この記事で分かること

  • ライツオファリング(新株予約権無償割当)が、会社法上どういう仕組みで既存株主全員に権利を配るか
  • コミットメント型とノンコミットメント型の違い——証券会社が未行使分の新株予約権を引き受けるかどうかで何が変わるか
  • 公募増資・第三者割当・株主割当と比べたときの「希薄化の公平性」の違いと、理論権利落ち価格(TERP)の計算方法
  • 株主が行使・売却・放置のどれを選ぶと経済的にどうなるか、仮設数値で検算した結果

結論:全員に無償で新株予約権を配り、行使・売却・放置を選ばせる増資手法

ライツオファリングとは、上場会社が既存株主全員に対して、保有株式数に応じて新株予約権を無償で割り当てる増資手法です。会社法277条が定める「新株予約権無償割当て」を用いており、割り当てを受けた株主は、権利行使価額を払い込んで新株を取得する(行使)、市場等で新株予約権を売却して対価を得る(売却)、期限までに何もしない(放置=失権)のいずれかを選べます。実務上は、証券会社が未行使分の新株予約権の取得・行使を契約で約束するコミットメント型と、そうした約束を伴わないノンコミットメント型の2類型に分かれ、東証は2014年10月の規則改正でノンコミットメント型に業績基準等の追加要件を課しています。本記事は、この仕組みを会社法・東証の上場制度まで遡って整理したうえで、理論権利落ち価格(TERP)の計算式と、株主が行使・売却・放置を選んだ場合の経済的な損得を仮設の数値例で検算します。ECM業務全体における位置づけはECM(エクイティ・キャピタル・マーケット)入門、新規上場時の価格決定プロセスはIPOの仕組みと価格決定に譲り、本記事は上場会社が実施するライツオファリング固有の論点に絞って解説します。

仕組み:新株予約権無償割当て(会社法277条)と株主の3つの選択

会社法277条は、株式会社が株主(種類株式発行会社では特定の種類の株主)に対して新株予約権を無償で割り当てることができると定めています。株主が新たに払込みをする必要がある通常の募集株式の発行とは異なり、割当ての段階では株主に金銭負担が生じません。負担が発生するのは、割り当てられた新株予約権を株主自身が行使すると決めた時点、すなわち権利行使価額を払い込むタイミングです。この「まず権利だけを無償で配り、対価を払うかどうかは後から個別に判断させる」という2段階構造が、通常の増資と最も異なる点です。

割り当てられた新株予約権は、発行会社の判断により金融商品取引所に上場されることがあります。上場されれば、新株予約権それ自体が株式と同様に市場で売買可能になり、行使を望まない株主でも保有する新株予約権を売却して経済的価値の一部を回収できます。逆に新株予約権が上場されない、あるいは上場されていても株主が期限内に何も行動しないままでいると、権利は行使期間の満了とともに消滅(失権)し、その経済的価値は他の株主・投資家に事実上移転する形になります。この行使・売却・放置という3つの選択と、それぞれの経済的な結果を図にすると次のとおりです。

ライツオファリングの流れと株主の選択 新株予約権無償割当て(会社法277条) 既存株主全員に、保有株式数に応じて 新株予約権を無償で按分交付 ①行使 行使価額を払い込み 新株を取得する 追加資金が必要 ②売却 上場している新株予約権を 市場で売却する 資金負担なしで一部回収 ③放置 行使期限までに行使も 売却もしない 権利消滅(失権) 持分比率を維持 (希薄化を回避) 持分は薄まるが 経済的価値の一部を回収 経済的価値を喪失 (他の株主等へ移転)
図:新株予約権無償割当ての基本フロー(一般的な仕組みの整理。個別銘柄の条件は発行要項によって異なります)。

コミットメント型とノンコミットメント型の違い

ライツオファリングは、未行使分の新株予約権をどう処理するかによって2つの類型に分かれます。主幹事証券等の引受人が、株主が行使しなかった新株予約権について取得・行使することをあらかじめ契約で約束するものがコミットメント型ライツ・オファリング、そうした契約を伴わないものがノンコミットメント型ライツ・オファリングです。金融庁の開示制度ワーキング・グループでは、コミットメント型における証券会社の新株予約権・株式の取得を「有価証券の引受け」と位置付け、第一種金融商品取引業者としての引受審査義務や、有価証券届出書の虚偽記載に関する責任など、通常の残額引受けと同様の業規制を適用する整理がなされています。この結果、コミットメント型では発行会社があらかじめ調達額を確定できる一方、証券会社が引受リスクを負うため、通常の引受審査に相当する審査を経る必要があります。

