この記事で分かること

  • CAD(分配可能キャッシュフロー)の定義と、FFO・AFFOとの関係
  • 維持的資本的支出(メンテナンスCapex)を控除する理由
  • 整数設例による分配カバー率(Payout Ratio)の検算方法
  • J-REIT実務における対応概念と開示の扱い(2026年8月時点)

30秒で分かる定義

CAD(Cash Available for Distribution、分配可能キャッシュフロー、略称CAD)とは、REIT等が投資家(ユニットホルダー)に分配可能な現金水準を示す指標です。NAREIT(全米REIT協会)が標準的な定義を示すFFO(Funds From Operations)に、さらに必須の維持的資本的支出(建物・設備を現状水準に維持するためのCapex)等の調整を加え、実際に分配へ回せる現金に近づけたものです。米国REIT分析の実務ではAFFO(調整後FFO)とほぼ同じ目的で使われる近縁指標で、FFOと異なりNAREIT等による単一の標準定義はなく、REIT・アナリストごとに算定の細部が異なる点に注意が必要です。

なぜ実務で重要なのか

REITアナリスト・株式運用担当者は、REITの分配金(配当)が持続可能かどうかを評価する際、会計上の純利益やFFOだけでなく、Capex負担まで反映したAFFO・CADベースで判断します。REITのIR・財務担当者は、分配方針の説明でCADの考え方を用いることがあります。FFOは減価償却費を足し戻しますが、老朽化した資産を維持するための実際のキャッシュアウト(Capex)は控除しないため、FFOが黒字でも分配原資が不足するケースを見抜くには、CAD・AFFOベースの分析が欠かせません。

計算式(または仕組み)

CAD = FFO − 維持的資本的支出(メンテナンスCapex) ± 一時的損益等の調整

FFOは「当期純利益+減価償却費−不動産売却益(+売却損)」という形で、不動産特有の会計上の減価償却の影響を除いた運用収益を示します。CADはそこからさらに、資産価値を維持するために実際に支出が必要なCapex(新規取得や増床のための成長投資Capexとは区別)を控除することで、より現金の実態に近い分配原資を示します。

整数設例で確認する

設例(架空数値、単位:百万円)。REIT G(架空)の当期の数値です。

  • 当期純利益:1,000 / 減価償却費:400 / 資産売却益(非経常、控除):−50
  • FFO=1,000+400−50=1,350
  • 維持的資本的支出:150 / 一時的な保険金収入(非経常、控除):30
  • CAD=1,350−150−30=1,170

このREITが当期に分配した金額が1,100だった場合、分配カバー率=1,100÷1,170≒94.0%となり、分配額がCADの範囲内に収まっているため持続可能な水準といえます。仮に分配額がCADを上回る(カバー率100%超)場合、その超過分は資産売却や借入等、経常的な運用収益以外の原資で賄われている可能性があり、注意が必要です。

投資判断への影響

REIT投資の分配持続可能性を評価する際、会計上の純利益やFFOではなくCAD/AFFOベースの分配カバー率を見るのが実務上の基本です。FFOはCapexを控除しないため、老朽化資産を多く抱えるREITではFFOベースの利益は健全に見えても、実際にはCapex負担で分配原資が不足していることがあります。複数期間のCAD推移を確認し、Capex負担が一時的か構造的かを見極めることが、投資判断の精度を左右します。

財務モデル・Excelでの使い方

REITモデルのFFOタブに、CADへのブリッジ行を追加します。

  • Capexスケジュールとの連動:維持的資本的支出の見積り(GAVに対する一定比率や、㎡あたりの単価等)を別シートのCapexスケジュールから参照します。
  • 分配カバー率の自動計算:想定分配額をCADで割ったカバー率を算出し、100%を超えるとフラグが立つ条件付き書式を組み込む設計です。
  • 成長Capexとの区別:新規取得・増床のための成長投資は別行で管理し、維持的Capexと混同しないようにします。

この用語をExcelで「組める」状態にする

FFOからCADへのブリッジと分配カバー率の自動計算を組み込んだREIT分析シートを作れるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

  • 誤解1「CADとAFFOは全く別の指標」→ 正しくは、実務上ほぼ同じ目的で使われる近縁指標で、アナリスト・REITごとに何を控除するかの定義の細部が異なります。
  • 誤解2「FFOが黒字なら分配は持続可能」→ 正しくは、FFOは維持的Capexを控除していないため、Capex負担が重い資産(老朽化物件等)ではFFO黒字でもCADベースでは分配原資が不足し得ます。
  • 確認ポイント:①開示資料での維持的Capexの定義(成長Capexとの区別)、②CAD算定に一時的項目がどこまで反映されているか、③複数期間のCAD推移からCapex負担の傾向を確認すること。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)米国REIT分析で使われるCAD/AFFOに相当する開示指標は、J-REITでは制度上義務付けられていません。J-REIT(投資法人)は投資信託及び投資法人に関する法律に基づき運営され、税務上の導管性要件(配当可能利益の90%超分配等)を満たすことで法人税課税を実質的に回避する仕組みになっています。日本の実務では、内部留保の取り崩しや減価償却費相当額を分配する「利益超過分配金」という制度があり、米国のReturn of Capitalに相当します。J-REITの決算短信・運用報告書ではFFO・AFFO・DPUの開示例が増えていますが、「CAD」という用語での開示は一般的ではなく、投資家はFFO・AFFOの実績とCapex実績を突き合わせて分配の持続可能性を独自に評価するのが実務です。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:J-REITの分配金の持続可能性を評価する際、FFOではなくAFFOやCADを見るべき理由を説明してください。
「FFOは減価償却費を足し戻すため会計上の利益より実態に近い運用キャッシュフローを示しますが、資産価値を維持するための実際の資本的支出(維持Capex)は控除していません。AFFOやCADはそこからさらに維持Capexを控除するため、実際に分配へ回せる現金水準により近く、分配の持続可能性を判断する上ではFFOよりも保守的で実態に即した指標になります。」

深掘りでは「維持的Capexと成長Capexをどう区別するか」が定番です。

よくある質問(FAQ)

Q. CADとAFFOの違いは何ですか?
A. 目的はほぼ同じですが、AFFOはCADに加えて賃料の直線化調整(ストレートライン調整)やリーシングコストの償却調整等を含める場合が多く、定義の粒度が異なることがあります。統一された基準がないため、比較の際は算定方法の注記を確認する必要があります。

Q. CADがマイナスになることはありますか?
A. 大規模修繕等でCapexが一時的に集中する期はマイナスになり得ます。単年で判断せず、複数期間の平均で評価するのが実務です。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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