この記事で分かること
- 相対借入・シンジケートローン・公募社債の費用を実行時と毎年に分け、年次キャッシュフロー表とIRRでオールインコストを出す手順(学習用の架空事例)
- 表面金利が最も低い公募社債のオールインコストが最も高くなる理由と、発行額で順位が入れ替わる分岐点(設例では約191億円と約307億円)
- 価格に出ない6項目の判断表と、稟議や調達提案に貼る比較表1枚の作り方
想定読者:借入と社債のどちらで調達するかを稟議にかける事業会社の財務・経営企画担当者、調達提案を作る銀行・証券会社のコーポレート営業担当者
前提知識:利息の計算と、IRR(内部収益率)が「年率の利回り」であることが分かれば足ります。
結論:表面金利ではなく、手取りと支払の全体を年率にして比べる
借入と社債を表面金利だけで比べると、手数料や格付取得の費用が見えず、どちらが実質的に安いかを稟議で説明できません。金額・期間・金利タイプを揃え、実行時と毎年の費用を年次キャッシュフロー表に並べて IRR(手取額と将来の支払の現在価値を等しくする年率)を出せば、費用込みの実質コスト、つまりオールインコストを同じ物差しで比べられます。
以下はすべて学習用の架空事例です。売上高2,000億円規模の部品メーカーX社(実在の企業ではありません)が、設備投資と借換えのために100億円を5年・満期一括で調達します。表面金利(固定金利換算)は公募社債1.40%、シンジケートローン1.45%、相対借入1.50%で、社債が最も低くなります。ところがオールインコストは、相対借入1.53%、シンジケートローン1.58%、公募社債1.65%と順位が逆になります。社債は初期費用70百万円と毎年10百万円の費用が、100億円では薄まりきらないためです(図表2)。
この逆転は発行額で変わります。発行額だけを増やすと、社債は約191億円でシンジケートローンを、約307億円で相対借入を下回ります(図表3)。金利と費用率はすべて仮定で、実在の市場水準ではありません。制度は2026年10月時点の条文で確認しています。
シ・ローンのフィー体系はシンジケートローンの組成実務、OIDの実効コストはLBOファイナンスのフィーと実効コスト、起債プロセスとクーポンの決まり方はDCM入門に委ね、本記事は3案を同じ表に並べる部分に絞ります。
比較の土俵を揃える:金額・期間・金利タイプと費用項目
最初に、費用の計算より先に次の3点を揃えます。
- 金額は100億円(10,000百万円)、期間は5年、元本は満期一括で返済します。
- 金利は固定で揃えます。変動金利の借入を固定利付の社債とそのまま比べると将来の金利変動の影響が混ざるため、比較として誤りです。変動金利の借入は、金利スワップ(変動と固定の金利を交換する取引)で固定化した後の金利に、スワップの費用を加えて換算します。本設例は固定金利の借入を想定します。
- 無担保で、担保や保証に関する費用は含めません。
なお、海外の解説は、銀行借入は二者間で条件を調整しやすく、社債は固定金利・長期で制限が比較的少ないと整理しています1。米国の担保付き借入などが前提のため、構造だけを参考にしました。
社債側の仮定は3つです。公募で、各社債の金額が1億円以上の設計とし、社債管理者を置かず財務代理人(発行体の代理として元利金の支払事務などを担う機関。違いは用語集の社債要項と社債管理者)を置く方式にします。会社法は社債管理者の設置を原則としつつ、各社債の金額が1億円以上の場合などを例外とし、その場合は社債管理補助者を任意で置けるとしています2。また、X社は有価証券報告書の提出会社で、後述の発行登録を使える要件を満たすと仮定します。
図表1は、3案の費用を実行時(0年目。手取りから差し引かれます)と毎年に分けたものです。シンジケートローン(複数の金融機関が同一条件で貸す協調融資)では、組成を主導する金融機関に払うアレンジメントフィーと、期中の事務を担うエージェントへの年次費用が生じます。コミットメントフィー(未使用の貸出枠に払う手数料)は、全額を実行日に借りる設例ではゼロです。社債では引受手数料(証券会社が社債を引き受ける対価)に加え、格付の取得と維持、開示書類の作成、財務代理人の設定と事務の費用がかかります。
| 費用項目 | 支払時期 | 相対借入 | シ・ローン | 公募社債 |
|---|---|---|---|---|
| 金利(固定換算、年率) | 毎年 | 1.50% | 1.45% | 1.40% |
| 融資手数料/アレンジメントフィー/引受手数料 | 実行時 | 10.0(0.10%) | 40.0(0.40%) | 30.0(0.30%) |
| 弁護士費用・開示書類作成 | 実行時 | 2.0 | 8.0 | 25.0 |
| 格付取得(2社分) | 実行時 | - | - | 12.0 |
