この記事で分かること

  • 職種×工程の代替可能性マップ——投資銀行(IBD)・PE・FAS(FDD/バリュエーション)・FP&A/経営企画の工程を「A 置き換わりつつある/B 速くなるが人が確定/C 当面は人」の3区分で判定し、そう判定できる根拠を4つの軸で示します
  • 「残る判断」の正体を①責任を引き受ける②前提を疑う③関係性の中で決める④実査、の4つに分解し、なぜAIの仕組み上そこが残るのかを説明します
  • 架空のFASチームの設例で、1案件の工程別工数が200時間→140時間に減る一方、判断系の工数は85→84時間とほぼ横ばいになることを検算します(作業系の構成比 57.5%→40.0%)
  • 作業が減ると若手の学習機会が減る問題への、組織側5つ・個人側5つの対応と、自己点検チェックリスト12項目

結論:職種ではなく工程で分かれる。減るのは作業量で、判断の総量はあまり減らない

「AIで金融の仕事はなくなるのか」という問いは、そのままでは答えられません。同じ職種の中に、置き換わりつつある工程と、当面は人が担う工程が同居しているからです。分解しなければ判定できません。

本記事の結論は3つです。第一に、判定の単位は職種ではなく工程です。「IBDはどうなるか」ではなく「コンプスの一次抽出はどうなるか」「ストーリーの決定はどうなるか」で分けます。第二に、減るのは作業系の工数であり、判断系の工数はあまり減りません。後述する設例では、1案件の総工数が200時間から140時間へ3割減る一方、判断に使う時間は85時間から84時間へほぼ横ばいでした。第三に、したがって現実に起きやすいのは「人が要らなくなる」ことではなく、入口の工程が薄くなり、若手が判断力を身につける経路が細くなることです。ここに手当てをするかどうかが分かれ目になります。

なお本記事はキャリアへの影響に絞ります。各業務でAIを実際にどう動かすかは経営企画・FP&Aの生成AI活用M&A・デューデリジェンスでの生成AI活用AIでPE投資仮説の叩き台と反証点を出すエクイティリサーチでAIをどこまで使えるかに手順があります。任せ方の総論は生成AI×ファイナンス実務、各職種そのものの解説はM&A仲介・FAS・IBD・PEの違いを参照してください。用語としての生成AIの定義もあわせてご確認ください。

職種×工程の代替可能性マップ

まず全体像です。4職種の代表的な工程を、色だけでなくA・B・Cの記号でも示す3区分に振り分けました。

  • A:置き換わりつつある——AIが一次成果物を作り、人はそれを検収する形に移りつつある工程
  • B:速くなるが人が確定——AIは下書き・候補出しまで。最終的な数値や採否は人が決める工程
  • C:当面は人——AIに担わせにくい、あるいは担わせるべきでない工程
職種×工程の代替可能性マップ|A 置き換わる/B 人が確定/C 当面は人 A 置き換わりつつある B 速くなるが人が確定 C 当面は人 投資銀行 (IBD) A|公開情報の収集・要約 コンプス候補の一次抽出 議事メモ・翻訳 B|モデル計算式の下書き 資料の初稿・図表案 前提の妥当性は人が確定 C|ストーリーの決定 顧客への対外説明 執行時の関係者調整 PE (投資・投資後) A|候補企業リストの整形 公開資料からの論点抽出 B|投資仮説の叩き台 LBOモデルの下書き IC資料の初稿 C|投資決定と署名 価格・条件の交渉 投資後の経営関与 FAS (FDD・評価) A|TB・月次データの整形 資料依頼リストの作成 レポート定型部の初稿 B|異常値・調整候補の検出 分析コメントの下書き C|調整項目の採否判断 マネジメントインタビュー 結論の対外説明 FP&A ・経営企画 A|実績データの集計・突合 差異一覧の作成 資料の体裁づくり B|差異要因コメント一次案 予算前提の感度計算 C|要因の特定(現場確認) 予算前提の決定 経営会議での合意形成 ※判定は工程の性質から本記事が導いたものです。実測に基づくものではありません。所属組織の実務に合わせて置き換えてください。
図1:職種×工程の代替可能性マップ。区分は色に加えてA/B/Cの記号でも示している。

