想定読者:資産運用会社の商品企画・プロダクトガバナンス・コンプライアンス担当、販売会社の商品選定・研修の担当、年金・事業法人でファンドを選ぶ運用担当者
前提知識:投資信託の純資産とリターンの関係(差の差分析という統計の考え方は本文で説明する)

ある運用会社の商品会議で、名称に「サステナブル」を含む株式ファンドの扱いが議題になった。組入れの基準を見直した結果、金融庁の監督指針が定めるESG投信の範囲に入れ続けるには説明の負担が重い。名称から外せば分かりやすくなるが、販売会社からは「ESGの看板を下ろしたら解約が出るのでは」と懸念が返ってくる。

欧州では、似た判断がもっと大きな規模で起きた。2022年末、多くのファンドが自らを最も厳しい区分の第9条から第8条へ移したのである。区分を下げたファンドから資金は逃げたのか。そもそも、区分の開示は投資家の行動を変えていたのか。本稿は、この問いを欧州の投信データと投資家の実験で調べた研究を読み、日本のESG投信の名称と説明をどう点検するかを考える。

この記事が主に参照する研究

Hunt Allcott、Mark Egan、Paul Smeets、Hanbin Yang(2026)「グリーンウォッシング規制の効果:欧州のサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)からの証拠(The Effects of Regulating Greenwashing: Evidence from Europe’s Sustainable Finance Disclosure Regulation (SFDR))」NBER Working Paper No. 34624

  • 公表:2024年8月に学会で報告(スタンフォード大学のSITE 2024)、論文の初版は2026年1月(NBER WP)。参照した版:著者が研究ページで公開している改訂版(2026年6月12日)。NBER版の本文は未確認。査読:未査読(WP)
  • データ:英国を除く欧州で販売される投信・ETF(Morningstar、2019年2月〜2023年12月、20,501本)、保有銘柄の排出量と環境スコア、欧州11か国の投資経験者1,465人の調査と実験(2024年7月)
  • 方法:SFDRの適用(2021年3月)と区分の変更を使う差の差分析(因果の識別を狙う準実験)、事前登録した無作為化実験
  • 位置づけ:「ラベルは資金を動かすか」という既存の問いを、政府が義務づけた区分で検証し、効果が小さい理由を実験で切り分けた研究

開示区分は​認証​ラベルではない、と​いう​前提

SFDR(Sustainable Finance Disclosure Regulation)は2019年11月に制定され、2021年3月10日から適用されたEUの規則である。運用会社は商品ごとに、環境・社会の特性を促進する商品(第8条、通称ライトグリーン)、サステナブル投資を目的とする商品(第9条、通称ダークグリーン)、それ以外(第6条)のどれに当たるかを示し、その根拠を開示する1。区分は当局が審査して与える認証ではなく、運用会社が自ら選ぶ開示の枠である。規則全体の構成と日本企業への波及はEUの​ESG規制を​主体別に​整理した​記事で扱っている。

日本には第6・8・9条のような公表区分は無い。代わりに金融庁が2023年3月31日に監督指針を改正し、ESGを投資対象選定の主要な要素とし、かつ交付目論見書の「ファンドの目的・特色」にその旨を書いた公募投信を「ESG投信」と定めた2。見かけと運用の中身がずれるグリーンウォッシングへの懸念が、日欧どちらの制度にも共通する出発点である。

研究が使う物差しも確認しておく。資金フローは、純資産の増減から運用成績による増減を除いたもので、月次の純資産比で測る。式にすると「(当月末の純資産−前月末の純資産×(1+当月のリターン))÷前月末の純資産」になる3。差の差分析は、制度の影響を受けたはずの群と受けない群の変化を比べ、両群に共通する市場全体の動きを差し引く方法である。ここでは第8条・第9条のファンドが前者、第6条のファンドが比較群になる。

