この​記事で​分かる​こと

  • 担保の「ヘアカット」と「担保掛目」(=1−ヘアカット率)の意味と、債務減免のヘアカットとの区別
  • レポ取引・中央銀行の適格担保・ボローイングベースでの使われ方
  • 担保価値と借入可能額、追加担保(マージンコール)の整数設例
  • 掛目を決める要因と、融資モデルでの組み込み方

30秒で​分かる​定義

本ページの「ヘアカット(Haircut)」は担保の掛目の意味で、担保の時価から価格変動リスクなどに応じて一定割合を差し引くこと、またはその差引率を指します。差し引いた後の金額を担保価値(担保評価額)と呼び、レポ取引や担保価値を上限とする融資では、貸し手はこの範囲までしか資金を貸しません(信用力に基づく無担保部分を組み合わせる融資もあります)。例えば時価100の国債にヘアカット2%を適用すると、担保価値は98です。日本の銀行実務では「掛目98%」のように、差し引いた後の比率で表すのが一般的です。なお、事業再生で債権者が元本の一部を放棄する意味の「ヘアカット」は別の概念で、債権放棄のページで扱います。

なぜ実務で​重要なのか

ヘアカットは「担保があっても全額は貸さない」ための安全余裕で、借り手にとっては調達できる金額を直接決める条件です。市場部門(レポ・証券金融)は国債や株式を担保に短期資金をやり取りし、融資・ABL担当は売掛金や在庫に掛目を掛けて融資枠を決めます。LBOのファイナンスでは、ボローイングベース型の与信枠が運転資金の調達手段になります。レポ市場での具体的な使われ方はレポ・​短期金融市場​トレーディングの​実務で解説しています。

計算式​(または仕組み)

担保価値 = 担保の時価 ×(1 − ヘアカット率)= 担保の時価 × 掛目
必要な担保の時価 = 借入額 ÷ 掛目

ヘアカット率は、担保の価格が借り手の債務不履行から担保を売却するまでの間にどれだけ下がり得るかを基準に決めます。主な要因は次のとおりです。

  • 価格変動の大きさ:株式は国債より、長期債は短期債より大きなヘアカットになります。
  • 流動性:売りにくい資産ほど、売却までの時間と値崩れを見込んで大きくします。
  • 信用力・集中度:発行体の信用力が低い担保や、特定の銘柄・取引先に偏った担保は掛目を下げます。

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。単位は百万円。

①レポ取引:時価10,000の国債を担保に、ヘアカット2%で資金を調達します。調達額 = 10,000 ×(1 − 2%)= 9,800。その後、担保の時価が9,000に下がると、借入9,800を支えるのに必要な担保時価は 9,800 ÷ 98% = 10,000 なので、不足は 10,000 − 9,000 = 1,000(時価ベース)。借り手は1,000分の追加担保を差し入れるか、借入を減らす必要があります(マージンコール)。

②ボローイングベース(ABL):売掛金5,000のうち延滞債権500を除いた適格売掛金4,500に掛目80%、在庫4,000に掛目50%を掛けます。

担保適格額掛目担保価値
売掛金(5,000 − 延滞500)4,50080%3,600
在庫4,00050%2,000
ボローイングベース5,600

融資枠(極度額)が6,000でも、実際に借りられるのは小さい方の5,600です。既存の借入が5,000なら、追加で借りられる余力は 5,600 − 5,000 = 600 にとどまります。

融資審査への​影響

ヘアカットは、担保付き与信の回収見込みと与信額を同時に決めます。掛目を高く(ヘアカットを小さく)すれば借り手は多く借りられますが、担保価格の下落時に貸し手の損失が出やすくなります。市場が不安定になると、貸し手は一斉にヘアカットを引き上げることがあり、同じ担保で借りられる額が急に減って借り手の資金繰りを圧迫します。この連鎖が国債レポ市場でどう起きるかは国債​レポ​市場は​どの​局面で​脆くなるのかで整理しています。ABLでは、売掛金の回収サイトや在庫の換金性を定期的に確認し、掛目を見直します(ABLと​事業性融資の​実務)。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • ボローイングベースの計算行:担保の種類ごとに「残高」「不適格額」「掛目」を入力し、=(残高−不適格額)*掛目 を合計します。運転資本の予測と連動させると、売上成長で借入余力がどう変わるかが見えます。
  • 与信可能額:=MIN(ボローイングベース,極度額) とし、借入残高との差を「利用可能額(アベイラビリティ)」として表示します。
  • ストレステスト:掛目を5〜10ポイント下げるケースや担保価格の下落ケースを作り、追加担保や返済が必要になる時期を確認します。

与信枠の詳しい設計はボローイングベース​(担保掛目算定)のページで扱います。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

担保の​種類ごとの​掛目から​ボローイングベースと​借入余力を​計算し、​運転資本の​予測と​連動させられるようになる。

デットモデリング​教材で​与信枠の​組み方を​見る →

実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「ヘアカット=債権放棄」→ 正しくは、担保の文脈では担保時価からの差引率のことです。同じ英語が事業再生では債権カットの意味で使われるため、文脈で区別します。

誤解2:「担保の時価=借りられる額」→ 正しくは、時価に掛目を掛けた担保価値が上限です。設例①では時価10,000でも借入は9,800です。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)日本銀行は、金融機関が日本銀行に差し入れる適格担保の範囲内で、共通担保資金供給オペや補完貸付などの与信を行っています[1]。担保の評価額である「担保価格」は、担保の種類ごとに定めた時価等に、残存期間に応じた掛目を乗じて算出されます[2]。公表されている表では、同じ国債でも残存期間が長いほど掛目が低く設定されており、ヘアカットが価格変動の大きさを反映していることが分かります[2]。掛目は改正されることがあるため、具体的な数値は日本銀行の最新の公表資料で確認します。民間の融資では、不動産担保の掛目や、売掛金・在庫を担保とするABLの掛目が金融機関ごとの基準で設定されています。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:同じ時価の担保でも、国債と中小型株でヘアカットが違うのはなぜですか。
「担保を処分するまでの間に価格がどれだけ下がり得るかが違うからです。中小型株は価格変動が大きく、売買が薄いため売却に時間がかかり、値崩れもしやすい。貸し手はその損失を担保の範囲内に収めるため、ヘアカットを大きくします。発行体の信用力や銘柄の集中も考慮します。」

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. ヘアカットとLTV(借入比率)はどう関係しますか?
A. LTVは借入額÷担保価値(時価)で、掛目の上限まで借りた場合はLTV=掛目になります。ヘアカット2%の担保を上限まで使えばLTVは98%です。不動産融資では、LTVの上限をコベナンツとして定めるのが一般的です。

Q. デリバティブ取引の担保にもヘアカットはありますか?
A. あります。現金以外の有価証券を担保として受け入れる場合、担保契約で種類ごとのヘアカット(評価割合)を定めるのが一般的です。店頭デリバティブでは、ISDAマスター契約に付随する信用支援補完契約(CSA)で定めることが多いです。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. 日本銀行「適格担保」. https://www.boj.or.jp/mopo/measures/mkt_ope/eli_a/index.htm(2026年11月参照)
  2. 日本銀行「適格担保の担保価格」. https://www.boj.or.jp/mopo/measures/mkt_ope/operule01.htm(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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