なぜそう判定できるのか:4つの判定軸

上の振り分けは印象で決めたものではありません。次の4つの問いに答えると、工程はほぼ機械的にA・B・Cのどれかに落ちます(この4軸は本記事が整理したフレームです)。

問い「はい」のときの含意
①閉じているか正解が、渡した資料の内側に書いてあるかAに寄る。要約・抽出・整形・翻訳はここに当たる
②署名が要るかその成果物に誰かの名前・押印・稟議が付くかC(または最終確定は人)。責任は移転できない
③入力が存在するか必要な情報が、そもそも文書になっているか文書化されていなければC。入力できないものは処理もできない
④一意の正解があるか前提を選べば答えが一つに決まるか前提の選択自体が争点ならB。計算は任せ、前提は人が決める

この4軸は、公表資料で確認できる導入実態とも整合します。日本銀行が取引先金融機関153先を対象に実施した2025年度アンケート(回収率100%)では、生成AIの利用分野として増加が確認されたのは「文書の要約・校正・翻訳・報告書などの文書作成」や「規程などの情報検索」といった業務効率化につながる分野だと報告されています。いずれも軸①「正解が資料の内側にある」工程です。

ただしこの調査の対象は日本銀行の取引先金融機関(大手行10先、地方銀行61先、第二地方銀行36先、信用金庫19先、その他27先)であり、投資銀行業務・PE・FASの現場を対象としたものではありません。銀行での傾向をそのままIBDやPEに当てはめることはできません。以下の職種別判定は、この一般的傾向と4軸から導いた編集部の判定であり、実測ではない点をお断りしておきます。

投資銀行(IBD)

工程判定そう判定する根拠
業界・企業の公開情報リサーチA軸①。有価証券報告書等という「答えが書いてある文書」からの抽出。ただし出典の突合は人が行う
類似会社の候補出しと数値抽出A→B候補列挙と数値の拾い出しは軸①。どの会社を最終的に残すかは軸④の前提選択で、人が決める
財務モデルの構築B計算式やシート構造の下書きは速くなる。成長率・マージン・資本構成の前提は軸④で人が確定
提案ストーリーの決定C軸③④。相手の経営陣が何を気にしているかは文書化されていない。論点の選択自体が提案価値
顧客折衝・執行時の調整C軸②③。相手の反応で最適解が変わり、結果に責任が発生する

PE

工程判定そう判定する根拠
ソーシングのロングリスト整形A軸①。開示資料等から条件に合う先を並べる作業。ただし網羅性の確認は人が行う
投資仮説の叩き台づくりB論点の列挙と反証点の洗い出しは速くなる。どの仮説に賭けるかは軸④。手順は前掲のPE投資仮説の記事へ委譲
DDの論点設定と現場確認B+C論点リストはB。実査と経営陣面談は軸③で、入力自体が現地にしか存在しない
価格・条件の交渉C軸③。相手の出方で解が動く。経緯や力関係は資料に書かれない
投資判断と投資後の経営関与C軸②。投資委員会の決議と署名は責任の引き受けそのもの。取締役としての関与も同じ

FAS(財務DD・バリュエーション)

工程判定そう判定する根拠
試算表・月次データの整形A軸①。形式変換に近く正解が入力側にある。合計値の突合という検算手段があるのも大きい
異常値・調整候補の検出B「拾う」は速くなるが、拾い漏れの有無は人が確認する。検出は網羅性を保証しない(軸①の限界)
調整項目の採否判断(正常収益力)C軸④。一時的か経常的かは実態の解釈であり、同じ数字でも案件ごとに結論が変わる
レポートの定型部分の作成A→B章立てや記述の型は下書きできる。数値と結論の整合は人が確定する
マネジメントインタビューと結論説明C軸②③。相手の歯切れの悪さから追加質問を組み立てる工程で、入力が事前に存在しない

