この記事で分かること
- 与信費用(クレジットコスト)の構成と、与信費用率の計算
- 全国銀行の損益項目(貸出金償却・貸倒引当金繰入額等)のどこに現れるか
- 与信費用の変動が銀行の利益を大きく動かすことを整数設例で確認
- 期待損失(PD×LGD×EAD)との関係と、銀行決算を読むときの注意点
30秒で分かる定義
与信費用(与信関係費用、クレジットコスト、Credit Cost、読み方:よしんひよう)とは、銀行等が貸出などの信用リスクに起因して計上する費用の合計です。一般に、貸出金償却、個別貸倒引当金繰入額、一般貸倒引当金繰入額、債権売却損等を足し、貸倒引当金戻入益や償却債権取立益を引いて表します。ただし「与信費用」は法令で一律に定義された科目ではなく、各行の決算説明資料で範囲が定められているため、比較する際は定義の確認が欠かせません。景気後退期に増え、銀行の利益を大きく動かします。
なぜ実務で重要なのか
貸出が主力の銀行では、与信費用が利益の変動要因の中心です。銀行・金融機関の分析(FIG担当のIB、PE、アナリスト)は、与信費用率の水準と先行きを見て収益力と自己資本への影響を評価します。融資担当は自行のポートフォリオの期待損失と照らします。借り手側の財務・経営企画は、銀行の与信方針が厳しくなる局面(与信費用が増える局面)の借換えリスクを考えます。銀行決算全体の読み方は銀行の財務諸表の特殊性で扱い、本ページは与信費用に絞ります。
計算式(ま たは仕組み)
全国銀行協会の勘定科目の説明によると、貸出金償却は貸出金等の直接償却額を個別貸倒引当金の目的使用による取崩相当額と相殺して計上するもの、貸倒引当金繰入額(その他経常費用)は繰入額から取崩額(目的使用分を除く)を引いて繰入超過の場合に計上し、取崩超過の場合はその他経常収益(貸倒引当金戻入益)に計上されます。償却債権取立益は、貸出金償却として処理した償却済債権を回収したときに計上されます。[1]
− 貸倒引当金戻入益 − 償却債権取立益
与信費用率 = 与信費用 ÷ 貸出金の平均残高(期中平均が一般的。各行の定義による)
損益計算書上は、業務純益が「業務粗利益 − 経費 − 一般貸倒引当金繰入額」で表され、個別貸倒引当金繰入額と貸出金償却は経常利益の算出で業務純益の後に差し引かれます。[2]そのため、与信費用は業務純益だけを見ても全体が分かりません。
| 項目 | 損益上の位置(全国銀行の様式) | 内容 |
|---|---|---|
| 一般貸倒引当金繰入額 | 業務純益の計算に含まれる | 貸倒実績率に基づく引当金の繰入額 |
| 個別貸倒引当金繰入額 | 業務純益の後(経常利益の計算) | 個別の債権に対する引当金の繰入額 |
| 貸出金償却 | 業務純益の後(経常利益の計算) | 貸出金等の直接償却額 |
| 貸倒引当金戻入益・償却債権取立益 | その他経常収益 | 引当金の取崩しによる戻り益、償却済債権の回収額 |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。貸出金の平均残高は5,000,000(5兆円)の銀行を想定します。
①与信費用:貸出金償却5,000、個別貸倒引当金繰入額20,000、一般貸倒引当金繰入額3,000、債権売却損2,000、貸倒引当金戻入益4,000、償却債権取立益1,000とすると、5,000 + 20,000 + 3,000 + 2,000 − 4,000 − 1,000 = 25,000。与信費用率は25,000 ÷ 5,000,000 = 0.50%(50bp)です。
②利益への影響:業務粗利益130,000、経費70,000なら、業務純益は130,000 − 70,000 − 3,000 = 57,000。経常利益は57,000 − 20,000 − 5,000 − 2,000 + 4,000 + 1,000 = 35,000です(株式等関係損益などその他の項目は考慮しない簡略化)。
③景気後退:与信費用が50,000(率1.00%)に倍増し、他の項目が変わらないとすると、経常利益は35,000 − (50,000 − 25,000) = 10,000で、35,000から約71.4%減ります。与信費用率が0.5ポイント上がっただけで、利益が大きく減ることが分かります。
④期待損失との関係:貸出1,000(百万円)のグループでPD1%、LGD40%なら、期待損失は1,000 × 1% × 40% = 4(0.40%)。景気後退でPDが2%になれば1,000 × 2% × 40% = 8(0.80%)です。期待損失の考え方はPD・LGD・EADで扱います。
投資判断への影響
