想定読者:社債を発行する事業会社の財務・IR担当、証券会社のDCM、クレジット投資家、資金調達計画を作る経営企画
前提知識:社債のスプレッドと年限の意味、回帰係数と統計的有意性の大まかな意味

2022年の秋、10年債の発行を予定していた財務部は、主幹事からたとえばこう説明されたはずだ。発行スプレッドは春より広がっている、投資家の目線がそろわない、10年は需要が薄いが5年なら出せる。スプレッドの拡大幅は数字で分かる。分からないのは、市場が単に高くなったのか、発行そのものが難しくなりつつあるのかだ。前者なら上乗せ金利を払えば済むが、後者なら年限や時期、銀行借入への切り替えまで考えなければならない。

この区別を、社債市場全体について数字で示そうとした研究がある。日本銀行の研究者らが、発行市場と流通市場の値段だけでなく、発行額や売買高、発行年限、価格の見方のばらつきまで集約し、「社債市場の機能度」を一本の指数にした。本稿ではこれを手がかりに、起債前の市場の見立てを考える。条件決定の手順はDCMの​プライシング​交渉実務で扱ったので、ここでは「いつ、どの年限で出せる市場か」の判断に絞る。

この記事が主に参照する研究

落香織・長田充弘(Kaori Ochi、Mitsuhiro Osada)(2024)「社債市場の機能度指標(Market Functioning in the Japanese Corporate Bond Market)」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.24-J-5/24-E-5

  • 公表:初版 2024年5月22日(日本語版)、英語版 2024年6月17日。2025年7月の改訂版を経て、査読誌 The Japanese Economic Review 77(4) に掲載(2026年5月25日オンライン公開。6月30日に表2の組版を訂正)。参照した版:英語版WP(2024年6月)。掲載版は購読制で本文未読、無料公開の訂正後の表2のみ確認
  • データ:日本の社債の発行条件・発行額・流通利回り・店頭売買高などの月次データ(2005年1月〜2024年3月)。設備投資の分析は2005年1〜3月期〜2023年10〜12月期の四半期データ
  • 方法:合成指数の作成と、その決定要因・設備投資との関係の時系列回帰、VARによる波及の分析(相関・予測力の分析で、因果の識別ではない)
  • 位置づけ:米国の社債市場の指数の手法を、データの限られた日本に合わせて作り替えた新しい指標とデータの提示

「機能度」は​値段・​量・​取引環境の​3面で​測る

市場が機能しているとは、大きなコストをかけずに納得できる価格で取引できる状態をいう。社債では発行市場(新しく出す場)と流通市場(発行済みの社債を売買する場)に分けて考える。論文は両市場について、価格・量・取引環境の3面から指標を集め、6つの分類に整理した1。

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表1 起債環境を見る6つの物差し
分類論文で使った指標悪化したときの動き発行体が手元で確かめる材料(例)
P1 発行スプレッド格付別の発行スプレッド、信用リスクを除いた発行スプレッド上がる同格付・同業の直近の発行条件、主幹事の示すスプレッドの幅
P2 発行額総発行額・純発行額(前3年同月平均比)減る月間・週間の起債件数と金額、見送り・延期の有無
P3 発行年限平均発行年限短くなる10年超の案件が出ているか、年限ごとの需要の厚さ
S1 流通スプレッドAA・A格の流通スプレッド(参考統計値)上がる自社既発債と同格付の流通スプレッドの差
S2 売買高店頭売買高(前3年同月平均比)減る日本証券業協会の店頭売買高(月次)
S3 価格の見方の不一致社債利回り曲線の歪み、気配の最高値と最低値の差広がる同じ銘柄の気配のばらつき、国債カーブの歪み
出所:分類と​論文の​指標は R1(Chart 1 と 2.2節、​PDF p.6〜9、​付録​B p.42〜44)。​「発行体が手元で確かめる材料」は​大手町​プレップに​よる​例示で、​論文が​検証した​ものではない。

