この記事で分かること
- 持続可能成長率(SGR)の定義と、ROE・内部留保率との関係
- 増資をせずに維持できる利益成長率の「上限」という考え方
- 整数設例による検算と、ターミナルバリューの成長率設定への使い方
- SGRを超える成長を続けるとBSに何が起きるか
30秒で分かる定義
持続可能成長率(Sustainable Growth Rate、略称SGR、読み方:じぞくかのうせいちょうりつ)とは、増資をせず内部留保だけで自己資本を積み増やしながら、現在の資本構成とROEを維持した場合に達成できる利益成長率の上限です。ROEと内部留保率(1-配当性向)の積で求め、DCF法や配当割引モデルで設定する永久成長率が非現実的でないかを検証するベンチマークとして使われます。
なぜ実務で重要なのか
エクイティリサーチでは、企業の中期的な利益成長シナリオが外部資金調達なしに達成可能な水準かを確認する際にSGRを計算します。DCF・DDMのバリュエーションでは、ターミナルバリューの永久成長率が名目 GDP成長率やSGRを大きく超えていないかをクロスチェックする定番の検算です。経営企画・IRでは、中期経営計画の成長率目標がSGRの範囲内か、範囲を超える場合はどう資金調達するかを説明する材料になります。
計算式
この式が成り立つのは、①資本構成(D/E)を変えない、②新株を発行しない、③ROEが一定、という3つの前提のもとです。内部留保額が自己資本を増やし、同じROEを掛けて生まれる利益の増分がそのまま利益成長率に一致する、という循環的な関係を表しています。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。ROE=12%、配当性向=40%とします。
内部留保率 = 1 - 40% = 60%。SGR = 12% × 60% = 7.2%です。つまりこの会社は、増資をせず現在の資本構成を維持したまま、年平均7.2%までなら利益成長を持続できる計算になります。仮にこの会社のDCFモデルでターミナルバリューの永久成長率を8%に設定していたとすると、SGR(7.2%)をわずかに上回っており、永久に増資なしで維持できる水準を超えている可能性があるため、前提の再検証が必要と判断できます。
投資判断への影響
SGRを継続的に上回る成長を続けるには、増資・追加借入・配当性向の引き下げのいずれかが必要になります。逆にSGRを大きく下回る成長しか実現できていない企業は、内部留保が積み上がるだけでROEが低下していく構造になりがちです(ROE参照)。投資家はSGRと実際の利益成長率の乖離を見ることで、その企業の成長が持続可能な内部資金でまかなわれているか、外部資金への依存度が高まっているかを判断します。
財務モデル・Excelでの使い方
DCF・DDMモデルのチェック行として、ターミナルバリューの永久成長率の隣にSGRを算出するセルを置きます。
- ROEはデュポン分解の3要素(マージン・回転率・レバレッジ)とリンクさせ、シナリオ切り替えで自動更新されるようにする
- 配当性向は過去実績の平均や、経営計画で開示された目標配当性向を参照する
- 永久成長率がSGRを上回る場合は、資金調達方針(増資計画の有無)をコメント欄に明記し、前提の妥当性を説明できるようにする
この用語をExcelで「組める」状態にする
ROEと配当性向からSGRを算出し、ターミナルバリューの成長率前提を検算するチェック行を組めるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「SGRを超える成長は不可能」→ 正しくは、増資や借入によって一時的にSGRを超える成長は可能ですが、無限に続けられるわけではありません。SGRはあくまで「外部資金調達なしで持続可能な」上限です。
誤解2:「SGRが高いほど良い会社」→ 正しくは、SGRはROEの高さと内部留保率の高さ(低配当)で機械的に上がるため、資本効率の実態を見ずにSGRの水準だけを評価してはいけません。
実務家はさらに、自社株買いを行っている企業では発行済株式数の減少がSGRの計算にどう影響するか(一株当たり利益ベースのSGRと総額ベースのSGRの違い)を確認します。
日本実務での扱い
(2026年7月時点)日本企業は伝統的に配当性向が米国企業より低く内部留保志向が強かったため、計算上のSGRは高めに出やすい一方、実際の利益成長率がそれに追いつかず、結果としてROEが低下する企業が少なくありませんでした。東京証券取引所が要請する資本コストや株価を意識した経営(PBR1倍割れはなぜ問題か)以降、配当性向の引き上げや自社株買いを通じて、内部留保に依存しすぎない資本政策へのシフトが進んでいます。米国企業では自社株買いが恆常的な還元手段として組み込まれているため、単純な配当性向だけで内部留保率を計算すると実態とずれる点に注意が必要です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:DCFで使う永久成長率の妥当性をどう検証しますか。
「名目 GDP成長率を大きく超えないことに加え、ROEと内部留保率から計算したSGR(持続可能成長率)を上回っていないかを確認します。SGRを超える成長率を設定している場合は、増資などの追加資金調達を前提にしているかをモデルの他の前提と整合させる必要があります。」
深掘りでは「ROEが変動する場合SGRはどう扱うか」「自社株買いはSGRにどう影響するか」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. SGRとROEの違いは何ですか?
A. ROEは自己資本に対する収益性そのものです。SGRはROEに内部留保率を掛けることで、そのROEを維持したまま外部資金なしで達成できる成長率の上限を示します。
Q. 赤字企業やROEがマイナスの企業にSGRは使えますか?
A. 計算上は負の値になりますが解釈が難しく、実務では黒字化後の正常化ROEを使うか、SGRの適用自体を見送るのが一般的です。
出典・参考(2026-07-25確認)
- EDINET(有価証券報告書) https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/
- 日本取引所グループ(JPX)「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」 https://www.jpx.co.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。