この記事で分かること

  • キャッシュEPS(Cash EPS)の定義と、通常のEPSとの違い
  • 減価償却費等の非現金項目を足し戻す計算手順と、整数設例での検算
  • 不動産・インフラ等D&Aが重い業種でキャッシュEPSが重視される理由
  • 日本基準ののれん償却がキャッシュEPSに与える影響

30秒で分かる定義

キャッシュEPS(Cash EPS、読み方:きゃっしゅいーぴーえす)とは、当期純利益に減価償却費など現金の流出を伴わない費用を足し戻した上で、発行済株式数(期中平均)で割った、キャッシュベースの1株当たり利益です。Cash Earnings Per Shareの略で、現金ベースEPS・キャッシュベース1株利益とも呼ばれます。通常のEPS(1株当たり利益)は会計上の利益を株数で割ったものですが、減価償却費が大きい業種では会計上の利益がキャッシュの創出力を過小に示すことがあり、その調整役として使われます。

なぜ実務で重要なのか

不動産・インフラ・資本集約型製造業のエクイティリサーチでは、多額の減価償却費が利益を圧縮する一方、実際のキャッシュ創出力はそれほど落ちていないケースが多く、キャッシュEPSはPERの実力ベースの目安として使われる指標です。PE・IBでは、設備投資が重い対象会社の配当余力・返済原資を見る際の補助指標になります。クレジット分析でも、償却負担の大きい会社の実質的な収益力を評価する材料になります。ただし正式な会計基準の指標ではなく、アナリストや投資家が独自に用いる分析上の指標である点に注意が必要です。

計算式

キャッシュEPS =(当期純利益 + 減価償却費等の非現金項目)÷ 発行済株式数(期中平均)

足し戻す非現金項目の中心は有形固定資産の減価償却費と無形固定資産の償却費(のれん償却費を含む)です。分母の株式数は通常のEPSと同じく期中平均を使い、潜在株式を考慮する場合は希薄化後EPSと同様の調整を行います。キャッシュEPSはフリーキャッシュフロー(FCF)とは異なる点に注意が必要です。設備投資額や運転資本の増減、税金の現金支払額までは反映しないため、あくまで「純利益に非現金の減価償却を足し戻しただけ」の簡易的なキャッシュベース指標です。

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:百万円)。当期純利益500、減価償却費200、発行済株式数(期中平均)100百万株の会社を考えます。

公表EPS = 500 ÷ 100 = 5.00円。キャッシュ利益 = 500 + 200 = 700百万円。キャッシュEPS = 700 ÷ 100 = 7.00円となり、通常のEPSより2.00円高い水準です。この差は、減価償却費200百万円が会計上は費用として利益を圧縮する一方、現金の流出を伴わないために生じています。減価償却費の対売上高比率が高い業種ほど、公表EPSとキャッシュEPSの差は拡大します。

投資判断への影響

キャッシュEPSを使う際の典型的な用途は、償却負担の重い会社同士を比較する場面です。同じ収益力でも会計方針(耐用年数の設定等)が異なれば公表EPSは変わり得ますが、キャッシュEPSはその差の一部を平準化できます。もっとも、減価償却費は将来の設備更新投資(維持更新投資)の必要性を反映した費用でもあるため、キャッシュEPSが高いからといって株主還元余力が同水準で高いとは限りません。実務では、キャッシュEPSと合わせて維持更新投資の水準を必ず確認します。

財務モデル・Excelでの使い方

  • PLの当期純利益行の下に、CFの減価償却費行を=CF!減価償却費でリンクする形で参照する
  • =当期純利益+減価償却費でキャッシュ利益を計算し、=キャッシュ利益/発行済株式数でキャッシュEPSを算出する
  • のれん償却費がある場合は減価償却費の行に含めるか別行にするかを明示し、比較対象企業(IFRS採用でのれん非償却の会社等)との整合性を確認する

この用語をExcelで「組める」状態にする

PLとCFの減価償却費をリンクさせ、キャッシュEPSを通常のEPSと並べて自動計算できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「キャッシュEPS=FCF(フリーキャッシュフロー)÷株数」→ 正しくは、キャッシュEPSは減価償却費のみを足し戻す簡易指標で、設備投資額や運転資本の増減は反映しません。FCF per shareとは別の概念です。

誤解2:「キャッシュEPSは常にEPSより高い」→ 正しくは、非現金の利益項目(評価益等)が大きい会社では、その分を差し引く必要があり、単純な足し戻しだけでは実態を表さないことがあります。

実務家はさらに、足し戻した減価償却費の水準が同業他社と比べて異様に大きくないか、のれん償却の有無で会計基準間の比較が歪んでいないかを確認します。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

キャッシュEPSは日本基準・IFRSいずれにも会計基準上の定義がない分析指標です(2026年8月時点)。日本基準はのれんを規則的に償却する一方、IFRSではのれんを償却せず減損テストのみ行うため、日本基準採用企業のキャッシュEPSはのれん償却費を足し戻すかどうかで水準が大きく変わり、IFRS採用企業との比較には注意が必要です。また、日本のJ-REIT(不動産投資信託)実務では、キャッシュEPSに類する概念として、減価償却費等を加味した分配可能利益をもとにした1口当たり分配金(DPU)が重視され、東京証券取引所のJ-REIT市場で開示・比較されています。一般事業会社のキャッシュEPSはあくまで分析者側の任意の調整指標であり、開示書類上の正式な利益区分ではない点は共通して留意すべきです。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:キャッシュEPSが不動産・インフラ業種で重視される理由を説明してください。
「これらの業種は保有資産に対する減価償却費が大きく、会計上の純利益・EPSが実際のキャッシュ創出力を過小に示しやすいためです。キャッシュEPSは減価償却費を足し戻すことでこの歪みを補正し、業種内・企業間の実力比較をしやすくします。ただし減価償却費は将来の設備更新投資の裏付けでもあるため、キャッシュEPSの高さだけで株主還元余力を判断すべきではありません。」(30秒回答例)

深掘りでは「FCF per shareとの違い」「のれん償却がある会社とない会社をどう比較するか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. キャッシュEPSとJ-REITのFFO(Funds From Operations)は同じですか?
A. 発想は近いですが同じではありません。FFOは不動産投資信託の実務で定義が確立された指標で、純利益に減価償却費を足し戻し、さらに不動産売却損益等を除く調整を行います。一般事業会社のキャッシュEPSにはそこまで確立された定義はありません。

Q. キャッシュEPSが高いほど株は割安と言えますか?
A. 一概には言えません。株価をキャッシュEPSで割った簡易的な倍率は参考にはなりますが、維持更新投資の水準や負債水準を踏まえずに割安・割高を判断するのは危険です。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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