値段の物差しは国債利回りに対する上乗せ幅であるクレジットスプレッドだが、発行スプレッドの単純平均は、その月に信用力の低い発行体が多く出れば市場が悪くなくても広がる。論文はこれを避けるため、発行体の財務指標と格付で説明できる部分を除いた発行スプレッドも使う。量の物差しは発行額と店頭の売買高で、季節性を消すために前3年の同じ月の平均に対する比率にしている。取引環境の物差しが独特で、発行市場では平均発行年限、流通市場では同じ発行体の社債利回り曲線の歪みと、同じ銘柄について複数の証券会社が出す気配の最高値と最低値の差を使う2。

日本の社債には米国のような取引単位のデータがなく、ビッドアスクスプレッドも計算できないため、論文は公表統計と商用データで代わりの指標を作った。6分類は基準化したうえで、相関の強さに応じて時期ごとにウエートを変えて集約され、発行市場のウエートが相対的に大きくなる傾向がある。指数は観測期間の平均が0で、高いほど機能度が高い3。

研究が​示した​結果:悪化は​金利の​揺れと​重なり、​投資と​結びつくのは​発行市場

指数が​大きく​下がったのは​二つの​局面

指数は2008年後半の世界金融危機で大きく下がり、日本銀行が社債の買入れを始めた2009年3月ごろに底を打った。2011年の東日本大震災の後は、発行額の約20%を占めていたエネルギー関連企業の信用力が損なわれ、流通市場の混乱は一時的だった一方、発行市場では発行が難しくなり平均発行年限が大きく縮んだ。大規模な金融緩和の下で2013年から2021年まで指数はプラス圏で推移し、平均発行年限は量的・​質的金融緩和​(QQE)の前の7.5年から、2020年前後には10年を超えた4。

二度目の大きな低下は2022年半ばから2023年にかけてである。各国の中央銀行の政策の先行きについて見方が割れ、投資家どうしの金利見通しがそろわなかった。取引環境の指標が悪化し、発行市場の発行額と流通市場の売買高が大きく減った。こうした変化は価格だけでは捉えにくく、そこに指数の利点があると著者らはいう5。

何と​一緒に​動いたか:海外と​国内の​金利の​揺れ

論文は2008年1月〜2023年12月の月次データで、指数を国内外の金融環境の変数に回帰した。図1はその係数である。

図1 社債市場の機能度と同時に動いた要因図1 社債市場の機能度と同時に動いた要因要因が1標準偏差高い月の指数の差(係数)棒が長いほど、機能度が低い月と重なりやすい米国の金利ボラティリティ−0.34(***)国債イールドカーブの歪み−0.32(***)国内の金利ボラティリティ−0.09(*)スワップ・国債スプレッド−0.07(*)米国社債市場ディストレス指数−0.04(有意でない)濃い棒:統計的に有意 薄い棒:有意でない***は1%、*は10%水準で有意月次192か月(2008年1月〜2023年12月)、調整済みR² 0.618
出所:R1(BOJ WP 24-E-5, 2024年6月)​Chart 7 の​モデル(1)​(PDF p.19)の​係数を​基に​大手町​プレップ​作成。​被説明変数は​社債市場機能度​指数​(高いほど機能度が高い)。​説明変数は​いずれも​基準化してあり、​係数は​1標準偏差あたりの​指数の​差。​符号は​すべて​負で、​棒の​長さは​絶対値。​同時点の​相関を​示す回帰で、​要因が​機能度を​下げたと​いう​因果を​識別した​ものではない。

