この​記事で​分かる​こと

  • 残存価額の意味と、減価償却費の計算での位置付け
  • 税務上の残存価額が2007年(平成19年)4月1日以後取得の資産で廃止され、1円まで償却できるようになった経緯
  • リースの残価・残価保証、DCFのターミナルバリュー(残存価値)との違い
  • 残存価額の置き方で売却損益がどう変わるかを設例で確認

30秒で​分かる​定義

残存価額(ざんぞんかがく、Salvage Value/Residual Value)とは、固定資産を耐用年数の終わりまで使った時点で、処分により回収できると見込まれる額(処分費用を差し引いた額)をいいます。減価償却では、取得価額から残存価額を差し引いた額を耐用年数にわたって費用として配分します。税務では、2007年(平成19年)3月31日以前に取得した有形減価償却資産の残存価額は原則として取得価額の10%でしたが、同年4月1日以後に取得する資産は残存価額が廃止され、1円まで償却できます[1][2]。減価償却の計算基礎となる額は減価償却基礎額で扱います。

なぜ実務で​重要なのか

残存価額は、毎期の減価償却費と、資産を売却・除却したときの損益の両方を左右します。経理・経営企画は耐用年数と残存価額の見積りで利益の平準化を考え、リース会社・融資担当はリース終了時の残価の見積りで料率や回収リスクを判断します。IB・PEは、航空機・船舶・建機など中古市場がある資産を多く持つ会社で、帳簿上の残存価額と実際の売却可能価額の差を確認します。設備投資判断に残存価額を織り込む方法は設備投資の​判断シートを​Excelで​作るで扱っています。

計算式​(または仕組み)

定額法の減価償却費 = (取得価額 − 残存価額)÷ 耐用年数
場面残存価額の扱い
税務:2007年3月31日以前取得(旧定額法・旧定率法)有形減価償却資産は取得価額の10%を残存価額とし、償却累計額が取得価額の95%に達した後は、残額(1円を除く)を5年(60か月)で均等償却[3][1]
税務:2007年4月1日以後取得(定額法・定率法)残存価額・償却可能限度額は廃止。有形減価償却資産は取得価額から1円(備忘価額)を控除した額まで償却[3][2]
会計:リース(所有権が移転するもの)の使用権資産残存価額は合理的な見積額[4]
会計:リース(上記以外)の使用権資産原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロ[4]

自社で所有する固定資産の会計上の残存価額は、資産の実態に応じて会社が見積もります。税務の扱いに合わせて残存価額を置かない(備忘価額まで償却する)方法も考えられます。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。単位は百万円。取得価額1,000、耐用年数10年の機械を定額法で償却します。

  • 残存価額を10%(100)と置く場合:年間償却費 = (1,000 − 100)÷ 10 = 90。10年後の帳簿価額は100
  • 残存価額を置かない場合(2007年4月1日以後取得の税務と同じ考え方):年間償却費 = 1,000 ÷ 10 = 100(税務では最終年に1円を残す)。10年後の帳簿価額は備忘価額1円
  • 10年後に80で売却:残存価額100のケースは 80 − 100 = 20の売却損、1円まで償却したケースは約 80の売却益(80百万円 − 1円)

10年間の費用総額(償却費+売却損益)は、どちらも 1,000 − 80 = 920 で同じです。残存価額の置き方は、費用を「毎期の償却費」と「売却時の損益」のどちらで認識するかを変えるだけで、総額は変わりません。売却時の仕訳は固定資産を​売却・​除却した​ときの​仕訳で確認できます。

PL・​BS・​CFへの​影響

残存価額を大きく見積もるほど毎期の償却費は小さく、営業利益は大きくなりますが、帳簿価額が高く残るため、将来の売却時に損失が出やすくなります。EBITDAは償却前の利益なので影響を受けません。キャッシュフローは、税務上の償却限度額を通じて法人税の支払時期に影響しますが、税務の残存価額は会計の見積りとは別に法令で決まります。会計と税務の償却差は減価償却の​会計処理と​税務処理の​差異で扱います。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • 入力セルを分ける:取得価額・耐用年数・残存価額(または残存率)を別々の入力セルにし、償却費は =SLN(取得価額,残存価額,耐用年数) で計算します。
  • 売却年の処理:売却年は「売却価額 − 期首帳簿価額 + 当期償却費」で売却損益を出し、帳簿価額がゼロ(または備忘価額)を下回らないよう MIN で上限を置きます。
  • 税務の償却は別スケジュール:会計の償却スケジュールと税務の償却限度額を別の表で持ち、差額を税効果(繰延税金)の計算につなげます。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

