この記事で分かること

  • マージャーモデル(M&Aモデル)とは何を目的とした財務モデルか
  • モデルを構成する5つのビルディングブロックの全体像
  • 整数設例で見る、各ブロックがどうつながって最終的な結論に至るか
  • Excelでのタブ構成と、実務でよくある設計ミス

30秒で分かる定義

マージャーモデル(英語ではMerger Model、M&Aモデル・買収モデルとも呼ばれます)とは、買収企業(Acquirer)が対象企業(Target)を買収する際に、対価の資金調達方法や取得法会計上の調整を織り込んで買収企業の財務諾表・EPSへの影響を試算する財務モデルです。単に2社の財務諾表を合算するだけでなく、「この買収を行うと自社のEPSは増える(Accretive)のか減る(Dilutive)のか」を定量的に判断するための道具として使われます。

なぜ実務で重要なのか

IBのM&Aチームは、クライアント企業(多くは上場している買収企業)に対し、検討中の買収案が財務的にプラスかマイナスかを説明する際にマージャーモデルを使います。買収企業の取締役会は価格の妥当性だけでなくEPSへの影響を重視するため、モデルの結論が実行判断を左右することがあります。事業会社のコーポレートディベロップメント部門でも、社内検討資料として構築します。

仕組み(5つのビルディングブロック)

マージャーモデルの5ブロック ①買収前提 価格・プレミアム ②資金調達 Sources&Uses ③単純合算+ プロフォーマ調整 ④取得法調整 PPA・のれん ⑤結論 Accretion/Dilution
図:買収前提から資金調達、合算、取得法調整を経て、最終的なEPS影響(Accretion/Dilution)に至る流れ

①買収前提(買収価格・プレミアム)、②資金調達構成(現金・新規負債・新株の内訳)、╂3社の財務諾表の単純合算とプロフォーマ調整、④取得法会計に基づくのれん等の計算、⑤最終的なAccretion/Dilution分析という順序でモデルを積み上げます。

整数設例で確認する

設例(架空数値、単位:百万円)。買収企業の発行済株式数1,000株・株価8,000円(時価総額8,000)、対象企業を株式対価で買収し、買収企業の新株を250株発行するとします。

項目買収前買収後(プロフォーマ)
発行済株式数(株)1,0001,250
純利益(プロフォーマ調整後)800950
EPS0.800.76

買収前のEPSは 800÷1,000 = 0.80、買収後は 950÷1,250 = 0.76です。純利益は増えているにもかかわらず、新株発行による株式数の希薄化がそれを上回るため、EPSは0.80から0.76へ5%のDilutive(希薄化)という結論になります。この最終行の結論こそが、マージャーモデル全体が導き出す答えです。

投資判断への影響

取締役会や株主に対して、買収がAccretiveかDilutiveかは案件の説明可能性を大きく左右します。ただしDilutiveな案件が常に否決されるわけではなく、シナジー効果が数年で実現しEPSが改善する見通しがあれば、一時的な希薄化を許容する判断もあります。マージャーモデルは、この「何年でAccretiveに転じるか」というブレークイーブンの分析にも使われます。

財務モデル・Excelでの使い方

タブ構成は5つのブロックに対応させるのが定石です。

  • Assumptionsタブ:買収価格・プレミアム・調達構成をまとめて入力
  • Sources & Usesタブ:資金の出所(現金・新規負債・新株)と使途(対価・既存負債の借換え・取引費用)を一致させる
  • Pro Formaタブ:買収企業・対象企業の財務諾表を合算し、プロフォーマ調整列で修正
  • PPAタブ:のれん・時価評価差額を計算し、Pro Formaタブへリンク
  • Accretion/Dilutionタブ:買収前後のEPSを比較し結論を出す

具体的なAccretion/Dilution分析の計算式やのれんの計算方法はM&Aモデル(Accretion/Dilution分析)の作り方で、画面つきの実装手順を解説しています。

この用語をExcelで「組める」状態にする

Sources&Usesから合算・PPA・Accretion/Dilutionまで、5ブロックを1つのモデルで接続する。

M&Aモデル完全ガイドで実装する →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「Accretiveな案件は良い買収、Dilutiveな案件は悪い買収」→ 正しくは、Accretion/Dilutionは会計上の指標にすぎず、戦略的な意義やシナジーの実現可能性とは別問題です。単年度でDilutiveでも、長期的な企業価値を大きく高める買収は正当化されます。

誤解2:「マージャーモデルとLBOモデルは似ているので同じ発想で作れる」→ LBOモデルは新規設立の買収主体(SPV)を前提にリターン(IRR・MOIC)を計算しますが、マージャーモデルは既存の上場企業(買収企業)の財務諾表にどう影響するかを見る点で出発点が異なります。

確認ポイント:実務家は、Sources(資金の出所)とUses(資金の使途)の合計が完全に一致しているか、プロフォーマ調整の符号が正しいかをまず検算します。

日本実務での扱い

日本の上場企業によるM&Aでは、株式対価による買収(株式交換等)や大型の第三者割当増資を伴う買収も行われ、EPS希薄化への説明責任が投資家対話・IRの観点から重視されます。企業結合の会計処理は企業会計基準第21号に基づく取得法が原則で、PPA部分はこの会計基準に沿って設計します(2026年7月時点)。日本では現金対価のM&Aが依然主流であるため、借入中心の案件ではLBOモデルの考え方と組み合わせて設計する場面もあります。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:マージャーモデルを構成する主要なブロックを説明してください。
「大きく5つのブロックで構成されます。買収価格・プレミアムを決める買収前提、資金調達の出所と使途を一致させるSources & Uses、2社の財務諾表を合算しプロフォーマ調整を反映するブロック、取得法会計に基づくのれん等を計算するPPA、そして最終的にEPSがAccretiveかDilutiveかを判断するAccretion/Dilution分析です。この順序でモデルを積み上げていきます。」

深掘りでは、現金対価と株式対価でEPSへの影響がどう変わるか、ブレークイーブンシナジーの考え方が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 現金対価の買収でもマージャーモデルは必要ですか?
A. 必要です。現金対価でも、その資金を借入で調達すれば追加の支払利息がEPSに影響しますし、既存の手元資金を使う場合は失う運用機会(機会費用)を考慮する簡易分析を行うこともあります。

Q. マージャーモデルとLBOモデルはどちらが複雑ですか?
A. 一概には言えませんが、LBOモデルは複数期にわたる返済スケジュール・キャッシュスイープの計算が中心で時系列の複雑さがあり、マージャーモデルは取得法調整の会計処理の正確さが中心で、複雑さの性質が異なります。

出典・参考(2026-07-25確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。