この記事で分かること

  • 取得原価主義の定義と、時価主義(公正価値会計)との違い
  • 資産区分ごとの評価基準の例外(有価証券・減損会計)の整理
  • 整数設例による含み益・含み損の扱いの検算
  • 日本の「土地の再評価に関する法律」という歴史的な例外制度

30秒で分かる定義

取得原価主義(Historical Cost Principle、読み方:しゅとくげんかしゅぎ)とは、資産を取得した時点で実際に支払った金額(取得原価)で帳簿に計上し、その後の市場価格(時価)の変動を原則として財務諸表に反映しない会計原則です。Cost Principleとも呼ばれます。土地や建物、有価証券などの資産価値が時価で大きく変動しても、貸借対照表上の帳簿価額は取得時の金額に据え置かれるのが原則で、これに対して資産を決算時点の時価で評価し直す考え方を時価主義(公正価値会計)と呼びます。

なぜ実務で重要なのか

財務諸表分析では、貸借対照表に計上されている資産の帳簿価額が必ずしも「今売ったらいくらか」を示していないことを理解していないと、企業価値を見誤ります。特に長期保有の土地・建物・持ち合い株式は、含み益(帳簿価額より時価が高い状態)や含み損を抱えていることが珍しくありません。M&A・不動産評価では、対象会社の帳簿価額と実勢時価の乖離(実態BSへの組み替え)を把握する作業が、バリュエーションの前提として不可欠です。会計基礎理論としても、なぜ減損会計や時価評価が「例外」として必要とされるのかを理解する出発点になります。

仕組み:原則と例外の整理

資産区分評価基準
土地・建物(事業用固定資産)取得原価(減価償却後)。ただし減損の兆候があれば例外的に切り下げ
売買目的有価証券時価(評価差額はPLに計上)
その他有価証券時価(評価差額は純資産直入・原則PL非計上)
満期保有目的の債券取得原価(または償却原価法)

このように、日本基準は資産を一律に取得原価で評価するわけではなく、「事業に使う資産(固定資産)は原則取得原価、売買目的の金融資産は時価」という形で、資産の性質に応じて取得原価主義と時価主義を使い分けています。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。10年前に500百万円で取得した事業用の土地が2区画あるとします。

土地A:現在の時価が800百万円に上昇。取得原価主義の下では、含み益300百万円(800-500)は帳簿価額に反映されず、BS上の帳簿価額は取得原価500百万円のままです。土地B:地域の需要低迷等により時価が200百万円まで下落し、その状態が一時的でないと判断されたとします。この場合は減損会計の対象となり、減損損失 = 500-200 = 300百万円をPLに計上し、帳簿価額を200百万円へ切り下げます。値上がりは反映せず、値下がりは(一定の基準を満たせば)反映するという非対称な扱いが、取得原価主義の実務上の帰結です。

PL・BS・CFへの影響

取得原価主義の下では、資産の値上がり(含み益)は売却するまでPLに計上されず、BSの帳簿価額も動きません。値下がりについては、減損の判定基準を満たした場合にのみPL上の損失として認識され、BS帳簿価額が切り下げられます。いずれの場合も、実際に現金が動くのは資産を取得した時点と売却・処分した時点のみで、含み損益の変動自体はCFに直接の影響を与えません。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 固定資産台帳は取得原価ベースで管理し、減価償却累計額を控除した帳簿価額をBSに連動させる
  • M&Aや不動産評価の場面では、帳簿価額とは別に「時価情報」の列を追加し、=時価-帳簿価額で含み損益を可視化する「実態BS」のシートを別途作成する
  • 減損の兆候がある資産には、割引前将来キャッシュフローと帳簿価額を比較するチェック行を設け、減損の要否を判定できるようにする

この用語をExcelで「組める」状態にする

取得原価ベースのBSに時価情報を加えた実態BSを組み、含み損益を可視化できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「時価が上がれば会社の資産もその分自動的に増える」→ 正しくは、取得原価主義の下では含み益はBSに反映されません。時価総額と純資産の乖離(含み益の存在)はPBRの解釈にも影響します。

誤解2:「取得原価主義なら評価損は絶対に出ない」→ 正しくは、減損会計という例外制度があり、一定の基準を満たす価値下落は損失として認識されます。取得原価主義は「時価を無視する」原則ではなく、「原則として時価変動を反映しないが、下落については一定の例外で反映する」という非対称な原則です。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

日本の企業会計原則は貸借対照表原則において、資産の評価は原則として取得原価を基礎とすることを定めており、取得原価主義は日本の会計基準の基本的な考え方の一つです(2026年8月時点)。歴史的な例外として、1998年に制定された「土地の再評価に関する法律」により、事業用土地を保有する会社が一定期間、税務上の要件のもとで土地を時価に評価替えできる時限的な特例が設けられたことがありますが、これは通常の継続的な時価評価制度ではなく、あくまで特例です。現在の実務では、事業用固定資産は取得原価主義を基本としつつ、減損会計により実質的な時価下落を反映する枠組みが定着しています。IFRSでも有形固定資産は原則として原価モデルが採用でき、再評価モデルは選択制の例外として位置付けられています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:取得原価主義のメリットとデメリットを説明してください。
「メリットは、取得時の実際の支払額という客観的で検証可能な金額を基礎にするため、経営者の主観的な見積りに左右されにくく、財務諸表の信頼性・比較可能性を確保しやすい点です。デメリットは、時価が大きく上昇した資産の実態価値がBSに反映されず、含み益の存在によって帳簿価額と実勢価値が乖離してしまう点です。この弱点を補うため、値下がり局面については減損会計という例外制度が設けられています。」(30秒回答例)

深掘りでは「含み益の存在はどの開示情報から読み取れるか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 取得原価主義と時価主義(公正価値会計)はどちらが優れていますか?
A. 一概には言えません。取得原価主義は客観性・検証可能性に優れ、時価主義は資産の現在価値をより適時に反映できます。会計基準はこのトレードオフを踏まえ、資産の性質(事業用か売買目的か)によって使い分けています。

Q. 土地の含み益はどこで確認できますか?
A. 有価証券報告書の注記に「土地の再評価に関する法律」の適用状況等が記載される場合がありますが、一般には帳簿価額と時価の差額が財務諸表本体に開示されるわけではなく、外部からの推定には限界があります。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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