想定読者:事業会社の経営企画・コーポレートディベロップメント担当、M&A仲介・FA・投資銀行で買い手候補を探す担当、PEの投資担当
前提知識:M&Aの基本的な流れ(集中度の指標や推定の方法は本文で説明します)

国内の機械メーカーが中期経営計画で「デジタル領域の買収で非連続な成長を目指す」と掲げたとする。経営企画が候補を並べると、生産管理のソフトウェア、画像解析のAI、工場向けの無線網と、本業の制御機器からは遠く見える会社ばかりになる。取締役会では「飛び地ではないか」と問われるだろう。反対に、技術系スタートアップの売却を任されたFAは、買い手候補のリストに誰を載せるかで迷う。巨大なプラットフォーム企業がすでに入っている分野に、他の会社はまだ買いに来るのか。

この2つの問いには、技術分野で実際に誰が何を買ってきたかという事実が要る。本稿は、上位の買い手の技術買収を同じ物差しで比べた研究を読み、日本の実務で何を確かめればよいかを考える。

この記事が主に参照する研究

Ginger Zhe Jin, Mario Leccese, Liad Wagman(2022)「技術分野の買収で上位の買い手はどう違うか:S&Pの分類による新しい証拠(How Do Top Acquirers Compare in Technology Mergers? New Evidence from an S&P Taxonomy)」NBER Working Paper No. 29642。International Journal of Industrial Organization 89巻に掲載

  • 公表:初版 2022年1月(NBER WP)。参照した版:2022年11月の改訂版。査読:済(2023年に学術誌に掲載。本稿は掲載前の改訂版を読んだ)1
  • データ:S&P Global Market Intelligence の 451 Research に記録された、情報・通信・エネルギー技術企業の過半数取得 41,796件(2010〜2020年に完了)2
  • 方法:買い手のグループ別の記述統計と回帰、買収先の分野の集中度、分野ごとの差の差による比較(いずれも相関の分析)3
  • 位置づけ:巨大テックの買収をめぐる政策論争に、新しいデータ(階層的な技術分類)で比較の材料を出した記述的な研究

「隣接」と​「飛び地」を​どう​測るか

研究の土台は、S&Pが技術企業に付けている4階層の分類である。最も粗いレベル1は「アプリケーション・ソフトウェア」のような業界に近い区分で約20数分類、その下のレベル2は約200分類ある。著者らは、同じレベル1に属する別のレベル2を「隣接」と呼ぶ4。本稿では以下、レベル1を大分類、レベル2を小分類と書く。

比べるのは4つのグループだ。GAFAM(Alphabet、Amazon、Apple、Facebook、Microsoft)、Forbesの2019年のデジタル企業の順位でGAFAMに次ぐ25社(以下、大手テック)、Private Equity Internationalが2020年12月時点で上位とした25のPEファンド(以下、上位PE)、そしてデータ上の買収件数が多い残りの25社(以下、買収上位)である5。日本企業では、表1の表記で Softbank、Nippon Telegraph、KDDI が大手テックに、Dentsu が買収上位に入っている6。

買収先が買い手の中核からどれだけ離れているかは、2通りに数える。静的な数え方は、2010年時点の買い手の中核の分類だけと比べる。中核と同じ小分類なら「同じ」、同じ大分類の別の小分類なら「隣接」、大分類が違えば「無関係」になる。動的な数え方は、隣接や無関係の分野で買うたびに、その大分類・小分類を中核に加えていく。すると、以前の買収で入った小分類での買収は「広げた分野」に、新しく加わった大分類の中の別の小分類は「隣接」に数え直される7。

分野の散らばりは、HHI​(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)を買収件数に当てはめて測る。各社の買収件数に占める各分類のシェア(%)を2乗して足した値で、すべてを1つの分類で買えば10,000、多くの分類に散らすほど小さくなる。金額ではなく件数で計算しているのは、取引金額の大半が欠けているためだ。

政策論争の背景には、大手が将来の競合を買って開発を止める「キラー買収」や、大手が入った分野ではスタートアップへの投資が細るという「キル・ゾーン」の議論がある8。研究はこれらの理論を検定するものではなく、買収の型を比べる材料を出すことに目的を絞っている。