説明変数は基準化してあるので、係数は「その変数が1標準偏差高い月に、指数がどれだけ低いか」を表す。米国債の金利の変動の大きさを示すMOVE指数が−0.34、国債利回り曲線の歪みが−0.32で、いずれも1%水準で有意だった。国内の金利ボラティリティ(−0.09)とスワップ・国債スプレッド(−0.07)も10%水準で有意に負である。米国の社債市場そのものの混乱を表す指数は−0.04で、有意ではなかった。調整済みR²は0.618である。寄与度に分けると、二つの局面とも米国と国内の金利ボラティリティ、国債利回り曲線の歪みが指数を大きく押し下げた6。

2022〜2023年の起債環境の悪化は、発行体の信用力の低下より、基準になる金利が揺れて投資家と発行体の目線が合わなくなったことと重なっていた。2022〜2023年にはイールドカーブ・​コントロール​(YCC)の下で長期金利の上昇が抑えられる一方、残存10年未満を中心に国債の利回り曲線が歪み、先物やスワップ市場とのつながりも弱まった。論文は、社債の利回り曲線にも同じような歪みが生じたことと、投資家と発行体の金利見通しが収れんせず起債環境が悪化したという市場参加者の指摘を紹介している7。

日本銀行の​社債保有は、​発行市場と​正、​流通市場と​負の​関係

指数を発行市場と流通市場に分けると、2013年以降の二つの動きは一致しない。回帰では、日本銀行の社債保有残高(発行残高に対する比率)の係数が発行市場の部分指数では0.04(10%水準で有意)、流通市場では−0.07(1%水準で有意)と符号が分かれた。一方、買入額は流通市場の部分指数と正の関係(0.62、10%水準で有意)にあり、著者らはこれを危機時の下支えと解釈している。いずれも時系列の相関で、政策の効果を識別したものではない。保有残高と流通市場の負の関係について著者らは、日本の投資家は新発債を満期まで持つ傾向が強く、もともと流通量が少ないなかで、日本銀行の大量保有が売買できる社債を減らし、流通市場の機能度を下げた可能性があると解釈している8。流通市場の部分指数は、日本銀行の債券市場サーベイによる国債市場の機能度判断DIとの相関が0.48と高く、発行市場の0.20(有意でない)を上回った9。

WP版の分位点VARによる波及の分析では、米国の金融環境が日本の社債市場に直接にも国債市場経由でも影響し、発行市場と流通市場の間では流通市場から発行市場へ向かう波及が示された(査読版に残っているかは未確認)10。

設備投資と​結びつくのは​発行市場の​機能度

論文の後半は、設備投資の資本ストックに対する比率(I/K比、%)との関係を調べている。実質金利・潜在成長率・需給ギャップ・キャッシュフロー・政策不確実性を統制したうえで、1四半期前の指数を加えると、WP版では全体指数の係数が0.043(5%水準で有意)、発行市場の部分指数が0.065(1%水準で有意)、流通市場の部分指数が0.007で有意でなかった(75四半期)。I/K比の標準偏差は0.18%ポイントなので、この係数では発行市場の部分指数が1違うとI/K比の標準偏差の約36%に当たる(大手町プレップの換算。部分指数の標準偏差は論文にない)11。査読版は被説明変数を2四半期先のI/K比に変えて予測力の検証に組み直しており、全体指数は0.066(1%水準で有意)、両部分指数を同時に入れると発行市場0.083(1%水準で有意)、流通市場−0.013(有意でない)だった(74観測)。係数は変わったが、発行市場の機能度が設備投資と有意に正の関係を持つ点は共通する12。

金融市場全体の楽観・悲観を拾っているだけではないかという疑問には、二つの答えがある。一つは、両市場の部分指数を共通の動き(第1主成分)と、発行市場が流通市場より良いか悪いかを表す動き(第2主成分)に分けることだ(査読版でも0.049と0.067でともに有意に正)。WP版で国内外の金融変数を加えると共通の動きの係数は0.004で有意でなくなるが、発行市場に固有の動きは0.072で1%水準の有意性を保った。ただし日本銀行の社債保有を加えると、その係数は0.024に下がり有意でなくなる(査読版でのこの推計は未確認)13。もう一つはWP版の分類ごとの推計で、発行額と発行年限が有意に正、流通市場の分類は有意でないか符号が逆だった。発行年限や価格の見方のばらつきと関係する成分は、金融変数を加えても有意で、値段と量では拾えない情報を含むとされる14。

