この記事で分かること
- 逆取得とは何か、株式を交付した会社と会計上の取得企業がずれる理由
- 取得企業を決める判断要素(議決権比率・取締役の選解任・プレミアムなど)
- 逆取得の株式交換で、連結ののれんがどう計算されるかを設例で確認
- 連結と個別財務諸表で処理が異なる点と、有報での注記
30秒で分かる定義
逆取得(ぎゃくしゅとく、Reverse Acquisition)とは、企業結合で株式を交付した会社(法律上の買い手)が、企業結合会計上は被取得企業となり、株式を受け取った側の会社が取得企業になる場合をいいます。日本の企業結合会計基準は、吸収合併で消滅会社が取得企業となる場合や、株式交換で完全子会社が取得企業となる場合を逆取得と説明しています[1]。法形式としての逆さ合併は逆さ合併
なぜ実務で重要なのか
規模の小さい上場会社が、規模の大きい非上場会社を株式交換や合併で取り込むと、法律上は上場会社が買い手でも、結合後の議決権の大半を非上場会社の旧株主が持つことがあります。このとき、どちらを取得企業とするかで、時価評価される資産・負債とのれんの金額が大きく変わります。IB・FASは交換比率の算定と並行して取得企業の判定を整理し、経営企画・経理は結合後の連結財務諸表の比較情報(過去の数字はどちらの会社のものか)を設計します。
計算式(ま たは仕組み)
取得企業は、まず連結会計基準の支配の考え方で決め、それで明確でない場合に次の要素を総合的に勘案します(対価が株式の場合)[1]。
| 判断要素 | 取得企業になりやすい側 |
|---|---|
| 総体としての株主の議決権比率 | 結合後の議決権比率が最も大きい当事企業 |
| 最も大きな議決権比率を有する株主の存在 | 過半に満たなくても最大の株主(グループ)がいた当事企業(他に重要な議決権比率を持つ株主がいない場合) |
| 取締役等を選解任できる株主の存在 | 取締役会等の構成員の過半数を選解任できる株主がいた当事企業 |
| 取締役会等の構成 | 結合後の取締役会等を事実上支配する役員・従業員がいた当事企業 |
| 株式の交換条件 | 結合前の株式の時価を超えるプレミアムを支払った当事企業 |
この「みなし交付」の考え方は、吸収合併・株式交換の逆取得で連結財務諸表を作るときの取得原価の算定方法として定められています[2]。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。上場会社A(発行済100万株、株価3,000円)が、非上場会社B(発行済200万株、1株の時価6,000円)の全株式を株式交換で取得し、B株1株にA株2株を割り当てて400万株を新たに交付します。
- 結合後のA株は 100 + 400 = 500万株。旧B株主の比率 = 400 ÷ 500 = 80%。他の要素もBを指すとして、Bが取得企業(逆取得)
- みなし交付株数:旧A株主が20%を持つのに必要なB株数 x は、x ÷ (200万 + x)= 20% から x = 200万 × 20% ÷ 80% = 50万株
- 取得原価 = 50万株 × 6,000円 = 3,000百万円(A株の時価総額 100万株 × 3,000円 = 3,000百万円とも一致)
- Aの識別可能純資産の時価を1,800百万円とすると、のれん = 3,000 − 1,800 = 1,200百万円
連結財務諸表では、取得企業Bの資産・負債は従来の帳簿価額のまま引き継ぎ、被取得企業Aの資産・負債を時価で受け入れてのれん1,200百万円を計上します。仮にAを取得企業として扱えば、交付したA株400万株 × 3,000円 = 12,000百万円を取得原価としてBの資産・負債を時価評価することになり、のれんの金額も評価替えされる資産もまったく変わります。
PL・BS・CFへの影響
逆取得では、結合後の連結財務諸表は会計上の取得企業(設例ではB)の数字を引き継ぎ、被取得企業(A)の業績は企業結合日以降だけが加わります。法律上の親会社はAでも、連結の過去の数字はBの延長になる点が実務上の大きな違いです。連結上の資本金は法律上の親会社(A)の資本金とし、差額は資本剰余金に振り替えます[2]。のれんの金額と償却期間の見積りはのれんのページを参照してください。
財務モデル・Excelでの使い方
- 判定シート:結合後の株主構成(旧A株主・旧B株主の株数と比率)、取締役の指名権、プレミアムの有無を1枚にまとめ、取得企業の結論と根拠を残します。