全体の​資金フローに​有意な​変化は​確認されず、​保有の​変化も​小さかった

研究の標本では、適用時点で約45%が第6条、約50%が第8条、約5%が第9条だった4。区分は既存の情報とおおむね一致していた。適用直前の時点で、第9条ファンドの86%は既にサステナビリティの運用方針を掲げており、第6条では0.3%にとどまる。Morningstarの評価で最上位(地球儀5つ)を得ていたのは、第9条の約30%、第6条の約10%だった5。

資金フローは第9条、第8条、第6条の順に高い。ただしこの順序はSFDRの適用前から見られ、適用の前後で系統的に変わっていない6。差の差分析でも、適用後の第8条の月次フローは第6条との比較で0.043%ポイント、第9条は−0.057%ポイントで、いずれも統計的に有意ではなかった。有意だったのは株式ファンドに限った第8条(0.208%ポイント、10%水準)だけで、その大きさはフローの標準偏差の0.03倍にすぎない。第9条については、月0.23%を超える正の効果を90%の信頼水準で否定できると著者らは述べている7。

保有の面では、第8条ファンドの加重平均の温室効果ガス排出量(対数)が、規則の公表後に−0.034、適用後にさらに−0.052下がった。統計的には有意だが、合計の−0.086は標準偏差(1.10)の0.1倍に届かず、低下は公表前から始まっていたため業界全体の流れかもしれないと著者ら自身が書いている。第9条の環境スコアにも小さな改善が出たが、同じく標準偏差の0.1倍未満だった8。

表1 SFDRの導入と区分の変更で何が動いたか

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見たもの比較推定値有意性・大きさ
資金フロー(月次%)適用後の第8条 vs 第6条0.043%ポイント有意でない
資金フロー(月次%)適用後の第9条 vs 第6条−0.057%ポイント有意でない。月0.23%超の正の効果は棄却(90%)
資金フロー(株式のみ)適用後の第8条 vs 第6条0.208%ポイント10%水準。フローの標準偏差の0.03倍
GHG排出量(対数)第8条:公表後+適用後−0.034+−0.052各1%水準。合計−0.086は標準偏差の0.1倍未満
環境スコア第9条:公表後+適用後0.337+0.50910%・5%水準。合計で標準偏差の0.1倍未満
資金フロー(月次%)第9→8条などの格下げ後0.119%ポイント有意でない
資金フロー(月次%)第6→8条などの格上げ後0.079%ポイント有意でない
GHG排出量(対数)格下げ後0.0575%水準(月ごとの推定では有意でない)
出所:R1(著者公開版、2026年6月)​表2(PDF p.40)・表3(p.41)・表4(p.42)と​本文 p.13〜18 を​基に​大手町​プレップ​作成。​対象は​英国を​除く​欧州で​販売される​投信・ETF​(2019年2月〜2023年12月、​Morningstar)。​差の​差分析で、​ファンドの​固定効果、​カテゴリー×月の​固定効果、​運用方針の​有無×月などを​統制。​フローの​単位は​月次の​純資産比​(%)の​差で、%ポイント。​GHG​排出量は​売上高100万​ドル​当たりCO2トンの​対数。​再分類は​運用会社が​選ぶもので、​外から​与えられた​変化ではない​(著者も内生性を認めている)。

表1の下半分が、冒頭の商品会議の問いに近い。2022年末から2023年初めにかけて第9条から第8条への格下げが集中し、ピークの2023年1月には月に約1%のファンドが格下げした(同じ時期に0.70%が第6条から第8条へ格上げしている)9。再分類しなかったファンドと比べると、格下げ後の資金フローに統計的に有意な変化は確認されず、格上げ後も同様だった。格下げ後に排出量がわずかに増えた推定はあるが(期間一定の推定で5%水準、月ごとの推定では有意でない)、規模は小さい10。著者らは、投資家が区分に反応しない以上、規制や訴訟のリスクを負って上位の区分を守る利点が運用会社には乏しく、それが格下げの波の一因になった可能性があると解釈している11。