これに対してノンコミットメント型は、証券会社が経済的リスクを負わないため、最終的な調達額は株主の行使率次第で変動します。東証はこの点を踏まえ、2014年10月の新株予約権証券の上場制度改正で、ノンコミットメント型を実施する場合の上場基準に、(a)取引参加者による増資の合理性に係る審査、または(b)株主総会決議などによる株主の意思確認、のいずれかの手続を課しました。あわせて、直近2事業年度において利益の額が正である事業年度が一度もなく、かつ上場申請日の直前事業年度または直前四半期会計期間の末日において債務超過である会社は、原則として新株予約権証券を上場できない仕組みになっています。東証がこの規則見直しに際して公表した考え方によれば、その狙いは「増資の合理性に対する責任ある評価が確保されないままに市場を利用した増資が行われることで、既存株主が思わぬ不利益を被ることを防ぐ」点にあり、取締役会決議のみで足りる第三者割当規制とは目的が異なるとされています。

未行使分の新株予約権の扱いの違い コミットメント型 証券会社が未行使分の取得・行使を 契約であらかじめ約束 法令上「有価証券の引受け」に該当 → 引受審査義務・届出書責任が発生 発行会社は調達額を あらかじめ確定できる ノンコミットメント型 未行使分を引き受ける契約者がいない (行使率次第で調達額が変動) 2014年10月改正で上場基準に 合理性審査または株主総会決議を追加 2期連続無黒字+債務超過は 原則として上場不可
出所:日本取引所グループ「上場制度(新株予約権証券)」および金融庁開示制度ワーキング・グループ資料を基に大手町プレップ作成

公募増資・第三者割当・株主割当との比較——希薄化の公平性

日本の上場会社が使う主な増資手法には、ライツオファリングのほかに公募増資(PO)第三者割当増資、そして会社法202条に基づく株主割当増資があります。いずれも既存株主の持分が変化しうる点は共通ですが、「誰に新株や新株予約権を割り当てるか」「既存株主が持分を維持する機会をどれだけ持てるか」という希薄化の公平性の観点で性格が異なります。

手法割当対象既存株主の持分維持機会
公募増資(PO)不特定多数の新規投資家既存株主に優先権はなく、参加しなければ持分は希薄化する
第三者割当増資特定の第三者(提携先・投資ファンド等)既存株主には割当機会自体がなく、持分は一方的に希薄化しうる
株主割当増資(会社法202条)既存株主全員(保有比率に応じ按分)払い込めば維持できるが、権利自体の売却はできない
ライツオファリング(会社法277条)既存株主全員(保有比率に応じ按分)行使すれば維持でき、行使しない場合も新株予約権の売却で一部回収できる

公募増資と第三者割当増資は、新規の資金提供者を広く募る、または特定の資本提携先を選ぶことに主眼があり、既存株主に優先的な割当機会が制度上組み込まれているわけではありません。これに対して株主割当増資とライツオファリングは、既存株主全員に按分で機会を与える点で「機会の公平性」が高い手法といえます。両者の違いは、株主割当増資が募集株式そのものを株主に割り当て、払込みをするかどうかの二択しかないのに対し、ライツオファリングは新株予約権という譲渡可能な権利をいったん交付するため、払込みをしない株主にも「権利を売って対価を得る」という第三の選択肢が残る点です。日本の資金調達では公募増資・第三者割当増資が主流で、ライツオファリングは欧州の大型増資ほど一般的には使われていませんが、既存株主の利益に配慮した増資手法として金融庁・東証で制度整備が進められてきた経緯があります。

理論権利落ち価格(TERP)の計算

ライツオファリングを検討するうえで基準になるのが、理論権利落ち価格(Theoretical Ex-Rights Price、TERP)です。TERPは、新株予約権の割当てに伴って発行されうる株式が全て行使価額で払い込まれたと仮定した場合に、理論上成立する権利落ち後の株価を指します。権利落ち日・権利確定日を境に、新株予約権を受け取る権利のない株価がどう形成されるかを事前に見積もる際に使われます。