- みなし交付株数のセル:
=B発行済株数×旧A株主比率÷旧B株主比率で算出し、取得原価=みなし株数×B株時価と、A株時価総額との一致をチェック行で確認します。 - プロフォーマ連結:取得企業Bの帳簿価額の列に、Aの時価評価後の列とのれんを足す形で結合後BSを組みます。
この用語をExcelで
取得企業の判定から、みなし交付株数による取得原価・のれんの計算まで、逆取得のプロフォーマ連結をExcelで組めるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「株式を交付した会社が必ず取得企業」→ 正しくは、対価が株式なら通常は交付した側ですが、議決権比率などの要素を総合的に勘案します。株式交換で完全子会社が取得企業となる場合も逆取得に該当します[1]。
誤解2:「逆取得なら個別財務諸表も連結と同じ処理」→ 正しくは、個別では帳簿価額を基礎にします。株式交換の逆取得では、完全親会社(設例のA)の個別財務諸表上、完全子会社株式の取得原価を、株式交換日の前日における完全子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定します[1][2]。設例でBの株主資本の帳簿価額が5,000百万円なら、Aの個別BSの子会社株式は時価12,000百万円ではなく5,000百万円が基礎になります。
確認ポイント:連結財務諸表を作成しない逆取得の吸収合併などでは、パーチェス法を適用したとした場合の影響額の注記が求められます[1]。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)逆取得の扱いは、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(取得企業の決定、逆取得における個別財務諸表上の会計処理、注記)と、企業会計基準適用指針第10号(逆取得となる吸収合併・株式交換の連結・個別の具体的処理)で定められています[1][2]。上場会社が非上場会社を取り込む案件では、有価証券報告書の企業結合等関係の注記で、どちらが取得企業と判定されたか、取得原価とのれんの額を確認します。株式交換の手続面は株式交換のページで扱っています。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:小さな上場会社Aが大きな非上場会社Bを株式交換で完全子会社にし、旧B株主が結合後のA株の80%を持ちます。会計上の取得企業はどちらですか。
「議決権比率だけを見ればBで、逆取得の可能性が高いです。取締役会の構成や選解任権もBの株主側にあれば、Bを取得企業として、Aの資産・負債を時価評価し、のれんを計上します。取得原価は、旧A株主が20%を持つためにBが交付したとみなす株数にB株の時価を掛けて求めます。」
深掘りでは「Aの個別財務諸表上の子会社株式の取得原価はどう決まるか」「結合後の連結の比較情報はどちらの会社の数字か」が問われます。
よくある質問(F AQ)
Q. 逆取得ではのれんはどちらの会社について計上されますか?
A. 会計上の被取得企業、つまり株式を交付した法律上の買い手側について計上されます。設例ではAの識別可能純資産の時価と取得原価の差額がのれんです。
Q. 吸収合併の逆取得では、存続会社の個別財務諸表はどうなりますか?
A. 存続会社の個別財務諸表では、取得企業である消滅会社の資産・負債を合併直前の適正な帳簿価額で計上します[1]。
出典・参考(2 026-11確認)
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(最終改正2019年1月16日)第18項〜第20項・第34項・第36項・第50項・第79項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/kouhatsujisyou20260109_12.pdf(2026年11月参照)
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第84項〜第85項・第118項・第119項. https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ecl20261016_36.pdf(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。