投資家は​気に​していないのか、​区分が​伝わっていないのか

資金が動かなかった理由は二通り考えられる。投資家が持続可能性を重視していないのか、それとも区分の情報が届いていないのか。著者らは後者を調べるために、欧州11か国の投資経験者1,465人を対象に調査と実験を行った。SFDRを知っていた人は23.5%で、知っていた人のうち第9条が最上位の区分だと正しく答えたのは42.3%だった。地球儀5つが最上位だと答えられた人(67.5%)より少ない。区分を知った経路も、報道が32.5%で、目論見書は9.3%だった12。

実験では、参加者が1,000ユーロを4本のファンドに配分する。1回目は持続可能性の情報なし、2回目に無作為に選んだ情報を見せ、配分の変化を比べた。図1のとおり、運用会社が通常示す形の区分表示では、第8条・第9条への配分に有意な変化は確認されなかった。同じ区分を色分けと短い定義で示した「分かりやすい表示」では、加重指標が21.5%ポイント、第9条への配分が10.1%ポイント増え、効果はMorningstarの地球儀より大きかった13。

図1 実験:表示の仕方と配分の変化図1 実験:表示の仕方と配分の変化情報なしの1回目と比べた配分の変化(%ポイント)欧州の投資経験者1,465人、2024年7月加重指標(第8条%+2×第9条%)標準の表示有意でない0.7分かりやすい表示1%水準21.5地球儀の評価1%水準9.4第9条ファンドへの配分割合標準の表示有意でない1.3分かりやすい表示1%水準10.1地球儀の評価5%水準2.8第8条・第9条への配分割合標準の表示有意でない−0.7分かりやすい表示1%水準11.4地球儀の評価1%水準6.601020配分の変化(%ポイント。0=変化なし)
出所:R1(著者公開版、2026年6月)​表5(PDF p.43)の​係数を​基に​大手町​プレップ​作成。​参加者は​1,000ユーロを​4本​(第6条2本・第8条1本・第9条1本)に​配分する​選択を​2回行い、​2回目にだけ​無作為に​割り当てた​情報を​見た。​係数は​1回目の​配分と​提示した​ファンドの​組を​統制した​回帰に​よる​もの。​「標準の表示」は​運用会社が​通常示す​第6・8・9条の​区分、​「分かりやすい表示」は​研究者が​作った​色分けと​短い​定義の​表示​(情報量も減らしている)、​「地球儀の評価」は​Morningstarの​サステナビリティ​評価。​回帰は​3つの​情報それぞれの​有無を​表す変数を​同時に​入れた​もので​(地球儀と​SFDRの​両方を​見た群は​2つの​変数が​1に​なる)、​5群の​人数は​282〜302人​(合計1,465人。​図10、​PDF p.36)。

著者らのまとめは、情報に通じた投資家にとって区分は名称・運用方針・民間の評価と重複し、そうでない投資家には読み解けなかった、というものである。どちらの層でも資金を動かす新しい情報にならなかった、という読み方になる。

結果の​及ぶ範囲と、​反対の​結果を​出した​研究

対象は英国を除く欧州で販売される投信・ETFで、期間はSFDRの最初の数年である。再分類は運用会社が選ぶものなので、外から与えられた変化とは言えないと著者らも認めている。実験の参加者は平均33歳、男性77%、大卒78%で、英語で回答できる人に限られる14。「分かりやすい表示」は色分けと情報量の削減を同時に変えているため、どちらが効いたのかは分けられない。

同じSFDRについて、正の効果を報告した研究もある。著者らによれば、先行研究の多くは上位区分と資金流入の正の関係を示したが、それは適用前からあった差や、SFDRの対象外のファンドを比較群に使ったこと(同じ時期に米国ではESGへの反発があった)で説明できるという15。たとえばSpaansらの研究は、第8条・第9条のファンドの年率フローが第6条より平均0.96%ポイント高いと要旨で報告している16。Abouarabらは、資金の流入に見合う脱炭素が進んだかを測る指標で、第9条では見せかけが減り、第8条では有意な減少が無かったとしている17(いずれも本稿では要旨だけを確認した)。結論は研究の設計に左右されており、決着した論点ではない。

