この記事で分かること
- 暗号資産の期末評価が「活発な市場」の有無でどう変わるか
- 時価評価する場合・取得原価で評価する場合の会計処理の違い
- 整数設例で評価益・評価損の計上額を検算
- 法人税法上の期末時価評価課税と、未実現益への課税という実務論点
30秒で分かる定義
暗号資産の期末評価(読み方:あんごうしさんのきまつひょうか)とは、企業が自ら保有する暗号資産について、決算日にどのような金額で評価するかを定めた会計処理です。暗号資産会計、仮想通貨の会計処理と呼ばれることもあります。活発な市場が存在する暗号資産は、期末の市場価格に基づいて評価し、取得原価との差額(評価損益)を当期の損益に計上します。活発な市場が存在しない暗号資産は取得原価に基づいて評価し、時価の上昇による評価益は計上しません。
なぜ実務で重要なのか
Web3・フィンテック企業の経理・監査対応において、暗号資産の期末評価は実務が固まりきっていない領域の一つで、監査人との協議事項になりやすいテーマです。PE・VCの投資先DDでは、暗号資産関連企業のBSに計上された暗号資産の評価方法(活発な市場の有無の判定根拠)を確認し、含み損益や評価変動リスクを把握します。会計上の評価損益と法人税法上の課税所得算入のタイミングが一致するとは限らない点も実務上の注意点です。
計算式(または仕組み)
活発な市場が存在しない暗号資産は取得原価で評価しますが、期末の処分見込価額が取得原価を下回る場合には、その下落分を評価損として計上し、帳簿価額を処分見込価額まで切り下げます(評価益は計上しません)。「活発な市場」に該当するかどうかは、取引所での取引数量・頻度、価格情報の入手可能性などから総合的に判定します。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。決算日時点で暗号資産A・Bを保有しているケースです。
暗号資産A(活発な市場あり):取得原価は100枚×50万円 = 5,000万円。期末の市場価格は1枚あたり65万円。期末評価額 = 100 × 65万円 = 6,500万円。評価益 = 6,500 − 5,000 = 1,500万円を当期の損益(営業外損益)に計上します。
暗号資産B(活発な市場なし):取得原価3,000万円、期末時点の処分見込価額2,200万円。処分見込価額が取得原価を下回るため、評価損 = 3,000 − 2,200 = 800万円を計上し、帳簿価額を2,200万円まで切り下げます。同じ「価格が変動した」という事実でも、活発な市場の有無によって評価益を計上できるかどうかが変わるのが、この会計処理の要点です。
PL・BS・CFへの影響
暗号資産Aの評価益1,500万円はPLの営業外収益として当期純利益を押し上げ、BS上の帳簿価額も6,500万円に更新されます。評価損は逆の動きになります。キャッシュフロー計算書(間接法)では、評価損益は現金の動きを伴わない非資金項目として調整されます。実務上の注意点は税務です。法人税法上、市場暗号資産は原則として期末の時価評価により評価損益を課税所得に算入するため、未実現の評価益であっても納税資金の確保が必要になることがあります。
財務モデル・Excelでの使い方
- 活発な市場がある暗号資産は、市場価格のシナリオ(ベース・強気・弱気)を仮定し、期末評価額と評価損益をPL・BSに連動させる
- 期末時価評価課税の対象になる場合、評価益に対応する法人税等のキャッシュアウトを別行で計算し、資金繰りへの影響を確認する
- 活発な市場がない暗号資産は、処分見込価額の下限シナリオで評価損リスクを感応度分析する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「暗号資産は保有していれば必ず時価評価される」→ 正しくは、活発な市場が存在しない暗号資産は取得原価で評価し、評価益は計上しません(評価損のみ計上)。「活発な市場」の判定根拠を確認することが実務上重要です。
誤解2:「含み益には課税されない」→ 正しくは、市場暗号資産は原則として期末時価評価により評価損益が課税所得に算入されるため、未実現の評価益でも納税負担が生じ得ます。自己発行し継続保有・譲渡制限付きの暗号資産等は対象外とする特例が税制改正で整備されています。
日本実務での扱い(2026年7月時点)
日本公認会計士協会は実務対応報告第38号「資金決済に関する法律における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」を公表しており、活発な市場の有無に応じた期末評価の考え方は同実務対応報告に基づきます。法人税法上、市場暗号資産の期末評価は時価法により評価損益を益金・損金に算入するのが原則ですが、自己発行かつ譲渡制限が付された暗号資産等、一定のものは期末時価評価課税の対象外とする特例が税制改正を通じて整備されてきています。IFRSには専用の会計基準が存在せず、IFRS解釈指針委員会(IFRIC)は通常IAS第38号「無形資産」またはIAS第2号「棚卸資産」(トレーディング目的)を適用するとの見解を示しています。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:暗号資産の期末評価が「活発な市場」の有無でどう変わるか説明してください。
「活発な市場が存在する暗号資産は、期末の市場価格で評価し、取得原価との差額を評価損益として当期の損益に計上します。値上がりも値下がりもそのまま損益に反映される点が特徴です。一方、活発な市場が存在しない暗号資産は取得原価で評価し、時価が上昇しても評価益は計上しません。ただし処分見込価額が取得原価を下回る場合は評価損のみを計上し、帳簿価額を切り下げます。つまり市場性のない暗号資産は、上振れは反映せず下振れのみ反映する保守的な評価方法が採られています。」
深掘りでは「未実現の評価益への課税が資金繰りに与える影響」「IFRSではどの基準を適用するか」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 「活発な市場」はどのように判定しますか?
A. 継続的に価格情報が公表され、十分な数量・頻度で取引が行われている取引所が存在するかどうかなどを総合的に勘案して判定します。企業が実際に取引を行っている暗号資産交換業者の取引実績が主な判断材料になります。
Q. 税務上、未実現の評価益にも課税されますか?
A. 活発な市場が存在する市場暗号資産については、原則として期末の時価評価による評価益が課税所得に算入されます。自己発行かつ譲渡制限付きの暗号資産など一定の要件を満たすものは対象外とする特例が設けられていますが、それ以外の通常の保有分は未実現であっても納税資金を確保しておく必要がある点に注意が必要です。
出典・参考(2026-07-21確認)
- 日本公認会計士協会「実務対応報告第38号 資金決済に関する法律における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」 https://jicpa.or.jp/
- 国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱い」(法人税法第61条 市場暗号資産の期末時価評価) https://www.nta.go.jp/
- IFRS Foundation IFRIC Agenda Decision「Holdings of Cryptocurrencies」 https://www.ifrs.org/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。