| 財務代理人の設定 | 実行時 | - | - | 3.0 |
| 印紙税(契約書原本1通) | 実行時 | 0.6 | 0.6 | 0(仮定) |
| 初期費用の合計 | 実行時 | 12.6 | 48.6 | 70.0 |
| エージェント/財務代理人の事務 | 毎年 | - | 3.0 | 4.0 |
| 格付の維持 | 毎年 | - | - | 6.0 |
| コミットメントフィー | 毎年 | 0 | 0 | - |
| 年次費用の合計 | 毎年 | 0.0 | 3.0 | 10.0 |
印紙税は、金銭消費貸借契約書が課税文書で、契約金額が50億円を超えるものは1通あたり60万円です(令和8年4月1日現在の税額表)3。設例では契約書原本1通分の0.6百万円を借入2案に入れ、公募社債の発行に係る印紙税は0と仮定します(実際の取扱いは要確認)。
図表1のとおり、初期費用は相対借入・シンジケートローン・公募社債の順に12.6・48.6・70.0百万円、年次費用は0・3.0・10.0百万円です。社債では引受手数料だけが発行額に比例し、格付取得・開示書類・財務代理人の設定は発行額によらない固定的な費用と置いています。費用の会計処理は社債発行費・借入関連費用の会計処理に委ね、本記事のオールインコストは資金の手取りと支払の時期から求める経済的なコストです。
年次キャッシュフロー表とIRRでオールインコストを出す
オールインコスト(IRR)の求め方
手取額 = 額面 - 初期費用
毎年の支払 = 額面 × 表面金利 + 年次費用(5年目は元本の10,000を加える)
IRR = 「手取額 = 1〜5年目の(t年目の支払 ÷ (1+r)のt乗)の合計」を満たす r
相対借入は手取額9,987.4(10,000-12.6)、毎年の支払150.0(10,000×1.50%)、5年目10,150.0です。シンジケートローンは9,951.4(10,000-48.6)、148.0(145.0+3.0)、10,148.0、公募社債は9,930.0(10,000-70.0)、150.0(140.0+10.0)、10,150.0です(図表2)。
| 経過年 | 相対借入 | シ・ローン | 公募社債 |
|---|---|---|---|
| 0年目(実行時の手取り) | +9,987.4 | +9,951.4 | +9,930.0 |
| 1〜4年目(毎年の支払) | -150.0 | -148.0 | -150.0 |
| 5年目(支払+元本返済) | -10,150.0 | -10,148.0 | -10,150.0 |
| 表面金利(年率%) | 1.50 | 1.45 | 1.40 |
| オールインコスト=IRR(年率%) | 1.53 | 1.58 | 1.65 |
| 表面金利との差(ポイント) | +0.03 | +0.13 | +0.25 |
| 簡便法(年率%) | 1.53 | 1.58 | 1.64 |
Excel の IRR 関数に0〜5年目の数値(受取を+、支払を-)を入れると再現でき、相対借入は年率1.5264%です。
図表2の読み方は3点です。第1に、オールインコストは表面金利を0.03・0.13・0.25ポイント上回り、表面金利と順位が逆転します。第2に、毎年の支払は相対借入と社債でともに150.0ですが、社債は手取りが57.4百万円少ないため実質コストが高くなります。第3に、簡便法(式は図表2の注)は1.53%、1.58%、1.64%で、IRR との差は最大でも0.01ポイント未満です。設例では簡便法でも足りますが、期間が短い、または初期費用の率が大きいと差が開くため、IRR を併記します。
換算期間も効きます。3年目に借換えで全額返済すると初期費用を3年で回収する形になり、返済時の追加費用を0としても、オールインコストは相対借入1.54%、シンジケートローン1.65%、公募社債1.74%に上がります。OID付きローンの記事は、米国のレバレッジドローン市場でOIDを3〜4年程度で年率換算する慣行を紹介しています。換算期間を書かずに提案を並べると、優劣を誤認します。
発行額・スプレッド差・調達回数で順位が変わる
社債の費用のうち、弁護士・開示書類25.0、格付取得12.0、財務代理人の設定3.0の合計40.0百万円と、毎年の10.0百万円は、発行額によらない固定的な費用の仮定です。図表3は、発行額だけを60億円から400億円まで動かした結果です。
相対借入は1.52〜1.53%でほぼ横ばいです。シンジケートローンは60億円の1.61%から400億円の1.55%へ緩やかに下がり、公募社債は60億円の1.77%から400億円の1.51%へ大きく下がります。社債がシンジケートローンを下回るのは約191億円、相対借入を下回るのは約307億円です(仮定から出た数字で、実在の分岐点ではありません)。