FP&A・経営企画

工程判定そう判定する根拠
実績データの集計・予実差異の算出A軸①。計算規則が決まっており、検算もできる
差異要因コメントの一次案B言語化は下書きできる。ただし数値の動きは相関であって理由ではありません
要因の特定(現場ヒアリング)C軸③。「大口顧客の担当者が異動した」は基幹システムのどこにも入っていない情報
予算前提の決定C軸④。前提の置き方は経営の意思であり、計算の結論ではない
経営会議での説明と合意形成C軸②③。数字を通すのではなく反対している人がなぜ反対しているかを扱う工程

公認会計士業界でも近い整理が示されています。日本公認会計士協会のテクノロジー委員会研究文書第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」(2024年8月13日)は、AIが「できる・できない」という軸と「すべき・すべきでない」という軸の2軸で考察できるとし、単純作業や補助的な役割であれば利用しやすい一方、監査上の判断を伴う領域や現状のAIでは説明が困難な領域については利用が難しいと想定されると記載しています。加えて「AIを利用した場合であっても、監査人の責任は軽減されるものではない」とも明記されています。これは監査についての整理でありそのままFASやIBDに適用されるものではありませんが、「できる/すべき」を分ける発想は職種を超えて使えます。

工程を分解したあとに問題になるのは、自分がC区分の工程をどれだけ担えるかです。財務モデルの読み書きやDDの論点設定を、実際の課題で試して現在地を測りたい場合はAssessmentという選択肢があります(Pro はゴールド/プラチナプランが対象、Elite はプラチナプラン限定です)。

「残る判断」の正体を4つに分解する

「判断は人が残る」という言い方は、それ自体では何も説明していません。何が判断なのかを分けないと鍛えようがないからです。本記事は残る判断を4種類に分け、なぜAIの仕組み上そこが残るのかを添えます。

「残る判断」の4分類|正解が資料の外側にあるもの ① 責任を引き受ける 署名/稟議/対外説明 AIは損失を負う主体になれません。責任は 人か法人に帰属しないと制度が動きません。 ② 前提を疑う 数字の外にある事情に気づく AIは渡した資料の中で最も整合的な説明を 作ります。資料が実態と違うことは分かりません。 ③ 関係性の中で決める 交渉/社内合意/反対者への対応 相手の反応で最適解が変わります。経緯や 力関係は、どこにも文書化されていません。 ④ 実査 現場を見る/経営陣に会う/在庫を数える 入力が現地にしか存在しません。見に行か なければ、そもそもデータが生まれません。 共通点:正解が「渡した資料の外側」にある
図2:残る判断の4分類。いずれも、入力資料の内側に答えが存在しない点で共通する。

① 責任を引き受けること

投資委員会の決議、監査報告書への署名、取締役会での説明、稟議の起案と承認。共通するのは間違っていたときに不利益を負う主体が要ることです。生成AIは学習した膨大なテキストから次に来る語を確率的に選んで文章を作る仕組みで動いており、結果に責任を負う構造を持っていません。前掲のJICPA研究文書が「AIを利用した場合であっても、監査人の責任は軽減されるものではない」と明記しているのは、この構造上の理由によると考えられます。

これは制度の話であり、AIの性能が上がれば変わる種類のものではありません。誰が責任を引き受けるかを決めているのは技術ではなく制度だからです。署名・決議・対外説明が付く工程は、性能向上とは独立に人の側に残ります。

② 前提を疑うこと

実務で価値が出るのは、しばしば「この数字はおかしい」と気づくところです。前期の売上の大口案件が一過性だった、在庫が実際にはほぼ動いていない、契約書のない口頭合意で価格が決まっている——こうした事情は、渡した資料のどこにも書かれていないことがあります。

AIは、渡された資料の中で最も整合的に見える説明を組み立てます。強力な能力ですが、裏返せば「資料そのものが実態を写していない」場合には、その説明がむしろ誤りを補強します。金融庁が2026年3月3日に公表したAIディスカッションペーパー(第1.1版)にも、ハルシネーションがゼロにはならない前提で人間によるレビュープロセスを設定している先が多いこと、RAG等で対策を施した場合でも人の判断が必要との認識を有する金融機関等が多く抑制的な利用が中心である旨が記載されています(同ペーパーは法令ではなく初期的な論点整理です)。

