この記事で分かること

  • ピッチブック作成の10工程を「AIに任せる/AI下書き+人が確定/人のみ」に切り分ける判定基準
  • 1ページ=「主張1文・根拠データ・出所・必要な確認」で書く章立てテンプレートと、仮設案件で実際に埋めた例
  • 有価証券報告書・コーポレートガバナンス報告書・大量保有報告書など、日本の公開資料からどのページの主張を裏づけられるかの対応表
  • AIが作りがちな「一般論の羅列」「使い回せる資料」を検知して直すための検証手順

結論:AIが出せるのは「構成と下書き」まで。主張の妥当性と関係性の読みは人が決める

ピッチブックの作成時間の多くは、資料を集めて整理し、章立てを組み、各ページの下書きを作る作業に費やされます。この部分は生成AIで確実に速くなります。一方で、「この相手に、いま、この提案を出す意味があるのか」という判断は、公開情報からは導けません。相手企業の意思決定者が何を気にしているか、社内の審査で何が問われるか、価格の言い出し方をどうするか——ここはAIが扱える情報の外側にあります。

そこで本記事では、ピッチブックの作成工程を10に分解し、工程ごとにAIの関与度を3段階で判定したうえで、「ピッチ骨子(章立て+各ページの主張+必要データ+出所)」という一つの成果物に落とし込む手順を示します。スライドの作り方そのものはピッチブックの構成と「1枚1メッセージ」の設計PowerPointの実務操作術で扱っているため、本記事では触れません。骨子ができた後に手を動かす段階の話です。

全体像:ピッチブック作成10工程 × AI適用マップ

まず全体像です。工程を「AIに任せる」「AI下書き+人が確定」「人のみ」の3段階に振り分けます。判定基準は単純で、①出力の正誤が公開資料で確認できるか、②間違えたときに誰かが不利益を被るか、③相手や社内の文脈が必要かの3点です。①がYesで②③がNoなら任せてよく、③がYesなら人が決めます。

図1 ピッチブック作成10工程 × AI適用マップ AIに任せる(公開情報の整理) AI下書き + 人が確定 人のみが決める ③ 企業概要・沿革の整理 ④ 業界構造・市場データの収集 ⑤ 株主構成・保有動向の一覧化 ② ストーリーラインの候補出し ⑥ M&A候補のロングリスト ⑧ バリュエーション前提の整理 ⑨ エグゼクティブサマリー案 ① 目的・相手・落としどころ ⑦ 資本政策の提案内容の決定 ⑩ 体裁・社内テンプレへの反映 判定基準:①公開資料で正誤を確認できるか ②誤りが相手や自社の不利益になるか ③相手・社内の文脈が要るか 左に寄るほど検証が容易。右に寄るほど「その場にいた人にしか分からない情報」が必要になります。
図:工程を3段階に振り分けると、AIに投げる範囲と自分が抱える範囲がそのまま作業計画になります。

工程別の分担表:どこまで任せ、何を人が確定させるか

図1を表に落とすと、各工程で「何を人が確定させるか」が明確になります。ここが曖昧なまま作業に入ると、AI出力をそのまま貼った資料ができあがります。

工程関与度AIに投げる内容人が確定させること
① 目的・相手の設定人のみ誰に何を決めてもらうか、いつまでに、どの水準で
② ストーリーライン設計AI下書き論理展開の候補を3案、各案の弱点つき採用する1案と、相手が反論しそうな箇所の先回り
③ 企業概要AIに任せる有報・会社サイトからの事業・沿革・拠点の要約原本との数値照合(最終確認のみ)
④ 業界分析AIに任せる市場規模・プレイヤー・規制動向の整理と出所明記出所の実在確認と、提案に効く論点への絞り込み
⑤ 株主構成AIに任せる大株主の状況・大量保有報告書の一覧化保有目的の読み方(純投資か否かの解釈)
⑥ M&A候補AI下書き条件に合う候補の洗い出しと適合理由の草案実際に動く可能性の評価、名前を出してよいかの判断
⑦ 資本政策人のみ提案の中身そのもの(規模・時期・順序)
⑧ バリュエーションAI下書き前提の一覧化、手法間の差異を説明する文章の草案前提の採否と最終レンジ。計算は自分の表で行う
⑨ エグゼクティブサマリーAI下書き確定した各ページの主張から要約文を生成結論の言い切り方と、書かないと決めた論点
⑩ 体裁人のみ社内テンプレート、開示可能な情報の範囲、ページ順