研究の​対象・方法・​限界

この研究の結果は、すべて集計された時系列の相関と予測力に基づき、VARを含め因果を識別したものではない。設備投資の推計はWP版で75四半期(金融変数を加えると63四半期)、査読版で74観測と標本が小さく、WP版では両市場の部分指数を同時に入れると多重共線性の影響が出ることも著者らが断っている。

著者ら自身が挙げる最大の限界はデータの少なさで、定性的な情報も含めて多様な方法で市場を見るべきだとしている。社債市場が悪化したとき銀行借入がどこまで代わりになるかも、今後の論点として挙げている15。流通スプレッドはAA・A格で測っており、格付の低い発行体や私募債の環境は代表しにくい。

2025年7月の改訂版は、データの期間と主要な係数が2024年版と同じだった。2026年5月の査読版は本文が購読制で読めず、設備投資以外の分析が同じ形で残っているかは未確認である16。同じ著者による先行研究の日銀レビューは、2022年半ばから2023年初めの発行スプレッドの拡大を、資源高による運転資金需要、海外の金融引き締めの波及、国債市場の機能度の低下で説明していた17。手法の元になったニューヨーク連銀の研究者らの論文は、米国で社債市場へのアクセスの途絶が、信用スプレッドなどを統制しても実体経済と結びつくと報告している(要旨のみ確認)18。

大手町​プレップの​考察:値段の​悪化と​「窓」の​閉じかけは​別物

以下は論文の結果を手がかりにした編集部の推論で、論文が検証したものではない。

第一に、起債判断では「値段」と「量・年限」を分けて見るべきだ。発行額と発行年限が設備投資と結びついていたことは、企業に効くのはスプレッドの数ベーシスポイントの差より、必要な額を必要な年限で調達できるかどうかだという読み方と整合的だ。スプレッドが広がっていても発行額と年限が平常なら、上乗せ金利を受け入れて出すという選択がある。逆に発行額が細り、長い年限の案件が消えているなら、スプレッドを譲っても需要が集まらない可能性がある。

第二に、悪化の原因が自社か市場かを切り分ける意味は大きい。論文では2022〜2023年の悪化に金利の揺れと国債利回り曲線の歪みが重なっていた。この局面では、自社の信用力を説明し直しても条件はあまり改善しないだろう。効きそうなのは、条件決定日を日米の金融政策の決定日など金利が大きく動きうる日から離すこと、投資家の目線がそろいやすい年限を選ぶこと、基準金利の見方を事前に主幹事とすり合わせることだと考えられる(仮説)。

第三に、論文の分析期間の後に条件が変わっている。日本銀行は2024年3月、社債等の買入れ額を段階的に減らし、1年後をめどに買入れを終えると決めた19。論文の推計では日本銀行の社債保有残高が発行市場の機能度と正の関係にあったので、保有残高が減るにつれて発行市場の下支えが弱まる可能性がある(仮説)。WP版の、流通市場のショックが発行市場へ波及しやすいという結果と合わせると、今後は流通市場の売買高や気配のばらつきが発行環境の先行指標として意味を増すかもしれない。

日本の​実務への​応用:手元で​再現できる​部分と​できない​部分

論文の指数は定期公表されていない(2026年10月時点で確認できず)が、材料の一部は公表されている。日本証券業協会は公社債の種類別・投資家別の店頭売買高を毎月公表しており、論文の流通市場の物差しのうち、売買高にはこの店頭売買高が、流通スプレッドと気配のばらつきには同協会が毎営業日公表する公社債店頭売買参考統計値が使われている20。国債市場の機能度については、日本銀行が四半期ごとに債券市場サーベイを公表している21。発行条件・発行額・年限は起債情報で追える。