③ 関係性の中で決めること

価格交渉、社内の合意形成、反対している役員への対応。ここでの正解は、相手が次に何を言うかによって変わります。過去の経緯、誰と誰が揉めたか、どの部門長の顔を立てる必要があるかといった情報は、原則として文書化されていません。入力が存在しない以上、処理のしようがありません

④ 実査

工場に行く、倉庫の在庫を見る、経営者に会って話を聞く。ここは代替の議論以前に、行かなければデータが発生しません。この工程は席の数だけしか経験機会がなく、だからこそ若手にとっては最も奪われにくく、最も手を挙げる価値のある工程です。

工数はどう動くか:架空FASチームの設例

抽象論を数字にします。架空の「日本橋トランザクション・アドバイザリー」のFDDチーム(3名)が1件の財務デューデリジェンスを行う場合です。単位は時間、1人日=8時間。計算手順を示すための仮設例であり、実測値ではありません。

工程AI併用前AI併用後増減系統
資料収集・依頼リスト管理2012△8(△40.0%)作業系
データ整形(試算表・月次PL)5020△30(△60.0%)作業系
レポート作成(ドラフト)4524△21(△46.7%)作業系
分析(調整項目・運転資本の正常化)4536△9(△20.0%)判断系
レビュー・品質管理2533+8(+32.0%)判断系
クライアント協議・マネジメントインタビュー1515±0判断系
合計200140△60(△30.0%)25.0人日→17.5人日

検算。AI併用前は 20+50+45+45+25+15=200時間。AI併用後は 12+20+24+36+33+15=140時間。増減の合計は △8△30△21△9+8±0=△60時間で、200-140=60と一致します。人日換算は 200÷8=25.0人日、140÷8=17.5人日です。

注目すべきはレビュー・品質管理だけが増えている点です。AIが作った一次成果物はそのまま出せず、誰かが数値と記述の整合を確認する必要があります。この増分を勘定に入れない工数見積りは楽観的すぎます。

工数構成の変化|1案件あたり(架空FASチームの設例) AI併用前 200時間 25.0人日 作業系 115時間 57.5% 判断系 85時間 42.5% AI併用後 140時間 17.5人日 作業系 56時間 40.0% 判断系 84時間 60.0% 0 50 100 150 200(時間) 総工数は 200→140時間(△60時間・△30.0%)。一方で判断系は 85→84時間(△1時間)とほぼ横ばいです。 減っているのは作業系 115→56時間(△59時間)です。構成比では 57.5%→40.0%。 レビュー・品質管理の工程だけは 25→33時間(+8時間)に増えています
図3:工数構成の変化。棒の長さは時間数に比例。数値は上表の設例と一致する。

系統別に見ると何が起きているか

作業系(資料収集+データ整形+レポート作成)は 20+50+45=115時間から 12+20+24=56時間へ59時間減り、構成比は 115÷200=57.5% から 56÷140=40.0% になりました。判断系(分析+レビュー+クライアント協議)は 45+25+15=85時間から 36+33+15=84時間へ1時間しか減らず、構成比は 85÷200=42.5% から 84÷140=60.0% に上がっています。つまりこの設例で起きているのは作業の削減であって、判断の削減ではありません

浮いた60時間はどこへ行くのか

ここを「単純に人が減る」と読むのは早すぎます。年間稼働をチーム3名×1,400時間=4,200時間とすると、行き先は少なくとも3通りあります。以下は選択肢の整理であり、どれが起きるかの予測ではありません。

  1. 案件数を増やす:4,200÷200=21件だったものが、4,200÷140=30件になります(+9件、+42.9%)。人員は同じで、扱う件数が増える形です。
  2. 1件あたりを深くする:工数は200時間のまま、浮いた60時間を追加のシナリオ分析や現地確認、サンプル拡大に充てます。
  3. 投入工数を減らす:同じ21件を 140×21=2,940時間で実施し、4,200-2,940=1,260時間(=30.0%)の余力が出ます。

