この記事で分かること
- 市場リスクの種類(株価・金利・為替・商品)と損失の見積り方
- 感応度とVaRを使った整数設例
- 証券会社の自己資本規制比率と市場リスク相当額の位置付け
- CAPMの「市場リスク」との意味の違い
30秒で分かる定義
市場リスク(Market Risk、しじょうりすく)とは、金利・為替・株価・商品価格などの市場価格が変動することで、保有する資産や負債の価値が変わり、損失が出るリスクです。価格変動リスク、マーケットリスクとも呼びます。金融機関のリスク管理では、信用リスクやオペレーショナルリスクと並ぶ主要なリスク区分です。ただし、同じ「市場リスク」という言葉が、CAPMでは分散投資で消せない市場全体の変動(システマティックリスク)の意味で使われます。本ページは前者を中心に、後者との違いも整理します。
なぜ実務で重要なのか
市場部門・証券会社のリスク管理部門は、保有ポジションの損失可能性を日々把握し、限度枠で管理します。銀行のALM担当は、金利の変動が資産・負債の価値と収益に与える影響を見ます。事業会社の財務部門は、外貨建ての債権債務や原材料価格の変動を、為替予約やスワップで抑えるかを判断します。PE・不動産ファンドでは、投資先の株価や金利水準が出口の価格と借入コストに響きます。リスクの種類ごとの整理は金融リスク管理でのAI活用が、実際のリスク管理部門の仕事はヘッジファンドのリスクマネージャーの仕事が扱っています。
計算式(ま たは仕組み)
市場リスクは、リスク要因ごとに「ポジションの感応度 × 価格の変動幅」で損失を見積もるのが基本です。代表的な要因は次のとおりです。
| リスク要因 | 主な対象 | 損失の見積り(概算) |
|---|---|---|
| 株価リスク | 株式、株価指数先物 | ポジション額 × 株価の下落率 |
| 金利リスク | 債券、貸出、預金、スワップ | ポジション額 × 修正デュレーション × 金利上昇幅 |
| 為替リスク | 外貨建て資産・負債 | 外貨建て純ポジション(資産−負債、円換算)× 円/外貨レートの下落率(円高。負債超過なら円高は利益) |
| 商品価格リスク | 原油・金属などの先物 | 数量 × 価格変動幅 |
z値は、片側99%で約2.326です。VaRは「通常の市場環境で、一定の確率の範囲内で見込まれる最大損失」で、それを超える損失の大きさは示しません。規制上の計測では、バーゼル規制の市場リスクの標準が、内部モデル方式で期待ショートフォール(ES)のモデルに依拠しています[3]。VaR・ESの詳細はVaRのページで扱います。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。
①感応度による損失の見積り
| 要因 | 前提 | 損失の見積り |
|---|---|---|
| 株価 | 株式10,000、株価が10%下落 | 10,000 × 10% = 1,000 |
| 金利 | 債券20,000、デュレーション4.0、金利が0.5%(50bp)上昇 | 20,000 × 4.0 × 0.5% = 400 |
| 為替 | 米ドル建て資産(外貨建て負債なし)が円換算5,000、円/ドル・レートが5%下落(円高) | 5,000 × 5% = 250 |
単純に合計すると 1,000 + 400 + 250 = 1,650 ですが、三つが同時にこの幅で動くとは限らないため、実務では相関を考慮して分散効果を反映します(単純合計は、設定した三つのショックが同時に起きた場合の概算損失で、分散効果を見込まない保守的な見方ですが、ショック幅を超える変動まで含めた損失の上限ではありません)。
②簡易VaR:株式10,000、日次標準偏差1.0%、片側99%(z=2.326)なら、1日VaR = 10,000 × 1.0% × 2.326 = 約233。10日間なら 233 × √10 = 約736 です(リターンが正規分布で日次に独立と仮定)。
開示・規制上の位置付け
証券会社などの第一種金融商品取引業者には、自己資本規制比率の規制があります。比率は、自己資本から固定資産等を控除した額を、保有する有価証券の価格の変動その他の理由により発生し得る危険に対応する額で割って算出し、120%を下回らないようにする必要があります[2]。この危険に対応する額は、市場リスク相当額・取引先リスク相当額・基礎的リスク相当額で構成され、市場リスク相当額は有価証券等の価格の変動その他の理由により発生し得る危険に相当する額として金融庁長官が定めるところにより算出します。業者は市場リスク相当額と取引先リスク相当額を営業日ごとに把握する必要があります[1]。
| 項目 | 金額(百万円) |
|---|---|
| 控除後の自己資本 | 3,600 |
| 市場リスク相当額 | 1,200 |
