この記事で分かること

  • 関連当事者の範囲と、開示対象になる取引の判定の考え方
  • オーナー系企業で正常化EBITDAがいくら変わるかの整数設例
  • DD・MBO・非公開化で関連当事者取引をどう検証するか
  • 日本の会社法・開示制度と、公正性担保措置の実務

30秒で分かる定義

関連当事者取引(かんれんとうじしゃとりひき、Related Party Transactions、略称RPT)とは、親会社・子会社・役員・主要株主やその近親者など、会社と特別な関係にある相手との取引のことです。取引条件が第三者との取引と同じ条件で決まっているとは限らないため、会計基準は一定の重要性を超えるものについて注記での開示を求めています。取引そのものが違法なのではありません。問題は、価格や条件が市場実勢から離れていても、交渉相手が身内であるがゆえにそれが表に出にくいことにあります。財務諸表を読むときは「この利益は独立した相手との取引から生まれているか」を確認する視点が要ります。

なぜ実務で重要なのか

オーナー系の未上場企業を買収するとき、関連当事者取引の洗い出しは財務DDの中心作業のひとつです。オーナーへの過大な役員報酬、オーナー所有不動産への相場超えの賃料、親族が経営する会社への外注——こうした取引は買収後に解消されるため、その分だけEBITDAが実態より小さく(あるいは大きく)見えていることになります。ここを調整せずに評価倍率を掛ければ、価格が数億円単位でずれます。上場企業の側でも、支配株主との取引やMBOでは少数株主との利益相反が正面から問題になり、特別委員会の設置や第三者評価の取得といった公正性担保措置が求められます。監査人にとっては不正リスクの評価領域であり、監査上の主要な検討事項として取り上げられることもあります。

関連当事者の主な範囲 報告会社 財務諸表の作成会社 親会社・主要株主 支配する側 役員・その近親者 二親等内の親族など 子会社・関連会社 支配される側 役員が支配する会社 資産管理会社など 連結財務諸表では、連結消去される子会社との取引は開示対象から外れる
図:関連当事者の主な類型。実際の範囲と開示要否は会計基準の定義と重要性基準に従って判定する

計算式(または仕組み)

関連当事者取引に計算式はありませんが、実務では「実勢条件に置き換えたらいくらか」を必ず数値化します。財務DDの正常化調整はこの形で表されます。

正常化EBITDA = 報告EBITDA + Σ(関連当事者取引の実際額 − 独立第三者間価格)

独立第三者間価格(アームズレングス価格)の当たりを付ける材料は、同種取引の外部見積、近隣不動産の賃料相場、同規模企業の役員報酬水準などです。上振れ・下振れどちらもあり得るため、符号を機械的に扱わないことが重要です。オーナーが報酬を意図的に抑えて利益を厚く見せている場合は、調整はマイナス方向になります。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。売上高2,000百万円、報告EBITDA200百万円のオーナー系企業を、EV/EBITDA8.0倍で評価する場面を考えます。DDで次の関連当事者取引が判明したとします。

項目実際額実勢水準調整額
オーナー社長への役員報酬8030+50
オーナー所有不動産の賃借料6040+20
親族が経営する会社への外注費4530+15
調整合計+85

正常化EBITDAは 200 + 50 + 20 + 15 = 285百万円です。8.0倍を掛けると事業価値は 285 × 8.0 = 2,280百万円となり、報告EBITDAのままの 200 × 8.0 = 1,600百万円と比べて680百万円の差が生じます。単位はいずれも百万円です。調整の当否がそのまま価格差になるため、売り手・買い手の双方が根拠資料を持ち寄って議論する対象になります。

逆の落とし穴もあります。買収後もオーナーが会長として残り報酬を受け取り続けるなら、報酬の調整幅は50百万円ではなくもっと小さくなります。調整は「取引が消える前提」ではなく「買収後に実際どうなるか」で置くのが実務です。

PL・BS・CFへの影響

関連当事者取引はPLの各段階に紛れ込みます。売上(関係会社への販売)、売上原価(関係会社からの仕入)、販管費(役員報酬・賃借料・業務委託費)のいずれにも現れ得ます。BSでは、関係会社に対する売掛金・貸付金・保証といった形で残高が残り、回収可能性の検討対象になります。とくにオーナーや関係会社への貸付金は、買収時に現金同等物として扱えるのか、それとも回収不能として控除するのかが価格交渉の論点になります。キャッシュフロー計算書では、これらが営業CFと投資CFに分散して現れるため、関連当事者との資金移動を一覧に集約して把握する必要があります。正常化調整の考え方の全体像は財務DDとQuality of Earningsで扱っています。