3番目の場合でも、判断系の総量は 85×21=1,785時間から 84×21=1,764時間へ、21時間(△1.2%)しか減りません。余力の大半は作業系から出ています。言えるのは、需要が一定なら「作業だけを担っていた工数」が細るということであって、判断を担える人の必要量が同じ比率で減るということではありません。どの選択肢を取るかは各社の受注状況と事業計画次第であり、本記事はその予測を行いません。

作業が減ると、若手はどこで判断力を身につけるのか

設例で作業系が115時間から56時間に減ったということは、従来そこに埋め込まれていた学習機会が59時間分減ったということでもあります。試算表を自分で組み替えているうちに勘定科目の癖が見え、レポートを書いているうちに「この書き方だとレビューで必ず突っ込まれる」と分かる。この経路は、意図せず機能していた教育装置でした。放置すれば、判断だけを求められるのに判断を育てる工程がない、という状態が起こりえます。

金融庁のAIディスカッションペーパーにも、AIの導入が進む中で金融機関等に求められる人材も大きく変容していく可能性があり、重要な経営課題の一つと認識して人材育成や社内教育に取り組んでいくことが期待される、と記載されています。以下は、その前提で本記事が提案する具体策です。

組織側の対応(5つ)

  1. 増えたレビュー工数を、若手の訓練枠として設計する。設例のレビュー+8時間を上位者だけの時間にせず、若手が一次レビュー、上位者が二次レビューという二段構えにします。誤りを探す作業は、作る作業より速く目が育ちます。
  2. 判断のログを残す。「なぜこの調整項目を採り、なぜあれを落としたか」は従来は先輩の頭の中にありました。案件ごとに理由を3行でも残せば、それ自体が教材になります。
  3. 意図的に手作業の区間を残す。初回の月次データ整形だけは手で行い、2回目以降をAI併用にする。効率は落ちますが、データ構造を体で知る機会を確保できます。
  4. 実査・面談への同席を早める。④実査は代替されないので、機会の数は席の数で決まります。オブザーバー枠を作るだけでも違います。
  5. 評価軸を「作った量」から「見つけた誤り・確認した根拠」に変える。作る速度で評価するとAIを使い慣れた人が高く出ますが、判断力の指標にはなりません。

個人側の対応(5つ)

  1. AI出力をそのまま出さず、必ず1点は自分で再計算する。毎回どれか1つを手で追うだけでも、どこで壊れやすいかが分かってきます。
  2. 「なぜその前提か」を毎回1つ質問する。前提の選択(軸④)は残る判断の中核です。質問すること自体が訓練になります。
  3. 生データに触れる。整形済みのファイルではなく、元帳や原資料を一度は開きます。
  4. 実査・面談に手を挙げる。議事録係でも構いません。相手が言い淀んだ瞬間は、記録には残りません。
  5. 判断の記録を自分用に残す。どう判断し結果どうだったかを追える形にしておくと、面接でも具体的に話せます。キャリアの選択肢は投資銀行の後のキャリア(Exit)完全ガイド、職種ごとの入り方は投資銀行への転職完全ガイドPEファンド転職完全ガイドを参照してください。

自分の業務を工程分解するプロンプト例

棚卸しの起点として、業務ログをAIに分解させる方法があります。ただしAIが出すのは仮判定までで、最終判定は自分で行ってください

【役割】業務プロセス分析の補助者。判定者ではありません。
【目的】下の業務ログを工程に分解し、代替可能性の「仮判定」と根拠の軸を示す。
【入力】直近2週間の業務ログ(作業内容と所要時間)
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(ここに貼る。社名・個人名・未公表の取引情報は伏字にすること)
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【判定軸】1 正解が渡した資料の内側にあるか/2 成果物に名前・押印・稟議が付くか/3 必要な情報が文書になっているか/4 前提を選べば答えが一つに決まるか
【区分】A=AIが一次成果物を作り人が検収/B=AIは下書きまでで最終値は人/C=当面は人
【単位・計算】時間単位・小数第1位(分は60で割る)。構成比=各工程の時間÷総時間×100(小数第1位)。
【検算】時間の合計が入力ログの総時間と一致すること、構成比の合計が100.0になることを確認し結果を明記。
【出力形式】表1=工程名/時間/構成比/仮判定/根拠の軸番号/根拠(40字以内)。表2=区分別の合計時間と構成比(A・B・C+合計)。
【禁止】ログにない業務を追加しない/断定せず全て仮判定とする/雇用・人員の将来予測を書かない/時間を丸めて辻褄を合わせない。
【不明情報】判定できない工程は「判定不能」とし、必要な追加情報を1行で示す。推測で埋めない。
【出典表示】一般的知識に基づく箇所は「(一般論)」、ログから読み取った事実は「(ログより)」と付す。
【レビュー項目】末尾に人間が確認すべき点を3つ挙げる。「署名・稟議が付く工程を見落としていないか」を必ず含める。

