この記事で分かること
- 複数回クロージング条項の定義と、投資契約書での位置付け
- First Closing・Second Closingの流れとLongstop Dateの意味
- 追加クロージング時の遅延プレミアムを計算する整数設例
- 日本の第三者割当増資における実務上の運用
30秒で分かる定義
複数回クロージング条項(Multiple/Rolling Closing Provisions)とは、同一の資金調達ラウンド内で、投資家ごとに複数回に分けて払込み・株式発行を行う仕組みを定めた契約条項です。最初の払込みをFirst Closing(初回クロージング)、その後の払込みをSecond Closing(追加クロージング)と呼び、追加クロージングで参加する投資家も、原則としてFirst Closingと同一の株価・優先条件で参加できます。
なぜ実務で重要なのか
VC・投資家にとっては、シンジケート(共同投資家)の集まり具合に応じて柔軟にラウンドを組成できる仕組みです。資金調達を行う企業にとっては、全ての投資家の払込みが揃うのを待たずに、先に払込みが完了した資金から早期に資金化できる利点があります。また、既存投資家が持つプロラタ権
仕組み:First ClosingからSecond Closingまでの流れ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①投資契約締結 | 主要投資家との間で、複数回クロージングを前提とした投資契約を締結 |
| ②First Closing | 主要投資家が同一株価・条件で払込み、株式発行・登記を実施 |
| ③Longstop Date設定 | 追加クロージングが可能な期限(例:90日後)を契約で明記 |
| ④Second Closing | 追加の投資家がFirst Closingと同一条件で払込み・株式発行 |
| ⑤ラウンドクローズ | Longstop Date到来またはラウンド目標額到達でラウンド終了 |
整数設例で確認する
設例(架空数値、単位:百万円・株)。ラウンド目標額1,000、株価1株1,000円のケースです。
First Closing:800の払込みを受け、800÷1,000円=80万株を発行。Second Closing(Longstop Date:90日後):残り200の払込みを受け、200÷1,000円=20万株を同一株価で発行。合計発行株数は80万株+20万株=100万株、調達総額は800+200=1,000で目標額と一致します。
契約でSecond Closingの払込みに年率5%の遅延プレミアム(架空の設定、90日分)を付す場合、追加払込額=200×5%×(90÷365)=10×0.2466=約2.47(百万円)となります。この遅延プレミアムは、先に払い込んだFirst Closing投資家との公平性を保つための仕組みとして設計されることがあります。
契約条項への影響
複数回クロージング条項を設計する際は、①Longstop Dateの期限、②Second Closingでも同一条件(株価・優先条件)が適用される旨の明記、③遅延プレミアムの有無、④Second Closing投資家の議決権・情報請求権の発生時期、を投資契約書・株主間契約書で定めておく必要があります。特に③・④を曖昧にすると、後から参加する投資家との間で紛争の火種になり得ます。
財務モデル・Excelでの使い方
- キャップテーブルと希薄化上で、First Closing・Second Closingそれぞれの発行株数を別行に記録し、
=SUM(各クロージングの発行株数)で完全希薄化ベースの合計株式数を追跡する - 遅延プレミアムは
=追加払込額*利率*経過日数/365で計算し、Longstop Dateからの経過日数をシナリオで変えられるようにする - 資金繰り表では、First Closing・Second Closingそれぞれの入金予定日を分けて入力し、資金化のタイミングのズレを管理する
この用語をExcelで
複数回クロージングの発行株数・調達額・遅延プレミアムを管理するキャップテーブルを設計できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「複数回に分けるなら、別ラウンド(別バリュエーション)として扱われる」→ 正しくは、同一ラウンド・同一条件で行うのが原則で、条件を変えるならそれは別ラウンド(アップラウンド・ダウンラウンド)の検討になります。
誤解2:「クロージングが遅れても一切ペナルティはない」→ 正しくは、契約でLongstop Dateや遅延プレミアムを定めるのが一般的で、無制限に追加クロージングを認めるものではありません。
日本実務での扱い(2 026年8月時点)
日本では第三者割当増資の実務として、払込期日を複数回に分けて設定し、それぞれの払込みごとに取締役会決議・変更登記を行う運用によって複数回クロージングを実現します。会社法上、募集事項の決定(会社法第199条等)に基づき払込期日を定める必要があるため、複数回に分ける場合は各回の払込期日をあらかじめ募集事項として決定しておくことが前提になります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:企業が1回のクロージングではなく複数回クロージングを選ぶ理由を説明してください。
「全ての投資家の払込みが揃うのを待たずに、先に合意できた投資家からの資金を早期に受け取れる点が最大の理由です。またシンジケートの集まり具合に応じて柔軟にラウンド規模を調整できるメリットもあります。」(30秒回答例)
深掘りでは「Second Closing投資家に遅延プレミアムを求める合理性」「Longstop Dateを過ぎても払込みが完了しない場合の扱い」が問われます。
よくある質問(F AQ)
Q. Second Closingの投資家は議決権をいつから持ちますか?
A. 一般に、株式発行の効力発生日(払込み・登記完了時点)から議決権を取得します。First Closingとの間で権利発生時期にズレが生じる点は契約書で明記しておく必要があります。
Q. Longstop Dateを過ぎたら追加クロージングは一切できませんか?
A. 原則としてLongstop Date経過後の追加クロージングは想定されていませんが、既存投資家全員の合意があれば、契約変更により期限を延長する対応が取られることもあります。
出典・参考(2 026-08確認)
- e-Gov法令検索「会社法」(第199条) https://elaws.e-gov.go.jp/
- 経済産業省「スタートアップの資金調達実務」関連施策 https://www.meti.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。