この記事で分かること
- なぜ日本の非公開化がTOBとスクイーズアウトの二段階で行われるのか
- 第二段階の手法が応募状況によって分かれる仕組み(図解)
- 株式併合による端数処理を整数設例で追う手順
- 少数株主保護と会社法・金商法上の位置付け(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
二段階買収(Two-Step Acquisition、読み方:にだんかいばいしゅう)とは、第一段階で公開買付け(TOB)により議決権の大多数を取得し、第二段階でスクイーズアウト手続によって残る少数株主を締め出して完全子会社化する、日本の標準的な非公開化・完全子会社化の手法です。TOB後スクイーズアウトとも呼ばれます。一度の手続で全株式を取得できないのは、TOBがあくまで任意の応募に基づく制度だからです。応募しない株主が必ず一定数残るため、その後に会社法上の手続で強制的に金銭を対価として株式を取得する第二段階が必要になります。
なぜ実務で重要なのか
上場会社を対象とするPEのバイアウト、親子上場の解消、MBOのいずれもこの型で進みます。TOBの成立だけでは目的は達成されず、第二段階を含めた全体設計ができて初めて案件として成立します。
- IB・FA:TOBの下限設定(何%以上の応募を成立条件とするか)を、第二段階でどの手法を使うかから逆算して設計します。
- PE:完全子会社化までの期間は資金が拘束され、借入のドローダウンや配当の実行時期に影響します。日程の設計はリターンに直結します。
- 法務・経営企画:少数株主保護の手続(特別委員会の設置、価格の公正性の担保)が不十分だと、後の価格決定申立てで争われます。
仕組み:応募状況で第二段階が分かれる
第二段階の手法は、第一段階の結果として買付者がどれだけの議決権を持つに至ったかで決まります。
議決権の90%以上を取得した特別支配株主は、株主総会を経ずに他の株主全員に対して株式の売渡しを請求できます。手続が速く確実なため、買付者はTOBの成立下限をこの水準に置きたいと考えます。90%に届かない場合は、株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)で株式併合を決議し、少数株主の持株を1株未満の端数にしてから金銭で処理します。第二段階の手法比較はスクイーズアウト手法の比較で詳しく整理しています。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。発行済株式総数50,000千株の上場会社に対し、TOB価格1,200円で公開買付けを行います。潜在株式・自己株式・単元株の影響は捨象します。
ケース1:応募42,000千株の場合。取得後の議決権割合は 42,000 ÷ 50,000 = 84.0% です。90%に届かないため株式等売渡請求は使えませんが、特別決議に必要な3分の2(50,000 × 2 ÷ 3 = 33,334千株、66.67%)は大きく上回るため、株式併合の決議は可決できます。
併合比率を「1,000,000株を1株に併合する」と設定すると、買付者の保有は 42,000,000株 ÷ 1,000,000 = 42株。一方、少数株主のうち最大の保有者が900千株であれば 900,000株 ÷ 1,000,000 = 0.9株 となり、少数株主全員の持株が1株未満の端数になります。端数は裁判所の許可を得て売却され、代金が株主に交付されます。交付額をTOB価格と同額にそろえると、少数株主分の総額は 8,000千株 × 1,200円 = 9,600百万円 です。
| 項目 | 株式数 | 金額(百万円) |
|---|---|---|
| 第一段階(TOB応募分) | 42,000千株 | 50,400 |
| 第二段階(端数処理分) | 8,000千株 | 9,600 |
| 合計 | 50,000千株 | 60,000 |
検算します。第一段階は 42,000千株 × 1,200円 = 50,400百万円、第二段階は 8,000千株 × 1,200円 = 9,600百万円、合計 50,400 + 9,600 = 60,000百万円。全株式を一括で取得した場合の 50,000千株 × 1,200円 = 60,000百万円 と一致します。所要資金の総額は変わらず、支払のタイミングだけが二段階に分かれることが分かります。
ケース2:応募46,000千株の場合。議決権割合は 46,000 ÷ 50,000 = 92.0% で90%以上となるため、株式等売渡請求により株主総会を経ずに残り8.0%を取得できます。ケース1に比べて完全子会社化までの期間が短くなり、資金拘束期間も短縮されます。
市場・取引制度上の位置付け
二段階買収の設計は、少数株主保護と表裏一体です。第一段階のTOB価格が低すぎれば応募が集まらず不成立になり、第二段階で交付する金銭がTOB価格を下回れば「応募しなかった株主が不利になる」構造(強圧性)が生じます。この強圧性を避けるため、第二段階の対価をTOB価格と同額にすることが実務の確立した扱いであり、TOBの公表資料にもその方針が明記されます。
また、経営陣が買収者側に回るMBOや、支配株主による完全子会社化では構造的な利益相反が生じます。そのため独立社外取締役等による特別委員会の設置、外部評価機関による株式価値算定、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件の設定といった公正性担保措置が講じられ、その内容は意見表明報告書で開示されます。