代替可能性マップの検証方法

この種の判定は、書いた時点では単なる意見です。反証できる形にして初めて使えます。以下は本記事が提案する検証手順です。AI出力の検証一般は生成AI出力の検証手順に譲ります。

  1. A判定の反証:採用率を数える。「置き換わりつつある」と判定した工程について、直近3案件でAIの一次成果物を実質的に手直しなしで採用できた回数を数えます。0回なら判定が早すぎるので、Bに戻してください。
  2. C判定の反証:入力の有無を確かめる。「当面は人」の理由が軸③(入力が存在しない)なら、その情報を文書化したら入力になるかを問います。なるならいずれBに移ります。文書化されていないだけの工程を、原理的に残る工程と混同しないでください。
  3. 工数の実測:記憶で書かない。工程別工数は記憶で書くと必ず作業系を過小に見積もります。2週間だけタイムログを取ってから判定してください。
  4. 署名テスト。その成果物に最終的に誰の名前が付くかを確認します。名前が付くなら、少なくとも最終確定は人の工程です。
  5. 他人にやらせてみる。同僚に独立に判定してもらい、ずれた工程だけを議論します。ずれる工程は、たいてい定義が曖昧です。JICPA研究文書も、AIに代替させようとしている業務について正確に定義できているかに留意する必要があると指摘しています。

機密情報・個人情報の注意

業務ログを分解させる場合でも、案件名・相手先社名・未公表の取引情報・個人名は入力しないでください。個人情報保護委員会は2023年6月2日に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています。自社の許諾された環境で、入力可能な情報の範囲を確認したうえで使ってください。判断基準と社内ルールの作り方は生成AIに入れてよい情報・いけない情報にまとめています。

よくある失敗

  1. 職種単位で「なくなる/残る」を語る。「FASはどうなるか」には答えられませんが、「調整項目の採否判断はどうなるか」には根拠を示して答えられます。議論が噛み合わないときは、たいてい粒度がずれています。
  2. 「AIができる」と「AIにやらせてよい」を混同する。技術的に可能でも、署名や説明責任が伴う工程は別問題です。JICPA研究文書の2軸は、この混同を避けるための整理です。
  3. 作業が減った分を自由時間と考える。設例ではレビュー工程が25→33時間に増えています。検証コストを見込まない見積りは実行段階で崩れます。
  4. 「AIを使えること」自体をスキルだと考える。ツールの操作は短期間で陳腐化します。評価されるのは検証できることだという論点は、前掲の総論記事で扱っています。
  5. 予測を根拠に、いま取れる選択を狭める。5年後の雇用は誰にも分かりません。予測ではなく可搬性——組織が変わっても持ち運べる能力——に投資するほうが、外れたときの損失が小さくなります。

実務チェックリスト(自己点検12項目)