研究が​示した​結果:件数より​「広げ方」が​違った

件数から見る。2010〜2020年にGAFAMは計595件、1社平均119件の技術企業を買った。大手テックの1社平均41.3件の約2.9倍にあたる。もっとも、上位80社の買収は技術買収全体の14.2%にすぎず、残りは1社平均2.3件の多数の買い手によるものだった9。速さで比べると、GAFAMの年間件数は2014年が山で、1社あたりの年間件数では2018年以降、上位PEがGAFAMを上回った10。

表1 上位の買い手のグループ別に見た技術買収の特徴(2010〜2020年)

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グループ1社あたり件数消費者向けの比率買収先の平均年齢小分類の集中度(HHI)
GAFAM119.0件26.6%8.4年455
大手テック41.3件8.4%13.2年1,700
上位PE78.6件3.1%18.8年1,452
買収上位94.4件3.2%17.0年1,512
その他2.3件11.3%15.0年8,143
出所:R1(NBER WP 改訂版、2022年11月)​表2(p.21)・表3(p.28)の​数値を​基に​大手町​プレップ作成​(表の一部の列だけを抜き出した)。​1社あたり​件数は​グループの​件数÷社数​(GAFAM は​5社、​他の​上位​グループは​各25社、​その​他は​上位80社以外の​すべての​買い手)。​消費者向けは S&P の​「主な顧客」が​消費者の​買収先の​比率。​買収先の​年齢は​創業から​買収完了までの​年数の​平均​(創業年が分かる取引のみ)。​HHI は​各社の​買収件数を S&P の​小分類​(レベル2)に​分けた​シェアの​2乗の​合計を、​グループ内で​平均した値​(最大10,000。小さいほど分散)。​買収上位=S&P の​データで​買収件数が​多い、​他の​3グループ​以外の​25社。

表1は買収先の中身の違いを示す。GAFAMの買収先は消費者向けの比率が26.6%で、大手テックの8.4%や上位PEの3.1%より高く、差は統計的に有意だった11。買収先の平均年齢も8.4年と若く、大分類・年などを揃えた回帰でも上位外の買い手より4年以上若い。上位PEの買収先は18.8年と逆に古い12。一方、データへの依存度が高い買収先の比率は、GAFAMと他の上位グループで統計的に同程度だった。ただし、2010〜2020年を通じて比率の上昇傾向が見られたのはGAFAMだけである13。

分野の散らばりでは差がはっきりした。小分類で測ったHHIは、GAFAMが455で、大手テックの1,700、上位PEの1,452を大きく下回る。GAFAMは多くの分野に分けて買っていた14。

では、GAFAMは本業から遠い飛び地を次々に買っていたのか。図1の下段のとおり、2010年時点の中核だけと比べれば、GAFAMの買収の81.6%が「無関係」に分類される。ところが、買収のたびに中核を広げて数え直すと、無関係は10.4%に下がり、広げた分野が55.9%、隣接が29.1%を占めた15。

図1 買収先と中核分野の距離図1 買収先は中核分野からどれだけ離れているか買収件数に占める比率(2010〜2020年)上の4区分=中核を買収のたびに広げて数えた場合当初の中核と同じ小分類GAFAM4.7%大手テック10.8%上位PE24.1%買収で広げた小分類GAFAM55.9%大手テック47.1%上位PE39.2%隣接(同じ大分類の別の小分類)GAFAM29.1%大手テック25.0%上位PE19.8%無関係(別の大分類)GAFAM10.4%大手テック17.4%上位PE17.0%参考:2010年時点の中核だけで数えた「無関係」GAFAM81.6%大手テック69.9%上位PE59.5%
出所:R1(NBER WP 改訂版、2022年11月)​表4(p.31)の​比率を​基に​大手町​プレップ作成​(原図は使っていない)。​対象は S&P 451 Research が​記録する​情報・​通信・​エネルギー​技術企業の​過半数取得​(2010〜2020年)。​大分類・​小分類は S&P の​分類の​レベル1・​レベル2。​大手​テック=Forbes 2019年 Top 100 Digital Companies の​上位25社​(GAFAM を除く)、​上位​PE=Private Equity International の​2020年12月時点の​上位25社。​上の​4区分は、​隣接・​無関係の​分野で​買うたびに、​その​大分類・​小分類を​中核に​加えて​次の​買収を​判定した​場合​(R1 の動的な分類)。​比率は​表4の​掲載値で、​買収件数の​比率​(取引金額の比率ではない)。​GAFAM と​大手テックの​列は​掲載比率の​合計が​100%に​ならず、​件数と​一致しない​箇所が​ある​(脚注15)。​紺=GAFAM、​灰青=大手​テック、​金=上位​PE。