TERP =(既存発行済株式数 × 権利付き最終日の株価 + 新規発行株式数 × 新株予約権の行使価額)÷(既存発行済株式数 + 新規発行株式数)

以下は説明用の仮設例です。既存発行済株式数を1億株、権利付き最終日の株価を1,000円、既存株式5株につき新株予約権1個を無償割当て、1個の行使により1株が発行され、行使価額は700円とします。

項目数値
既存発行済株式数1億株
権利付き最終日の株価1,000円
新規発行株式数(新株予約権2,000万個の全行使を想定)2,000万株
新株予約権の行使価額700円
TERP(理論権利落ち価格)950円
新株予約権1個あたりの理論価値(TERP-行使価額)250円

計算すると、(1億株×1,000円+2,000万株×700円)÷(1億株+2,000万株)=(1,000億円+140億円)÷1億2,000万株=950円となり、TERPは950円です。新株予約権1個の理論価値は、TERPから行使価額を差し引いた250円と評価できます。これは「新株予約権を行使すれば950円の株式を700円で取得できる」という差額に相当し、市場で新株予約権が上場されている場合、この理論価値が売買の目安になります。ただし実際の市場価格は、残存行使期間の長さや株価のボラティリティによるオプション性を反映して理論値から乖離することがあり、TERPはあくまで検討の出発点である点に注意が必要です。

投資家の対応:行使・売却・放置で何が変わるか

前節のTERPを使って、株主が行使・売却・放置のいずれを選んだ場合に経済的にどう変わるかを検算します。以下は説明用の仮設例です。権利付き最終日に500株(評価額50万円)を保有する株主が、5株につき1個の割当比率で新株予約権100個を受け取ったケースを想定します。

選択追加払込・売却収入権利落ち後の保有株評価額経済価値の合計
①全て行使-70,000円(払込)600株×950円=570,000円570,000円
②全て売却+25,000円(100個×250円)500株×950円=475,000円500,000円
③放置(失権)0円500株×950円=475,000円475,000円

①の全て行使では、追加で7万円を払い込んで600株を取得し、TERPで評価すると57万円となります。当初保有していた50万円分の評価額に追加払込みの7万円を加えた57万円と一致するため、行使価額どおりに払い込んで行使すれば、権利落ちによる目減り分をちょうど打ち消せることが分かります。②の全て売却では、新株予約権100個を理論価値どおり1個250円で売却して2.5万円を得たうえで、保有株500株はTERPの950円まで下がるため47.5万円となり、合計は50万円で権利落ち前の評価額と一致します。つまり、市場で新株予約権を理論価値どおりに売却できれば、行使する場合と経済的な結果は変わりません。③の放置では、新株予約権の価値をまるごと失うため、合計評価額は47.5万円にとどまり、当初の50万円との差額2.5万円がそのまま経済的な損失になります。この2.5万円は消えてなくなるわけではなく、他の株主や新株予約権を市場で取得して行使した投資家に事実上移転する形になるため、割当てを受けた株主にとって「放置」が最も不利な選択であることが数値上も確認できます。

TERPや希薄化の計算を自分の手で組み立ててみる

本記事のTERP・行使/売却/放置の損得比較は、増資に伴う資本構成の変化を数値で追うコーポレートファイナンスの基本パターンです。同様の計算を自分で組み立てて検算したい方は、教材で基礎から確認できます。

→ コーポレートファイナンスの教材を見る

日本での活用状況と東証の制度整備

日本では、会社法制定前の旧商法下で新株引受権証書の上場制度が存在していましたが、2006年施行の会社法で新株引受権制度そのものが廃止されたことに伴い、これを引き継ぐ形で新株予約権証券の上場制度が整備されました。東証によれば、この制度のもとで2014年9月までに22件の新株予約権証券が上場されており、これらの上場事例を踏まえて2014年10月に上場制度の規則改正が行われています。新株予約権証券の上場基準としては、上場株券等を目的とすること、新株予約権無償割当てにより発行されるものであること、行使期間満了日が割当ての基準日から2か月以内に到来することなどが定められており、前節で触れたノンコミットメント型固有の追加要件はこの規則改正で導入されました。

