この記事で分かること
- 会社法上の「非公開会社(公開会社でない株式会社)」の定義と、「非上場会社」との違い
- 機関設計・株式発行・株主総会の手続で公開会社と何が違うか(条文つきの比較表)
- 非公開会社の株式を買う際の譲渡承認と、買収後の第三者割当の決議要件を整数設例で確認
- M&Aでの確認ポイント(定款・株主名簿・譲渡承認の手続)
30秒で分かる定義
非公開会社(ひこうかいがいしゃ、Non-Public Company)とは、会社法上、発行する全ての株式について、譲渡による取得に会社の承認を要する旨の定款の定め(譲渡制限)がある株式会社をいいます。会社法は、全部または一部の株式に譲渡制限の定めがない会社を「公開会社」と定義しており(第2条第5号)、それ以外の会社を条文上「公開会社でない株式会社」と呼びます[1]。実務ではこれを非公開会社・全株式譲渡制限会社と呼びます。本ページは会社法上の意味を扱い、株式が上場していないという意味の「非上場会社」とは別の概念です。
なぜ実務で重要なのか
日本の中小企業やオーナー企業の多くは全株式に譲渡制限を付けており、事業承継やPEによる買収では、会社法の非公開会社向けのルールが手続の前提になります。M&AのFA・弁護士は、株式譲渡に会社の承認が必要か、承認機関は取締役会か株主総会かを定款で確認します。PEは、買収後の増資や役員選任が株主総会決議で行われる非公開会社の特徴を踏まえ、株主間契約を設計します(Minority PE投資のガバナンス設計)。上場会社の買収との違いは、プロセス・株主構成・価格の面で整理しておくと全体像がつかめます(非公開会社の買収 vs 上場会社の買収)。
仕組み:公開会社との主な違い
| 項目 | 公開会社 | 非公開会社 |
|---|---|---|
| 取締役会(第327条第1項) | 設置義務あり | 任意(監査役会設置会社などを除く) |
| 取締役の任期(第332条) | 原則2年以内(監査等委員会設置会社の監査等委員でない取締役と、指名委員会等設置会社の取締役は1年以内) | 定款で10年以内まで伸長可(監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く) |
| 取締役を株主に限る定款(第331条第2項) | 不可 | 可 |
| 募集株式の募集事項の決定(第199条・第201条) | 原則取締役会(有利発行は株主総会) | 株主総会の特別決議(委任の規定あり) |
| 総会の招集通知(第299条第1項) | 2週間前 | 原則1週間前(取締役会非設置会社は定款で短縮可。書面・電磁的方法による議決権行使を定めた場合は2週間前) |
| 株主の総会招集請求(第297条) | 6か月の保有期間要件あり | 保有期間要件なし |
| 監査役の監査範囲(第389条) | 業務監査を含む | 定款で会計監査に限定可(監査役会設置会社・会計監査人設置会社を除く) |
| 発行可能株式総数(第113条第3項) | 増加は発行済株式総数の4倍まで | 4倍規制なし |
| 新株発行の無効の訴え(第828条第1項第2号) | 効力発生から6か月以内 | 効力発生から1年以内 |
譲渡制限株式の譲渡承認の決定は、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会の決議によりますが、定款で別段の定めをすることもできます(第139条第1項)[1]。会社が承認請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内に決定の内容を通知しないと、承認したものとみなされます(会社と請求者の合意で別段の定めをした場合を除く。第145条第1号)[1]。また、相続などで株式を取得した者に会社への売渡しを請求できる旨を定款で定めることができます(第174条)。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。取締役会設置会社である非公開会社N社の議決権は、創業者55%、親族30%、役員15%です。定款は譲渡承認の機関を取締役会とし、特別決議の要件を加重していないものとします。
①株式の取得:買い手Bが創業者から55%を譲り受けるには、N社の取締役会の承認が必要です。承認請求から2週間以内にN社が通知しなければ、別段の合意がない限り承認したものとみなされます。
②買収後の第三者割当:Bが自らに新株を割り当てるには株主総会の特別決議が必要です。全株主が出席すると、必要な賛成は出席議決権の3分の2以上(約66.7%)で、Bの55%だけでは 66.7% − 55% = 約11.7ポイント足りません。
③親族分も取得した場合:55% + 30% = 85%となり、85% ≧ 66.7%なので、定款に加重の定めがない限り、Bの賛成だけで特別決議を成立させられます。役員の15%を残す場合、役員は3分の1を超えないため、単独では特別決議を止められません。