財務モデル・Excelでの使い方

モデルでは、関連当事者取引を本体の予測から切り離した独立ブロックとして持つのが定石です。

  • 調整ブロック:取引ごとに「実際額」「実勢水準」「差額」「買収後の継続有無」の4列を並べ、継続有無のフラグで調整を自動オンオフする
  • 正常化行:=報告EBITDA+SUMIF(継続有無,"解消",差額列) の形で正常化EBITDAを算出し、評価シートへリンク
  • BS調整:関係会社貸付金・保証残高を別行で持ち、ネットデット計算に含めるかどうかをスイッチで切り替える

感応度分析では、正常化調整の全額を採用するケースと半額しか認められないケースを並べ、株式価値のレンジを示します。買い手側の投資委員会資料では、この調整の根拠資料の強さが最も突かれる箇所です。オーナー企業を対象とする案件全般の論点はMBOの実務も参考になります。

この用語をExcelで「組める」状態にする

関連当事者取引の調整表を作り、正常化EBITDAから事業価値・株式価値までを一気通貫で計算できるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「関連当事者取引があること自体が問題」→ 正しくは、グループ内の分業や資産管理会社の活用は正当な経営判断です。問題になるのは、条件が実勢から離れていること、決定プロセスに独立した目が入っていないこと、そして開示されていないことです。

誤解2:「注記に書かれていれば全部把握できる」→ 正しくは、開示は重要性基準によって絞られており、基準を下回る小口取引や、名義上は無関係に見える先との取引は注記に現れません。取引先マスタと役員の兼務先・住所情報の突合、決裁書類の閲覧といった地道な作業が必要です。

確認ポイント:期末近くに発生した関係会社向け売上、回収サイトが著しく長い関係会社売掛金、対価に見合わない業務委託契約は要注意です。これらは粉飾決算のレッドフラグとしても典型的なパターンにあたります。

日本実務での扱い(会計基準・会社法・上場制度)

開示の枠組みは、企業会計基準委員会の企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準」が定めています。関連当事者の範囲、開示対象取引、重要性の判断基準が示され、有価証券報告書では「関連当事者情報」として注記されます。連結財務諸表では、連結の過程で消去される子会社との取引は開示対象から外れる点が実務上のポイントです(2026年7月時点)。有報のどこを見るかの手順は有価証券報告書の読み方にまとめています。

会社法の側では、取締役が自己または第三者のために会社と取引する利益相反取引について、取締役会(取締役会非設置会社では株主総会)の承認が必要とされています。承認手続の有無は、DDの法務パートで必ず確認される事項です。上場会社については、支配株主との重要な取引等において少数株主保護の観点から独立した立場の意見を得ることが求められ、コーポレートガバナンス報告書でも関連当事者間取引の管理体制の記載が求められます。

MBOや支配株主による従属会社の買収では、経済産業省の「公正なM&Aの在り方に関する指針」(2019年公表)が実務の指針として広く参照されており、特別委員会の設置、外部専門家からの独立した助言・評価の取得、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件などの公正性担保措置が論じられます(2026年7月時点)。監査の観点からは、重要な関連当事者取引が監査上の主要な検討事項として記載されることもあり、外部からリスクの所在を知る手掛かりになります。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:オーナー企業のDDで関連当事者取引を見つけたとき、バリュエーションにどう反映しますか?
「まず取引を洗い出し、それぞれについて独立第三者間ならいくらかを見積もります。次に買収後にその取引が解消されるのか継続するのかを整理し、解消される分だけをEBITDAの正常化調整に含めます。オーナーへの過大報酬や相場超えの賃料は加算、逆に報酬が過少なら減算です。加えて関係会社への貸付金や保証はBS側の調整として、ネットデットに含めるかを検討します。調整根拠が弱いものは価格交渉で否認され得るため、外部見積など客観資料を揃えることが重要です。」

深掘りでは「オーナーが買収後も残る場合の調整の置き方」「調整幅について売り手と合意できないときの価格メカニズムの使い方」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 連結子会社との取引は関連当事者取引として開示されますか?
A. 連結財務諸表上は子会社との取引が消去されるため、原則として開示対象になりません。ただし個別財務諸表では開示対象となり得ます。連結と個別で見え方が変わるため、どちらの財務諸表を見ているかを意識する必要があります。

Q. 取引条件が実勢と同じなら開示は不要ですか?
A. 条件が妥当であることと開示の要否は別の問題です。会計基準は重要性の基準を満たす取引について、条件の妥当性にかかわらず開示を求めています。むしろ注記には「取引条件の決定方針」を記載する欄があり、そこで妥当性を説明する構成になっています。

出典・参考(2026-07-21確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。