日本の社債は投資家の多くが満期保有で流通量が少なく、流通市場の値段は少ない取引に引きずられやすい。発行体の立場では、自社の既発債の流通スプレッドを同じ格付の平均と並べて見るのが現実的だろう。発行登録制度を使っていれば発行の機動性は確保できるが、どの週に出すかの判断は残る。社債市場が閉じかけたときの代替として、銀行借入やコマーシャルペーパー​(CP)の枠をどれだけ持っているかも、起債計画と一緒に点検する。

学習用の​設例:甲社の​起債判断を​6つの​物差しで​点検する

学習用の設例(架空)

  • 甲社はA格の製造業で、設備資金として100億円の社債発行を予定している
  • 6分類ごとに代表指標を1つ選び、過去3年の平均からの乖離を標準偏差の倍数で表す(スプレッドと気配の差は符号を反転)
  • 3時点(平常時・局面X・局面Y)の値と過去の平均・標準偏差はすべて架空。各市場のスコアは3分類の単純平均

図2は3時点のスコアである。局面Xでは6つの物差しがそろって悪く、発行市場の平均は−1.98、流通市場は−2.21になる。発行額(−1.80)と発行年限(−2.00)がともに大きく沈んでいるのが、単なる値上がりとの違いである。局面Yは発行スプレッドが−1.38、流通スプレッドが−1.67と値段はまだ悪いが、発行額は−0.20、年限は−0.17と平常に近い。

図2 設例 起債前に見る市場のスコア図2 設例:起債前に見る市場のスコア過去3年の平均からの乖離(標準偏差の倍数)右ほど機能度が高い。すべて架空の数値-3-2-10+1P1 発行スプレッドP2 発行額P3 発行年限発行市場の平均S1 流通スプレッドS2 売買高S3 気配の不一致流通市場の平均平常時局面X(すべて悪化)局面Y(値段だけ)局面Y:スプレッドは広いが、発行額と年限は戻った平均は3分類の単純平均(論文は時変の相関ウエート)
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(指標の​値・​過去3年の​平均と​標準偏差は​すべて​架空)。​分類の​立て方は R1(Chart 1, PDF p.6)に​倣ったが、​集計は​簡略化し、​各市場の​3分類を​単純平均した。​スコアは​「高いほど機能度が高い」​向きに​そろえた​(スプレッドと気配の差は符号を反転)。

ここでは仮の目安として、発行額と年限のスコアがともに-1.0より上なら「量と年限は通常の範囲で、論点は上乗せ金利の交渉」、どちらかが-1.5を下回れば「年限・時期・代替手段を検討する局面」と置く。局面Yは前者、局面Xは後者に当たる。この閾値は説明のための置き方で、論文が示した基準ではない。

局面Xで甲社が出すとしたら、どの年限を選ぶか。案Aは10年債をスプレッド0.80%で出す。案Bは需要の残っている5年債を0.45%で出し、5年後に5年債で借り換える。上乗せ金利だけを割り引かずに足すと、案Aは10年間で8.00億円、案Bは最初の5年間で2.25億円になる。案Bが案Aと同じ負担になる借り換え時のスプレッドは1.15%(115bp)である。

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表2 設例:今10年で出すか、5年で出して借り換えるか
5年後の借り換えスプレッド案Bの10年間の上乗せ金利の合計案A(10年債)との差
0.45%4.50億円−3.50億円
0.60%5.25億円−2.75億円
0.80%6.25億円−1.75億円
1.00%7.25億円−0.75億円
1.15%(損益分岐)8.00億円0.00億円
1.30%8.75億円+0.75億円
出所:学習用の​仮定に​基づき大手町​プレップ作成​(甲社・スプレッドはすべて架空)。​調達額100億円。​案Aは​10年債を​スプレッド0.80%で​発行​(10年間の合計8.00億円)、​案Bは​5年債を​スプレッド0.45%で​発行し​(5年間で2.25億円)、​5年後に​5年債で​借り換える。​基準金利​(国債利回り)と​発行費用は​比較から​除き、​上乗せ金利​(スプレッド)だけを​割り引かずに​合計した。​差が​マイナスなら​案Bが​安い。

