この記事で分かること

  • 損益分岐点分析(CVP分析)の考え方と、損益分岐点売上高の計算式
  • 整数設例と図解による損益分岐点の求め方(数量ベース・金額ベース)
  • 安全余裕率・経営レバレッジまで含めた読み方
  • Excel(ゴールシーク)での実装と、事業計画・再生実務での使われ方

30秒で分かる定義

損益分岐点分析(Cost-Volume-Profit Analysis、CVP分析、読み方:そんえきぶんきてんぶんせき)とは、費用を変動費と固定費に分解し、「利益がゼロになる売上高(損益分岐点、BEP:Break-Even Point)」を求めて、売上・コスト・利益の関係を分析する管理会計の手法です。売上が損益分岐点をどれだけ上回っているかで事業の耐久力を、固定費の大きさで利益の変動の激しさを読み取れます。ブレークイーブン分析とも呼ばれます。

なぜ実務で重要なのか

経営企画・FP&Aでは、予算策定時に「最低いくら売れば赤字にならないか」を押さえ、価格改定や固定費投資の意思決定に使います。FAS・事業再生では、赤字企業の再建計画で「固定費をいくら削れば損益分岐点が現実的な売上水準まで下がるか」が計画の骨格になります。PE・M&Aでは、対象会社のコスト構造(固定費型か変動費型か)が景気後退時のダウンサイドを決めるため、投資判断の重要な視点です。スタートアップでも、黒字化に必要な売上規模の説明にそのまま使われます。

計算式(または仕組み)

貢献利益 = 売上高 − 変動費(貢献利益率 = 1 − 変動費率)
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 貢献利益率
損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷ 1個あたり貢献利益

ロジックは単純です。売上から変動費を引いた貢献利益(限界利益)が、まず固定費の回収に充てられ、固定費を回収し切った先の貢献利益がそのまま営業利益になります。したがって「固定費を貢献利益率で割り戻す」ことで、固定費をちょうど回収できる売上高が求まります。なお貢献利益は固変分解に基づく管理会計上の概念で、会計上の売上総利益(粗利)(売上原価には固定費も含まれる)とは異なる点に注意してください。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。1個1,000円の製品を販売する事業を考えます。

  • 販売単価:1,000円 / 1個あたり変動費:600円 → 1個あたり貢献利益:400円(貢献利益率40%)
  • 固定費:12百万円(1,200万円)

損益分岐点販売数量 = 12,000,000円 ÷ 400円 = 30,000個損益分岐点売上高 = 12,000,000円 ÷ 0.4 = 30百万円です(検算:30,000個×1,000円=30百万円で一致)。実際の販売数量が40,000個(売上40百万円)なら、営業利益は貢献利益16百万円(40,000個×400円)−固定費12百万円=4百万円となります。

損益分岐点図表(設例) 金額(百万円) 0 10 20 30 40 50 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 販売数量(個) 固定費 12百万円 売上高線 総費用線 損益分岐点 30,000個/売上高30百万円 損失領域 利益領域
図:損益分岐点図表。売上高線と総費用線(固定費12百万円+変動費率60%)の交点が損益分岐点(架空数値)

ここからさらに2つの指標が読めます。安全余裕率 =(40百万−30百万)÷ 40百万 = 25%:売上が25%落ちるまでは赤字にならない、という耐久力の指標です。また経営レバレッジ係数 = 貢献利益16百万 ÷ 営業利益4百万 = 4倍:売上が10%変動すると営業利益は約40%変動する、という利益の増幅率を示します。

PL・BS・CFへの影響

CVP分析は会計上のPLを固変分解で組み替えた「変動損益計算書(直接原価計算ベース)」の世界です。制度会計のPLとは固定製造費の扱いが異なるため、在庫が増減する期には両者の営業利益がずれることがあります。またBS・CFの観点では、損益分岐点と資金繰りの分岐点は別物です。減価償却費は固定費に含まれますが現金流出を伴わないため、「会計上は赤字でも現金は回る」水準(キャッシュベースの分岐点)は損益分岐点より低くなります。再生実務ではこの2段構えで下限ラインを設定します。