⑧の「計算は自分の表で行う」は重要な線引きです。数値をAIの出力のまま資料に載せないという原則は、意思決定者に読まれる財務モデルの条件で述べられている「モデルは伝える道具」という考え方と同じで、伝えるためには自分で再現できることが前提になります。

章立てテンプレート:1ページ=「主張1文・根拠データ・出所・必要な確認」

骨子づくりで最も効くのは、ページ単位のフォーマットを固定することです。以下の4要素を必ず埋める形式にすると、AIに書かせても中身の空いたページが検出できます。

  • 主張(1文・断定形):そのページを見た人が持ち帰る結論。「〜について」は主張ではありません。
  • 根拠データ:主張を支える数値。単位(百万円・%・倍・人)と対象期間を必ず添えます。
  • 出所:資料名・年度・該当箇所まで。「決算資料」では足りず「2026年3月期 有価証券報告書 セグメント情報」まで書きます。
  • 必要な確認:この主張を出す前に誰に何を確かめるか。ここが空欄のページは、たいてい一般論です。
図2 章立てテンプレートの構造 章の並び(例) I. 結論(提案の要旨) II. 現状(何が起きているか) III. 論点(なぜ今か) IV. 提案(打ち手と効果) V. 進め方(体制と論点) 各ページの中身(4要素・全ページ共通) ① 主張 = 1文・断定形(「〜について」は不可) ② 根拠データ = 数値 + 単位 + 対象期間 ③ 出所 = 資料名 + 年度 + 該当箇所 ④ 必要な確認 = 誰に何を確かめてから出すか ④が空欄のページは一般論になっている可能性が高く、③が空欄のページは資料に載せてはいけません。
図:全ページを同じ4要素で書かせると、AI出力の穴が機械的に見つかります。

仮設案件でテンプレートを埋める:北陸マテリアル工業への資本政策提案

ここからは架空の設例です。実在企業ではありません。単位は金額=百万円、株数=百万株、1株当たり金額=円で統一します。

案件設定:仮設の東証プライム上場企業「北陸マテリアル工業」(架空)に対し、非中核である電子部品事業のカーブアウト売却と、政策保有株式の縮減、そして得られた資金の使途を組み合わせた資本政策を提案する、というピッチです。

項目金額・数値補足
売上高(連結)182,000素材130,000/電子部品40,000/その他12,000
営業利益(連結)9,100素材8,600/電子部品200/その他300
当期純利益6,000
純資産120,000ROE=6,000÷120,000=5.0%
時価総額96,000株価500円 × 発行済192百万株。PBR=0.80倍
政策保有株式(BS計上額)18,000純資産比15.0%
電子部品事業のEBITDA4,000営業利益200 + 減価償却費3,800

提案の骨格:電子部品事業をEBITDA倍率6.0倍で売却すると想定価格は 4,000×6.0=24,000。政策保有株式18,000の売却と合わせて42,000の資金が生まれます。使途は自社株買い20,000と素材事業への設備投資22,000(合計42,000で一致)とします。

効果の試算:電子部品事業の税後利益を200×(1−30%)=140として控除すると、当期純利益は 6,000−140=5,860。自社株買い20,000により純資産は 120,000−20,000=100,000。ROEは 5,860÷100,000=5.86%(約5.9%)で、5.0%から約0.9ポイントの改善です。1株当たり利益は、買付株数 20,000÷500円=40百万株、残存株式数 192−40=152百万株より、6,000÷192=31.25円 が 5,860÷152=38.55円 となり、約23.4%の増加です。

ここで意図的に一つ罠を置いています。この試算ではPBRは改善しません。1株当たり純資産は 120,000÷192=625円 から 100,000÷152=657.9円 へ上昇するため、株価が500円のままならPBRは0.80倍から0.76倍へ低下します。「自社株買いをすればPBRが上がる」という主張は、株価の再評価を前提にして初めて成立します。AIに骨子を書かせると、この種の因果を飛ばした一文が高い確率で出てきます。

