この​記事で​分かる​こと

  • 金商法第159条が禁じる相場操縦の4類型(仮装・馴合売買、変動操作・流布・虚偽表示、違法な安定操作)
  • 公募増資で例外的に認められる安定操作取引の要件(期間・場所・価格・届出)
  • 上場会社が市場で自己株式を買うときの方法の制限(取引規制府令第17条等)を設例で確認
  • 罰則・課徴金と、ECM・資本政策の実務で注意する場面

30秒で​分かる​定義

相場操縦規制(そうばそうじゅうきせい、Market Manipulation Regulation)とは、上場有価証券などの取引について、取引が盛んに行われていると誤解させたり、取引を誘引する目的で相場を人為的に動かしたりする行為を禁じる、金融商品取引法第159条の規制です。[1]相場を安定させる目的の取引(安定操作)も、政令の定めに違反して行うことは禁じられ、公募・売出しを容易にするための一定の取引だけが政令の要件の下で認められます[1][2]。

インサイダー取引規制(第166条・第167条)と並ぶ不公正取引の規制で、M&A局面のインサイダー規制はM&Aに​おける​インサイダー​取引規制で扱います。

なぜ実務で​重要なのか

相場操縦は投機筋だけの問題ではありません。ECMの引受証券会社は、公募増資・売出しの期間中に行う安定操作取引を政令の要件どおりに運用します。上場会社の財務・IRは、市場での自己株式取得を府令の方法で発注し、決算発表前後の買付けの時期を管理します。トレーディング・市場部門は、自社やお客様の注文が見せ玉(約定させる意思のない注文)や終値関与と疑われないよう、発注前チェックや売買審査の基準を設けます(誤発注を​発注前​チェックで​止める)。

仕組み:第159条の​類型

項禁止される行為主観的要件
第1項権利の移転を目的としない仮装の売買(仮装売買)、あらかじめ相手と通謀して同時期・同価格で売買すること(馴合売買)、これらの委託・受託など取引が繁盛に行われていると他人に誤解させる目的など、取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的
第2項第1号売買が繁盛であると誤解させ、または相場を変動させるべき一連の売買やその申込み(変動操作)取引を誘引する目的
第2項第2号・第3号相場が自己や他人の操作で変動する旨の流布、重要な事項についての虚偽・誤解を生じさせる表示取引を誘引する目的
第3項政令に違反して相場をくぎ付け・固定・安定させる目的で行う一連の売買など相場を安定させる目的

第1項・第2項とも、対象は金融商品取引所に上場する有価証券、店頭売買有価証券・取扱有価証券の売買と、一定のデリバティブ取引です[1]。違反には10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金(併科あり)が定められ(第197条第1項第5号)、財産上の利益を得る目的で相場を変動させ、その相場で取引した場合は10年以下の拘禁刑および3,000万円以下の罰金となります(同第2項)[1]。刑事罰とは別に課徴金の制度もあります(第174条〜第174条の3)[1]。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。

①安定操作の期間:株主割当以外の一般的な公募増資では、安定操作取引ができる期間は「取得の申込みの期間が終了する日の20日前の日から、その終了する日まで」です(金商法施行令第22条第2項第1号ハ)[2]。ただし、期間の開始前に発行価格等が決まっていないときは各取引所が発行価格等の通知を受ける日まで、発行価格等を「ある日の最終価格に一定率を乗ずる」など確定値によらずに決めたときは確定値の通知を受ける日まで、安定操作取引を始められません(同条第3項・第4項)[2]。申込期間の終了日が2026年12月10日で、11月20日より前に発行価格等が確定値で決まり取引所に通知されていると仮定すると、12月10日 − 20日 = 11月20日から12月10日までです。安定操作は50名以上を相手方とする募集・売出しを容易にするために行う場合に限られ、目論見書への記載、取引所市場の限定、価格の上限、届出書・報告書の提出などの要件があります(同第20条〜第25条)[2]。

②自己株式の市場買付けの価格:前日の終値が1,000円、当日の寄付き後に公表された最高値が1,020円、直近の約定価格が1,010円とします。取引規制府令第17条では、寄付き前の注文は前日の最終価格(1,000円)を上回らない指値に限られ、寄付き後は当日の公表価格の最高値を上回る指値(例:1,025円)で注文せず、直近の公表価格を上回る指値(例:1,015円)を反復継続しないことが求められます[3]。このほか、1日に2社以上の証券会社に買付けを注文しないこと、1日の買付数量の上限(過去の平均売買数量を基準とする数量)があります[3]。