どこが代替されやすく、どこが残るのかを棚卸しするための問いです。書き出して、答えられない項目を確認してください。

  • 直近2週間の自分の作業を、10前後の工程に分解して時間を書き出せますか。
  • そのうち、正解が「渡された資料の内側」にある工程はどれですか(軸①)。
  • 自分の成果物に、最終的に誰の名前・押印・稟議が付きますか(軸②)。
  • 自分が扱う情報のうち、文書化されていない情報はどれですか(軸③)。
  • 「前提を選ぶ」場面は1か月に何回あり、選んでいるのは自分ですか、上位者ですか(軸④)。
  • 直近3案件で、AIの一次出力を実質的に手直しなしで採用できたのは何回ですか。
  • AI出力の誤りを自分で見つけた経験は直近3か月で何件あり、内容を説明できますか。
  • ①責任・②前提・③関係性・④実査のうち、実際に担っているのはどれですか。1つも該当しないなら、次の半期でどれを取りに行きますか。
  • 現場・実査・面談の機会は直近半年で何回あり、手を挙げて増やせますか。
  • 自分の判断の理由を、後から第三者が追える形で記録していますか。
  • いまの組織を離れても持ち運べる能力を、3つ挙げて具体例で説明できますか。

日本市場での留意点

  • 公表データは銀行中心です。前掲の日本銀行の調査は153先が対象で、証券会社・PE・FASの現場は含まれていません。公表導入事例そのものは日本の金融機関は生成AIをどう使っているかに整理があります。
  • 導入は「抑制的」と記載されています。金融庁のAIディスカッションペーパーは、対策を施しても人の判断が必要との認識を有する金融機関等が多く抑制的な利用が中心である旨を記載しています。判断工程を丸ごと任せる運用は、現時点では一般的ではないと読めます。
  • 人材面の記載は「AI専門人材」の話が中心です。同ペーパーには、副業人材の活用、社内高スキル人材のリスキリング、新卒専門人材の採用拡大、AI活用推進専門チームの設立といった取組みが確認された旨が記載されています。ただしこれはAIを開発・運用する側の人材に関する記述であり、既存職種の採用計画を示すものではありません。
  • 稟議と合意形成の比重。日本の組織は意思決定の関与者が多く、③関係性の中で決める工程の比重が相対的に大きい可能性があります(本記事の推論です)。

面接での答え方(30秒回答例)

質問:「AIで金融の仕事はなくなると思いますか」

「職種単位では答えられないので、工程で分けて考えています。FDDなら、試算表の整形やレポートの定型部分は一次成果物をAIが作る形に移りつつあります。一方、調整項目を採るか落とすかの判断やマネジメントインタビューでの追加質問は、正解が資料の外側にあるので残ると考えています。判断の工数はあまり減らず、むしろ検証工程が増えるはずです。ですので私は、作業を速くすることよりも誤りを見つけられること前提を自分で置けることに時間を使っています。」

ポイントは、粒度を工程に落とすこと、減る側と残る側の両方を言うこと(片側だけでは立場の表明にしか聞こえません)、自分が何をしているかで締めることです。将来予測を語る場面ではありません。

よくある質問(FAQ)

Q. 学生です。AIの影響を考えると、この業界に入ること自体をやめるべきでしょうか。
A. 業界の将来を予測して進路を決めるのは、当たらない前提に賭けることになります。判断材料にできるのは、その仕事で①責任・②前提・③関係性・④実査のどれを早く経験できるかという点です。この4つは業界が変わっても価値が残りやすいためです。逆に作業系の工程しか担当しない見込みが強い職場は、AIの有無にかかわらずキャリア形成上の難点があります。適性の整理にはキャリア適性診断が使えます。

Q. 会計士やUSCPAなどの資格は、AI時代に価値が下がりますか。
A. 資格の価値は主に①責任を引き受ける仕組みに支えられており、技術の性能とは別の軸です。JICPA研究文書も、AIの導入により会計士が不要になることはないが必要なスキルセットも変化する、AI関連の保証業務等で貢献できると考えられる、と記載しています。ただし資格が自動的に判断力を保証するわけではありません。資格は入場券であって、②前提を疑う力は別に鍛える必要があります。

Q. 「AIで工数が3割減る」なら、採用も3割減るのですか。
A. 設例のとおり減るのは主に作業系で、判断系はほぼ横ばいでした(85→84時間)。工数削減率と人員の増減は一致しません。ただし需要が一定で、作業系の工程だけを担うポジションがある場合、その部分は影響を受けやすいと考えられます。実際の採用計画は各社の事業計画と受注状況によるもので、本記事は予測を行いません。個人としてできるのは、自分の担当が作業系に偏っていないかをチェックリストで確認しておくことです。

