この記事で分かること
- 永久年金・成長永久年金の公式と、無限等比級数による導出
- 期首払い・成長型・ターミナルバリューの整数設例(途中式付き)
- r ≦ g で式が破綻する理由と、感応度の大きさ
- 日本公認会計士協会ガイドラインでのターミナル・バリューの位置づけ
30秒で分かる定義
永久年金(パーペチュイティ、Perpetuity、えいきゅうねんきん)とは、一定額のキャッシュフローが永久に続く場合の流列で、その現在価値は「キャッシュフロー ÷ 割引率」で求まります。キャッシュフローが一定率gで成長し続ける場合は成長永久年金と呼ばれ、現在価値は「翌期のキャッシュフロー ÷ (割引率 − g)」になります。
無限の期間にわたる合計が有限の値になるのは、遠い将来のキャッシュフローほど割引で小さくなるためです。DCF法のターミナルバリュー(TV)や、配当割引モデル(ゴードンモデル)、不動産の直接還元法(キャップレート)の数式の基礎になっています。毎期同額で期間が有限の場合は年金
なぜ実務で重要なのか
IB・FAS・PEは、DCFでの予測期間後の価値(ターミナルバリュー)を、成長永久年金の式で算定します。銀行・金融機関のバリュエーションは、配当が一定率で成長する配当割引モデルに応用します。不動産投資・ファイナンスは、安定したNOIをキャップレートで割って価格を求める直接還元法で、同じ構造を使います。経営企画は、優先株や永久債のように期限がない証券の評価にも使います。
企業価値評価全体に占めるターミナルバリューの比率は大きくなりやすく、この式の前提(割引率と成長率の差)を理解しておくことが、評価の説明に直結します。時間価値の基礎は貨幣の時間価値
計算式
成長永久年金:PV = C1 ÷ (r − g) (ただし r > g、C1 は1期後のCF)
期首払いの永久年金:PV = C + C ÷ r = C × (1 + r) ÷ r
DCFのターミナルバリュー:TVn = FCFn+1 ÷ (WACC − g) = FCFn × (1 + g) ÷ (WACC − g)
成長永久年金の式は、初項C1 ÷ (1+r)、公比(1+g)÷(1+r)の無限等比級数の和 C1 ÷ (1+r) ÷ [1 − (1+g)÷(1+r)] = C1 ÷ (r − g) として導けます。公比が1未満(r > g)でないと和が収束しません。日本公認会計士協会のガイドラインも、ターミナル・バリューを評価する際の仮定として、n+1期以降のフリー・キャッシュ・フローを一定と仮定する場合や、期待インフレ率で成長すると仮定する場合が多いとしています[1]。
整数設例で確認する
設例(架空数値・単位は百万円)。
- 設例1(成長なし):毎期100、割引率8%の期末払い永久年金 → 100 ÷ 0.08 = 1,250。期首払いなら 1,250 × 1.08 = 1,350(100 + 1,250 = 1,350と一致)。
- 設例2(成長あり):割引率8%、成長率2%。1期後のCF(C1)が100なら 100 ÷ (0.08 − 0.02) = 1,666.7。同じ「100」が今期のCF(C0)なら、C1 = 100 × 1.02 = 102 なので 102 ÷ 0.06 = 1,700。どのCFが「最初」かで結果が変わるため、定義を確認します。
- 設例3(TVの算定):5年目のFCFが500、WACC 8%、永続成長率1% → TV = 500 × 1.01 ÷ (0.08 − 0.01) = 505 ÷ 0.07 = 7,214.3。5年後の価値なので、現在価値は 7,214.3 ÷ 1.085 = 7,214.3 ÷ 1.4693 = 4,909.9。
- 感応度:成長率が1%から2%に上がると、TV = 500 × 1.02 ÷ 0.06 = 8,500で、約17.8%増。分母の(r − g)が7%から6%に縮むだけで、評価が約18%動きます。
- r ≦ gの場合:r = 2%、g = 2%なら分母がゼロで値が定義できず、r = 2%、g = 3%なら負の値になり、意味を持ちません。
投資判断への影響
ターミナルバリューは評価額の大部分を占めることが多く、永続成長率とWACCの差に非常に敏感です。設例3のTVの現在価値4,909.9は、その後の長期のキャッシュフローを一つの数式に押し込んだ値であるため、成長率を0.5〜1ポイント動かすだけで評価額が大きく動きます。
実務では、成長率は長期的な経済成長率や物価上昇率を超えない水準に置き、TVが評価額に占める割合、TVから逆算した倍率が類似会社の水準と整合するかを併せて確認します。期央主義でキャッシュフローが期中に生じる場合の補正は期央主義とスタブ期間で扱っています。
財務モデル・Excelでの使い方
- 入力セル:最終年のFCF、WACC、永続成長率を分け、