案件プロセス上の位置付け
非公開会社の買収では、DDの初期に定款・株主名簿・過去の株式移動の記録を集め、①譲渡承認の手続が過去の株式移動で正しく行われていたか、②名義株主など実質と名義が食い違う株主がいないか(名義株主・名義貸株の整理)、③属人的な定めや種類株式がないかを確認します。株式譲渡契約では、売り手が会社の譲渡承認を取得することをクロージングの前提条件とし、承認の議事録を受領書類に入れるのが一般的です。事業承継型の案件では、オーナーと親族の株式を集約してから譲渡する手順が必要になることがあります(事業承継バイアウトのケース分析)。
実務での調べ方・確認手順
- 定款を確認する:全株式に譲渡制限があるか、承認機関、承認請求の期間の短縮、相続人等への売渡請求の定め、取締役の任期、監査役の監査範囲を確認します(定款)。
- 登記事項証明書を確認する:株式の譲渡制限に関する規定や機関設計が登記されているかを照合します。
- 株主名簿と承認記録を突き合わせる:過去の株式移動ごとに承認の議事録があるかを確認し、欠けていれば追認の手続を検討します。
この用語を実務で
非公開会社の買収で、定款と株主構成から譲渡承認・増資・役員選任に必要な手続と議決権比率を整理できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「非上場会社=非公開会社」→ 正しくは、会社法上の公開会社かどうかは譲渡制限の有無で決まります。一部の種類の株式にでも譲渡制限がなければ公開会社であり、上場していなくても公開会社のことがあります(第2条第5号)[1]。
誤解2:「非公開会社の株式は譲渡できない」→ 正しくは、会社の承認を得れば譲渡できます。承認されない場合には、会社または会社が指定する者による買取りを請求する仕組みもあります。
誤解3:「非公開会社なら取締役会で増資を決められる」→ 正しくは、募集事項の決定は原則として株主総会の特別決議です。総会決議で取締役(取締役会)に委任する方法はありますが、上限などを総会で定める必要があります(第199条・第200条)[1]。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)公開会社の定義は会社法第2条第5号にあり、非公開会社に関する特則は機関設計(第327条・第332条・第389条)、株式の発行(第199条・第201条)、株主総会(第297条・第299条)などに散らばっています[1]。上場会社は、株式が市場で自由に売買される前提のため、一般に譲渡制限のない公開会社です。上場準備では、譲渡制限を廃止する定款変更により公開会社になり、取締役会の設置などの機関設計や発行可能株式総数の4倍規制への対応が必要になります(発行可能株式総数)。米国のprivate companyは「上場していない会社」という意味で使われるのが一般的で、日本の会社法の「非公開会社」とは基準が異なる点に注意します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:オーナー企業の株式を100%取得する案件で、会社法上まず確認することは何ですか。
「定款で全株式に譲渡制限があるか、承認機関が取締役会か株主総会か、承認請求の手続を確認します。そのうえで、株主名簿と過去の株式移動の承認記録を突き合わせ、名義株や承認漏れがないかを見ます。全株主から買い取れない場合に備え、取得比率ごとに特別決議や株式併合などで残りを取得できるかも検討します。」
よくある質問(F AQ)
Q. 非公開会社でも取締役会を置く必要がありますか?
A. 公開会社でなければ設置は任意ですが、監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社は取締役会を置かなければなりません(第327条第1項)[1]。
Q. 非公開会社の株主総会はいつまでに招集通知を出しますか?
A. 原則として総会の日の1週間前までですが、書面や電磁的方法による議決権行使を定めた場合は2週間前まで、取締役会を置かない会社は定款で1週間より短くできます(第299条第1項)[1]。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「会社法」(平成十七年法律第八十六号)第2条第5号、第113条第3項、第139条第1項、第145条、第174条、第199条、第200条、第201条、第297条、第299条第1項、第327条第1項、第331条第2項、第332条第1項・第2項、第389条第1項、第828条第1項第2号. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。