まとめ

「AIで金融の仕事はなくなるのか」に一言で答えることはできません。答えられるのはどの工程が置き換わりつつあり、どの工程が残るのか、そしてその判定の根拠は何かです。本記事では、正解が資料の内側にあるか、署名が要るか、入力が存在するか、一意の正解があるか、という4軸で振り分けました。

設例で確認したのは、作業系が115→56時間へ大きく減る一方、判断系は85→84時間とほぼ動かないという構造です。総工数が3割減っても、判断できる人の時間はほとんど減りません。だからこそ問題は「人が要るか要らないか」ではなく判断できる人をどう育てるかに移ります。作業の中に埋め込まれていた学習機会が減る以上、組織も個人も意識して置き直す必要があります。

やることは単純です。自分の2週間を工程に分解し、A・B・Cを判定し、①〜④のうち自分が担っているものを数える。1つも該当しないなら、次の半期でどれか1つを取りに行く。予測を追いかけるより、この棚卸しのほうが確実に効きます。

棚卸しの次に、向き不向きを言葉にする

チェックリストで「自分に残る判断」を書き出したら、次はそれが志望職種の要求と噛み合っているかです。キャリア適性診断で、IBD・PE・FAS・FP&Aとの距離を整理してください。

キャリア適性診断を試す

出典・参考(2026-08-16確認)

  • 日本銀行 金融機構局「金融システムレポート別冊 金融機関における生成AIの利用状況とリスク管理――2025年度アンケート調査結果から――」(2025年9月30日、全13ページ) https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb250930.pdf /参照:調査対象153先の内訳(大手行10・地方銀行61・第二地方銀行36・信用金庫19・その他27、回収率100%)、約5割が既に利用・試行中を含め7割強・検討先を含め9割強、導入目的と利用分野の増加傾向、の各記載。預金取扱金融機関等が対象であり、投資銀行業務・PE・FASは対象外です。
  • 金融庁「AIディスカッションペーパー(第1.1版)――金融機関等におけるAIの活用実態と健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理――」(2026年3月3日公表、全55ページ) https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260303/aidp.html /本文PDF https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20260303/aidp_version1.1.pdf /参照:人間によるレビュープロセスを設定する先が多い旨、対策を施しても人の判断が必要との認識が多く抑制的な利用が中心である旨、専門人材の確保・育成の取組みが確認された旨、求められる人材が変容する可能性と人材育成への期待。同ペーパーは法令ではなく、初期的な論点整理です。
  • 日本公認会計士協会 テクノロジー委員会研究文書第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」(2024年8月13日) https://jicpa.or.jp/specialized_field/20240813dfu.html /概要資料 https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-10-11-4-20240813.pdf /参照:AIが「できる・できない」と「すべき・すべきでない」の軸から考察できる旨、単純作業や補助的役割は利用しやすく監査上の判断を伴う領域や説明が困難な領域は難しいと想定される旨、「AIを利用した場合であっても、監査人の責任は軽減されるものではない」旨、代替させようとしている業務を正確に定義できているかに留意する旨、会計士が不要になることはないが必要なスキルセットも変化する旨。監査業務についての整理であり、他職種にそのまま適用されるものではありません。
  • 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日) https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/ /総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」掲載ページ https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ai_network/02ryutsu20_04000019.html (後者は存在とURLの確認にとどめ、本文の内容は引用していません)
  • 本記事の独自部分。4つの判定軸、A・B・Cの区分定義、職種×工程マップの各判定、「残る判断」の4分類、組織側・個人側の対応策、チェックリスト12項目、設例(架空の「日本橋トランザクション・アドバイザリー」)は、いずれも本記事が整理・提案するものであり、公的基準でも実測結果でもありません。工数・削減率・案件数は仮の数値です。雇用・採用の将来予測は行っておらず、特定企業の人員計画も記載していません。AI製品の性能に関する実測も行っていません。

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・会計・投資に関する助言ではありません。実際の判断は専門家にご確認ください。設例は理解のための仮設例です。AI製品の仕様・料金は変更されることがあるため、利用前に各社の公式情報をご確認ください。