借り換え時のスプレッドがこれを下回れば案Bが安い。この比較は基準金利(国債利回り)と発行費用を除いているので、実際には借り換え時の金利リスクと、償還が一時期に集中するマチュリティ・​ウォールの問題も合わせて判断する必要がある。局面Yまで待って10年債を0.70%で出せれば、案Aより1.00億円少なくなるが、その間の資金をつなぐ手段と、局面Yが来ない可能性を織り込まなければならない。

明日から​使える​確認項目

  1. 起債の2〜3か月前から、表1の6項目を月次(できれば週次)で記録し、過去3年の平均からの乖離を標準偏差の倍数で表す。判断の中心は発行額と年限に置く。
  2. 自社の既発債の流通スプレッドから、同じ格付の平均を引いた差を毎月並べる。差の拡大は自社要因を疑う手がかり、両方が広がれば市場要因の可能性が高い(編集部の目安で、論文の判定基準ではない)。
  3. 市場要因のときは、米国の金利ボラティリティ(MOVE指数)と国債利回り曲線の歪みの動きを確認し、条件決定日を日米の金融政策の決定日や重要統計の発表日から離せるかを検討する。
  4. 年限を短くする案は、表2と同じ手順で「借り換え時の損益分岐スプレッド」を計算し、自社の格付の過去の最大スプレッドと比べる。過去の最大スプレッドが分岐点を上回るなら、その水準で借り換えると案Bの負担が案Aを上回ることを確認する。
  5. 主幹事に3点を聞く。直近2週間で見送り・延期になった案件は何件か。10年超の年限にどの投資家層の需要が残っているか。同格付の既発債の気配のばらつきは平常時と比べてどうか。
  6. 社債が出せない期間をつなぐ銀行借入・CPの枠と、その期間・コストを起債計画書に併記する。

よく​ある​質問

日本銀行の​社債市場機能度​指数は、​どこかで​毎月​公表されていますか。

定期的に​公表される​統計と​しては​確認できませんでした​(2026年10月時点)。​構成要素の​一部は​日本証券業協会が​公表しているので、​設例のように​簡略化して​自社用に​再現する​ことは​できます。

まとめ

日本銀行の研究者らの社債市場機能度指数は2008〜2009年と2022〜2023年に大きく下がり、その低下は米国と国内の金利の揺れや国債利回り曲線の歪みと重なっていた。設備投資と結びついていたのは主に発行市場の機能度で、発行額や年限には値段では拾えない情報が含まれていた。起債を控えた実務家にとっての持ち帰りは、スプレッドの数字だけで市場を判断せず、量と年限、そして悪化の原因が自社か市場かを分けて見ることだ。分析は日本銀行の社債買入れが続いた期間のもので、買入れ終了後の市場で同じ関係が成り立つかは、これから確かめる必要がある。

