この記事で分かること
- 予想PER(Forward P/E)の定義と、実績PERとの分母の違い
- 整数設例で見る、増益予想が予想PERを実績PERより低くする理由
- 予想PERが実績PERより高くなる(減益予想)ケースの読み方
- 財務モデルでの実装と、アナリストレポートでの使われ方
30秒で分かる定義
予想PER(Forward P/E Ratio、読み方:フォワードピーイーレシオ)とは、株価を直近実績のEPS(1株当たり利益)ではなく、将来(通常は来期または向こう12か月)の予想EPSで割ったPERです。単に「予想PER」「Forward P/E」とも呼ばれ、実績EPSで割る実績PERと対で用いられます。株価は将来の業績を織り込んで形成されるため、実績PERよりも予想PERの方が実勢の株価水準を説明しやすいとされます。
なぜ実務で重要なのか
株式アナリストのレポートでは、目標株価の妥当性を示す倍率として予想PER(多くは今期または来期の会社予想・コンセンサス予想EPSベース)が最も頻出します。投資銀行のComps分析でも、実績PERよりNTM(Next Twelve Months、向こう12か月)ベースの予想PERを基準にすることが一般的で、決算期の異なる会社間の比較にも使われる方式です。PE・機関投資家は、予想PERの水準だけでなく、その前提となるコンセンサス予想の確度・ばらつきも合わせて確認します。
計算式(または仕組み)
分母の予想EPSは、会社発表の業績予想に基づく「会社予想EPS」か、複数のアナリスト予想を平均した「コンセンサス予想EPS」のいずれかを使います。どちらを使っているかで水準がわずかに異なることがあるため、比較時は同じ基準に揃える必要があります。決算期が異なる会社を比較する際は、単純に「来期」を使うと基準期間がずれるため、NTM(向こう12か月)ベースで按分し直すのが厳密な方法です。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。株価2,400円の会社について、直近実績EPSと来期予想EPSを比較します。
- 直近実績EPS:100円 → 実績PER = 2,400 ÷ 100 = 24.0倍
- 来期予想EPS:120円(前期比+20%の増益予想) → 予想PER = 2,400 ÷ 120 = 20.0倍
増益が予想されているため、予想EPSの方が実績EPSより大きく、その分だけ予想PERは実績PERより低い倍率(20.0倍<24.0倍)になります。逆に減益が予想される局面(例えば来期予想EPSが80円)では、予想PER=2,400÷80=30.0倍となり、実績PERより高くなります。予想PERの水準だけでなく、実績PERとの大小関係が増益・減益どちらの予想を織り込んでいるかを示す点が読み取りのポイントです。
投資判断への影響
同業他社比較で「予想PERが低いから割安」と単純に判断するのは危険です。予想PERが低い会社は、単に市場からの成長期待が低い(低PERが正当化される)か、業績予想がまだ市場に十分織り込まれていない一時的な状態かのいずれかであり、区別するには増益率やPEGレシオ(PER÷利益成長率)まで確認する必要があります。また予想EPSの前提となる為替・原材料価格等の外部環境が急変した場合、予想PERは即座に信頼性を失うため、予想の更新頻度・改定リスクも合わせて確認します。
財務モデル・Excelでの使い方
Comps分析シートでは実績PERの隣に予想PER列を設けます。
- コンセンサス予想EPS(来期・来々期)を外部データとして取り込み、
=株価÷来期コンセンサスEPSで予想PERを算定する - 決算期がばらつく比較対象会社群には、直近実績と来期予想を月割りで按分してNTM EPSを算定し、決算期の違いを吸収する(詳細は決算期が異なる会社をCompsで比較する方法を参照)
- 予想PER・実績PER・PEGレシオを併記し、成長率で正規化した割高・割安感も確認できるようにする
この用語をExcelで「組める」状態にする
コンセンサス予想EPSを取り込み、実績PER・予想PER・PEGレシオを並べたComps比較表を組めるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「予想PERは常に実績PERより低い」→ 正しくは、減益予想の局面では予想PERの方が実績PERより高くなります。予想PERと実績PERの大小関係は、市場が増益・減益のどちらを織り込んでいるかを反映した結果であり、一律の高低関係があるわけではありません。
誤解2:「アナリスト予想は常に正確」→ 正しくは、業績予想には改定リスクが常に伴います。予想EPSが決算をまたいで大きく下方修正されれば、予想PERベースで「割安」に見えていた銘柄が実際には割安でなかったことになる(バリュートラップ)ため、予想の分散(アナリスト間のばらつき)や過去の予想的中率も確認します。
日本実務での扱い
日本の証券会社が発行する株式アナリストレポートでは、会社発表の業績予想または各社のコンセンサス予想に基づく今期予想PER・来期予想PERが標準的な指標として掲載されます。日本企業の決算期は3月期が多数を占めますが、12月期や海外子会社との連結決算の関係で決算期がずれる会社もあり、比較時にはNTMベースへの補正が必要になる場面があります(2026年8月時点)。また、会社発表の業績予想は保守的に据え置かれる傾向が指摘されることがあり、コンセンサス予想と会社予想が乖離している場合はその背景も確認するのが実務上の注意点です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:ある会社の予想PERが同業他社より著しく低いとき、どのような点を確認しますか?
「まず予想EPSの前提(会社予想かコンセンサスか、直近の修正動向)を確認します。次に成長率で正規化するためPEGレシオを算定し、単に低成長が織り込まれているだけなのか、市場が気づいていない一時的な割安なのかを見極めます。さらに一過性の特損・特益が予想EPSに含まれていないか、決算期のずれによる比較の歪みがないかも確認すべき点です。」
深掘りでは「NTMベースへの補正方法」「予想PERとPEGレシオの使い分け」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 予想PERの「予想」は誰の予想を使うのが一般的ですか?
A. 会社発表の業績予想(会社予想EPS)を使う場合と、複数のアナリスト予想を集計したコンセンサス予想EPSを使う場合の両方があります。日本の個人投資家向けサービスでは会社予想ベース、機関投資家向けのCompsではコンセンサスベースが使われることが多く、資料には必ずどちらの基準かを明記します。
Q. CAPE(シラーPER)と予想PERはどう違いますか?
A. CAPEは過去10年程度の物価調整後の平均EPSで割る、長期の景気循環を平準化した指標です。予想PERは向こう1年程度の将来予想EPSで割る、短期の成長期待を反映した指標であり、時間軸の取り方が正反対です。
出典・参考(2026-08確認)
- 日本証券業協会(JSDA) https://www.jsda.or.jp/
- 日本取引所グループ(JPX) https://www.jpx.co.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。