この​記事で​分かる​こと

  • 個別財務諸表(単体決算)の定義と、連結財務諸表との目的の違い
  • 分配可能額を単体の数字で計算する整数設例
  • 持株会社の子会社配当への依存と構造的劣後の見方
  • 会社法の計算書類・有価証券報告書での位置付けと、単体を見る場面

30秒で​分かる​定義

個別財務諸表(こべつざいむしょひょう、Non-Consolidated/Standalone Financial Statements)とは、子会社などを含めず、会社1社だけの財政状態・経営成績を示す財務諸表です。「単体決算」「単体財務諸表」「個別決算」とも呼ばれます。会社法の計算書類(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表)は、会社単体で作成するものです[1]。

連結財務諸表が「企業集団を1つの会社のように見た」数字であるのに対し、個別財務諸表は「法人としてその会社」の数字です。連結の作成手続は連結会計・​持分法で扱います。本ページは、連結ではなく単体を見るべき場面(配当・持株会社・債務超過など)を中心に整理します。

なぜ実務で​重要なのか

経理・経営企画は、配当や自己株式取得の可否を、単体の数字で判断します。融資担当は、持株会社に貸す場合、連結の数字だけでなく、持株会社自身(単体)の返済原資を見ます。IB・PE・FASは、買収対象が持株会社の場合、単体BSで借入と子会社株式(関係会社株式)の構造を確認し、子会社からの配当で返済できるかを分析します。M&A実務では、株式譲渡の対象は法人単体であり、デューデリジェンスでも単体財務諸表の確認が欠かせません。

計算式​(または仕組み)

連結と単体は、見る目的が違います。

観点連結個別(単体)
対象親会社と子会社などの企業集団会社1社(子会社への投資は関係会社株式等で表示)
子会社への投資子会社の資産・負債・損益を合算し、投資と資本を相殺子会社株式は資産。子会社の損益は直接取り込まず、子会社からの配当を受取配当金として計上
配当・自己株式取得の財源(分配可能額)連結剰余金は直接の基準にならない(連結配当規制適用会社を除く)単体BSの剰余金が基礎
持株会社の収益事業会社の売上が中心子会社配当・経営指導料が中心

分配可能額は、会社法第461条第2項により、「剰余金の額」(第446条)から自己株式の帳簿価額などを差し引いて求めます。会社が計算書類の作成に際して選択した場合は「連結配当規制適用会社」となり、連結ベースの制約も加わります[2][3]。詳細は分配可能額を参照してください。

分配可能額 = 剰余金の額(最終事業年度末の単体BS)− 自己株式の帳簿価額 − その他の調整項目

整数設例で​確認する

設例(架空数値)。単位は百万円。

①分配可能額(単体):最終事業年度末の単体BSで、資本金1,000、資本準備金400、利益準備金100、その他資本剰余金200、その他利益剰余金1,500、自己株式の帳簿価額300とします。評価・換算差額等、新株予約権、のれん等の調整項目、期末後の自己株式処分や臨時計算書類はないと仮定します(実際の計算では第446条・第461条第2項と会社計算規則第158条の調整項目を確認します)。

  • 剰余金の額 = その他資本剰余金 + その他利益剰余金 = 200 + 1,500 = 1,700(資本金・準備金は含まない)
  • 分配可能額 = 1,700 − 自己株式 300 = 1,400

連結の利益剰余金が4,000あっても、単体の分配可能額は1,400です。連結配当規制適用会社を選択していない限り、配当などの上限はこの単体の数字で考えます。

②持株会社の返済原資:持株会社の単体の現金が500、年間の支払利息200・株主配当400の計600が必要で、子会社A・Bから受け取る配当が合計3,000の場合を考えます。ほかの収支はないとすると、年間の純収支は 3,000 − 600 = 2,400、期末の現金は 500 + 2,400 = 2,900 です。子会社配当が2,500に減ると、純収支は 2,500 − 600 = 1,900、期末の現金は 500 + 1,900 = 2,400 となります。このように、持株会社単体は子会社配当の増減に左右されます。連結の現金が多くても、子会社から親会社へ配当できる額には制約があります。

開示・​規制上の​位置付け

日本では、会社法の計算書類(単体)と、金融商品取引法の有価証券報告書(連結財務諸表と個別の財務諸表)の両方があります。会社法は、事業年度末に大会社で有価証券報告書の提出義務がある会社に、連結計算書類の作成を義務付けています[4]。連結の作成義務がある会社でも、単体の計算書類は別に作成し、分配可能額の判断や会社法上の手続に使います[1]。