これを4要素テンプレートに落とすと次のようになります。

主張(1文)根拠データ出所必要な確認
P2連結営業利益の94.5%を素材事業が稼ぎ、電子部品は資本を使うわりに利益を生んでいない素材8,600/9,100=94.5%、電子部品の営業利益率0.5%2026年3月期 有価証券報告書 セグメント情報セグメント区分の変更履歴を経理部門に確認
P3政策保有株式が純資産の15.0%を占め、資本効率を押し下げている18,000/120,000=15.0%コーポレートガバナンス報告書、有報「株式の保有状況」縮減方針の社内合意状況と、取引先との関係
P4株主構成は機関投資家比率が上昇しており、資本効率への説明要求が強まる大株主上位10名の構成、直近の保有割合の変化有報「大株主の状況」、大量保有報告書保有目的欄の読み方(純投資か否か)をIR部門と確認
P6電子部品事業の想定売却価格レンジは20,000〜28,000EBITDA 4,000 × 5.0〜7.0倍自社作成の類似取引一覧(倍率の出所を1件ずつ明記)開示可能な取引のみを使っているかコンプライアンス確認
P7売却・政策保有株縮減により42,000の資金余力が生じる24,000 + 18,000 = 42,000上記P3・P6の数値を再掲売却に伴う税負担の前提を税務担当と確認
P8自社株買い20,000でEPSは31.25円から38.55円へ23.4%増加する5,860/152百万株。買付株数40百万株自社試算(前提を同ページ脚注に明記)買付価格の前提(500円固定)が非現実的でないか
P9PBRの改善は株価の再評価を伴って初めて実現するBPS 625円→657.9円。株価不変ならPBR 0.80→0.76倍自社試算この一文を残すか削るかを案件責任者と相談

最後のP9のように、提案に不利な計算をあえて骨子に残すかどうかは、相手との関係性と提案の狙いによって変わります。この判断こそAIには渡せない領域です。資本政策の考え方そのものは資本政策とIRのエクイティストーリー設計を、事業売却プロセス全体はセルサイドM&Aプロセスと契約実務を参照してください。

日本の公開資料から何が取れるか:主張と資料の対応表

日本のIB実務で事業会社に提案する場合、裏づけの多くは国内の開示資料から取れます。どのページの主張にどの資料が使えるかを、あらかじめ対応づけておくと、AIへの指示も検証も速くなります。

図3 主張 → 裏づけ資料 の対応マップ ピッチでの主張 裏づけに使う日本の公開資料 セグメント間で収益性の差が 大きい 有価証券報告書 セグメント情報/設備投資等の概要 政策保有株式の比重が重く 資本効率を押し下げている コーポレートガバナンス報告書 有報「株式の保有状況」/取締役会構成 株主構成が機関投資家寄りに 変化している 大量保有報告書(EDINET 様式350) 有報「大株主の状況」 会社自身が資本効率を課題と 認識している 中期経営計画/決算説明資料 経営目標値・社長メッセージ 同種の資本政策が市場で 受け入れられている 適時開示(TDnet) 自己株式取得・事業譲渡の決定事実 出所が特定できない主張は、資料に載せる前に落とします。「一般に言われている」は出所ではありません。
図:主張ごとに資料をひも付けると、AIに調べさせる範囲と検証手順が同時に決まります。

資料ごとの使いどころを補足します。有価証券報告書は、セグメント情報(事業別の売上・利益・資産)、設備投資等の概要(Capexの水準)、従業員の状況(セグメント別人員)、株式の保有状況が取れます。セグメント情報の読み解きはセグメント情報の読み方で扱っています。コーポレートガバナンス報告書は、政策保有株式の縮減方針と取締役会の構成が分かり、「誰がこの提案を判断するのか」を推測する材料になります。大量保有報告書はEDINETで様式コード350として提出され、保有者・保有割合・保有目的が確認できます。中期経営計画と決算説明資料は、会社自身の言葉で目標が語られているため、提案を会社の目標に接続する際の起点になります。

なお、東京証券取引所が上場会社に対して資本コストや株価を意識した経営への対応を要請して以降、この種の提案は「会社が自ら掲げた目標をどう達成するか」という文脈で語られる場面が増えています。外部から一方的に問題を指摘する構成より、会社の中期経営計画の数値を起点に組み立てるほうが受け入れられやすいのが実務の感覚です。

