この記事で分かること
- 段階取得に係る損益の定義と、企業結合会計基準における位置づけ
- 既存持分の時価評価と、のれん計算への接続の仕組み
- 整数設例で、段階取得損益とのれんの金額を実際に検算
- 個別財務諸表と連結財務諸表での扱いの違い、IFRSとの異同(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
段階取得に係る損益とは、企業結合会計基準に基づき、複数回に分けて株式を取得し支配を獲得(子会社化)した場合に、支配獲得日より前から保有していた既存株式を支配獲得日時点の時価で再評価し、その帳簿価額との差額を損益として認識するM&A会計の処理です。企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」に定めがあり、IFRS第3号「企業結合」でも同様の考え方が採用されています。「段階取得」「支配獲得時の再測定」とも呼ばれます。
なぜ実務で重要なのか
PE・事業会社が連結と持分法の適用会社への出資比率を段階的に引き上げて完全子会社化するケースや、資本業務提携先を追加取得により子会社化するケースで発生します。M&AのFAは、ディールストラクチャーの設計段階で、この損益がPLに与えるインパクトを事前に試算します。経営企画・IRは、特別損益として計上される段階取得損益が一過性の項目である旨を、決算説明で明確に伝える必要があります。
計算式(または仕組み)
段階取得損益はのれんの計算にも接続します。取得原価合計(追加取得の対価+既存持分の時価評価後の額)から、取得日の子会社純資産のうち親会社持分に相当する額を差し引いた残額が、のれんとして計上されます。この計算の全体像はのれんとPPA入門で解説しています。
整数設例で確認する
設例(架空数値・単位:百万円)。従来20%を保有し持分法を適用していた会社(帳簿価額500)について、追加で45%(合計65%)を600で取得し、支配を獲得したとします。支配獲得日における既存20%相当分の時価は680と算定されました。
段階取得に係る損益 = 680-500=180(利益)です。続いてのれんを計算すると、取得原価合計=追加取得の対価600+既存持分の時価評価後の額680=1,280。取得日の子会社純資産1,500のうち親会社持分65%相当は 1,500×0.65=975。のれん = 1,280-975=305となります。
PL・BS・CFへの影響
段階取得に係る損益は、連結PL上、特別損益(または当期の損益)として計上され、当期利益を押し上げ(またはマイナスの場合は押し下げ)ます。BS上は取得原価に基づき、のれんとして資産計上され、以後は毎期の減損テストの対象になります。CF計算書では、既存持分の再評価差額180は非資金項目のため計算に含まれず、投資活動によるキャッシュフロー(子会社取得による支出)には、実際の現金支出である追加取得の対価600のみが反映されます。
財務モデル・Excelでの使い方
M&Aモデルでは、既存持分の帳簿価額と支配獲得日時価をそれぞれ入力セルに置き、差額を段階取得損益として自動計算する行を設けます。のれん計算シートでは、取得原価合計(追加取得対価+既存持分再評価額)と、子会社純資産×取得比率を別行に持ち、差額をのれんとして算出します。時価評価の前提(PER・EV/EBITDA倍率等)を動かした場合ののれん額の変化を、感応度分析で確認できるようにします。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「個別財務諸表でも時価評価する」→ 正しくは、個別財務諸表上は原則として取得原価の累積で計上し、時価評価を行うのは連結財務諸表上の処理です。
誤解2:「段階取得損益は経常的な収益」→ 正しくは一過性の項目であり、実態のEBITDAやROEの分析では正常化調整で除外するのが実務です。
誤解3:「株式を追加取得すれば常に発生する」→ 正しくは、支配を獲得して子会社化する時点で、それ以前から保有していた持分(その他有価証券として保有していた場合を含む)を連結上時価で再評価する際に生じる論点です。支配獲得後にさらに持分を追加取得する取引は資本取引として処理され、段階取得に係る損益は生じません。
日本実務での扱い(2026年8月時点)
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」及び関連の適用指針に基づき、日本基準でも段階取得に係る損益の認識が求められます。IFRS第3号でも支配獲得日における既存持分の公正価値再評価と差額の純損益計上が求められており、日本基準とIFRSで基本的な処理の方向性は一致しています。ただし、のれんの事後処理については、日本基準が規則的な償却(20年以内)を求めるのに対しIFRSは非償却・減損のみであるため、段階取得後に生じたのれんの取扱いは基準間で差が生じる点に注意が必要です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:従来20%保有していた会社を追加取得で子会社化した場合、既存の20%持分はどう扱われますか。
「支配獲得日時点の時価で再評価し、それまでの帳簿価額との差額を段階取得に係る損益として連結PL上の損益に計上します。あわせて、再評価後の持分と追加取得の対価の合計を取得原価とし、取得した子会社純資産の親会社持分との差額をのれんとして計上します。」
深掘りでは「段階取得損益が損失になるケース」「支配喪失(子会社から持分法適用への格下げ)との違い」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 段階取得に係る損益は必ず利益になりますか?
A. いいえ。既存持分の時価が帳簿価額を下回っていれば損失になります。
Q. 子会社株式の一部売却により持分法適用会社へ「格下げ」する場合も同様の処理ですか?
A. 支配喪失に伴う損益として、残存持分の時価評価等を含む別の会計処理があり、段階取得損益とは異なる論点として整理されます。
出典・参考(2026-08確認)
- 企業会計基準委員会(ASBJ)「企業結合に関する会計基準」 https://www.asb-j.jp/
- IFRS Foundation(IFRS第3号「企業結合」) https://www.ifrs.org/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。