単体で見るべき主な場面は次のとおりです。

  • 配当・自己株式取得:分配可能額は単体で判断します。
  • 持株会社の財務:親会社単体の借入と、子会社の借入は別の債権者に対する債務です。子会社の資産に対しては、子会社の債権者が親会社の債権者に先立つ関係になります。この構造は構造的劣後で扱います。
  • 債務超過の判断:財務制限条項や取引先の与信では、単体の債務超過が問題になる場合があります。
  • 税務:法人税の申告は、原則として法人単位です(グループ通算制度を選択している場合を除く)。

財務​モデル・​Excelでの​使い方

  • 連結と単体の突合:有報から連結・単体の純資産、利益、現金を同じ表に並べ、差額(子会社の内部留保・連結調整)を行ごとに確認します。
  • 分配可能額の試算:=その他資本剰余金+その他利益剰余金−自己株式−その他の調整のセルを置き、配当・自社株買いの計画額との差を表示します。
  • 持株会社のキャッシュフロー:受取配当(子会社別)+経営指導料−持株会社の費用・支払利息・配当・返済、として単体のCFを組み、返済余力を確認します。
  • EDINET比較:複数年度の単体データを同じ項目で並べるときは、EDINETでの取得手順がAIで​EDINETの​複数企業・​複数年度を​横断比較するで整理されています。

この​用語を​Excelで​「組める」​状態に​する

連結と​単体の​財務諸表を​並べて、​分配可能額と​持株会社の​返済余力を​試算できるようになる。

会計教材で​連結・​単体の​財務諸表の​読み方を​学ぶ →

実務家が​確認する​ポイントと​よく​ある​誤解

誤解1:「連結が黒字なら、会社は配当できる」→ 配当の上限は、原則として単体の分配可能額です。連結配当規制適用会社を選んでいる場合は連結ベースの制約も加わります。

誤解2:「連結の現金は、親会社がいつでも使える」→ 子会社の現金は子会社の資産で、親会社が使うには配当や貸付などの手続が必要です。子会社に少数株主や貸出契約上の制約があれば、さらに制限されます。

誤解3:「単体は連結の一部にすぎず、見なくてよい」→ 持株会社や配当の判断では、単体のほうが重要な場面があります。

確認ポイント:持株会社なら、受取配当金の水準と子会社別の内訳、子会社株式(関係会社株式)の評価損の有無、親会社単体の有利子負債を確認します。VDRでの単体資料の見方はVDR​(バーチャルデータルーム)の​読み方で触れています。

日本実務での​扱い

(2026年11月時点)会社法は、各事業年度に係る計算書類として貸借対照表・損益計算書等を作成するものとし[1]、会社計算規則は、このうち株主資本等変動計算書と個別注記表を計算書類に含めると定めています[5]。有価証券報告書の「経理の状況」では、連結財務諸表と、個別の財務諸表が記載されるのが一般的です。

分配可能額・持株会社の返済能力・債務超過の判断では、連結の数字だけでなく単体の数字が必要です。単体の注記や附属明細表で、どこまで内訳が開示されているかは、各社の有価証券報告書で確認します。

面接・​モデルテストで​問われる​ポイント

Q:連結では黒字の持株会社に融資する場合、単体で何を見ますか。
「持株会社は事業収益がなく、返済原資は子会社からの配当と経営指導料です。単体の受取配当の推移、子会社の配当余力、親会社単体の借入と返済スケジュールを確認します。子会社の債権者は子会社の資産に対して親会社の債権者に先立つため、子会社の借入の財務制限条項で配当が止まらないかも見ます。」

深掘りの観点:連結配当規制適用会社の選択の有無、関係会社株式の減損リスク、グループ内貸付の位置付け。

よく​ある​質問​(FAQ)

Q. 単体決算と連結決算の利益は一致しますか。
A. 一致しません。連結は内部取引の消去や子会社の損益の合算、のれんの償却などがあり、単体の利益には子会社の損益は直接含まれず、親会社自身の事業損益、受取配当金、経営指導料、支払利息、関係会社株式の評価損などで決まります。純粋持株会社では、子会社配当が主要な利益要因となる場合があります。持株会社では、単体が黒字でも連結が赤字、またはその逆になることがあります。

Q. 単体でしか分からない情報はありますか。
A. 分配可能額の計算の基礎、親会社単体の借入・保証、関係会社株式や子会社への貸付の内訳などは、単体の数字や注記で確認します。

出典・参考​(2026-11確認)

  1. e-Gov法令検索「会社法」第435条(計算書類等の作成及び保存). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
  2. e-Gov法令検索「会社法」第446条(剰余金の額)・第461条(配当等の制限)第2項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
  3. e-Gov法令検索「会社計算規則」第2条第3項第55号(連結配当規制適用会社)・第158条第4号. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010013(2026年11月参照)
  4. e-Gov法令検索「会社法」第444条(連結計算書類)第3項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086(2026年11月参照)
  5. e-Gov法令検索「会社計算規則」第59条(各事業年度に係る計算書類). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418M60000010013(2026年11月参照)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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