骨子生成のプロンプト例

プロンプト設計の一般論は生成AI×ファイナンス実務の系列記事で扱っているため、ここではピッチ骨子に特化した完成形だけを示します。公開情報のみを渡す前提です。

【役割】あなたは日本の投資銀行のアナリストです。上場事業会社向け提案資料の「骨子」を作成します。

【目的】以下の資料に基づき、対象会社への提案ピッチの章立てと各ページの骨子を作成すること。
スライドの作成やデザインは行わず、骨子(テキスト)のみを出力してください。

【入力資料】(本文をこの下に貼付、またはPDFを添付)
・対象会社の直近3期分の有価証券報告書(セグメント情報、大株主の状況、株式の保有状況)
・直近のコーポレートガバナンス報告書
・直近の中期経営計画および決算説明資料

【対象期間】直近3期(2024年3月期〜2026年3月期)
【単位】金額は百万円、比率は%(小数第1位まで)、倍率は倍(小数第1位まで)。単位を混在させないこと。

【出力形式】以下の列を持つ表を作成してください。
| 章 | 頁 | 主張(1文・断定形) | 根拠データ(数値+単位+期間) | 出所(資料名+年度+該当箇所) | 必要な確認(誰に何を) |
章は I.結論 / II.現状 / III.論点 / IV.提案 / V.進め方 の5章とし、全体で10〜14ページに収めること。

【計算方法】
・比率は(分子÷分母)で算出し、分子・分母の実数を根拠データ欄に併記すること。
・EBITDA=営業利益+減価償却費 とし、他の定義を使う場合は明記すること。
・複数年度の比較は同一の会計基準・同一のセグメント区分同士でのみ行うこと。

【禁止事項】
・入力資料に存在しない数値を書かないこと。業界平均・市場規模等の外部数値は、出所を特定できない場合は使わないこと。
・「一般に」「多くの企業では」で始まる根拠のない一般論を書かないこと。
・対象会社名を他社名に置き換えてもそのまま成立する文(=汎用的な記述)を書かないこと。
・株価予想、投資判断、法務・税務の結論を書かないこと。

【不明情報の処理】資料から読み取れない項目は「不明(資料に記載なし)」と書き、推測で埋めないこと。

【出所の表示】すべての数値に出所を付すこと。出所は「2026年3月期 有価証券報告書 セグメント情報」の粒度まで書くこと。

【検算】出力後に、①各セグメントの売上・利益の合計が連結値と一致するか、②各比率を再計算して一致するか、③単位が統一されているか、を自己点検し、結果を表の下に3行で報告すること。

【レビュー項目】最後に、この骨子の弱点を3点挙げてください。特に「相手が既に知っている情報しか書いていないページ」を指摘してください。

出力例(抜粋):上記のプロンプトに対して返ってくる骨子は、次のような粒度になります。

| 章 | 頁 | 主張 | 根拠データ | 出所 | 必要な確認 |
| II.現状 | P2 | 連結営業利益の94.5%を素材事業が占め、電子部品事業の営業利益率は0.5%にとどまる | 素材8,600/連結9,100=94.5%、電子部品200/40,000=0.5%(2026年3月期) | 2026年3月期 有価証券報告書 セグメント情報 | セグメント区分の変更有無を経理に確認 |
| II.現状 | P3 | 政策保有株式のBS計上額は純資産の15.0%に相当する | 18,000/120,000=15.0%(2026年3月期末) | コーポレートガバナンス報告書/有報 株式の保有状況 | 縮減方針の進捗と取引先との関係 |
| III.論点 | P5 | 中期経営計画のROE目標8%に対し、実績は5.0%で3.0ポイントの差がある | 目標8.0%、実績6,000/120,000=5.0% | 中期経営計画(2025年5月公表)/2026年3月期有報 | 目標の定義(連結・単体)を確認 |

【検算】①素材130,000+電子部品40,000+その他12,000=182,000(連結一致)②94.5%、0.5%、15.0%、5.0%を再計算し一致 ③単位は百万円・%で統一
【弱点】(1) P2はセグメント情報を見れば会社側も把握済み (2) P5の目標定義が未確認 (3) 買い手候補の実在性が未検証