残存価額・​耐用年数を​入力に​した​減価償却​スケジュールと、​売却時の​損益計算を​Excelで​組めるようになる。

財務会計の​教材で​償却​スケジュールを​組む →

実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「残存価額は税法で常に10%」→ 正しくは、10%は2007年3月31日以前に取得した有形減価償却資産の扱いです。同年4月1日以後に取得したものは残存価額がなく、1円まで償却します[2]。

誤解2:「残存価額とDCFの残存価値(ターミナルバリュー)は同じ」→ 正しくは、別の概念です。残存価額は個々の資産の耐用年数終了時の処分見込額、ターミナルバリューは予測期間後に事業が生み出すキャッシュフローの現在価値の合計です。英語ではどちらもresidual valueと訳されることがあるため注意します。

誤解3:「リースの残価と残価保証は同じ」→ 正しくは、残価保証は不足額の支払義務を課す条件です。残価保証は、リース終了時に原資産の価値が契約上の保証価額に満たない場合に、その不足額について貸手と関連のない者(借手、借手と関連のある当事者、借手以外の第三者)が貸手に支払う義務を課せられる条件です。借手のリース負債の計算に含まれるのは、そのうち借手による支払見込額です[4]。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)法人税では、2007年3月31日以前に取得した資産(旧定額法・旧定率法など)は取得価額の95%に達するまで償却し、その後は取得価額から95%相当額と1円を控除した額を60か月で均等に償却します。同年4月1日以後に取得した有形減価償却資産は、取得価額から1円を控除した額まで償却できます[3]。国税庁タックスアンサーの解説(No.2105・No.2106)は所得税向けですが、残存価額の廃止と1円までの償却という仕組みは同じです。リース期間定額法の対象となるリース資産では、残価保証額の扱いが別に定められています[3]。設備をリースで調達するか購入するかの比較で残価を考える方法は設備は​リースか​借入か​購入かを参照してください。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:残存価額を引き上げると、PLとキャッシュフローにどんな影響がありますか。
「毎期の償却費が減るので営業利益と純利益は増えます。償却費は非現金費用なので、会計上の変更だけならキャッシュフローは変わりません。ただし帳簿価額が高く残るので、売却時の損失や減損のリスクが増えます。税務では損金経理をした償却費のうち償却限度額までが損金になるため、会計上の償却費が限度額を下回れば損金算入額が減り、納税額が増えることがあります[5]。」

深掘りでは「残存価額の見積り変更は過去に遡って修正するか(一般に、会計上の見積りの変更として将来に向けて反映します)」が問われます。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 備忘価額の1円はなぜ残すのですか?
A. 資産をまだ保有していることを帳簿上に残すためです。税務では、2007年4月1日以後に取得した有形減価償却資産の償却の上限が「取得価額 − 1円」と定められています[3]。

Q. 無形固定資産にも残存価額はありますか?
A. 税務では、ソフトウェアや特許権などの無形固定資産は取得価額の全額まで償却します(1円は残しません)[2]。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. 国税庁 タックスアンサー No.2105「旧定額法と旧定率法による減価償却(平成19年3月31日以前に取得した場合)」(令和8年4月1日現在法令等). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2105.htm(2026年11月参照)
  2. 国税庁 タックスアンサー No.2106「定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)」(令和8年4月1日現在法令等). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2106.htm(2026年11月参照)
  3. e-Gov法令検索「法人税法施行令」第48条の2・第61条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000097(2026年11月参照)
  4. 企業会計基準委員会 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(2024年9月13日公表、2026年10月改正)第22項・第35項・第37項・第38項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ecl20261016_15.pdf(2026年11月参照)
  5. e-Gov法令検索「法人税法」第31条第1項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000034(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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