著者らはこれを、隣接分野で買ってからその周りに広げていく戦略(“acquire-adjacent-and-then-expand”)と呼んでいる16。買い手の大分類と年の違い、買収先の所在地と上場の有無を揃えた回帰でも、GAFAMの係数は隣接で0.123、広げた分野で0.456と、他のどのグループより大きかった17。対照的に、上位PEは当初の中核と同じ小分類での買収が24.1%と高く、著者らは一部のPEが特定の分野に特化している可能性を示唆している18。

最後の論点は、大手が入った分野に他社が買いに来なくなるかである。上位グループのどれかが買った178の小分類のうち、2つ以上のグループが買った分類の比率は年々上がり、2020年末には約80%に達した。GAFAMの中でも、1つの小分類で買ったGAFAMの社数は2010年の平均1.2社から2020年の2.3社に増えた19。

著者らは、GAFAMが初めて買った小分類と、まだ買っていない小分類を比べる差の差の分析も行った。GAFAMの初回の買収後に、その分類で初めて買う新しい買い手の数は、比較対象より1分類・1年あたり平均6.2社多く(標準誤差2.1)、減ったという証拠は見つからなかった。経過年数ごとに見ると多くの年で統計的に有意な差はなく、初回の買収から2年後だけが正で有意だった20。著者らはこれを因果ではなく相関と位置づけ、GAFAMの買収が分野の収益性を知らせる信号になった可能性と、各社が同時に同じ信号を受け、資金や買収の体制で勝るGAFAMが先に買っただけの可能性の両方を挙げている21。

研究の​対象・方法・​限界

結果を読むときに外せない条件がいくつかある。第1に、S&Pの分類は独占禁止法上の市場ではない。同じ小分類で買ったことが、同じ製品で競争していることを意味するとは限らない。第2に、取引金額は技術買収の73%で欠けており、市場シェアの情報もない。件数で見た集中度は、金額で見たときの集中度と一致しないかもしれない。第3に、対象は過半数の取得だけで、少数出資や提携、自社開発による参入は数えていない。売却も観測していない22。

第4に、上位の買い手は規模や順位で選ばれた大企業であり、日本の中堅企業の買収にそのまま当てはまる結果ではない。差の差の推定も、分野ごとに正と負の影響が打ち消し合っている可能性を著者ら自身が否定していない。著者らの結論は、技術買収が少なくとも他のGAFAMや同じ分野で買う他社との競争からGAFAMを守ってはいない、というところまでである23。

同じ著者らは、同じS&Pのデータを北米の上場企業と結びつけた姉妹研究も出している。そこでは、上場企業のうち技術企業を1社以上買ったのは13.1%で、技術買収の過半数は買収先が買い手の中核分野の外にあった。中核事業で競合からの圧力が強まった企業ほど、翌年に技術企業を買いやすく、その関係は無関係な分野の買収で強かった(これも相関の分析)24。

大手町​プレップの​考察:​「飛び地」の​判定は​数え方で​変わる

ここからは編集部の推論である。この研究から実務に持ち帰れる最大の点は、結果そのものより物差しだと考える。同じ買収履歴でも、出発点の中核だけと比べるか、買収で得た足場を中核に加えていくかで、「無関係」の比率は81.6%から10.4%まで動いた。取締役会で「飛び地か」と問われたとき、答えはどの物差しを使うかに左右される。

もう一つは、買い手の型が少なくとも3つ見えることだ。足場を作って周りに広げる型(GAFAM)、本業の周辺で買い進める型(大手テックは静的な数え方で隣接買収の比率が他のグループより高い)、当初の中核と同じ小分類で買う比率が他より高い型(上位PE。ただし最も多いのは広げた分野での買収)である。日本の買い手も同じ型に分かれるかは確認されていない。ただ、買い手候補を型で読む視点は、件数の多さだけで候補を並べるより情報が多い、と編集部は考える。

