この記事で分かること
- 優先株式のコストの定義と、なぜ税効果(タックスシールド)が効かないのか
- 普通株式・負債と合わせた3要素WACCへの組み込み方
- 整数設例による優先株コストとWACCの計算
- 面接で問われる「なぜ優先株コストは配当利回りで近似できるか」への答え方
30秒で分かる定義
優先株式のコスト(Cost of Preferred Stock、読み方:ゆうせんかぶしきのこすと)とは、優先株式に対して支払う年間配当を、優先株式の市場価格(または発行価格)で割って求める資本コストで、優先株式を発行している企業のWACCに組み込む際の3つ目のコンポーネントです。優先配当利回りとほぼ同義で使われます。
なぜ実務で重要なのか
FAS・IBのバリュエーション実務では、優先株式を発行している企業(金融機関の資本性優先株、事業会社の種類株式等)のWACCを算定する際、普通株式・負債の2要素だけでは資本構成を正しく表せません。PE・VCでは投資先が優先株式を発行している場合が多く、優先配当の負担がキャッシュフローと資本コストの両方に影響します。格付・信用分析では、優先株式が負債と資本のどちらの性質に近いか(ハイブリッド証券としての格付上の扱い)を判断する際の材料になります。
計算式:3要素WACCへの組み込み
E・P・Dはそれぞれ普通株式・優先株式・負債の(時価)金額、Vはその合計です。負債の支払利息は税務上損金算入できるためタックスシールドで税引後にしますが、優先配当は税務上の損金にならないため、優先株コストにはタックスシールドを掛けません。この非課税控除性が、優先株式が負債より資本コストとして割高になりやすい理由です。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。優先株式は1株当たり発行価格10,000円、年間配当率4%(固定)で発行されているとします。
- 普通株式(時価総額):60,000百万円 / 株主資本コスト:9%
- 優先株式(時価総額):10,000百万円 / 現在の市場価格:9,500円(発行時より下落)
- 負債(有利子負債):30,000百万円 / 負債コスト(税引前):3% / 実効税率:30%
優先株コスト = 一株当たり配当400円(10,000円×4%)÷ 市場価格9,500円 = 4.21%。負債コスト(税引後)= 3% ×(1-30%)= 2.1%。総資本V=60,000+10,000+30,000=100,000百万円。
WACC =(60,000/100,000)×9% +(10,000/100,000)×4.21% +(30,000/100,000)×2.1% = 5.4% + 0.42% + 0.63% = 6.45%となります。
投資判断への影響
優先株式の発行が多い企業では、優先株コストがWACCを押し上げる方向に働きます。特に金利上昇局面で優先株式の市場価格が下落すると(本設例のように発行価格10,000円から9,500円へ)、優先株コストは上昇し、DCF評価の割引率が上がって企業価値評価を押し下げます。優先株式には累積型・非累積型、参加型・非参加型といった条件差があり、条件が投資家に有利なほど(清算優先権が強いほど)、実務上は要求利回りが高くなる傾向があります。
財務モデル・Excelでの使い方
WACCシートに優先株式の行を追加し、負債・優先株・普通株の3段構成にします。
- 優先株コストは市場価格が取得できる場合は市場価格ベース、非上場の優先株式は発行条件(配当率)をそのまま使う
- タックスシールドは負債コストの行にのみ適用し、優先株コストの行には適用しないことをコメントで明示する
- 資本構成比率(E/V・P/V・D/V)は時価ベースで統一し、優先株式の時価が入手できない場合は発行価格で代替する旨を前提欄に記載する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「優先株式も負債と同じようにタックスシールドを掛ける」→ 正しくは、優先配当は損金不算入のためタックスシールドは適用しません。
誤解2:「優先株コストは発行時の配当率をそのまま使えばよい」→ 正しくは、市場価格が発行価格から乖離している場合は市場価格ベースで再計算します。本設例のように金利環境が変われば要求利回りも変わります。
実務家はさらに、優先株式が転換可能(普通株式への転換権付き)かどうかを確認します。転換可能性が高い優先株式は、単純な配当利回りだけでなくオプション価値も含めて評価する必要があります。
日本実務での扱い
(2026年7月時点)日本では上場企業による優先株式(種類株式)の発行は米国と比べて限定的ですが、金融機関の自己資本増強や事業承継目的の種類株式発行、VC投資での優先株式(優先分配権付き種類株式)は広く使われています。VC・スタートアップ投資での優先株式評価は、単純な配当利回りではなくVCタームシートで扱う清算優先権・参加権の設計が中心になり、本記事のコスト計算はむしろ上場企業や金融機関の資本性優先株の文脈で使われます。米国では優先株式(Preferred Stock)が資金調達手段としてより一般的で、格付機関がハイブリッド証券として資本性を一部認定する実務も確立しています。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:優先株式のコストはなぜ負債コストのようにタックスシールドを適用しないのですか。
「負債の支払利息は税務上損金算入できるため、税引後の実質コストが下がります。一方、優先配当は普通株式の配当と同様に利益処分(損金不算入)として扱われるため、税負担を軽減する効果がなく、タックスシールドを掛けずにそのままWACCに算入します。」
深掘りでは「優先株式は資本と負債のどちらに近いか」「転換権付き優先株式のコストはどう考えるか」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 優先株コストは普通株式の株主資本コストより高いですか、低いですか。
A. 一般に優先株式は普通株式より弁済順位が優先されリスクが低いため、株主資本コストより低くなるのが通常です。ただし負債よりは弁済順位が劣後するため、負債コストよりは高くなります。
Q. 非上場企業の優先株コストはどう推計しますか?
A. 市場価格が存在しないため、発行条件の配当率をそのまま使うか、類似の優先株式発行事例の利回りを参照して推計します。
出典・参考(2026-07-25確認)
- EDINET(有価証券報告書) https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/
- 金融庁「自己資本比率規制」関連資料 https://www.fsa.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。