EUでは、第6・8・9条を新しい商品カテゴリーに置き換える改正案(通称SFDR 2.0)が2025年11月に示された。参照した版の時点では交渉中で、著者らは2028年より前の適用は見込まれないと書いている。著者らの教訓は、既存の情報の言い直しでは効果は小さく、直感的に読めるカテゴリーでなければならない、という点にある18。なお、NBER版(2026年1月)と6月版では要旨の表現が変わっており、保有の変化は6月版で「小さいながら効果の可能性あり」と書き直されている19。

大手町​プレップの​考察:区分が​情報に​なる​条件

以下は編集部の推論で、研究が日本で検証したものではない。研究から引き出せるのは、ラベルが資金を動かすには二つの条件が要るという見方である。ひとつは、名称や運用方針から既に分かること以上の情報を含むこと。もうひとつは、受け手がその意味を直感的に読めることだ。

日本のESG投信の範囲は、目論見書の「ファンドの目的・特色」の記載と結びついている。つまり、制度上の区分はファンドの運用方針そのものの言い換えに近い。研究の言う「情報に通じた投資家には重複する情報」になりやすい設計だと考えられる(仮説)。一方で、監督指針はESGで選んだ投資対象の比率などに目標を置く場合の記載と、交付運用報告書での実績の継続開示を求めている20。名称からは分からない数値なので、受け手が読める形で示せれば、研究の言う「新しい情報」に当たりうる、と編集部は見ている。

逆に言えば、名称や区分を変えたときの資金の反応は、欧州の結果から「流出しない」と言い切れるものでもない。欧州の格下げは同じ時期に大量に起き、報道も多かった。日本で一つのファンドが名称を変える状況とは違う。自社のデータで確かめる必要があり、そのとき問題になるのが検出力である。

設例:名称を​変えた​ファンドの​資金フローを​測る

学習用の設例(架空)

  • 純資産100億円の株式ファンドXが、月0に名称から「サステナブル」を外した
  • 前後3か月の月次リターンと純資産から資金フローを計算し、名称を変えなかった同じカテゴリーのファンド群(比較群)の平均と比べる
  • 数値はすべて架空で、研究のデータではない

表2の月+1を見ると、純資産は99.06億円から100.05億円へ1.00%増えている。しかし同じ月のリターンは2.0%なので、運用成績を除いた資金フローは−1.0%の流出になる。純資産の増減だけを見ると、流出を見落とす。

表2 設例:名称を変えたファンドXの資金フローと差の差

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月期首純資産(億円)リターン期末純資産(億円)純資産の増減率資金フロー比較群のフロー
−3100.001.5%101.301.30%−0.2%0.2%
−2101.30−2.0%98.77−2.50%−0.5%0.0%
−198.770.8%99.060.30%−0.5%0.1%
+199.062.0%100.051.00%−1.0%−0.2%
+2100.05−1.2%98.05−2.00%−0.8%−0.4%
+398.050.5%97.66−0.40%−0.9%−0.3%
前3か月の平均−0.4%0.1%
後3か月の平均−0.9%−0.3%
変化(後−前)−0.5%ポイント−0.4%ポイント
差の差−0.1%ポイント
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(架空のファンド)。​ファンドXは​月0に​名称から​「サステナブル」を​外したと​仮定。​資金フロー=​(期末純資産−期首純資産×(1+リターン))​÷期首純資産​(R1 式(1)、​PDF p.10 と​同じ​定義)。​純資産の​増減率=期末÷期首−1。​純資産は​小数第3位以下を​四捨五入して​表示している​ため、​表示の​値で​再計算すると​末尾が​ずれる​ことがある。​比較群は​名称を​変えなかった​同じ​カテゴリーの​ファンドの​平均​(架空)。

