評価額を区切り、各サブ期間のリターンを
PRODUCT関数で複利連結して求めます(幾何平均を使う場合はGEOMEAN関数を併用)。 - 年金基金のパフォーマンス評価シートでは、TWRR(運用者評価用)とMWRR(受益者の実感用)を並べて表示し、両者の乖離要因(資金移動のタイミング)を注記するのが実務的です。
この用語をExcelで「組める」状態にする
XIRRによるMWRRの算出と、サブ期間ごとの複利連結によるTWRRの算出を、同じキャッシュフローデータから使い分けて計算できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「MWRRとTWRRはだいたい同じ数字になる」→ 正しくは、資金の出入りのタイミングと運用成績の相関次第で大きく乖離します。上記の設例のように、0%と8%というほど異なる数値になることも珍しくありません。
誤解2:「ファンドの実績評価にはMWRRを使うべき」→ 正しくは、運用者のスキル評価には、資金流出入の影響を受けないTWRRを使うのが機関投資家評価の標準です。MWRRは、あくまで投資家個人の実際の資金効率を測る指標として使い分けます。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)日本の公募投資信託の「基準価額騰落率」は、口数(受益権)を基準に計算されるため、実質的にTWRRに近い性質を持ちます。一方、確定拠出年金(DC)の加入者が実感する「自分の年金資産がどれだけ増えたか」は、毎月の掛金拠出(資金流入)のタイミングに依存するため、MWRR的な性質が強くなります。機関投資家の運用実績評価においては、GIPS(Global Investment Performance Standards)に準拠したTWRRベースの開示を採用する運用会社が増えています。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:TWRRとMWRRの違いを、具体例を使って説明してください。
「同じ運用者が1年目に+20%、2年目に-10%のリターンを出した場合を考えます。TWRRは各期間のリターンを複利で連結するため、資金の出入りに関係なく+8%(累積)になります。一方、投資家が2年目の直前に大きな資金を追加していた場合、その資金は成績の悪い2年目の影響を丸ごと受けるため、MWRR(IRRと同じ考え方)はゼロやマイナスになり得ます。運用者の評価にはTWRR、投資家自身の実感にはMWRRが対応します。」(30秒回答例)
深掘りでは「なぜ機関投資家評価にTWRRを使うのか」「XIRRで計算する際の注意点」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. PEファンドのIRRはMWRRとTWRRのどちらに近いですか?
A. PEファンドのIRRは、出資(キャピタルコール)と分配のタイミング・金額を反映して計算されるため、MWRRと同じ考え方です。公募投信の基準価額騰落率(TWRR的)とは前提が異なるため、単純比較には注意が必要です。
Q. どちらの指標がより「正しい」リターンですか?
A. 目的によります。運用スキルを評価したいならTWRR、自分の懐に実際に生じた資金効率を知りたいならMWRRが適しています。優劣ではなく、測りたいものが異なる指標です。
出典・参考(2026-08確認)
- 金融庁 投資信託のディスクロージャーに関する資料 https://www.fsa.go.jp/
- IOSCO(証券監督者国際機構)パフォーマンス開示関連資料 https://www.iosco.org/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。