財務モデル・Excelでの使い方

事業計画モデルでは、コスト構造を固変分解した上で次のように組みます。

  • 入力:販売数量・単価・1個あたり変動費・固定費を独立したドライバーとして持つ
  • 計算:貢献利益率=1−変動費率損益分岐点売上高=固定費÷貢献利益率安全余裕率=(売上−BEP売上)÷売上 を出力行に置く
  • Excelのゴールシークで「営業利益=0になる販売数量」を逆算すれば、非線形な前提(数量割引など)が入ったモデルでも分岐点を求められます。手順はWhat-If分析の3兄弟を参照

固変分解の実務(勘定科目法での仕分け方、準変動費の扱い)と、コスト構造が利益変動に与える影響のモデル化はコスト構造とマージン予測で詳しく解説しています。

この用語をExcelで「組める」状態にする

固変分解から損益分岐点・安全余裕率・シナリオ別損益までを事業計画モデルとして一気通貫で組めるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「固定費と変動費はきれいに分けられる」→ 正しくは、多くの費用は準変動費・準固定費です。人件費は短期では固定的でも中期では調整可能、電力費は基本料金+従量部分の混合です。実務では勘定科目法で概括的に分解し、精度の限界を認識した上で使います。

誤解2:「損益分岐点は低いほど良い」→ 正しくは、コスト構造の選択はリスクとリターンのトレードオフです。固定費型(自社工場・正社員中心)は分岐点が高い代わりに、分岐点超過後の利益の伸びが大きく、変動費型(外注・変動報酬中心)はその逆です。どちらが優れているかは需要の安定性次第です。

誤解3:「CVP分析は単価・原価が一定でないと使えないから実務では無意味」→ 正しくは、線形の仮定は近似にすぎませんが、意思決定の出発点として十分機能します。値引きや規模の経済が重要な場合は、レンジを区切って分析するかモデルで非線形に組みます。

日本実務での扱い(日本基準・IFRS・開示)

CVP分析は管理会計の手法であり、日本基準・IFRSのいずれにも開示義務はありません(2026年7月時点)。制度会計との関係では、外部報告用のPLは全部原価計算に基づくため、CVP分析で使う直接原価計算ベースの利益とは在庫変動の分だけ差が出得る、という点だけ押さえておけば十分です。日本の実務では、金融機関や中小企業支援の現場で損益分岐点比率(損益分岐点売上高÷実際売上高)が収益性・安全性の診断指標として広く使われており、中小企業庁の経営支援施策や財務省「法人企業統計」ベースの分析でも損益分岐点の概念が参照されます。また、経営者向けの補助金・経営改善計画(例:405事業などの経営改善計画策定支援)でも、計画の妥当性説明に損益分岐点の議論が頻出します。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:固定費型のビジネスと変動費型のビジネスでは、景気後退時にどちらが危険ですか?
「固定費型です。売上が減っても費用が減らないため、損益分岐点を割り込むと損失が急拡大します。経営レバレッジ係数が高いほど、売上の変動が営業利益に増幅されて伝わります。逆に回復局面では固定費型のほうが利益の戻りも速いため、リスクが高い分リターンの振れも大きい構造です。投資判断では、対象会社のコスト構造と需要の安定性の組み合わせで評価します。」

深掘りでは「損益分岐点を下げる打ち手を優先順位つきで3つ」(固定費削減・貢献利益率改善・ミックス改善)が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 多品種を扱う会社では損益分岐点をどう計算しますか?
A. 製品ミックス(売上構成比)が一定と仮定し、加重平均の貢献利益率で全社の損益分岐点売上高を計算するのが標準的です。ミックスが大きく動く事業では、セグメント別に分けて計算しないと誤差が大きくなります。

Q. 目標利益を出すために必要な売上高はどう求めますか?
A. 分子に目標利益を加えて「(固定費+目標利益)÷貢献利益率」で求めます。本記事の設例なら、目標営業利益8百万円に必要な売上高は(12百万+8百万)÷0.4=50百万円(50,000個)です。

出典・参考(2026-07-20確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。