この記事で分かること

  • 少数株主排除に使える3つの法的手法(株式併合・全部取得条項付種類株式・株式売渡請求)の要件の違い
  • どの手法を選べるかは、TOB後に保有する議決権比率でほぼ決まること
  • 二段階買収における対価計算の整数設例(保有比率別)
  • 反対株主に認められる価格決定申立て(会社法上の救済)との関係

30秒で分かる定義

スクイーズアウトとは、M&Aで支配権を握った大株主が、残る少数株主から強制的に株式を取得し完全子会社化する手続の総称であり、日本の会社法には主に①株式併合、②全部取得条項付種類株式の取得、③特別支配株主の株式等売渡請求という3つの実現手法があります。読み方は「すくいーずあうとしゅほうのひかく」。TOB(株式公開買付け)で議決権の多くを取得した後、残った少数株主を退出させる二段階買収の第2段階として用いられるのが典型です。

なぜ実務で重要なのか

IB・PEにとっては、二段階買収のスキーム設計そのものがTOB想定応募率次第で変わるため、案件初期のストラクチャリング段階で押さえておくべき論点です。法務・M&A担当は、手続選択によって必要な株主総会決議の有無、コスト、所要期間が変わるため、クロージングスケジュールに直結します。経営企画は、完全子会社化のタイミングを踏まえたPMI計画の立案にこの手続を織り込みます。

仕組み:3手法の比較

手法主な要件決定機関反対株主の救済
株式併合発行済株式を一定比率でまとめ、端数となる少数株主持分を金銭処理株主総会特別決議(議決権の2/3以上)価格決定申立て・差止請求
全部取得条項付種類株式普通株式を全部取得条項付種類株式に転換した上で会社が取得株主総会特別決議(定款変更+取得の2件)価格決定申立て
株式等売渡請求議決権の90%以上を保有する特別支配株主が直接売渡しを請求対象会社の取締役会承認(株主総会不要)価格決定申立て

実務上の分岐点は明快で、TOB後の議決権比率が90%以上であれば株式等売渡請求が使え、90%未満であれば株式併合(または全部取得条項付種類株式)によることになります。

二段階買収の全体像はM&Aプロセス、TOBの基礎はTOB入門で解説しています。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。対象会社の発行済株式数は1,000万株、TOB価格は1,000円とします。

ケースA:TOB後保有比率92%
保有920万株、少数株主80万株。92%は90%以上のため株式等売渡請求が使えます。対価=80万株×1,000円=8億円。株主総会は不要で、取締役会の承認で足ります。

ケースB:TOB後保有比率85%
保有850万株、少数株主150万株。85%は90%未満のため株式等売渡請求は使えず、株式併合を選択します。85%は特別決議の要件である2/3(約66.7%)を上回るため決議は可決可能です。対価=150万株×1,000円=15億円。ただし株主総会の招集手続(基準日設定、招集通知、2週間以上の期間)が別途必要になります。

案件プロセス上の位置付け

TOBの応募状況が確定した時点で、90%を跨ぐかどうかがその後の実務フローを決める分岐点になります。PEの投資委員会向け資料では、TOB想定応募率のシナリオ(例:80%・90%・95%)ごとに、使える手法・必要な手続日数・追加コストをあらかじめ整理しておくのが一般的です。

財務モデル・Excelでの使い方

二段階買収モデルには、TOB後保有比率のシナリオテーブルを設け、各シナリオで使える手法をIF関数で判定します。

  • =IF(保有比率>=90%,"株式等売渡請求","株式併合") のような判定行を用意する
  • 対価総額=少数株主保有株式数×取得価格の計算行を設ける
  • 反対株主による価格決定申立てが生じた場合の追加コスト(弁護士費用・鑑定費用)を感応度として別行に置く

この用語をExcelで「組める」状態にする

二段階買収のTOB応募率シナリオから、使える手法と少数株主買取コストを自動判定・計算できるようになる。

M&A教材でスキーム設計の実務を見る →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「3手法とも経済的効果は同じだから手続はどれでもよい」→ 正しくは、保有比率要件と必要な株主総会決議の有無が異なり、選べる手法は限定されます。

誤解2:「90%は発行済株式数を基準にする」→ 正しくは議決権ベースの基準であり、種類株式や自己株式の扱いに注意が必要です。

確認ポイントは、対価の妥当性(価格決定申立てで裁判所が公正な価格を算定するリスク)と、少数株主への通知・催告の手続に漏れがないかです。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)会社法には、株式併合、全部取得条項付種類株式、特別支配株主の株式等売渡請求という各制度が定められており、いずれも少数株主のスクイーズアウトに用いられます。経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する指針」でも、価格の公正性確保の観点から少数株主保護に関する実務上の留意点が示されています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:TOBで92%を取得した場合、残りの少数株主をどう退出させますか。
「議決権の90%以上を保有する特別支配株主に該当するため、株主総会を経ずに株式等売渡請求を使えます。TOB価格と同額を対価とし、対象会社の取締役会の承認を得て通知します。少数株主は価格決定申立てにより裁判所で価格を争うことができます。」

深掘りでは「90%を下回った場合の代替手法(株式併合)」「特別決議に必要な2/3の要件」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 株式併合と全部取得条項付種類株式はどちらが多く使われますか?
A. 現在は手続がシンプルな株式併合が主流です。全部取得条項付種類株式はかつて主流でしたが、端数処理をめぐる裁判例の蓄積を経て株式併合への移行が進みました。

Q. 価格決定申立てをされるとどうなりますか?
A. 裁判所が公正な価格を算定し、TOB価格と異なる価格が命じられる可能性があります。TOBに応募しなかった株主が事後に高値を得るケースもあるため、価格設定の合理性を説明できる資料の整備が重要です。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

共有: