この記事で分かること
- 「特別利害関係者等」の範囲と、上場審査でこの株式異動が確認される理由
- 価格の妥当性をどう判定するか(バリュエーションとの整合)を整数設例で確認
- 「Ⅱの部」等での開示のされ方と、主幹事証券がチェックする実務フロー
- 上場直前の資本異動を検討する際の留意点(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
特別利害関係者等の株式異動に関する確認(Review of Share Transfers Involving Specially Interested Parties Prior to Listing、読み方:とくべつりがいかんけいしゃとうのかぶしきいどうにかんするかくにん)とは、役員・主要株主・その近親者・関係会社等(特別利害関係者等)が、上場申請までの一定期間に行った株式の取得・譲渡について、その価格の妥当性や目的を取引所が個別に確認する上場審査項目です。上場直前の資本異動によって不当な利益移転や見せかけの株主構成が作られていないかを検証する趣旨があります。
なぜ実務で重要なのか
IB(引受)は、上場申請書類(いわゆる「Ⅱの部」)の作成過程で、対象期間中の特別利害関係者等の株式異動を洗い出し、それぞれの取引価格の算定根拠を整理する必要があります。経営企画にとっては、資本政策を実行する際に「誰が」「いつ」「いくらで」株式を動かしたかが後から審査対象になることを見越した設計が求められます。VC・PEにとっても、投資先の役員間で株式が動く場合、この審査を意識した価格設定が必要です。
仕組み:確認のプロセス
数式で表せる指標ではなく、審査の流れとして理解する概念です。典型的なプロセスは次の通りです。
- ①発行会社が対象期間中の株式異動を一覧化(異動年月日・当事者・株数・価格・算定根拠)
- ②主幹事証券が各取引の価格算定根拠(純資産法・類似会社比較法・第三者評価等)を整理し、合理性を検証
- ③取引所へ提出する資料に反映し、必要に応じて追加の説明・資料提出を求められる
整数設例で確認する
設例(架空数値、単位:百万円)。役員間で株式が譲渡された2件を、類似会社比較法で試算した価格レンジと照らして確認します。EBITDA300、類似会社倍率をEV/EBITDA8〜9倍、純有利子負債300、発行済株式数3,000,000株とすると、株式価値レンジは次のとおりです。
- EV(低位)=300×8=2,400 / EV(高位)=300×9=2,700
- 株式価値(低位)=2,400-300=2,100 / 株式価値(高位)=2,700-300=2,400
- 1株当たり価格レンジ=2,100百万円÷3,000,000株=700円 〜 2,400百万円÷3,000,000株=800円
取引①(役員A→役員B、10,000株、1株750円)はレンジ内(700〜800円)に収まっており、価格の合理性が確認しやすいケースです。取引②(主要株主C→関係者D、5,000株、1株400円)はレンジを大きく下回っており、なぜその価格になったのか(親族間贈与に近い性質か、別の算定根拠があるか等)の追加説明が求められる典型例です。
開示・規制上の位置付け
この確認は、取引所の上場審査における実質審査の一部として位置付けられます。形式基準(株主数・時価総額等の数値基準)とは別に、上場申請のための開示資料の中で株式異動の状況を明示し、価格の合理性・取引の目的について取引所からの質問に答えられるようにしておく必要があります。
実務での調べ方・確認手順
上場申請のための開示資料(いわゆる「Ⅱの部」)には、特別利害関係者等の株式移動状況を記載する欄があり、投資家や審査担当者はここで異動の全体像を確認できます。実務担当者は次の観点で事前チェックを行います。
- 対象範囲(役員・主要株主に加え、その近親者・支配下にある会社まで含まれているか)の網羅性
- 各取引の価格算定根拠(第三者評価の有無、算定手法)が文書として残っているか
- 直前期の異動が集中していないか(集中している場合は目的の説明がより重要になる)
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「上場審査でチェックされるのは大株主の異動だけ」→ 正しくは、役員やその近親者、実質的な支配下にある会社まで含む「特別利害関係者等」という広い範囲が対象です。誰が対象範囲に入るかを早い段階で洗い出しておく必要があります。
誤解2:「価格が市場実勢に近ければ問題ない」→ 正しくは、価格の妥当性に加えて、異動の目的(株主構成を意図的に見せかけていないか等)自体も審査の対象になります。価格だけでなく、なぜその時期にその相手と取引したのかという背景説明も求められます。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)この確認は、日本取引所グループの有価証券上場規程に基づく上場審査の実務として運用されています。対象となる「特別利害関係者等」の範囲や確認対象期間の考え方は取引所の審査基準で定義されており、上場準備企業は主幹事証券会社と連携して、該当する株式異動の洗い出しと価格算定根拠の整理を計画的に進める必要があります。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:上場直前に役員間で株式を譲渡すると、審査上どのような点が問題になり得ますか。
「まず譲渡価格が市場実勢や算定手法に照らして合理的かが確認されます。加えて、なぜその時期にその相手と取引したのかという目的も審査対象になります。株主構成を実態と異なる形に見せかけるための異動でないことを、価格根拠と背景説明の両面で示す必要があります。」
深掘りでは「対象範囲に含まれる『特別利害関係者等』とは具体的に誰か」「価格算定根拠として何を用意しておくべきか」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 対象となる期間はどのくらい遡りますか?
A. 取引所の運用に従いますが、上場申請までの一定期間(複数期にわたる)の異動が確認対象となるのが一般的です。早い段階から株式異動の記録を整理しておくことが望まれます。
Q. VCが投資先の株式を追加取得した場合も対象になりますか?
A. VC自体が「特別利害関係者等」に該当するかは個別の事情によりますが、主要株主に該当する場合はその異動も確認対象に含まれ得るため、価格根拠を残しておくことが重要です。
出典・参考(2026-08確認)
- 日本取引所グループ(JPX)「有価証券上場規程」関連情報 https://www.jpx.co.jp/
- 経済産業省「スタートアップの成長に向けた資金調達に関する実務指針」 https://www.meti.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。