最後の「弱点3点」を出させる指示が効きます。ここで「会社側も把握済み」と自己申告されたページは、そのまま出すと相手の時間を奪うだけのページになります。

AIが作りがちな「悪いピッチ」4類型と直し方

類型症状直し方
① 一般論の羅列「業界はDXが進展しています」「グローバル競争が激化しています」主張に必ず自社固有の数値を紐づける。数値が付かない主張は削除する
② 使い回せる資料会社名を別会社に差し替えても文章がそのまま成立する「社名置換テスト」を全ページで実施し、成立してしまうページを書き直す
③ 出所のない数値「市場規模は約1.2兆円」と書いてあるが出典が不明出所欄が空のページは会議に出さない。一次資料に当たれない数値は落とす
④ 相手が既知の情報会社の沿革・製品ラインナップの説明に3ページ使っている会社概要は1ページに圧縮し、相手が知らない外部視点(他社比較・買い手の見方)に置き換える

②の「社名置換テスト」は、AI併用時に特に有効です。骨子ができた段階で対象会社名を伏せ、「この骨子はどの会社にも当てはまるか」をAI自身に判定させると、汎用的な記述が機械的に洗い出せます。

AIには作れないもの

工程表で「人のみ」に置いた領域を、もう少し具体化します。

  • 相手企業との関係性の読み:誰がキーパーソンで、過去にどの提案を断られ、いま何に神経を使っているか。公開資料には書かれていません。
  • 社内で通る論理:自社の審査会や引受審査で何が問われるか、どこまでコミットできるか。これは組織固有の暗黙知です。
  • 価格に対する感触:レンジの提示の仕方、どこまで踏み込むか。数字は計算できても、切り出し方は交渉の問題です。
  • 実現可能性の勘所:提案した買い手候補が本当に動くか、時期は妥当か。AIは候補を列挙できても、動く確率は判断できません。

つまり、AIが出すのは構成と下書きまでです。この線引きを明示的に持っておくと、AIの出力に対して「ここは自分が上書きする」という意識が働き、そのまま提出してしまう事故を防げます。

ピッチ骨子の検証方法

AI出力一般の検証手順は生成AI出力の検証手順で体系化しているため、ここではピッチ骨子に固有の検証項目のみを挙げます。

  1. 出所欄の全件突合:各ページの出所に書かれた資料・年度・該当箇所を実際に開き、数値が一致するか確認します。有報のセグメント情報は区分変更があるため、年度をまたぐ比較では区分の同一性も見ます。
  2. 合計の一致確認:セグメント別の売上・利益の合計が連結値と一致するか。設例では 130,000+40,000+12,000=182,000、8,600+200+300=9,100 を確認します。
  3. 比率の再計算:AIが出した比率をすべて自分の表で計算し直します。分子・分母が両方書かれていない比率は、この時点で書き直させます。
  4. 因果の飛躍チェック:「Aすれば指標Bが改善する」型の主張について、前提条件を1つずつ書き出します。設例のPBRのように、機械的には成立しない主張が紛れ込みます。
  5. 相手の既知情報の除去:各ページを「相手が既に知っているか」で仕分けし、既知のページは統合または削除します。
  6. 反論の想定:主要な主張3つについて、相手が最初に出す反論を書き出し、その回答が資料内にあるかを確認します。

機密情報・個人情報の注意

ピッチブックは未公表の提案を含むため、扱いは特に慎重にしてください。原則は明確で、公開情報だけでAIを使い、案件固有の非公開情報(相手先名、想定価格、社内の審査状況、未公表の資本政策)は社内で承認された環境でのみ扱うことです。判定の詳細と社内ルールの作り方は生成AIに入れてよい情報・いけない情報を参照してください。

もう一点、取引所や官公庁のサイトから取得した資料をAIに渡す際は、各サイトの利用規約を確認してください。日本取引所グループのサイト利用規約には、生成AI等を用いた学習・解析・生成での利用に関する禁止規定が置かれています(2026年8月3日確認)。資料の入手経路によって扱える範囲が変わる点は見落とされがちです。

よくある失敗

  • 骨子を飛ばしてスライドから作り始める:AIに直接ページ案を書かせると、体裁は整っているのに主張が通っていない資料ができます。骨子を先に確定させてください。
  • 「必要な確認」欄を埋めないまま先に進む:確認事項が未解決のページが会議に出て、その場で答えられない事態になります。
  • AIが出した業界データをそのまま載せる:市場規模や成長率は、出所を特定できないまま出力されることがあります。一次資料に当たれないものは落とします。
  • 提案に不利な事実を骨子段階で削る:削るかどうかの判断は必要ですが、骨子には残したうえで、案件責任者と相談して決めます。最初から見えていない事実は、後で反論として返ってきます。
  • 過去案件のピッチ骨子をAIに読ませて流用する:他社案件の非公開情報が混入します。流用するなら、公開情報のみで構成した自作テンプレートに限ります。