実務での調べ方・確認手順
- スケジュール表を作る:TOB公表・買付期間・決済日・臨時株主総会・効力発生日・上場廃止日を1本の時間軸に並べ、資金の拠出日と借入実行日を重ねます。
- 応募感応度:応募率を60%〜95%で振り、90%到達の有無で第二段階の手法と所要期間がどう変わるかを表にします。
- 所要資金の上限:全部買付義務が生じる場合を含め、最大でいくら必要かを「全株式×買付価格+関連費用」で押さえます。
- 先例の読み方:EDINETで公開買付届出書と意見表明報告書、対象会社の適時開示を並べて読むと、価格の算定根拠と公正性担保措置の書き方が把握できます。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
- 誤解1「TOBが成立すれば完全子会社化は自動的に完了する」→ TOBは任意の応募制度です。応募しなかった株主は依然として株主であり、第二段階の会社法手続を経なければ完全子会社化はできません。
- 誤解2「応募しなければ高く買ってもらえる」→ 第二段階の対価はTOB価格と同額にそろえるのが実務の扱いです。応募しないことは、資金化の時期が遅れる分だけ不利になり得ます。ただし価格に不服がある株主には裁判所への価格決定申立ての道があります。
- 確認ポイント:①TOBの成立下限を90%に置くか3分の2に置くか、②公正性担保措置の内容、③第二段階の対価と第一段階の価格が一致しているか、④上場廃止までの日程と資金拘束期間。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)第一段階は金融商品取引法の公開買付規制に、第二段階は会社法の手続に基づきます。会社法上、総株主の議決権の90%以上を有する特別支配株主は、他の株主の全員に対してその保有株式を売り渡すよう請求できる制度(株式等売渡請求)が設けられており、対象会社の取締役会の承認により株主総会を経ずに実行できます。90%に満たない場合は、株主総会の特別決議による株式併合を用い、1株に満たない端数を裁判所の許可を得て売却し、その代金を株主に交付する方法が一般的です。かつて用いられた全部取得条項付種類株式による手法は、株式併合の手続が整備されて以降は選択されることが少なくなっています。
少数株主の救済手続として、株式併合に反対する株主には反対株主の株式買取請求権が、株式等売渡請求では売買価格の決定の申立てが用意されています。いずれも裁判所が価格を決定する枠組みです。加えて、経済産業省が公表した「公正なM&Aの在り方に関する指針」(2019年)は、MBOや支配株主による従属会社の買収において、特別委員会の設置、外部専門家からの助言取得、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件、十分な情報開示といった公正性担保措置の考え方を整理しており、実務の事実上の基準として広く参照されています。手続の詳細や要件は改正され得るため、実際の案件では最新の法令と弁護士の判断によります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:なぜ日本の非公開化は二段階で行われるのですか。
「TOBが任意の応募に基づく制度で、全株式を一度に取得できないためです。第一段階のTOBで議決権の大多数を取得し、第二段階で会社法上のスクイーズアウト手続により残る少数株主を金銭対価で締め出します。議決権90%以上を取得できれば株主総会を経ない株式等売渡請求が使え、届かない場合は特別決議による株式併合で端数処理を行います。強圧性を避けるため、第二段階の対価は第一段階のTOB価格と同額にそろえるのが実務です。」
深掘りでは「TOBの下限を90%に設定することの得失」「特別委員会は何を審議するのか」「価格決定申立てで争点になるのは何か」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 第二段階まで完了するのにどれくらいかかりますか。
A. 株式等売渡請求は株主総会が不要なため相対的に短く、株式併合は臨時株主総会の招集手続が必要な分だけ長くなります。具体的な日数は案件の規模や必要な許認可・競争法対応の有無で変わるため、個別案件のスケジュール表で確認してください。
Q. 二段階買収は敵対的な買収でも使えますか。
A. 制度上は可能ですが、第二段階の株式併合には株主総会の特別決議が必要で、対象会社の取締役会が反対する状況では総会運営そのものが困難になります。実務では対象会社の賛同を得た友好的な案件で用いられるのが通例です。
出典・参考(2026-08確認)
- e-Gov法令検索「会社法」「金融商品取引法」 https://elaws.e-gov.go.jp/
- 経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する指針」(2019年6月) https://www.meti.go.jp/
- EDINET(公開買付届出書・意見表明報告書) https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。