この記事で分かること
- セール・アンド・リースバックの定義と、自社物件を売却しても使い続けられる仕組み
- 整数設例による売却益・賃料水準の計算
- 新リース会計基準がオフバランス効果に与える影響と実務上の留意点
30秒で分かる定義
セール・アンド・リースバック(Sale-Leaseback、略称SLB、読み方:せーるあんどりーすばっく)とは、事業会社が保有する自社物件を投資家に売却し、同時に賃借して使用を続ける取引のことです。固定資産をオフバランス化しつつ事業を継続でき、資金調達手段として活用が広がっています。単に「リースバック」とも呼ばれます。
なぜ実務で重要なのか
- CFO・財務担当:本社ビル・工場・物流拠点等を売却して資金化し、成長投資や借入返済に充当する手段です。銀行借入や社債発行と並ぶ資金調達の選択肢として検討されます。
- 不動産ファンド・REIT:キャップレートで価格を決め、長期のノンリコースローンと組み合わせ安定インカムゲインを狙う対象として、SLB案件は主要な取得ソースです。
- IB・FAS:M&A・事業再生の局面で、保有不動産をSLBで資金化し負債圧縮やディール実行資金に充てる提案がよく行われます。
仕組み(取引の流れ)
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① 売却(Sale) | 事業会社が保有物件を不動産投資家に売却し、売却代金を受け取る |
| ② 賃借(Leaseback) | 売却と同時に、買主と長期の賃貸借契約を結び、同じ物件を借りて使用を継続する |
| ③ 資金の活用 | 得た資金を借入返済・設備投資・自社株買い等に充当する |
買主から見ると、事業会社が入居し続ける物件を長期契約で取得できるため、テナント探索の手間がなく安定したインカムゲインを見込めます。契約はトリプルネットリース(賃借人が固定資産税・保険料・修繕費を負担する形式)で組まれることが多く、貸主の収支変動を押える構造になっています。
整数設例で確認する(本社ビルのSLB)
設例(架空数値・単位:百万円):帳簿価額500(取得価格から減価償却累計額を控除した純額)の本社ビルを、不動産ファンドに市場価格1,200で売却するSLB取引。買主が適用するキャップレートは5%とします。
売却益=1,200-500=700。この物件の年間賃料は、期待利回りから逆算すると1,200×5%=60となります。事業会社は現金1,200を一括で得る一方、以後は年間60の賃料を支払い続けます。
検算:この資金1,200を金利2%の借入返済に充てると、支払利息が1,200×2%=24減少します。一方で年間賃料負担は60ですから、60-24=36の追加負担が生じます。SLBは一括で資金を得る代わりに、運用益・借入削減効果が賃料負担を上回るかを見極める必要があることが分かります。
PL・BS・CFへの影響
PL上、売却益700は原則として損益計上されます(新基準の適用有無や調整の要否は個別確認が必要)。BS上は物件(有形固定資産500)が減少し、現金1,200が増加します。2024年にASBJが公表した新リース会計基準(企業会計基準第34号)のもとでは、短期・少額リース等の例外を除き、賃借人はほぼすべてのリースについて使用権資産とリース負債をBSに計上します。従来オフバランスにできた賃借部分も、新基準適用後は再計上される点に注意が必要です。CF計算書上、売却代金の受取りは投資活動のプラス、賃料の支払いは営業活動のキャッシュアウトとして区分されます。
財務モデル・Excelでの使い方
- 売却益とオフバランス効果の分離:売却益(一時的な損益)と賃料負担のキャッシュフロー影響を別々の行で管理し、単年度の利益改善と長期の実質負担を混同しないようにします。
- 使用権資産・リース負債の計上:新基準の適用対象となる場合、賃料の現在価値をリース負債とし、対応する使用権資産を減価償却対象としてモデルに反映します。
- 資金使途シナリオの比較:売却代金を借入返済・設備投資・自社株買いに充てた場合のキャッシュフロー影響を試算し、賃料負担とのネット効果を比較します。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
- 誤解「SLBは常にオフバランス化できる」→正しくは、新基準の適用後はほぼすべてBS計上される。旧基準下では完全にオフバランスにできましたが、新基準では例外を除き使用権資産・リース負債が計上され、会計上のメリットは限定的になります。
- 誤解「無条件に得な資金調達」→正しくは、長期の固定賃料負担というコストを伴う。得た資金の運用リターンが賃料負担を上回るかを比較検討する必要があります。
- 確認ポイント:解約可能性と契約期間。長期の固定賃料契約により、将来の移転・縮小の柔軟性が失われる点も考慮すべきです。
日本実務での扱い
日本でも本社ビル・物流施設等を対象としたSLB取引は資金調達手段として活用が広がっています(2026年7月時点)。会計面では、ASBJが公表した新リース会計基準(企業会計基準第34号)が2027年4月1日以後開始する事業年度から上場企業等に強制適用される予定で、従来オペレーティングリースとして扱われた賃借取引の多くがBS計上の対象になります。これに伴い、SLBの意思決定は単純なオフバランス効果よりも資金使途の経済合理性を中心に評価する方向です。リース会計の全体像はリース会計入門を参照してください。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:セール・アンド・リースバックのメリットとデメリットを説明してください。
「メリットは、保有不動産を売却して一括で資金を調達しながら、賃借によって同じ物件を使い続けられる点です。借入や増資と異なる資金調達手段として財務の柔軟性を高めます。デメリットは、長期にわたり固定的な賃料負担を負う点、また新リース会計基準のもとではBSに使用権資産・リース負債が計上されるため、従来期待されたオフバランス効果が限定的になる点です。実行の判断は、資金の運用リターンが賃料負担のコストを上回るかどうかで評価します。」(30秒回答例)
深掘りでは「新基準でSLBの魅力がどう変わるか」や、「不動産担保融資との比較」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. SLBの賃料はどうやって決まりますか?
A. 買主が期待する利回り(キャップレート)と売却価格から逆算されるのが一般的です。市場のキャップレート水準、物件の立地・築年数、賃借人の信用力が影響します。
Q. SLB後、賃借人は将来物件を買い戻せますか?
A. 契約に買戻しオプションが定められている場合は可能ですが、標準的なSLB契約では前提としないのが通常です。付けると会計上リースではなく金融取引として扱われる可能性があります。
出典・参考(2026-07-21確認)
- 企業会計基準委員会(ASBJ)「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)(https://www.asb.or.jp/)
- 国土交通省(不動産市場関連資料)(https://www.mlit.go.jp/)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。