実務チェックリスト

  • 提案の目的(誰に何を決めてもらうか)を1文で書けているか
  • 10工程それぞれについて「AIに任せる/AI下書き/人のみ」を決めたか
  • 全ページが「主張・根拠データ・出所・必要な確認」の4要素で書かれているか
  • 主張はすべて断定形の1文になっているか(「〜について」が残っていないか)
  • 根拠データに単位と対象期間が付いているか
  • 出所が「資料名+年度+該当箇所」の粒度まで書かれているか
  • セグメント合計が連結値と一致することを確認したか
  • すべての比率を自分の表で再計算したか
  • 「Aすれば指標Bが改善する」型の主張の前提条件を書き出したか
  • 社名置換テストを全ページで行い、汎用的なページを書き直したか
  • 相手が既に知っている情報だけのページを削除・統合したか
  • 主要な主張3つに対する想定反論と回答を用意したか
  • AIに渡した情報がすべて公開情報であることを確認したか
  • 資料の入手元サイトの利用規約(AI利用に関する規定)を確認したか
  • 「必要な確認」欄が空欄のページがゼロになっているか

面接での答え方(30秒回答例)

「AIをピッチ資料作成にどう使いますか」と問われたときの回答例です。

「作成工程を分けて考えます。企業概要・業界データ・株主構成の整理はAIに任せ、ストーリーラインとエグゼクティブサマリーはAIに下書きさせて自分が確定させます。提案の中身と価格の出し方は自分で決めます。骨子は1ページごとに主張・根拠データ・出所・必要な確認の4要素で書き、出所欄が空のページは会議に出しません。AIが出すのは構成と下書きまでで、相手にとって意味のある提案かどうかの判断は人が持つ、という線引きです。」

よくある質問(FAQ)

Q. AIにPowerPointのスライドまで作らせてよいですか。
A. 体裁の生成機能はAI製品ごとに提供状況が異なり、仕様も変わりやすいため、本記事では骨子までを対象としています。社内テンプレートへの反映やページ順の最終調整は人の作業として残すのが安全です。スライド設計の考え方は前掲のピッチブック構成の記事を参照してください。

Q. 買い手候補やM&A候補の列挙はAIに任せてよいですか。
A. 候補の洗い出しは下書きとして有効ですが、実在確認と「実際に動くか」の評価は人が行います。候補企業名を資料に載せてよいかの判断も、案件の秘密保持の状況によるため人が決めます。M&Aプロセス全体の流れはM&Aプロセス完全ガイドにまとめています。

Q. 骨子作成にどのくらい時間がかかりますか。
A. 対象会社の公開資料が揃っていれば、AIによる下書きは短時間で得られます。ただし本記事の手順では、その後の出所突合・比率の再計算・社名置換テストに相応の時間がかかります。短縮されるのは「集めて並べる」工程であって、「確かめる」工程ではありません。

まとめ

ピッチブック作成にAIを組み込むときの要点は3つです。第一に、10工程を「AIに任せる/AI下書き+人が確定/人のみ」に振り分け、投げる範囲を先に決めること。第二に、全ページを「主張1文・根拠データ・出所・必要な確認」の4要素で書かせ、出所と確認欄の空白を検知の起点にすること。第三に、主張と裏づけ資料の対応表を持ち、有価証券報告書・コーポレートガバナンス報告書・大量保有報告書・中期経営計画・適時開示という日本の公開資料に落とし込むことです。AIが出すのは構成と下書きまでで、相手との関係性の読み、社内で通る論理、価格の感触、実現可能性の判断は人が担います。この線引きを持ったまま作業すれば、速さと妥当性を両立できます。

出典・参考(2026-08-03確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・会計・投資に関する助言ではありません。実際の判断は専門家にご確認ください。設例は理解のための仮設例です。AI製品の仕様・料金は変更されることがあるため、利用前に各社の公式情報をご確認ください。