| 取引先リスク相当額 | 400 |
| 基礎的リスク相当額 | 500 |
| リスク相当額の合計 | 2,100 |
| 自己資本規制比率 | 3,600 ÷ 2,100 = 171.4% |
| 120%を維持できる自己資本の下限 | 2,100 × 120% = 2,520(余力 3,600 − 2,520 = 1,080) |
設例は説明用の架空数値で、各相当額の算出方法は金融庁長官の定めによります。
財務モデル・Excelでの使い方
- 感応度表:ポジション・リスク要因・変動幅を行列で並べ、
=ポジション*感応度*変動幅で損失を出します。変動幅はシナリオ(通常・ストレス)別に列を分けます。 - 簡易VaR:
=ポジション*日次標準偏差*NORM.S.INV(0.99)*SQRT(保有日数)。標準偏差はSTDEV.Sで過去リターンから求めます。 - 限度枠管理:
=損失見積り/限度額を使用率として表示し、80%超で色を付けます。
この用語をExcelで
ポジションと感応度から損失の見積りを表にまとめ、限度枠の使用率まで確認できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「市場リスク=価格の標準偏差」→ 正しくは、標準偏差は計測の入力の一つで、リスクの本体はポジションを保有して生じる損失の可能性です。同じボラティリティでも、保有額が小さければ損失は小さくなります。
誤解2:「金利は市場リスクではなく信用リスク」→ 正しくは、金利の変動で債券や貸出の価値が変わる部分は市場リスクです。債務者の返済不能による損失が信用リスクで、原因が別です。
誤解3:「CAPMの市場リスクと規制上の市場リスクは同じ」→ 正しくは、前者は分散で消せない市場全体の変動、後者は保有ポジションの価格変動による損失の全体です。後者には、個別銘柄に固有の値動き(固有リスク)による損失も含まれます。前者の指標はベータです。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本の証券会社(第一種金融商品取引業者)は、金融商品取引法第46条の6により自己資本規制比率を毎月末などに届け出て、120%を下回らないようにしなければなりません[2]。リスク相当額の区分と、営業日ごとの把握義務は、金融商品取引業等に関する内閣府令第178条が定めます[1]。具体的な証券会社の自己資本規制比率の読み方は証券会社の自己資本規制比率を読むで解説しています。銀行はバーゼル規制に基づく自己資本比率規制の下で、市場リスクに対応する資本を持ちます。上場企業の有価証券報告書では、金融商品に関する注記や事業等のリスクの中で、為替・金利・株価などの影響を説明することがあります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:市場リスクと信用リスクの違いと、その見分け方を教えてください。
「市場リスクは、金利・為替・株価などの価格が動いて保有資産の価値が変わるリスクです。信用リスクは、取引相手が約束どおり支払わないリスクです。同じ債券でも、金利が上がって価格が下がる部分は市場リスク、発行体の格下げや債務不履行による損失は信用リスクです。」深掘りでは、VaRの限界(超過損失を示さない、正規分布の仮定)と、ストレステストで補う考え方を聞かれます。
よくある質問(F AQ)
Q. 市場リスクはヘッジでなくせますか?
A. 一部を減らせます。為替予約や金利スワップで特定の変動の影響を抑えられますが、ヘッジのコスト、ヘッジ対象とのずれ(ベーシスリスク)、取引相手の信用リスクが別に生じます。
Q. 市場リスクが大きい=悪いことですか?
A. いいえ。リスクを取ることが収益の源泉でもあります。重要なのは、取っているリスクの大きさが限度枠・自己資本・収益目標の範囲に収まり、把握できていることです。
出典・参考(2 026-11確認)
- 金融商品取引業等に関する内閣府令 第178条(リスク相当額). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419M60000002052(2026年11月参照)
- 金融商品取引法 第46条の6(自己資本規制比率)第1項・第2項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025(2026年11月参照)
- バーゼル銀行監督委員会「Minimum capital requirements for market risk」(2019年1月14日公表、同年2月25日に誤記訂正版)公表ページ. https://www.bis.org/bcbs/publ/d457.htm(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。