この記事で分かること
- 当初証拠金(IM)と変動証拠金(VM)の役割の違い
- VMが「値洗い」に応じて日々増減する仕組み
- 整数設例でVMコールの累計・返還を確認する
- 清算集中取引と相対取引での会計上の扱いの違い、日本の証拠金規制
30秒で分かる定義
当初証拠金(Initial Margin、IM)・変動証拠金(Variation Margin、VM、読み方:とうしょしょうこきん・へんどうしょうこきん)とは、デリバティブ取引の信用リスクに備えて授受する担保の2つの種類です。当初証拠金は、カウンターパーティが将来デフォルトした場合に生じうる潜在的な損失に備え、取引開始時に差し入れる担保です。変動証拠金は、取引の時価(マーク・トゥ・マーケット)が変動するたびに、その時点の含み損益に応じて日々授受する担保です。中央清算機関(CCP)経由の取引と相対取引のいずれでも、証拠金の授受がカウンターパーティリスク管理の柱になっています。
なぜ実務で重要なのか
デリバティブトレーディング・リスク管理部門では、日々の値洗いに応じたVMコールの発生・履行が業務の一部です。事業会社の財務部門でも、CCP経由の清算集中取引や証拠金規制の対象となる相対取引を行う場合、証拠金の差し入れによる資金拘束を資金計画に織り込む必要があります。コンプライアンス・法務では、2008年の金融危機後にG20主導で導入された証拠金規制(IM/VM規制)への対応が重要テーマです。
仕組み(値洗いに応じたVMの授受)
当初証拠金は取引期間中原則として据え置かれる(潜在的な将来エクスポージャーをカバーする)のに対し、変動証拠金は「現在の含み損益」をちょうど相殺するように毎日調整されます。時価がプラスに動いた分だけ相手から証拠金を受け取り、マイナスに動いた分だけ相手に証拠金を差し入れる(または受け取った分を返還する)ことで、常に「含み損益=担保残高」の状態を保ちます。この日々の調整により、デフォルトが発生した瞬間の未回収エクスポージャーを、直近の値洗いからの変動分だけに限定できます。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。想定元本1,000のスワップを締結し、当初証拠金は双方が50ずつ差し入れたとします。以降の時価(A社から見た評価額)の推移とVM残高(A社がB社から預かっている担保)は次のとおりです。
- 契約日:時価0、VM残高0(授受なし)
- 1週目:時価+70(A社有利)→ VMコール+70 → B社がA社に70を差し入れ、VM残高70
- 2週目:時価+90 → VMコール+20(90−70)→ B社が追加で20を差し入れ、VM残高90
- 3週目:時価+50 → VMコール−40(50−90)→ A社がB社に40を返還、VM残高50
検算:VM残高の推移(0→70→90→50)は各週の時価の推移(0→70→90→50)と完全に一致します。変動証拠金は「その時点の含み損益をそのまま担保として持ち合う」仕組みであり、当初証拠金のように取引開始時の一括計算で固定されるものではない点が、この設例から確認できます。
PL・BS・CFへの影響
相対取引(ISDAマスター契約+CSA)での証拠金は、原則「担保」として扱われ、差し入れた側のBS上は拘束性資産として計上され、デリバティブの時価評価損益とは区別されます。CCP経由の取引の一部では、VMを担保ではなく「日々の決済(Settled-to-Market)」として扱う実務があり、授受のたびに損益が確定します。当初証拠金はいずれの形態でも、返還されるまで拘束性資産としてBS計上され、PLには影響しません。CF計算書では証拠金の授受は投資・財務活動によるキャッシュフローに区分されます。
財務モデル・Excelでの使い方
- VM残高のロールフォワード:「前日VM残高+当日コール=当日VM残高」の形で行を作り、当日コールは「当日時価−前日VM残高」の数式で自動計算する。
- 当初証拠金は、ISDA-SIMM等のリスクベースの計算式か、簡便的に想定元本の一定比率(5〜10%)で近似し、必要資金の見積りに使う。
- 資金繰り予測に「証拠金コール」の行を設け、金利ショックシナリオでの追加担保所要額を感応度分析で示すと有用。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「証拠金を積めば信用リスクはゼロになる」→ 正しくは、当初証拠金は「値洗いのタイムラグ」の間に生じうる価格変動リスクをカバーするものであり、市場が急変した場合はこのタイムラグ分のリスクが残ります。
誤解2:「VMは一度差し入れたら戻ってこない」→ 正しくは、時価が反対方向に動けば差し入れた担保は返還されます。上記設例の3週目のように、時価の縮小に応じて超過分の担保は都度精算されます。
日本実務での扱い
日本では、金融庁が非清算店頭デリバティブ取引を対象とした証拠金規制(IM/VM規制)を段階的に導入しており、想定元本残高が一定基準を上回る金融機関等を対象に、当初証拠金の差し入れが義務化されています(2026年7月時点)。清算集中の対象となる標準化された金利スワップ等は日本証券クリアリング機構(JSCC)経由での証拠金授受となり、対象外の相対取引はCSAに基づく担保授受で対応します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:当初証拠金と変動証拠金の役割の違いを説明してください。
「当初証拠金は、カウンターパーティがデフォルトした際のポジション再構築コストをあらかじめカバーする担保で、取引期間中はおおむね据え置かれます。変動証拠金は、日々の時価変動に応じてその時点の含み損益を相殺するように授受される担保で、値洗いのたびに残高が調整されます。当初証拠金が『将来のリスク』、変動証拠金が『現在の含み損益』に対応すると整理すると理解しやすくなります。」(30秒回答例)
深掘りでは「なぜ規制で証拠金授受が義務化されたか(2008年危機の教訓)」「担保の質(現金か国債か)による違い」が定番です。
よくある質問(FAQ)
Q. すべてのデリバティブ取引で証拠金規制の対象になりますか?
A. いいえ。清算集中義務の対象取引はCCPのルールに基づく証拠金体系が適用され、対象外の相対取引でも一定の想定元本規模を超える場合にのみ規制対象になります。小規模な事業会社の個別ヘッジ取引は対象外となることが多いです。
Q. 証拠金は現金以外でも差し入れられますか?
A. 契約(CSAやCCPのルール)で認められた適格担保(現金、国債等の高格付け債券)であれば現金以外でも差し入れ可能です。ただし担保の種類に応じてヘアカット(掛け目)が適用され、時価より低い評価額でカウントされるのが一般的です。
出典・参考(2026-07-25確認)
- 金融庁「非清算店頭デリバティブ取引の証拠金規制」関連資料 https://www.fsa.go.jp/
- 日本証券クリアリング機構(JSCC)証拠金制度概要 https://www.jpx.co.jp/jscc/
- Bank for International Settlements(BIS)・IOSCO 非清算デリバティブ証拠金規制フレームワーク https://www.bis.org/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。