この記事で分かること

  • 関連当事者取引の「承認」と「開示」は別の統制手続であること
  • 会社法356条とCGコード原則1-7の対象・手続の違い
  • PE・M&AのDDでこのプロセスの実効性をどう見るか
  • 承認プロセスをめぐるよくある誤解と確認ポイント

30秒で分かる定義

関連当事者取引の承認プロセスとは、支配株主・役員・その近親者など会社と特別な関係にある者との取引について、実行前に取締役会の決議や独立性のある役員の意見取得を経て承認する、社内統制の手続です。英語ではApproval Process for Related Party Transactions(読み方:かんれんとうじしゃとりひきのしょうにんぷろせす)。財務諸表上の関連当事者の開示(取引実行後に開示する事後的な情報開示)とは別の、取引実行の可否そのものを審査する事前のガバナンス手続である点が異なります。

なぜ実務で重要なのか

経営企画・法務では、親会社・大株主との取引(資金貸借、資産売買、業務委託等)を実行する前に、この承認フローに乗せる必要があるかの該当性判断が日常的に発生します。社外取締役・監査役にとっては、支配株主との利益相反リスクを監視する中心的な役割です。PE・M&Aでは、買収対象がオーナー一族・関係会社と行ってきた取引が、適切な承認プロセスを経てきたか(ガバナンスの実効性)がDDの着眼点になります。

仕組み(承認フローと根拠規範の比較)

会社法356条(利益相反取引)CGコード原則1-7(支配株主との取引)
対象取締役が当事者又は会社の代表として行う利益相反取引支配株主を含む関連当事者との重要な取引
手続取締役会(非設置会社は株主総会)の承認独立性のある社外取締役等の事前審査・意見取得、取締役会付議
性質会社法上の強行的な手続コンプライ・オア・エクスプレインの対象

会社法上の利益相反取引承認は「取締役個人」を対象とする限定的な制度である一方、CGコードは支配株主を含むより広い関連当事者との取引を対象とし、独立役員の関与を求める点で射程が異なります。両者は重複することも、片方のみ該当することもあります。

整数設例で確認する

承認プロセスに数式はありませんが、実務でよく問われる「取引条件の妥当性検証」の考え方を設例で示します。設例(架空数値・単位:百万円):支配株主グループ会社との業務委託契約で、提示された委託料は年間120。第三者の類似取引(相見積り2社の平均)は年間100であり、差額は120−100=20(20%割高)でした。この場合、独立委員会は「合理的な理由(品質・納期等の付加価値)で説明できる差か」を検証し、説明がつかなければ委託料の引き下げ交渉や契約見送りを取締役会に提案します。

投資判断への影響

PEファンドや買収者にとって、対象会社が関連当事者取引の承認プロセスを実質的に機能させてきたかは、財務数値の信頼性そのものに関わります。承認手続が形骸化している会社では、関連当事者との取引価格が市場価格から乖離している(利益の付け替え、簿外の便宜供与)リスクがあり、正常収益力の算定において関連当事者取引の条件を第三者取引条件に置き直す調整が必要になることがあります。M&Aの表明保証条項でも、関連当事者取引の適正性・承認手続の遵守が対象事項に含まれるのが通例です。

実務での確認手順

Excelでのモデル化にはなじみませんが、実務では次の手順で確認・整理します。

  • 取引一覧表を作成し、各取引について相手方の属性・取引金額・承認機関・承認日を横並びで管理する
  • 取引条件が第三者取引と比べて有利・不利でないかを、可能な限り市場データや類似取引と比較する
  • DDでは過去数期分の取締役会議事録・独立委員会の答申書を突合し、承認の有無・タイミング(取引実行前か事後追認か)を確認する

この用語を実務で「使える」状態にする

関連当事者取引の該当性判定から承認フロー設計・開示注記までを一気通貫で扱えるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「関連当事者取引は禁止されている」→ 正しくは禁止されておらず、適切な承認プロセスと開示を経れば実行可能です。合理的な事業目的があり、条件が公正であれば問題ありません。

誤解2:「開示すれば承認は不要」→ 正しくは、開示(有報の注記)は取引後の事後的な情報提供であり、取引実行前の承認手続とは別の要求です。両方が必要な場面が多くあります。

確認ポイントとしては、事後承認(取引実行後に取締役会で追認)になっていないか、独立役員の意見が形式的な「異議なし」に留まっていないかを見ます。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)会社法356条は取締役の利益相反取引について取締役会(非設置会社は株主総会)の承認を要求し、承認を欠く取引は会社が無効を主張できる場合があります。これとは別に、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード原則1-7は、支配株主を有する上場会社に対し、支配株主との重要な取引について、独立性を有する者の適切な関与(独立委員会の設置や社外取締役の意見取得等)を求めています。有価証券報告書では「関連当事者との取引」注記で取引内容・金額・条件が開示されますが、承認プロセスそのものはコーポレート・ガバナンスに関する報告書に記載されるのが一般的です。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:支配株主を持つ上場子会社が、親会社と業務委託契約を結ぶ場合、どのような手続を踏むべきですか?
「まず取引条件が独立当事者間取引と同等かを検証したうえで、独立性のある社外取締役を中心とする委員会等で取引の必要性・合理性・条件の妥当性について事前の意見を取得し、取締役会で承認します。取引実行後は有報等で関連当事者取引として開示します。承認が事後追認にならないよう、実行前に手続を完了させることが重要です。」

よくある質問(FAQ)

Q. 独立役員の「意見」に法的拘束力はありますか?
A. CGコード自体はコンプライ・オア・エクスプレインの原則によるソフトローであり、意見自体に会社法上の拘束力はありません。ただし取締役会がその意見を無視して取引を強行した場合、取締役の善管注意義務違反が問われるリスクが高まります。

Q. 100%子会社との取引にもこのプロセスは必要ですか?
A. 完全子会社との取引は少数株主保護の観点での利益相反が生じにくいためCGコード上の重要性は相対的に低くなりますが、会社法356条の利益相反取引規制(取締役個人が関与する場合)は別途該当し得るため、個別の判定が必要です。

出典・参考(2026-08-30確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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