ファンドXのフローは変更後に平均−0.5%ポイント悪化したが、比較群も−0.4%ポイント悪化している。設例上の差の差は−0.1%ポイントである。これを名称変更の効果と読むには、変更が無ければファンドXのフローも比較群と同じように動いたはずだという条件(平行トレンド)が要り、同じ時期に運用成績や販売方針が変わっていないことも確かめる必要がある。加えて、1本・前後3か月の比較では、この数字に意味のある精度は無い。月次フローの標準偏差を研究の表1に近い6%、比較群を1,000本と置くと、検出力80%を確保できる効果の大きさ(最小検出効果)は月13.7%ポイントにもなる。図2は前後9か月に延ばして、名称を変えた本数ごとの最小検出効果を計算したものである。

図2 設例:何本あれば資金の変化が見えるか図2 設例:何本あれば資金の変化が見えるか検出できる最小の効果(月次フロー、%ポイント)前後9か月・標準偏差6%・比較群1,000本の仮定変更した本数 1本7.92変更した本数 5本3.55変更した本数 20本1.79変更した本数 100本0.83変更した本数 500本0.4302468最小検出効果(%ポイント/月)
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(論文のモデルではない)。​各ファンドの​月次フローが​互いに​独立で​標準偏差6%​(R1 表1の約6%を丸めた値)と​仮定し、​差の​差の​推定量の​標準誤差を σ×√(1/前の月数+1/後の月数)×√(1/変更した本数+1/比較群の本数) で​計算、​両側5%・検出力80%の​最小検出効果​(2.80倍)を​示した。​比較群は​1,000本と​仮定。​フローに​正の​系列相関や​運用会社に​共通の​要因が​ある​場合、​必要な​効果の​大きさは​この​試算より​大きくなりうる。​R1が​第9条に​ついて​示した​月0.23%​(90%信頼水準での上限、PDF p.13)は​推定結果の​信頼区間で、​最小検出効果とは​別の​指標の​ため図には​重ねていない。

検出力80%を確保する目安は、1本で月7.92%ポイント、100本でも月0.83%ポイントである。これより小さい効果も偶然捉えられることはあるが、見逃す確率が高くなる。なお、研究が第9条について示した月0.23%は推定値の90%信頼水準での上限で、図2の最小検出効果とは別の指標であり、両者から必要な本数を直接比べることはできない。いずれにせよ、社内で「名称を変えても解約は増えなかった」と結論づける前に、その比較で何%の変化まで見えたのかを添えるべきだろう。

明日から​使える​確認項目

  1. 運用会社の商品企画:名称やESG投信の範囲を変える前後の資金フローを、純資産の増減ではなく式(運用成績を除いたフロー)で月次に計算し、名称を変えなかった同じカテゴリーのファンドを比較群に置く。結果には最小検出効果を必ず併記する。
  2. 運用会社の開示担当:交付目論見書と販売用資料で(書類の種類と作成の流れは投資信託の​商品組成の​記事を参照)、ESGで選んだ投資対象の比率やポートフォリオの評価指標の目標と実績が、名称を読むだけでは分からない情報として示されているかを確かめる。目標を置かない場合の理由の説明も同じ欄で見る。
  3. 販売会社の研修・資料の担当:説明資料の試作版を社内の数人に見せ、「このファンドのESGの位置づけは目的か、考慮要素か」を答えてもらう(ESG​投資・​SRI・​インパクト​投資の​違いのような類型の知識を前提にしない聞き方にする)。正答できない人が多ければ、表示を短い定義や図に直す(研究の実験を参考にした編集部の提案で、正答率の基準は仮の目安)。
  4. 名称の点検:ESG投信に当たらないファンドの名称・愛称に、ESG・SDGs・グリーン・脱炭素・インパクト・サステナブルなどの語が残っていないか21。
  5. 機関投資家:区分や名称でなく、保有から計算した排出量や評価スコアの推移で中身を確かめる(ESGを分析に組み込む方法はESG​インテグレーションの​記事を参照)。外部のESG評価を使うときは、評価機関の手法と制約を理解しているかを運用委託先に質問する22。