日本の​実務への​応用

事業会社のストラテジックバイヤーにとって、研究の動的な数え方は、自社のM&A方針を点検する道具になる。過去の買収を並べ、各件が「当初の中核」「前の買収で入った分野」「隣接」「無関係」のどれかを判定すれば、次の候補が足場の延長なのか、新しい足場づくりなのかを言葉にできる。新しい足場づくりなら、その後に周辺で何件買う計画があるのかまで説明できるかが問われる。分類は自社で決めた仮のもので構わない。研究のS&P分類と同じではないことは明記しておく。

FAや仲介の買い手探索では、バイヤーユニバース​(ロングリスト)の作り方に使える。研究の結果に照らすと、売り手と同じ小分類の事業会社だけでなく、同じ大分類に足場を持ち始めた会社や、その小分類で買収を積み上げてきたPEが候補になりうる。大手がすでに入った分野でも新しい買い手は減っていなかった(相関)ので、それだけを理由に分野の候補を外す根拠は、少なくともこの研究からは得られない。手順はM&A​候補企業の​スクリーニング​実務の基準設計とあわせて使うとよい。

技術DDでは、買収先が若いほど成長の行方が読みにくいという点が重い。研究でもGAFAMの買収先は若く、消費者向けが多かった。売上が小さいうちの買収では、製品の利用者数、データの取得と利用の権利、主要な技術者の残留が価値を左右する。Technology DDや知的財産​デューデリジェンスの確認事項に、こうした点を前もって組み込んでおきたい。取引金額の多くが開示されないことも、類似取引の倍率が薄いという形で評価に響く。

日本の制度との違いも確かめておく。研究は、米国の事前届出の基準では売上の小さい技術スタートアップの買収が審査を経ないことがある、と論じている25。日本では、公正取引委員会の「企業結合審査の手続に関する対応方針」(2019年12月改定)が、届出の​数値基準を満たさない買収でも、対価の総額が400億円を超えると見込まれ、国内に拠点がある、日本語で営業している、国内売上高が1億円を超えるといった場合には、公取委への相談が望まれるとしている。相談がなければ、公取委が資料の提出を求めて審査を行う26。売上の小さい技術企業を高い対価で買う案件では、スケジュールを組む段階でこの条件に当たるかを確かめることになる。

学習用の​設例:A社の​10件を​2通りに​数える

学習用の設例(架空):国内の機械メーカーA社は、2016年時点の中核が「産業機器/制御装置」。2016〜2025年に10件の買収をした。分類は「大分類/小分類」の2階層の仮のもので、研究のS&P分類ではない。件数で数え、金額は考えない。

表2 学習用の設例(架空):A社の10件の買収と、2つの基準による判定

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年買収先(架空)大分類/小分類静的な判定動的な判定
2016年制御盤の設計会社産業機器/制御装置同じ当初の中核
2017年生産管理SaaSソフトウェア/生産管理無関係無関係
2018年設備保全アプリソフトウェア/設備保全無関係隣接
2019年工程計画ソフトソフトウェア/生産管理無関係広げた分野
2020年外観検査AIデータ分析/画像解析無関係無関係
2021年需要予測ツールデータ分析/需要予測無関係隣接
2022年協働ロボットの部品産業機器/ロボット隣接隣接
2023年保全記録クラウドソフトウェア/設備保全無関係広げた分野
2024年画像センサー解析データ分析/画像解析無関係広げた分野
2025年工場向け無線網通信/産業用無線無関係無関係
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ​作成。​A社は​架空の​国内​メーカーで、​2016年時点の​中核は​「産業機器/制御装置」。​分類は​「大分類/小分類」の​2階層の​仮の​分類。​静的な​判定は​2016年の​中核だけと​比べる。​動的な​判定は、​隣接・​無関係の​買収の​たびに​その​大分類・​小分類を​中核に​加え、​以前に​買収で​入った​小分類と​同じなら​「広げた分野」と​する​(R1 p.29〜30 の手順)。

