この記事で分かること

  • RAROC(リスク調整後資本収益率)の定義と、収益性をリスクで調整する考え方
  • 期待損失(EL)と経済資本(配賦資本)を用いた計算式
  • 与信案件の整数設例によるRAROCとハードルレートの比較
  • 規制資本(自己資本比率規制)との違いという日本実務上の位置付け

30秒で分かる定義

RAROC(ラロック、Risk-Adjusted Return on Capital:リスク調整後資本収益率)とは、収益から期待損失や必要経費を差し引いた「リスク調整後の収益」を、その取引・部門に配賦した経済資本(内部モデルに基づくリスク量ベースの資本)で割った、銀行の内部管理指標です。単純な利ざやだけでなく、与信リスクの大きさを織り込んで収益性を評価できる点が特徴で、与信案件の採算判断や部門別の資本配分の基礎に使われます。

なぜ実務で重要なのか

銀行のクレジット部門・審査部門では、クレジットリスク分析入門の応用として、個別の融資案件が採算に見合うか(株主資本コストを上回るリターンを生むか)を判断する際にRAROCを算出します。ポートフォリオ管理・ALM部門では、部門・事業単位ごとの経済資本配賦とRAROCの比較を通じて、限られた資本をどの事業に振り向けるかという経営資源配分の議論に用います。リスク管理部門では、規制資本とは別の内部管理上の資本配分の妥当性を検証する枠組みとして位置づけられます。

計算式(または仕組み)

RAROC(%) =(収益 − 経費 − 期待損失(EL)) ÷ 配賦資本(経済資本) × 100

期待損失(EL)は、PD・LGD・EADを用いてEL=EAD(与信残高)×PD(デフォルト確率)×LGD(デフォルト時損失率)で算出します。配賦資本(経済資本)は、規制上の自己資本比率規制で求められる最低所要資本とは別に、内部の信用リスクモデル(VaR型)に基づいてその取引に見合うと判断される資本の大きさを指します。算出したRAROCを、株主資本コスト等の社内ハードルレートと比較し、上回れば経済価値を創出する取引と判断します。

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:百万円)。ある法人向け融資案件、与信残高(EAD)10,000、年間の金利収入(スプレッド収益)300、直接経費50、デフォルト確率(PD)2%、デフォルト時損失率(LGD)40%とする。

期待損失(EL) = EAD × PD × LGD = 10,000 × 2% × 40% = 10,000 × 0.02 × 0.4 = 80。リスク調整後収益 = 収益300 − 経費50 − 期待損失80 = 170。配賦資本(経済資本)を800と仮定すると、RAROC = 170 ÷ 800 × 100 = 21.25%。

社内ハードルレート(株主資本コスト相当)を10%とすると、RAROC21.25%はハードルレートを上回るため、この案件は経済価値を創出すると判断できます。仮にPDが2%から5%に悪化した場合、EL=10,000×5%×40%=200となり、リスク調整後収益=300−50−200=50、RAROC=50÷800×100=6.25%となりハードルレート10%を下回るため、価格(スプレッド)の見直しか案件の見送りが検討されます。

融資審査への影響

RAROCは、融資条件(金利スプレッド)の妥当性を判断する上で、単純な利ざやよりも精緻な基準を提供します。同じスプレッド300でも、信用力の低い(PDの高い)先ほど期待損失が大きくなりRAROCは低下するため、価格設定(金利)にPD・LGDを反映させる根拠になります。また部門横断で見ると、配賦資本あたりのリターンが低い事業からリターンが高い事業へ資本を再配分する経営判断の材料にもなります。格付とクレジット指標の基礎で見た信用力評価は、このPD推計の出発点になります。

財務モデル・Excelでの使い方

案件別のRAROC計算シートでは、EAD・PD・LGDを入力セルとしてEL=EAD×PD×LGDを算出し、収益・経費と合わせてリスク調整後収益を計算、配賦資本(内部モデルまたは簡便的にEADの一定比率として設定)で除してRAROCを求める設計が基本形です。PD・LGDのシナリオ(ベース・ストレス)ごとにRAROCがどう変化するかを感応度分析(データテーブル)で示すと、案件の頑健性を経営会議で説明しやすくなります。

この用語をExcelで「組める」状態にする

PD・LGD・EADから期待損失と経済資本を算出し、案件別のRAROCをハードルレートと比較できるモデルを設計する。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「RAROCが高いほど無条件に良い案件」→ 正しくは、RAROCは特定の期待値ベースの計算であり、テールリスク(想定を超える損失)や集中リスクは別途評価する必要があります。RAROCだけで与信判断を完結させるのは危険です。

誤解2:「経済資本と規制資本(自己資本比率規制上の所要資本)は同じもの」→ 正しくは、規制資本は自己資本規制比率(バーゼル規制)で定められる最低所要水準であるのに対し、経済資本は各行が内部モデルで独自に見積もる資本水準であり、両者は一致しないことが多くあります。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

日本のメガバンク・大手金融機関では、統合的リスク管理(ICAAP:内部資本十分性評価プロセス)の枠組みの中で、経済資本の配賦とRAROCに類する指標を用いたポートフォリオ管理を行っています。金融庁の監督指針においても、金融機関が自己資本比率規制上の所要水準にとどまらず、内部管理上の資本配分の妥当性を検証する体制を持つことが期待されています。国際的にはバーゼル銀行監督委員会(BIS)が公表する枠組みが、規制資本と内部の経済資本管理の関係を整理する際の共通言語として参照されます。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:RAROCと単純な利ざや(スプレッド)による収益性評価の違いを説明してください。
「単純な利ざやは収益から経費を引いた金額を見るだけですが、RAROCはそこからさらに期待損失を差し引き、案件に見合う経済資本で割ることで、リスクの大きさを調整した収益性を測ります。同じスプレッドでも信用力が低い先ほど期待損失が大きくRAROCは低くなるため、リスクを取った分だけ十分なリターンを得られているかを判断できます。」(30秒回答例)

深掘りでは「経済資本と規制資本の違い」「PDが変化した際にRAROCがどう動くか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. RAROCのハードルレートはどのように決まりますか?
A. 一般的には株主資本コスト(自己資本に対して株主が期待する最低限のリターン)を基準に、銀行の経営方針を踏まえて設定されます。RAROCがハードルレートを上回るかどうかが、案件や事業の採算性を判断する目安になります。

Q. RAROCが低い事業はすぐに撤退すべきですか?
A. 一概には言えません。単年のRAROCが低くても、将来の成長性や他事業とのシナジー、規制上の位置づけ等を踏まえた経営判断が必要であり、RAROCはあくまで判断材料の一つとして扱われます。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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