市場・​取引制度上の​位置付け

市場での自己株式取得や自己株式の処分については、金商法第162条の2が相場操縦の防止のために内閣府令で取引の公正確保の事項を定めることとしており、取引規制府令第16条〜第23条が対象取引、買付けの方法(証券会社の数・価格・数量)、名義、取引所が認める方法による例外を定めています[1][3]。取引所が適当と認める方法(第23条)として、事前に価格と数量を公表して行う立会外の自己株式買付けがあり、この場合は第17条〜第20条の制限が適用されません[3](ToSTNeT​市場)。これらの府令の方法は第159条の禁止とは別の定めであり、方法を守っていても、取引の目的や態様によって第159条の問題を検討する必要がある点は変わりません。

実務での​調べ​方・​確認手順

  1. 取引の目的を記録する:自己株式取得なら取締役会決議(取得期間・上限株数・総額)と開示文書、ECMなら目論見書の安定操作に関する記載を保存します。
  2. 発注方法を府令・政令と照合する:自己株式は証券会社1社、価格・数量の上限、名義(第22条)を発注前に確認します。安定操作は政令の期間・場所・価格の上限を引受部門と確認します。
  3. 重要事実との関係を確認する:未公表の重要事実がある時期の自己株式取得はインサイダー取引規制の問題になるため、相場操縦規制と別に法務・コンプライアンスと時期を決めます。

この​用語を​実務で​「使える」​状態に​する

自己株式取得や​公募増資の​場面で、​相場操縦規制が​どの​段階の​どの​取引に​かかるかを​整理し、​発注・開示の​手順を​説明できるようになる。

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実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「株価を動かす売買はすべて相場操縦」→ 正しくは、誤解を生じさせる目的や取引を誘引する目的などの主観的要件があります。大口の売買で結果として価格が動いても、それだけで第159条違反になるわけではありません。ただし、目的は取引の態様から推認されるため、発注の記録が重要です。

誤解2:「公募の期間中なら引受会社は自由に買い支えられる」→ 正しくは、政令の要件を満たす安定操作取引だけが認められます。期間・市場・価格の上限・届出が定められ、それ以外の安定目的の取引は禁止です[2]。

誤解3:「自己株式の買付けは発行会社の自由」→ 正しくは、市場での買付けには方法の制限があります。価格・数量・証券会社の数の制限を外れる発注は府令に反します[3]。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)相場操縦の禁止は金融商品取引法第159条、罰則は第197条、課徴金は第174条〜第174条の3に定められています[1]。安定操作取引の要件は金融商品取引法施行令第20条〜第26条にあり、安定操作届出書・安定操作報告書は金融庁長官に提出され、公衆縦覧に供されます[2]。自己株式の市場買付けの方法は有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第16条〜第23条です[3]。相場操縦をめぐる議論は歴史的な事件にも多く、空売りと買い戻しが価格を動かした例はルメールの​VOC​株売り​崩しで扱っています。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:公募増資の募集期間中に株価を支える取引が許されるのはなぜですか。相場操縦にはならないのですか。
「金商法第159条第3項は、相場を安定させる目的の取引を『政令で定めるところに違反して』行うことを禁じています。逆に言えば、政令が定める要件、つまり50名以上を相手方とする募集・売出しを容易にする目的で、目論見書に記載し、決められた期間・市場・価格の上限の範囲で、届出と報告をして行う安定操作は認められます。需給が一時的に崩れて公募が不成立になることを防ぐための限定的な例外です。」

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 見せ玉は第159条のどこに当たりますか?
A. 約定させる意思のない注文を出して売買が盛んであると誤解させ、取引を誘引する行為は、一般に第159条第2項第1号の変動操作(一連の売買の「申込み」を含む)として問題になるとされます。

Q. 自己株式取得で府令の方法を守っていれば、相場操縦の心配はありませんか?
A. 府令は買付けの方法を定めたもので、第159条の禁止を外す規定ではありません。取得の目的・時期・開示を含めて確認します。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. e-Gov法令検索「金融商品取引法」(昭和二十三年法律第二十五号)第159条第1項〜第3項、第162条の2、第174条〜第174条の3、第197条第1項第5号・第2項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025(2026年11月参照)
  2. e-Gov法令検索「金融商品取引法施行令」(昭和四十年政令第三百二十一号)第20条〜第26条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340CO0000000321(2026年11月参照)
  3. e-Gov法令検索「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」(平成十九年内閣府令第五十九号)第16条〜第23条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419M60000002059(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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