よく​ある​質問

研究は​「SFDRは無意味だった」と​結論づけていますか。

いいえ。​全ファンドで​推定した​資金​フローには​統計的に​有意な​効果が​確認されず​(株式​ファンドに​限った​第8条だけ10%水準で​小さな​正の​効果)、​保有の​変化も​小さかったと​いう​結果です。​著者らは、​表示を​分かりやすく​すれば​効果が​出る​可能性を​実験で​示しており、​規則の​設計の​改善を​論じています。​正の​効果を​報告した​研究も​あります。

日本で​名称から​ESGを​外しても​解約は​増えない、と​考えて​よいですか。

研究は​欧州の​投信の​データで、​日本の​投資家や​販売の​仕組みでは​検証していません。​自社の​ファンドで、​比較群を​置いて​資金フローを​測り、​どの​程度の​変化まで​見分けられる​比較なのかを​確かめる​ことを​おすすめします。

まとめ

欧州のSFDRが投信を第6・8・9条に分けても、研究の全ファンドの推定では資金フローに有意な変化は確認されず、保有の変化も標準偏差の0.1倍に届かなかった。第9条から第8条への格下げでも、有意な資金流出は確認されなかった。区分の情報は通じた投資家には重複し、そうでない投資家には読み解けなかったが、同じ区分を分かりやすく示すと配分は大きく動いた。日本のESG投信の名称や説明を見直すときは、名称から分からない数値をどう伝えるかを考え、名称変更の影響は検出力を添えて自社のデータで測るのが現実的だろう。