2016年の中核だけで判定すると、10件のうち8件(80%)が無関係で、取締役会の資料には「買収の大半が飛び地」と書かれかねない。ところが2017年の生産管理SaaSの買収でソフトウェアの足場ができたあとは、設備保全アプリは隣接、2019年の工程計画ソフトは広げた分野に変わる。動的に数えると、無関係は3件(30%)になり、広げた分野と隣接が合わせて60%を占める(図2)。

図2 設例:A社の買収の数え方図2 設例:A社の10件をどう数えるか同じ10件を2通りの基準で分類(件)学習用の架空の買収履歴2016年の中核だけで判定同じ小分類1件隣接1件無関係8件買収のたびに中核を広げて判定当初の中核1件広げた小分類3件隣接3件無関係3件小分類で見た集中度(HHI):1,600大分類で見た集中度(HHI):3,000
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(表2の架空の買収履歴)。​分類の​手順は R1(p.27〜30)の​静的・動的な​分類を、​2階層の​簡略な​分類に​当てはめた​もの。​HHI は R1 の式​(1)​(p.25)と​同じく、​件数の​シェア(%)の​2乗の​合計で、​最大10,000。​金額では​計算していない。​淡い​灰青=2016年の​中核だけで​判定、​紺=買収の​たびに​中核を​広げて​判定。

集中度も計算しておく。小分類ごとの件数は最大2件で、HHIは1,600になる。大分類で見ると、ソフトウェア4件・データ分析3件・産業機器2件・通信1件で3,000だ。この2つの値の差は、買収が少数の大分類に集まりつつ、その中では多くの小分類に分かれていることを表す。ただし、HHIは件数の分布だけを測る指標で、買収の順番を入れ替えても値は変わらない。足場を作ってから周りに広げたという順序は、HHIからは判断できず、前段の動的な数え方で確かめる必要がある27。

明日から​使える​確認項目と​分析手順

  1. 自社(または買い手候補)の過去の買収を年順に並べ、自社で決めた2階層の分類(大分類・小分類)を付ける。分類の定義は1枚の表にまとめ、案件ごとに変えない。
  2. 各件を静的(当初の中核とだけ比べる)と動的(買収のたびに中核を広げる)の2通りで判定し、「無関係」の件数と比率を並べる。両者の差が大きければ、説明は「飛び地」ではなく「足場の延長」として組み立てられるかを検討する。
  3. 次の候補について「どの過去の買収の延長か。延長でなければ、新しい足場の後に周辺で何を買う計画か」を、投資委員会や取締役会への資料に1行で書けるかを確かめる。
  4. 買い手探索では、売り手と同じ小分類の事業会社に加え、同じ大分類で直近に初めて買った会社と、その小分類で複数件を積み上げたPEを、別の列としてロングリストに入れる。大手が入った分野であることだけを理由に候補を外さない。
  5. 創業から年数の浅い買収先では、技術DDで利用者数の推移、データの取得・利用の根拠、主要な技術者の残留条件を確認項目に入れる。
  6. 国内売上が届出基準に届かなくても、対価が400億円を超える見込みで、国内に拠点・日本語での営業・国内売上高1億円超のいずれかがあれば、公取委への相談の要否を案件の初期に法務と確認する。

よく​ある​質問

この​研究は、​大手が​買収した​分野でも​競争は​弱まらないと​証明したのですか。

いいえ。​示したのは、​大手が​初めて​買った​分野で、​その後に​初めて​買う​他社の​数が​減ったと​いう​証拠が​見つから​なかった​ことです。​分析は​相関で、​分類は​独占禁止法上の​市場ではなく、​製品の​競争や​価格は​見ていません。

自社の​買収履歴を​研究と​同じ​S&Pの​分類で​調べられますか。

S&Pの​分類は​商用の​データベースの​もので、​本稿では​日本の​実務で​同じ​分類を​使えるかは​確かめていません。​設例のように、​自社で​決めた​仮の​分類でも​静的・動的の​判定と​HHIの​計算は​できます。​比べる​ときは​同じ​分類を​使い続ける​ことが​条件です。