=FCF*(1+g)/(WACC-g)でTV。=IF(WACC<=g,NA(),...)で破綻する前提を検知する。 - 現在価値:
=TV/(1+WACC)^n(期末主義)。期央主義なら期数を調整する。 - ターミナル倍率の逆算:
=TV/最終年EBITDAで暗黙の倍率を算出し、類似会社倍率と比較する。 - 感応度表:WACC×永続成長率の2軸データテーブルでTVと評価額の幅を確認する。
この用語をExcelで
成長永久年金の式でターミナルバリューを組み、WACCと成長率の感応度表と破綻チェックをExcelで作れる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「永久に続くなら現在価値は無限大」→割引によって遠い将来のCFは小さくなり、合計は有限の値(C÷r)に収束します。
誤解2:「成長永久年金の式のCは今期のCF」→式の分子は1期後のキャッシュフローです。今期のCFから始める場合は(1+g)を掛けます。
誤解3:「成長率gは企業の成長が高ければ高く置いてよい」→永久に経済全体の成長を上回り続けることは前提として不自然です。TVの成長率は長期的に持続可能な水準に抑えます。
確認ポイント:CFの発生が期首か期末か、分子が1期後のCFか、r > gが成立するか、TVの比率を確認します。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドラインは、フリー・キャッシュ・フロー法で、第n期までのキャッシュフローを詳細に予測し、その後の価値はターミナル・バリューとして比較的単純な仮定の下で評価するとしています[1]。また、配当成長率gで書き換えた配当還元法は、ゴードンモデル法と呼ばれる場合があるとされています[1]。
企業会計基準適用指針第31号(時価の算定)は、現在価値技法で、物価上昇の影響を含む名目キャッシュフローは物価上昇の影響を含んだ割引率で割り引き、影響を除く実質キャッシュフローは影響を除く割引率で割り引くなど、キャッシュフローと割引率の仮定を整合させるとしています[2]。成長率gに物価上昇を織り込むなら、割引率も名目ベースにそろえるという意味で、TVの前提の説明にも当てはまります。割引率と成長率の差が小さいほどTVは過大になりやすいため、成長率が長期的に持続可能な水準か(期待インフレ率や長期の名目経済成長率が実務上の目安として使われます)を検討し、WACCの算定根拠とあわせて評価書で説明します。成長率の上限は適用指針が定める要求ではなく、実務上の判断です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:成長永久年金の式を導き、ターミナルバリューとの関係を説明してください。
「毎期gで成長するCFの現在価値は、初項C1÷(1+r)、公比(1+g)÷(1+r)の無限等比級数なので、C1÷(r − g)になります。DCFのTVはこれを最終予測年の翌年のFCFに適用したもので、TV = FCF(n+1)÷(WACC − g) です。r > gが前提で、差が小さいほどTVが大きく変動します。」
深掘り:期首・期末の違い、永続成長率の上限、TVの評価額に占める割合、エグジット倍率法との使い分け。
よくある質問(F AQ)
Q. 永久年金はキャップレートと関係がありますか。
A. あります。不動産の直接還元法で、価格 = NOI ÷ キャップレートとなるのは、成長なしの永久年金(C ÷ r)の式と同じ構造です。成長を見込む場合、キャップレートは概ね「割引率 − 成長率」に対応します(キャップレート)。
Q. 永続成長率法とエグジット倍率法のどちらを使いますか。
A. 両方で算定して整合性を確認するのが一般的です。永続成長率法の結果から暗黙の倍率を逆算し、倍率法の妥当性と比べます。
出典・参考(2 026-11確認)
- 日本公認会計士協会「経営研究調査会研究報告第32号 企業価値評価ガイドライン(2013年7月3日改正)」32頁(ターミナル・バリュー)・36頁〜37頁(配当還元法). https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-3-32-2a-20130722.pdf(2026年11月参照)
- 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計基準適用指針第31号 時価の算定に関する会計基準の適用指針」第35項(現在価値技法). https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ikan_20240701_48.pdf(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。