脚注

  1. R1(著者公開版, 2026年6月)PDF p.8・2.1節。制定2019年11月27日、適用期限2021年3月10日、第6・8・9条の定義。ページは PDF の物理ページで、論文に印刷されたページ番号は p.N−1(以下同じ)。区分の説明は論文の記述によるもので、規則の条文は本稿では確認していない。↩
  2. R4 金融庁「ESG投信に関する『金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」(2023年3月31日)の「改正の概要」「適用日等」と、別紙2(新旧対照表)p.1 のⅥ-2-3-5(2)。改正の背景として、2021年11月以降に資産運用会社37社・投資信託225本を調査したと記載されている。現行の監督指針での項番は本稿では確認していない。↩
  3. R1 p.10・式(1)。↩
  4. R1 p.8〜9・2.2節。英国を除く欧州で販売される投信・ETF、純資産100万ユーロ未満を除外、非平衡パネル20,501本、イベントスタディは平衡パネル13,582本。区分はMorningstarのデータで、適用前の期間には2021年3月の当初区分を遡って当てはめている(当時の投資家は知らない)。↩
  5. R1 p.11・2.3.2節(図4)。地球儀5つの割合は本文の「approximately」「roughly」の記述で、概数。著者らは、区分は評価・排出量と相関するが完全には一致しないとしている。↩
  6. R1 p.10・2.3.1節(図3)。表1(p.39)の月次フローの平均は第6条0.25・第8条0.46・第9条1.27(%ポイント)、標準偏差は6.31・5.93・6.35。表1の平均は2019年2月〜2021年12月の平衡パネル全期間の値で、適用前だけの平均ではない。↩
  7. R1 p.12〜13・3.1節、表2(p.40)列1・列2。推定窓は適用の前後9か月(2020年6月〜2021年12月)で、ファンドの固定効果、カテゴリー×年月の固定効果、運用方針の有無×年月、過去のリターン、設定年数を統制。標準誤差は第8条0.058・第9条0.170。純資産で加重した推定でも同様の結果(付録、p.13 脚注13)。↩
  8. R1 p.14〜15・3.1.2節、表3(p.41)Panel A・B 列1。排出量は売上高100万ドル当たりCO2トンの対数(表3の注、p.41)。合計の−0.086は本文 p.15 の値。第9条の環境スコアは公表後0.337(10%水準)・適用後0.509(5%水準)。Morningstarのカーボンリスクも第8・9条とも小さく低下(Panel C)。↩
  9. R1 p.3・p.16・3.2節(図7)。格下げの理由について著者らは、第9条には投資の100%がサステナブル投資である必要があること、開示の負担の増加、第9条の扱いの不確実性の組み合わせと推測している(p.16)。↩
  10. R1 p.16〜18・3.2節、表4(p.42)。資金フローの係数は格上げ0.079・格下げ0.119(%ポイント、いずれも有意でない)。格下げ後の排出量(対数)は0.057(5%水準)だが、月ごとの推定(図9)では有意でないと本文 p.17 にある。格上げ後のカーボンリスク(対数)は−0.018(1%水準)。比較群は再分類しなかったファンドで、2回以上再分類したファンドは除いている(p.16 脚注17)。↩
  11. R1 p.18・3.2.2節の著者の解釈。↩
  12. R1 p.20〜22・4.1.3節・4.2.1節。2024年7月、Prolific、ドイツ・フランスなど欧州11か国。最終標本1,465人(未完了102人・注意確認の不合格133人を除外)。事前登録あり(OSF)。↩
  13. R1 p.19〜20・4.1節、p.22〜23・4.2.2節、表5(p.43)。加重指標は「第8条への配分%+2×第9条への配分%」。標準の表示の係数は加重指標0.7・第9条1.3・第8・9条−0.7(いずれも有意でない)。分かりやすい表示は第8・9条で11.4(1%水準)、地球儀は9.4・2.8・6.6。分かりやすい表示が地球儀より大きいことは3指標とも p<0.01(p.23)。本文は表5の値を丸めて記しており、本稿も小数第1位に丸めた。↩
  14. R1 p.16(再分類は内生的でありうるとの記述)、p.19(分かりやすい表示は色分けに加えて情報量も減らしている)、p.20〜21(参加者の選別と属性。投資経験・英語力・居住国で選別)。↩
  15. R1 p.6・関連研究。Becker, Martin and Walter(2022)、Ferriani(2023)、Emiris, Harris and Koulischer(2023)、Spaans et al.(2024)、Fabiani et al.(2025)を挙げ、正の結果は適用前からの差と非EUの比較群で説明できると著者らは主張している。↩
  16. R2 の要旨(Utrecht University のリポジトリの書誌ページ)。本文(PDF)は取得できず、標本・方法の詳細は確認していない。↩
  17. R3 の要旨(RePEc/IDEAS の書誌ページ)と Crossref の書誌。本文は購読者限定で確認していない。対象はEUの株式投信。↩
  18. R1 p.5(序論)、p.23〜24(結論)。2026年6月版の時点の記述で、その後の立法の進み具合は本稿では確認していない(現行制度と改正案の内容は本文でリンクした記事を参照)。↩
  19. NBER の掲載ページ(2026年1月版の要旨)は “little effect on fund flows or portfolio sustainability”、6月版の要旨(R1 p.1)は “a minimal effect on fund flows and a potentially modest effect on portfolio sustainability”。↩
  20. R4 別紙2 p.3〜4、Ⅵ-2-3-5(3)③(ポートフォリオ構成)・⑤(定期開示)。目標や目安を設定していない場合は理由の説明を求めている。↩
  21. R4 別紙2 p.2、Ⅵ-2-3-5(3)①(投資家の誤認防止)。2023年3月末までに設定された非該当の投信は、ESGを主要な要素としていない旨を交付目論見書に明記し、できる限り速やかに用語を名称から除くことが望ましいとされる。↩
  22. R4 別紙2 p.5、Ⅵ-2-3-5(4)②(ESG評価・データ提供機関の利用)。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。