この​記事で​分かる​こと

  • ウィズ・アンド・ウィズアウト法の定義と、MEEMとの視点の違い
  • 競業避止契約を5年間評価する整数設例(確率と割引率を明示)
  • 評価額がのれん・償却費に与える影響
  • 日本基準(企業結合会計基準)と会社法第21条の位置づけ

30秒で​分かる​定義

ウィズ・アンド・ウィズアウト法(With-and-Without Method、WWM、うぃず・あんど・うぃずあうとほう)とは、評価対象の無形資産が「ある場合」と「ない場合」の事業キャッシュフローをそれぞれ予測し、その差額を現在価値に割り引いて資産の価値とする評価手法です。差額キャッシュフロー法とも呼ばれます。

PPA(取得原価の配分)では、売り手が競合する事業を始めない約束(競業避止契約)のように、「その資産がなければ事業がどれだけ傷むか」を測りたい無形資産に使われます。資産が毎期生み出す超過収益を抽出する多期間超過収益法(MEEM)とは、見ている対象が異なります。

なぜ実務で​重要なのか

PPAを担当するFAS・会計系アドバイザリーは、競業避止契約、免許・許認可、特定の販売権などの評価にWWMを使います。買い手(事業会社・PE)は、売り手や経営者に課す競業避止条項に、経済的にいくらの価値があるのかを理解しておくと、契約交渉や買収後の償却見通しを検討しやすくなります。

監査人にとっては、「ない場合」のシナリオが現実的か、確率と割引率が恣意的でないかが検討の中心になります。経営企画・PMI担当は、競業避止の期間や範囲を決める際の判断材料にできます。

計算式​(仕組み)

評価の骨格は、時点ごとの差額を割り引いて合計することです。下の式は、CFWithoutを「競合が起きた場合」の条件付きキャッシュフローとし、競合が起きなければWithと同じ(差額0)と置く場合の形で、差額にその発生確率を掛けます。With・Withoutをすでに確率加重した期待キャッシュフローで置く場合は、発生確率を重ねて掛けません。

無形資産の価値 = Σ[(CFWith,t − CFWithout,t)× 発生確率]÷(1 + r)t

CFWithは資産がある場合(例:競業避止契約が有効)の事業キャッシュフロー、CFWithoutは資産がない場合(例:売り手が競合を始める)のキャッシュフロー、rは無形資産のリスクを反映した割引率です。時価の算定に現在価値技法を使う場合は、キャッシュフローと割引率の仮定を整合させ、リスク要因を二重に計上しない点に留意が必要です[2]。

観点MEEM(多期間超過収益法)ウィズ・アンド・ウィズアウト法
評価の視点資産が生む超過収益を抽出資産がない場合の損失を比較
主な対象顧客関連・技術など、主たる収益源となる無形資産競業避止契約、許認可、販売権など
計算の核帰属キャッシュフローから貢献資産チャージを控除With と Without の差額を現在価値化
感応度の高い仮定貢献資産の範囲、チャージ率、減衰率「ない場合」のシナリオ、発生確率、期間

整数設例で​確認する

設例(架空数値・単位は百万円)。5年間の競業避止契約を評価します。割引率は事業全体の10%より高い12%(無形資産固有のリスクを考慮した仮定)、「契約がなければ売り手が競合する確率」は60%と仮定します。

年With(契約あり)Without(競合あり)差額差額×60%現在価値(12%)
150050000.00.0
25004208048.048.0 ÷ 1.12² = 38.3
350035015090.090.0 ÷ 1.12³ = 64.1
4500300200120.0120.0 ÷ 1.12⁴ = 76.3
5500300200120.0120.0 ÷ 1.12⁵ = 68.1
合計246.7

計算の確認:38.27 + 64.06 + 76.26 + 68.09 = 246.7。競合確率を100%としたときの現在価値は 80 ÷ 1.12² + 150 ÷ 1.12³ + 200 ÷ 1.12⁴ + 200 ÷ 1.12⁵ = 63.8 + 106.8 + 127.1 + 113.5 = 411.1 で、確率の置き方だけで評価額が約40%変わります。なお本設例は税効果・税務上の償却による便益(TAB)・「Without」下での費用削減などを省いた説明用の単純化です。

