この記事で分かること
- 労働契約承継法=会社分割に伴う労働者保護のための特別法であること
- 5条協議・7条措置という2つの協議手続と異議申出の要件
- 主として従事する労働者300名を想定した承継人数の整数設例
- 事業譲渡の個別同意主義との違い(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
労働契約承継法(正式名称:会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)とは、会社分割によって事業が承継会社・設立会社に移転する際、その事業に主として従事する労働者の労働契約の承継の可否や、労働者が異議を申し出る手続を定めた特別法です。読み方はそのまま「労働契約承継法」。会社分割は包括承継と個別同意主義の違いで説明したとおり包括承継の性質を持つため、通常は労働者の個別同意なく労働契約が移転しますが、それでは労働者の意思が反映されないため、この法律が労働者保護のための例外的な協議・異議申出手続を設けています。
なぜ実務で重要なのか
M&A法務・人事:会社分割スキームを採用する際、対象事業に「主として従事する労働者」の範囲画定と、5条協議(労働者との協議)・7条措置(労働組合等との協議)の実施が実務上のクリティカルパスになります。PE・買い手:PMIで人員体制を設計する前提として、誰が法的に自動的に承継されるかを正確に把握する必要があります。労働組合対応担当:会社分割計画に関する労働者への通知・協議のタイミングと内容が、後の異議申出の有効性に直結します。
仕組み:労働者区分と協議手続
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 主として従事する労働者(承継対象とされた場合) | 原則、労働契約が承継される。異議を申し出ても原則認められない |
| 主として従事しない労働者(承継対象とされた場合) | 異議を申し出れば承継されず、残留できる |
| 主として従事する労働者(承継対象外とされた場合) | 異議を申し出れば承継され、転籍する |
| 5条協議・7条措置 | 労働者個別との事前協議(5条)、労働組合等との事前協議(7条) |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。ある会社の製造事業(300名が主として従事)を会社分割で切り出す案件を想定します。会社分割計画では300名全員を承継対象としましたが、このうち10名が異議を申し出たとします。労働契約承継法上、「主として従事する労働者」が承継対象とされた場合に異議を申し出ても、原則としてその異議は認められず承継されるのが基本的な整理です。したがって本設例では、10名の異議申出があっても300名全員が予定どおり承継される計算になります。一方、承継対象に含めなかった周辺部門20名のうち5名が「自分は主として従事していた」として異議を申し出て認められれば、承継人数は300+5=305名に修正されることになります。
契約条項への影響
労働契約承継法の適用範囲は、会社分割契約・分割計画書に記載する「承継対象労働者の範囲」の条項設計に直接影響します。範囲の記載が曖昧だと、後になって「主として従事していたか否か」の該当性をめぐる紛争に発展しやすく、実務では対象事業の組織図・業務分掌に基づいて対象労働者を明確にリスト化し、分割契約・計画に添付することが一般的です。買収契約でも、承継予定人数と、承継後一定期間の雇用維持に関する表明保証・誓約条項が置かれることがあります。
実務での確認手順
この論点はモデリングよりも労働者区分の判定・通知管理表の運用が実務の中心です。
- 対象事業の全従業員を「主として従事」「一部従事」「非従事」に区分し、それぞれの承継対象への該当性を判定するチェックリストを作成する
- 5条協議の実施日・内容・7条措置の実施日を従業員ごとに記録し、後日の異議申出への対応に備える
- 異議申出期限(会社分割計画書等の備置期間に連動)をカレンダー化し、期限管理を人事・法務で共有する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1「会社分割なら労働者の同意なしに何でも転籍させられる」→ 正しくは、「主として従事する労働者」の区分によって異議申出の可否が異なり、区分を誤ると承継の有効性が争われます。
誤解2「5条協議・7条措置は形式的な手続で済ませてよい」→ 正しくは、協議が実質的に行われていないと判断されれば、労働契約の承継自体が無効と判断されるリスクがあります。
確認ポイント:対象労働者の区分の根拠資料、協議の実施記録、異議申出期限の周知方法。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)労働契約承継法は、会社分割という会社法上の組織再編行為に固有の労働者保護法制です。事業譲渡の場合はこの法律の適用がなく、転籍(事業譲渡における従業員の個別同意)による労働者ごとの個別同意が必要になるため、会社分割と事業譲渡では労働者保護の手続が全く異なる構造になっています。5条協議・7条措置の具体的な進め方については実務上の指針が示されており、M&A実務では会社分割による労働契約の自動承継というメリットと、協議手続の負担・紛争リスクを比較衡量してスキームを選択する必要があります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:会社分割で労働者本人の同意なく労働契約が移転するのはなぜですか?
「会社分割は会社法上、分割契約・分割計画に基づき事業に係る権利義務を包括的に承継する組織再編行為だからです。ただし労働者保護の観点から労働契約承継法が特別に協議(5条協議・7条措置)と異議申出の手続を設けており、対象労働者の区分次第では労働者側から承継の有無を争うことができます。」
深掘りでは「主として従事する労働者の判定基準」「事業譲渡の個別同意主義との違い」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. パート・契約社員も労働契約承継法の対象になりますか?
A. 雇用形態にかかわらず、対象事業に主として従事している労働者であれば対象になります。正社員に限定された制度ではありません。
Q. 異議申出はいつまでに行う必要がありますか?
A. 会社分割契約・分割計画に関する書面の備置期間中に異議を申し出る必要があり、具体的な期限は個別の会社分割の手続スケジュールに沿って会社側から通知されます。
出典・参考(2026-08-30確認)
- e-Gov法令検索「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」 https://elaws.e-gov.go.jp/
- e-Gov法令検索「会社法」 https://elaws.e-gov.go.jp/
- 法務省 https://www.moj.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。