金利差でも見ます。100億円のまま社債のクーポンを逆算すると、オールインコストが相対借入に並ぶのは1.28%(相対借入の1.50%より0.22ポイント低い)、シンジケートローンに並ぶのは1.34%(1.45%より0.11ポイント低い)です。設例の社債は相対借入より0.10ポイント低いだけなので足りません。引受手数料率が0.30%でなく0.20%なら、100億円の社債のオールインコストは1.63%、分岐は約148億円(シンジケートローン)と約225億円(相対借入)に下がります。
調達の回数も効きます。発行登録制度は、発行予定期間(2年以内)・発行予定額などを記載した発行登録書を出して募集をあらかじめ登録し、発行のたびに発行登録追補書類を出す仕組みです。使えるのは、有価証券報告書の継続提出など金融商品取引法第5条第4項の要件を満たす発行者です4。設例の延長として、X社が1年後に同じ登録のもとで同じ条件(100億円・5年・クーポン1.40%)の社債を再び発行し、2回目の開示書類は追補書類のみで6.0百万円、格付は取得済みで、財務代理人は設定3.0・年4.0と仮定します。格付の維持費(年6.0)は1回目で計上済みとし、2回目は追加で生じる費用だけで見ます。2回目の初期費用は30.0+6.0+3.0=39.0百万円、年次費用は4.0百万円で、オールインコストは1.52%と、相対借入の1.53%をわずかに下回ります。共通の固定費を2回に按分すれば、1回目は下がり2回目は上がります。
価格に出ない違い:6項目の判断表
オールインコストが近くても、条件の違いで答えは変わります。図表4はその6項目の比較です。
| 項目 | 相対借入 | シ・ローン | 公募社債 |
|---|---|---|---|
| コベナンツ・担保 | 個別協議で調整しやすい | 参加行共通。変更は貸付人団の合意が要る | 社債要項で定める。発行後は変えにくい |
| 期限前返済 | 契約で定める。固定金利は解約清算金が生じうる | 相対借入と同様。参加行全体と調整 | 繰上償還の定めがなければ満期まで。買入れは時価 |
| 格付・開示 | 格付は不要。銀行へ個別に説明 | 情報メモランダムで参加行へ説明 | 届出書または追補書類で開示。格付は設例では2社取得 |
| 資金使途 | 契約で個別に定める | 契約で定める。変更は合意が要る | 発行時の説明と整合させる必要がある |
| 実行までの期間 | 短い(二者間の協議) | 組成に2〜3か月程度が目安 | 届出は原則15日後に効力。発行登録済みなら追補書類で発行 |
| ロット・投資家層 | 小口でも対応しやすい | 大口を複数行で分担 | 固定費が薄まる規模が前提(図表3) |
財務制限条項(コベナンツ。借入人が守る財務上の約束)の種類と抵触の予防はコベナンツ入門と用語集のコベナンツ余裕度分析に委ね、ここでは条件の決まり方の違い(図表4の1行目)だけを見ます。
実行までの期間について、社債を届出方式で発行する場合、募集には原則として届出が必要で、届出は受理から15日を経過した日に効力を生じます(期間短縮の定めもあります)5。発行登録済みなら追補書類で発行できます。シンジケートローンの組成は、既存記事が2〜3か月程度を目安としています。
相対借入でメインバンクとの取引関係の維持といった負担を伴う場合や、社債管理者を置いて設例にない年次費用が加わる場合など、数値にしにくい項目は無理に金利換算せず、比較表の「その他」に記録します。
編集部の見解として、調達額が大きく継続して起債でき、格付と開示の体制がある企業は社債、小口・短期間での実行・個別の条件調整を重視する企業は相対借入、大口を複数行に分けたい企業はシンジケートローンが向きます。
稟議・調達提案に貼る比較表1枚の作り方
稟議や調達提案の1枚は、上から順に、前提(金額・期間・返済方法・固定換算の金利)、図表1の形の費用表、図表2の形のキャッシュフロー表(IRR・簡便法・換算期間を併記)、順位が入れ替わる条件の1行、図表4の形の別表で組みます。費用表の各項目には「確認済(契約書・見積書)」「提示額」「仮定」のラベルを付けます。見積のない費用は推測で埋めず「仮定」と書き、見積が届いたら置き換えます。
実務チェックリスト
- 金額・期間・返済方法・金利タイプを3案で揃え、変動金利ならスワップ後の金利に換算したか。
- 手取額(額面-初期費用)を起点に IRR を出し、簡便法との差を確認したか。
- 費用を実行時と毎年に分けて「確認済」「仮定」等のラベルを付け、印紙税・社債管理者・格付維持の扱いと換算期間を確認したか。
- 発行額・手数料率・スプレッド差を動かし、順位が入れ替わる条件を確認したか。
- コベナンツ、期限前返済、格付と開示、資金使途、実行までの期間、発行ロットを別表で比べたか。
よくある質問(F AQ)