PL・​BS・​CFへの​影響

評価額246.7は、競業避止契約が識別可能な無形資産として認められる場合に取得原価の配分額となり、その分だけ残余であるのれんが小さくなります。契約期間5年で定額償却すると、年 246.7 ÷ 5 = 約49.3がPLの償却費です(非現金費用)。

配分が少なければ、のれん(20年以内で償却)に残る金額が増えます。のれんの償却期間が契約期間の5年より長ければ年間の償却費は小さくなりますが、同じ5年なら差はなく、短ければ逆に大きくなります。したがって、シナリオと確率の置き方は、買収後数年間の利益水準にも波及します。繰延税金の扱いは設例では省略しています。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • シナリオ別キャッシュフロー:With と Without を別ブロックで持ち、差額は =With-Without。事業計画は同一の前提表から引く。
  • 確率・期間:発生確率と契約期間は入力セルに置き、=差額*確率*(年<=契約期間) のように期間外を0にする。
  • 現在価値:割引率は無形資産固有の率を別セルに置き、=NPV(割引率,範囲)(期末払い)。
  • 感応度表:確率と割引率の2軸でデータテーブルを作り、評価額のレンジを確認する。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

With・​Withoutの​2つの​シナリオから​競業避止契約の​評価額を​求め、​確率と​割引率の​感応度まで​Excelで​確認できる。

バリュエーション​教材で​PPAの​無形資産評価を​確認する →

実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「WWMはMEEMの別名」→MEEMは資産が生む超過収益を取り出し、WWMは資産の有無による差を比べます。両方の結果が近くなる必要はありません。

誤解2:「差額の合計がそのまま資産の価値」→差額は確率とリスクを反映して割り引かなければ、実現可能性の低いシナリオまで価値に含めてしまいます。

誤解3:「契約書があるのだから、Withoutは自動的に決まる」→契約がなくても競合が現実に参入できるか、法律上・経済上の制約があるかを分析し、その結果をシナリオに反映します。

確認ポイント:契約期間と差額が生じる期間の整合、売り手の事業再開能力、Without側の費用の調整漏れを確認します。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)日本基準のPPAでは、企業結合会計基準第28項が識別可能資産及び負債の時価を基礎に取得原価を配分すると定め、第29項が法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産を識別可能として扱うとしています[1]。競業避止契約を別個の無形資産として識別できるかは、契約内容など個別事情に基づいて判断されます。WWMはその時価を求める一つの技法であり、日本基準にこの手法そのものを定めた規定は見当たりません。

M&A契約の実務では、事業譲渡の場合、会社法第21条が、当事者の別段の意思表示がない限り、事業を譲渡した日から20年間、同一の市町村とこれに隣接する市町村の区域内で同一の事業を行ってはならないと定めています。同一の事業を行わない旨の特約は、譲渡日から30年の期間内に限り有効です。また、これらの規定にかかわらず、譲渡会社は不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはなりません(同条第3項)[3]。同条は事業を譲渡した会社についての規定であり、株式譲渡による買収では売り手に当然には適用されないため、競業避止の範囲や期間は契約で定めるのが通常です。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:ウィズ・アンド・ウィズアウト法はMEEMとどう違いますか。
「MEEMは資産が生む超過収益から貢献資産チャージを引いて価値を出し、WWMは資産がある場合とない場合の事業キャッシュフローの差を現在価値化します。競業避止契約のように、その資産がなければどれだけ事業が悪化するかを見たい場合に使います。」

深掘り:Withoutシナリオの作り方、確率の根拠、期間の決め方、税務上の償却便益の扱い。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. WWMはどんな資産にも使えますか。
A. 資産の有無による差を合理的にシナリオ化できる場合に向きます。収益を直接生む顧客関連資産などは、一般にMEEMなど他の手法が用いられることが多いです。

Q. 競業避止契約の評価が大きいと、のれんは小さくなりますか。
A. はい。識別可能な無形資産に配分された分だけ、残余としてののれんが小さくなります。ただし償却年数が異なるため、PLへの影響は別に確認が必要です。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準(2026年1月9日までの修正反映版)」第28項・第29項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/kouhatsujisyou20260109_12.pdf(2026年11月参照)
  2. 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準適用指針第31号 時価の算定に関する会計基準の適用指針」第35項(現在価値技法). https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ikan_20240701_48.pdf(2026年11月参照)
  3. e-Gov法令検索「会社法」第21条(譲渡会社の競業の禁止). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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