与信費用は、貸出の増加、金利上昇、景気悪化、特定業種の不振などで変動します。平常時に低い与信費用率は、景気悪化時の水準を示しません。そのため、銀行のバリュエーションでは、景気循環をならした与信費用率(長期平均)で利益を評価します。ストレステストで与信費用が資本比率に与える影響は銀行のストレステストと資本計画に、与信費用率を含む主要KPIは銀行分析の主要KPI体系にまとめています。引当の考え方の海外比較は予想信用損失の引当は銀行の貸出を減らすかが参考になります。
財務モデル・Excelでの使い方
- 与信費用の構成表:項目ごとに符号を揃え(費用は+、戻入益・取立益は−)、
=SUM(範囲)で与信費用を出します。 - 率の計算:
=与信費用/AVERAGE(期首貸出残高,期末貸出残高)。分母を期中平均にするか期末にするかを明記します。 - シナリオ:平常時・後退時・長期平均の与信費用率を入力セルにして、
=貸出平均残高*与信費用率を経常利益の計算に連動させます。 - 期待損失との照合:
=PD*LGDを貸出ポートフォリオごとに計算し、実績の与信費用率と並べます。
この用語をExcelで
銀行の損益から与信費用と与信費用率を組み立て、景気後退シナリオで経常利益の感応度を見られるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「与信費用は貸倒れた金額のこと」→ 正しくは、引当金の繰入れも含みます。実際の貸倒れより先に、将来の損失見込みとして費用になる場合があります。
誤解2:「与信費用は必ず費用(プラス)になる」→ 正しくは、戻入益・取立益が上回るとマイナス(利益)になることがあります。景気が良く引当を取り崩す局面です。
確認ポイント:与信費用の範囲(一般貸倒引当金を含むか、債権売却損を含むか)、分母の貸出金(平均か期末か、貸出金のみかオフバランスを含むか)が各行で同じかを、決算説明資料の脚注で確かめます。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本の銀行の決算は、全国銀行協会が全国銀行財務諸表分析・決算の状況で公表し、一般貸倒引当金は「決算経理要領に定める合理的な方法により算出された貸倒実績率」により繰り入れた額と説明されています。[1]決算説明資料では、各行が「与信関係費用」「与信費用」「クレジットコスト」として独自の範囲で開示します。貸出先の債務者区分と引当の関係は債務者区分に整理しています。IFRSを適用する銀行では予想信用損失モデルが使われ、日本基準の一般貸倒引当金で用いる貸倒実績率等による方法とは引当の出方が異なる場合があります(日本基準でも、個別の債権には回収可能性に応じて個別貸倒引当金を計上します)。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:景気が悪くなると銀行の利益はなぜ大きく減るのですか。
「貸出先の信用悪化で引当や償却が増え、与信費用が増えるためです。貸出5兆円の銀行では、与信費用率が0.5%から1.0%に上がると費用が250億円増え、他の条件が同じなら経常利益が大きく減ります。」
深掘りの観点:与信費用率とPD×LGDの関係、引当の先行性、景気循環をならした水準の使い方。
よくある質問(F AQ)
Q. 与信費用率はどの水準が標準ですか?
A. 一律の標準はありません。銀行・時期・景気局面で異なるため、同じ銀行の長期の推移と他行との比較で見ます。定義と分母がそろっていることを確認してください。
Q. 不良債権比率と与信費用は同じですか?
A. 別の指標です。不良債権比率は貸出等のうち問題のある債権の残高比率で、与信費用は期中に損益として計上された費用です。債権の区分は金融再生法開示債権などの基準で整理されます。
出典・参考(2 026-11確認)
- 全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析(2024年度決算)勘定科目の説明」貸出金償却・貸倒引当金繰入額・償却債権取立益・一般貸倒引当金の項. https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/stats/year2_02/account2024_terminal/guidance_2.pdf(2026年11月参照)
- 全国銀行協会「全国銀行の2024年度決算の状況(単体ベース)」(2025年6月30日)損益状況の様式(業務純益=業務粗利益−経費−一般貸倒引当金繰入額). https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/stats/year2_01/cont_2024_terminal/stat0547.pdf(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。