脚注

  1. R1(BOJ WP 24-E-5 英語版, 2024年6月)p.2〜3(要旨・1節)、p.6(Chart 1)。米国の社債市場ディストレス指数(Boyarchenko et al.)の手法に倣ったと記載。本記事のページはPDFの物理ページ(表紙をp.1とし、印刷ページ番号+1。以下同じ)。日本語版 24-J-5(2024年5月22日)で題名・著者の表記を照合。↩
  2. R1 p.6〜9(2.2節)、p.42〜44(付録B)。信用リスクを除いた発行スプレッドは上場企業の公募債を対象に、ROA・負債資本比率・株価ボラティリティ・格付・年限で説明できる部分を除いた時間効果(p.35〜40、付録A)。発行額・売買高は前3年の同月平均に対する比率(p.7 脚注8)。気配の差は残存5年以上10年未満の銘柄の最高値と最低値の差の中央値(p.44)。↩
  3. R1 p.5(2.1節。米国の取引報告制度TRACE)、p.8(日本では取引単位のデータが入手できない)、p.9〜12(2.2〜2.3節、Chart 4。時変の相関ウエート、平滑化係数0.90)、p.14(3節。観測期間の平均が0)。↩
  4. R1 p.14〜15(3節の第1〜第3局面)。震災後のエネルギー関連企業のシェア「about 20 percent of total issuance」、平均発行年限「more than 10 years around 2020 compared with 7.5 years before QQE」(p.15)。↩
  5. R1 p.16(3節の第4局面)。2022年半ば以降の発行スプレッド拡大・発行額減少・発行年限短期化はクレジットアナリストの指摘として p.8 にも記載。↩
  6. R1 p.17〜20(4.1節)、Chart 7 のモデル(1)(p.19。2008年1月〜2023年12月、192か月、調整済みR² 0.618。説明変数は日銀の保有・買入れ以外を基準化)、Chart 8(p.20、寄与度分解)。↩
  7. R1 p.23(Chart 10 と本文)。YCCの下での連日の指値オペと国債利回り曲線の歪み、先物・スワップ市場との連動の低下、社債の利回り曲線の歪みと市場参加者の指摘はいずれも同頁。↩
  8. R1 p.19〜21(Chart 7 のモデル(6)(9)と本文)。発行市場の保有残高の係数0.04はモデル(6)で10%水準の有意(買入額を含めないモデル(5)では5%水準)。保有残高・買入額はいずれも発行残高に対する比率(p.18)。全体指数(モデル(3))では保有・買入とも有意でない(p.20)。ストレス時の下支え、満期保有と流通量の解釈は p.20〜21 の著者の記述。↩
  9. R1 p.15〜16(Chart 6。2015年1〜3月期〜2023年10〜12月期。全体指数0.39(5%水準で有意)、発行市場0.20(有意でない)、流通市場0.48(1%水準で有意))。↩
  10. R1 p.21〜22(Chart 9。Diebold and Yilmaz の接続度、75パーセンタイルのショックを扱う分位点VAR、2005年1月〜2023年12月、30四半期先の分散分解)。↩
  11. R1(WP 版)p.24〜26(4.2節、Chart 11 のモデル(1)〜(5)。被説明変数は同じ期のI/K比、2005年1〜3月期〜2023年10〜12月期の75四半期、指数は1期前)。統制変数のみの調整済みR²は0.790、発行市場の部分指数を加えると0.825。I/K比の平均2.92%・標準偏差0.18(76四半期)は付録D Chart D.3(p.55)。約36%は0.065÷0.18による大手町プレップの計算。両部分指数を同時に入れた WP 版の推計は発行市場0.091(1%水準で有意)・流通市場−0.046(5%水準で有意)で、著者は多重共線性の可能性を指摘(p.25)。約36%は WP 版の単独投入の係数による換算で、査読版には同じ定義のモデルがない。↩
  12. R5(The Japanese Economic Review 掲載版, 2026年)の訂正後の Table 2「Estimation results: The CBMFI and business fixed investment」(R6 の Publisher Correction で無料公開。推計期間 2005年1〜3月期〜2023年10〜12月期、74観測、被説明変数は I/K比の2期先)。統制変数のみの Model 1 の調整済みR²は0.765、CBMFI を加えた Model 3 は0.066(標準誤差0.018、1%水準で有意、調整済みR² 0.792)、Model 4 は発行市場0.083(1%水準で有意)・流通市場−0.013(有意でない)。発行市場の部分指数を単独で入れたモデルは表にない。要旨は“particularly those related to primary market functioning, have significant predictive power for future business fixed investment”とする。掲載版の本文・付録は購読制のため未読。↩