まとめ

2010〜2020年の技術企業の買収を比べた研究では、GAFAMは件数が多く、若く消費者向けの会社を買い、多くの分野に散らしていた。ただし散らし方は飛び地の連続ではなく、隣接で入ってから周りに広げる形で、中核を広げて数えると無関係の買収は約1割だった。上位PEは当初の中核と同じ分野で買う比率が相対的に高く、大手が入った分野でも新しい買い手が減った証拠はなかった。いずれも上位80社の比較と、その他の買い手も含めた過半数取得をS&Pの分類で数えた相関の結果で、日本への当てはめは推論にとどまる。それでも、買収履歴を2通りに数え直す手順は、自社の戦略の説明にも買い手探索にもすぐ使える。

脚注

  1. R1 の版:NBER Working Paper w29642 の初版(2022年1月、50ページ)→ 改訂版(2022年11月、60ページ)→ International Journal of Industrial Organization 89巻 102891(2023年7月、DOI 10.1016/j.ijindorg.2022.102891)。SSRN にも同題の掲載がある(4010491)。本稿は NBER 改訂版を読み、ページは PDF のページで示す。改訂版の謝辞には掲載誌の編集者と匿名の査読者2名への謝意がある。掲載誌の最終版は読んでいない。本稿で使う主要な数値は初版と改訂版で同じであることを確かめた。改訂版の謝辞には、2021年の CRESSE 会議の参加者への謝意がある(会議での報告に言及があるが、最初の発表の場かどうかは確認していない)。↩
  2. R1(NBER WP 改訂版, 2022年11月)p.13〜14(3節)。過半数(議決権の50%超)の取得が対象。著者らは S&P から2010年より前の記録は網羅性が劣ると聞き、2010年1月1日〜2020年12月31日の完了分に絞った。件数 41,796 は表2(p.21)の5グループの件数の合計(編集部の計算)。↩
  3. R1 p.12・p.40・p.44。著者らは本研究を特定の反トラスト理論を検定しない記述的な研究と位置づけ、差の差の推定値も因果ではなく相関として解釈すると明記している。↩
  4. R1 p.14(3節)。各企業には中核事業を表す主分類が付き、副分類が付く場合もある。↩
  5. R1 p.16〜17・表1(p.18)。上位PEの順位は過去5年の資金調達額による(表1の注)。GAFAM・大手テック・上位PE・買収上位の80社を「上位の買い手」、残りを「その他」と呼ぶ。↩
  6. R1 表1(p.18)。順位は Softbank 8位・Nippon Telegraph 11位・KDDI 16位(以上、大手テック)、Dentsu 12位(買収上位)。社名の表記は表1のまま。↩
  7. R1 p.27〜30(5節)・表4(p.31)。例として、Apple が「情報管理/情報検索」の会社を買った後に「情報管理/データ管理」の会社を買うと、静的にはどちらも無関係、動的には2件目が隣接になると説明している。↩
  8. R1 p.3・p.9(1節・2節)。キラー買収は Cunningham, Ederer and Ma(2021)、キル・ゾーンは Kamepalli, Rajan and Zingales(2020)を、R1 が先行研究として紹介している(本稿はこれらの本文を読んでいない)。↩
  9. R1 表2(p.21)・p.20。GAFAM 595件(Google 215・Amazon 66・Facebook 99・Apple 100・Microsoft 115)。大手テックは25社で1,033件、上位PEは1,964件(1社平均78.6件)、買収上位は2,360件(同94.4件)。上位グループの1社は他の買い手より平均72件多い。倍率2.9倍は編集部の計算で、R1 は「ほぼ3倍」と記す。↩
  10. R1 p.20・図1(p.22)。年ごとの件数は図だけに示され本文に数値が無いため、本稿では値を読み取っていない。買収上位も2018年と2020年に GAFAM を上回った。↩
  11. R1 表2(p.21)・p.24。買収上位は3.2%、その他は11.3%。消費者向けは S&P の「主な顧客」の項目が消費者の買収先。GAFAM と他のグループの差は95%水準で有意。↩
  12. R1 表2(p.21)・p.22・表A.2列5(p.52)。回帰は大分類と年の固定効果、買収先の所在地と上場の有無を統制したもので、上位外の買い手と比べた GAFAM の係数は−4.15年。大手テックは約2.4年若く、上位PEと買収上位は有意に古い。大分類内の平均年齢で割った値は GAFAM 0.66、上位PE 1.27。↩