私募債を比較に加えるには、どこを変えますか。
本記事の対象外です。公募債との違いは用語集の私募債に委ね、加えるなら開示書類や格付の固定費を差し替えて同じ手順で IRR を出します。
オールインコストが最も低い案を、必ず選ぶべきですか。
必ずしもそうではありません。設例の相対借入と社債の差は約0.12ポイントで、100億円に対して年約12百万円
まとめ
借入と社債の比較は、金額・期間・金利タイプを揃え、実行時と毎年の費用をキャッシュフロー表に置き、IRR で年率にして行います。100億円・5年の設例では、表面金利が最も低い社債のオールインコストが最も高く、約191億円と約307億円で順位が入れ替わりました。価格に出ない6項目は別表で比べ、確認できない費用は仮定と明記して稟議に載せます。
脚注
- Wall Street Prep「Bank Debt vs. Bonds」(2023年7月15日更新)の「Private vs. Public Debt Financing」「Advantages of Bank Debt」「Advantages of Bonds」の節。銀行借入は二者間で構造を柔軟にでき、社債は固定金利・長期で条件が比較的緩いとする一般的な整理(参考文献 R1。米国前提)。↩
- 会社法第702条本文は、社債を発行する会社に社債管理者を定めて社債の管理を委託することを求め、ただし書で、各社債の金額が1億円以上である場合その他法務省令で定める場合を除外している。第714条の2は、同条ただし書の場合に社債管理補助者を定めて管理の補助を委託することができるとする(担保付社債を除く)(参考文献 R2)。↩
- 国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」(令和8年4月1日現在法令等)。「消費貸借に関する契約書(金銭借用証書、金銭消費貸借契約書など)」の税額は、記載された契約金額が50億円を超えるもので60万円(参考文献 R3)。↩
- 金融商品取引法第23条の3第1項は、第5条第4項に規定する者に該当する発行者が、発行予定額1億円以上の場合に、発行予定期間・発行予定額などを記載した発行登録書を提出して募集または売出しを登録できるとする。第5条第4項(参照方式の届出の規定)は、内閣府令で定める期間継続して有価証券報告書を提出していること等を要件とする。第23条の6第1項は発行予定期間を効力発生日から2年を超えない範囲で内閣府令が定める期間とし、第23条の8第1項は募集または売出しごとに発行登録追補書類の提出を求める(総額1億円未満の一部を除く)(参考文献 R4。2026年10月22日取得の条文)。↩
- 金融商品取引法第4条第1項は、有価証券の募集または売出しは発行者が届出をしているものでなければすることができないとし(同項ただし書に例外あり)、第8条第1項は、届出は届出書を受理した日から15日を経過した日に効力を生ずるとしている。同条第3項は、届出書類の内容が公衆に容易に理解されると認める場合等に、内閣総理大臣がより短い期間を指定し、または直ちにもしくは受理日の翌日に効力を生ずる旨を通知できるとしている(参考文献 R4)。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Wall Street Prep「Bank Debt vs. Bonds」(2023年7月15日更新) wallstreetprep.com (銀行借入と社債の一般的な概念の参考。米国前提。脚注1の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
- R2
「会 社法(平 成十七年法律第八十六号)」 (e -Gov 法令検索) laws.e-gov.go.jp (参照箇所:第702条、第714条の2。脚注2の根拠。閲覧日:2026年10月22日) - R3 国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」(令和8年4月1日現在法令等) nta.go.jp (参照箇所:第1号文書「消費貸借に関する契約書」の税額表。脚注3の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
- R4
「金 融商品取引法(昭 和二十三年法律第二十五号)」 (e -Gov 法令検索) laws.e-gov.go.jp (参照箇所:脚注4・5に記載の各条。脚注4・5の根拠。閲覧日:2026年10月22日)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための学習用の架空事例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。