この記事で分かること
- 相対売買(OTC取引)の定義と、取引所取引との違い
- 相対売買が使われる典型的な場面
- 整数設例で、大口株式の相対売却と市場売却の受取額を比較
- 日本のToSTNeT市場・国債の店頭取引での位置付け
30秒で分かる定義
相対売買(あいたいばいばい、OTC Negotiated Trade)とは、取引所の板(オークション方式の気配)を経由せず、売り手と買い手が価格・数量・決済条件を個別に交渉して合意し、成立させる売買のことです。「店頭取引」とも呼ばれ、取引所取引が不特定多数の注文が板に集まり価格が形成される(板寄せ方式とザラ場方式)のに対し、相対売買は特定の当事者間で条件を決める点が本質的に異なります。国債・社債など、そもそも取引所を経由せず店頭で取引されるのが標準的な市場と、株式のように取引所取引が原則で相対売買が例外的な手法として使われる市場の両方が存在します。
なぜ実務で重要なのか
債券セールス・トレーディングにとって、日本の国債・社債の流通市場はもともと相対売買が中心であり、債券の基礎を理解するうえで欠かせない前提です。株式の機関投資家間の大口取引(ブロックトレード)では、取引所の板でそのまま執行すると価格が大きく動いてしまうため、相対で条件を決めたうえで所定の市場外取引システムを通じて決済することが一般的です(セールス&トレーディング入門参照)。投資銀行・PEのセカンダリー取引においても、非上場株式やファンド持分の譲渡は相対売買が基本形です。
仕組み
| 項目 | 取引所取引(オークション方式) | 相対売買(OTC) |
|---|---|---|
| 価格形成 | 不特定多数の注文の突合せ | 当事者間の個別交渉 |
| 主な対象 | 上場株式の通常売買 | 国債・社債、大口株式取引、非上場証券等 |
| 透明性 | 板情報が公開される | 条件は当事者間の合意により非公開の場合が多い |
| 執行方法 | 取引所システム | 相対合意後、市場外決済システム等を利用 |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。ある投資家が上場会社の株式500万株を保有しており、これを売却するケースを考えます。直近の市場終値は1株1,000円です。
相対売買の場合:買い手と交渉し、市場価格から2%ディスカウントした1株980円で売却することで合意。売却総額=5,000,000×980=4,900,000,000円(4,900百万円)。
取引所で分割売却した場合:500万株を市場でそのまま売り出すと需給が崩れ、平均執行価格が1株970円まで下がったと仮定します。売却総額=5,000,000×970=4,850,000,000円(4,850百万円)。
検算:4,900-4,850=50百万円。この設例では、相対売買によって市場での分割売却より50百万円多く受け取れる結果になっています。もっとも、相対売買が常に有利とは限らず、買い手が見つかるかどうか、交渉力の強さによって条件は変わります。
市場・取引制度上の位置付け
相対売買は、取引所取引に比べて価格の透明性は劣りますが、大口取引を市場に大きな影響を与えずに執行できるという利点があります。日本の株式市場では、取引所を経由しない市場外取引の受け皿として、東京証券取引所のToSTNeT市場が整備されており、相対で合意した大口取引の決済に利用されます。国債・社債については、そもそも取引所への上場を前提とせず、証券会社を相手方とする店頭での相対売買が流通市場の基本形です。
実務での調べ方・確認手順
- 株式の大口相対取引を検討する場合、直近の市場価格・出来高を確認したうえで、ディスカウント幅の妥当性を検討する
- 国債・社債の店頭気配は、証券会社の提示するオファー・ビッド気配を複数社から取得して比較するのが実務の基本
- 相対売買であっても、上場会社の株式に関する取引は金融商品取引法上の大量保有報告制度・インサイダー取引規制の対象になり得るため、開示・情報管理の手続きを別途確認する必要がある
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「相対売買は特殊で例外的な取引方法」→ 正しくは、国債・社債など多くの証券にとっては相対売買こそが標準的な流通市場の形態です。取引所取引が原則という感覚は、主に株式市場を念頭に置いたものです。
誤解2:「相対売買は必ず市場価格より有利な条件になる」→ 正しくは、交渉力・買い手の有無次第であり、必ずしも有利とは限りません。市場価格を上回るプレミアムが必要になる場合(支配権の取得等)もあります。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)日本の国債・社債市場は、証券会社を相手方とする店頭の相対売買が流通の中心であり、株式市場のような取引所の板は用いられません。株式については、東京証券取引所のToSTNeT市場が、相対で合意した取引を市場外で決済するための仕組みとして機能しています。上場会社の大口株式取引は、相対売買であっても金融商品取引法上の開示規制(大量保有報告制度等)の対象になり得るため、実務では取引の形態にかかわらず適用される規制の確認が欠かせません。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:国債の流通市場が相対売買中心であるのはなぜですか?
「国債は多種多様な銘柄・年限が発行されており、個別銘柄ごとの取引頻度や需給が大きく異なります。取引所に不特定多数の注文を集めて板を形成する仕組みよりも、証券会社が個々の投資家のニーズに応じて価格を提示し、相対で条件を決める店頭取引の方が、多様な銘柄の流動性を効率的に確保できるためです。」(30秒回答例)
深掘りでは「相対売買と取引所取引のそれぞれの透明性の違い」「大口株式取引における相対売買と大量保有報告制度の関係」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 相対売買と私設取引システム(PTS)は同じものですか?
A. 異なります。PTS(私設取引システム)は、取引所とは別に運営される電子的な取引システムで、注文を集めて価格を形成する仕組みを持つ点で取引所取引に近い性質があります。相対売買は、システムを介するかどうかにかかわらず、当事者間の個別交渉によって条件が決まる取引全般を指す、より広い概念です。
Q. 個人投資家でも相対売買はできますか?
A. 制度上は可能ですが、相手方を見つける手段が限られるため、実務上は機関投資家間の大口取引や、証券会社を介した国債・社債の店頭取引で主に用いられます。
出典・参考(2026-08確認)
- 日本取引所グループ(ToSTNeT市場・市場外取引に関する資料) https://www.jpx.co.jp/
- 日本証券業協会 https://www.jsda.or.jp/
- e-Gov法令検索「金融商品取引法」 https://elaws.e-gov.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。