  13. R1 表2(p.21)・p.19・p.24・図2(p.23)。比率は GAFAM 22.4%、大手テック25.6%、上位PE22.2%、買収上位24.2%、その他18.0%。判定は S&P の企業説明に data・statistics・AI・social media などの語が含まれるかによる粗いもの。↩
  14. R1 表3(p.28)・p.25〜26。HHI は R1 の式(1)で各社の値を計算しグループ内で平均したもの。買収上位は1,512、その他は8,143(買収が少ない会社が多いため高い)。10件以上買った会社に限った表A.4(p.54。小分類の HHI は GAFAM 455.27 で最も低い)、シャノン・エントロピー(表A.3、p.53)でも同じ傾向(p.26)。↩
  15. R1 表4(p.31)。静的な数え方での無関係は大手テック69.9%、上位PE59.5%。静的な数え方での隣接は大手テックが19.26%で最も多い(p.29)。動的な数え方の当初の中核は4.7%(静的な「同じ」と同じ値)。比率は表4の掲載値をそのまま使った。表4の GAFAM の列は掲載比率の合計が静的100.12%・動的100.14%で、掲載件数から計算した比率と一致しない箇所がある(静的な無関係は485件÷595件=81.51%、動的な広げた分野は55.80%、隣接は29.08%。いずれも編集部の計算)。大手テックの動的な隣接も掲載24.96%に対し件数からは24.69%で、合計は100.27%になる。初版(2022年1月)の表4も同じ値で、掲載誌の最終版での訂正の有無は確認していない。差は最大約0.3%ポイントで、本文の比較の結論は変わらない。↩
  16. R1 要旨(p.2)・p.30。直接引用は R1 の語句。↩
  17. R1 表5(p.34)・p.30。買収1件を単位とするロジット回帰で、上位外の買い手と比べた係数。GAFAM の無関係の係数は−0.302(いずれも1%水準)。R1 本文はこれを隣接の確率が12%、広げた分野が45%高まると表現するが、%ポイントか比率かの説明は無い。付録の線形確率モデル(表A.2、p.52)では0.116・0.449。↩
  18. R1 表4(p.31)・p.29。上位PEの動的な内訳は、広げた分野39.2%、隣接19.8%、無関係17.0%。↩
  19. R1 p.35〜37・図5〜7。2010年に GAFAM が買った小分類は30、2020年までに100。著者らは、買い手の製品が買収後も提供されるなら、上位の買い手どうしが潜在的に競い合う分野が増えたことを意味すると述べる。↩
  20. R1 表6(p.42)・p.39〜42・図8(p.43)。Callaway and Sant’Anna(2021)の方法と二重頑健推定による、2010年に GAFAM が買った分類を除く170の小分類の比較。95%信頼区間は2.0〜10.4、GAFAM が一度も買わなかった分類だけを比較対象にすると6.0。「1分類・1年あたり」は、観測の単位(小分類×年)と結果の変数(その分類で初めて買う買い手の数)からの編集部の読みで、R1 は単位を明記していない。PE を除いた推定、2件目の買収を起点にした推定でも結果は同様(図A.7・図A.8)。↩
  21. R1 p.40・p.43〜44。↩
  22. R1 p.7・p.42・p.46〜47(7節)。↩
  23. R1 p.44〜45・要旨(p.2)・p.46。↩
  24. R2(NBER WP w31126, 2023年4月)要旨(p.2)・p.5・p.31〜32・表8。北米の上場企業の2010〜2020年(競争の分析は2010〜2019年)。何らかの過半数取得を Refinitiv で確認できた上場企業は6.75%。競争圧力は Hoberg, Phillips and Prabhala の製品市場の流動性の指標。↩
  25. R1 p.10〜11・注18。米国の HSR 法(ハート・スコット・ロディノ法)の届出基準を指す。↩
  26. R3(公正取引委員会「企業結合審査の手続に関する対応方針」、2019年12月17日改定・施行)6(2) と注7。1億円は被買収会社の国内売上高合計額。↩
  27. R1 p.27(5節)。著者らは、表3(HHI)は買収が中核からどれだけ離れているかも、各社が時間をかけてどう買い進めたかも示さないと述べ、そのために静的・動的な距離の分類を導入している。HHI が順序に左右されないことは式(1)の定義からの編集部の説明。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。