  13. R1(WP 版)p.25〜28(Chart 11 のモデル(6)、Chart 13 のモデル(3)(6))。金融変数を加える前の推計では第1主成分0.032(5%水準で有意)・第2主成分0.097(1%水準で有意)。金融変数を加えた推計は63四半期、調整済みR² 0.896。日銀の社債保有を加えた推計では保有の係数0.030(1%水準で有意)。第1主成分を共通要因、第2主成分を発行市場の相対的な機能度とみる解釈は著者による(p.26、p.49)。査読版の訂正後 Table 2 の Model 5 では第1主成分0.049(1%水準で有意)・第2主成分0.067(5%水準で有意)、調整済みR² 0.810(R5)。金融変数・日本銀行の保有を加えた推計は査読版では未確認。↩
  14. R1 p.46〜52(付録C)。分類別の推計は Chart C.2(p.47〜48)、主成分は Chart C.4・C.5(p.49〜50)、信用リスクを除いた発行スプレッドを加えた推計は Chart C.6(p.51〜52)。トービンのqを使った推計でも発行市場の部分指数は有意(p.46)。↩
  15. R1 p.29〜30(5節)、p.30 脚注31(銀行借入による代替と銀行システムへの波及)。多重共線性の指摘は p.25。流通スプレッドはAA・A格(p.7)。↩
  16. R4(改訂版, 2025年7月)p.1(題名・要旨)、p.13(観測期間2005年1月〜2024年3月)、p.18 Table 2・p.25 Table 3・p.27 Table 4(R1 の Chart 7・11・13 に対応)。記事が使う数値・主張の50項目が2024年版と一致することを大手町プレップが照合。R5: Ochi and Osada, The Japanese Economic Review 77(4), pp.909–936(2025年10月7日投稿受付、2026年3月12日採択、2026年5月25日オンライン公開)。掲載ページは購読制の表示で、要旨・脚注・参考文献・訂正後の表2のみ確認。R6: Publisher Correction(2026年6月30日, pp.937–938)は、表2の位置にオンライン付録の表C1が誤って組まれていたため正しい表に差し替えたという組版の訂正。↩
  17. R2(日銀レビュー 2023-E-8, 2023年11月)p.1〜3。同じ著者による先行研究で、本論文はその発行スプレッドの共通要因を指標の一部に使う(R1 p.7 脚注5)。エネルギー関連企業の発行額シェアは2022年4〜6月に約30%(p.2)。日本語版は2023年9月公表(2023-J-11)。↩
  18. R3(ニューヨーク連銀 Staff Reports No.957。初版2021年1月、2024年9月改訂、旧題 Measuring Corporate Bond Market Dislocations)の掲載ページの要旨。本文は未確認。↩
  19. R7 日本銀行「金融政策の枠組みの見直しについて」(2024年3月19日)p.2(3)②「CP等および社債等について、買入れ額を段階的に減額し、1年後をめどに買入れを終了する」(全員一致)。↩
  20. R8 日本証券業協会「公社債店頭売買高」の統計ページ(「公社債について、種類別・投資家別に毎月の店頭売買高をまとめています」、毎月20日更新の表示。2026年10月23日閲覧)。論文の売買高(S2)は同協会会員の店頭売買高(R1 p.8)、流通スプレッド(S1)と気配のばらつき(S3)は毎営業日公表の参考統計値(R1 p.7 脚注6、p.43〜44)。↩
  21. R1 p.5(2.1節)。日本銀行の債券市場サーベイは四半期ごとに国債流通市場の機能度を市場参加者に尋ねる調査と記載。↩

参考文献​(2026年10月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、投資助言・法務・税務の助言ではありません。研究結果は各論文の対象・期間・方法の範囲で得られたもので、日本の個別企業・案件にそのまま当てはまるとは限りません。設例は学習用の架空の数値です。アイキャッチ画像は生成AIによるイメージです。