制度整備の背景には、2010年前後の金融庁における検討があります。金融庁の開示制度ワーキング・グループでは、ライツオファリングについて「株式を取得する権利が既存株主に優先的に与えられるため、既存株主の利益に配慮した増資手法となりうる」との位置づけのもと、コミットメント型における証券会社の行為を有価証券の引受けとして業規制の対象とすることや、新株予約権が上場される場合の目論見書交付義務を、書面交付に代えてEDINETへの掲載と日刊紙での案内で足りるものとする特例などが論点として整理されました。あわせて、既存の第三者割当規制と異なり、ライツオファリングに関する規制は「増資の合理性に対する責任ある評価が確保されないままに市場を利用した増資が行われることで、既存株主が思わぬ不利益を被ることを防ぐ」ことを目的とすると東証が説明している点は、第4節で見た希薄化の公平性の議論とも整合します。日本におけるライツオファリングの活用は、公募増資や第三者割当増資と比べると限定的ですが、既存株主の持分に配慮した増資手法の選択肢として、制度面の整備が段階的に進められてきた経緯があります。個別銘柄の上場状況は東証の銘柄一覧ページで随時更新されており、最新の実施状況を確認する際の一次情報になります。

よくある質問(FAQ)

Q. ライツオファリングと株主割当増資は同じものですか。
A. 異なります。株主割当増資(会社法202条)は募集株式そのものを株主に割り当て、払込みをするかしないかの二択です。ライツオファリング(会社法277条)はまず新株予約権を無償で交付するため、払込みをしない株主にも新株予約権を売却するという選択肢が残る点が異なります。

Q. コミットメント型とノンコミットメント型はどちらが多く使われますか。
A. どちらが選ばれるかは発行会社の資金調達計画や証券会社との協議によって決まり、一律の傾向を断定できるものではありません。コミットメント型は調達額を確定できる反面、証券会社の引受審査を経る必要があり、ノンコミットメント型は東証の追加的な上場基準(合理性審査または株主総会決議、業績基準)を満たす必要があります。

Q. 新株予約権を行使も売却もしないとどうなりますか。
A. 行使期間の満了とともに権利が消滅(失権)し、経済的価値をまるごと失います。本記事の仮設例では、放置した株主は行使・売却した場合と比べて評価額が目減りする結果になりました。

Q. TERPは実際の株価と一致しますか。
A. 一致するとは限りません。TERPは新株予約権が全て行使価額で行使されたと仮定した理論値であり、実際の株価は市場の需給や発行会社の事業見通しに対する評価などによって変動します。

Q. 個人株主でも新株予約権を売却できますか。
A. 新株予約権が金融商品取引所に上場されている場合は、通常の株式と同様に証券会社を通じて市場で売却できます。上場されていない場合は、発行要項に定められた方法以外での換価が難しいことがあるため、個別の発行要項を確認する必要があります。

まとめ

ライツオファリングは、会社法277条に基づき既存株主全員に新株予約権を無償で割り当て、行使・売却・放置のいずれかを株主自身に選ばせる増資手法です。コミットメント型は証券会社の引受けによって調達額を確定できる一方、ノンコミットメント型は東証が2014年10月の規則改正で課した追加的な上場基準を満たす必要があり、その狙いは増資の合理性に対する責任ある評価を確保して既存株主を保護することにあります。公募増資・第三者割当増資と比べると、既存株主全員に按分で機会を与える点で希薄化の公平性が高く、TERPを基準に検算すると、行使または理論価値どおりの売却であれば経済的な目減りを避けられる一方、放置した場合には権利の価値をまるごと失うことが数値上も確認できます。実務でこの仕組みに向き合う際は、まず発行要項でコミットメント型かノンコミットメント型か、新株予約権が上場されるかどうかを確認したうえで、TERPを起点に自身の選択肢を整理することが出発点になります。

増資・資本政策の実務知識をさらに広げる

ライツオファリングは増資手法の一つに過ぎません。公募増資・第三者割当・新株予約権を含む資本構成の変化をモデルに組み込み、EPS資本コストへの影響まで一貫して検算できるようになりたい方は、コーポレートファイナンスの教材で基礎から積み上げることをおすすめします。

→ コーポレートファイナンスの教材を見る

出典・参考(2026年9月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。