この記事で分かること
- 権利関係DDで確認すべき地役権・越境物・埋設物の3類型
- それぞれのリスクが取得後にどのような形で顕在化するか
- 整数設例による価格調整額の試算
- 契約条項(表明保証・価格調整・エスクロー)への反映のしかた
30秒で分かる定義
権利関係DD(Title Encumbrance Due Diligence)とは、取得しようとする不動産にかかる地役権・越境物・地中埋設物といった、所有権の行使を制約しうる権利関係・物理的な状態を確認する調査です。土壌汚染や耐震性能を確認するエンジニアリングレポートや土壌汚染デューデリジェンスと並んで、不動産取得前のDDの主要な柱の一つに位置づけられます。
なぜ実務で重要なのか
REPE・REIT・事業会社の不動産取得担当にとって、権利関係の見落としは取得後の建替え・増改築の障害や追加コスト発生に直結します。金融機関(ノンリコースローンの与信審査)では、担保不動産の権利関係が不明確だと担保価値の毀損リスクとして評価が下がります。弁護士・司法書士は登記事項証明書・現地調査をもとに権利関係を精査し、契約書の表明保証・価格調整条項に反映させます。
仕組み(DD対象と典型リスク)
| DD項目 | 内容 | 典型リスク・対応 |
|---|---|---|
| 地役権 | 他人の土地を通行・引込等の目的で利用する権利が設定されていないか | 建築計画の制限。登記事項証明書・公図で確認、未登記の慣行的利用がないかも現地確認 |
| 越境物 | 建物・塀・樹木の枝等が隣地境界を越えていないか | 建替え時の是正義務。越境覚書の有無を確認し、なければ売主負担での解消交渉 |
| 地中埋設物 | 旧建物の基礎・配管・廃棄物等が地中に残存していないか | 掘削・除去コストの発生。地歴調査・試掘調査、エンジニアリングレポートとの連携で確認 |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。取得検討価格10億円(1,000,000,000円)のオフィスビル用地で、DDにより次の3つの論点が判明したケースです。
- 隣地との越境(塀の越境)の是正費用見積り:3,000,000円
- 地役権による建築制限で想定容積が一部使えないことによる評価減:5,000,000円
- 旧建物の地中埋設基礎の撤去費用見積り:12,000,000円
価格調整額の合計=3,000,000円+5,000,000円+12,000,000円=20,000,000円。取得価格を調整後価格に置き換えると、10億円-2,000万円=980,000,000円となります(検算:980,000,000円+20,000,000円=1,000,000,000円で一致)。実務では、この2,000万円を単純な値引きにするか、除去・是正が完了するまでの間エスクロー(預託金)に留保するかを交渉します。
契約条項への影響
権利関係DDで判明した論点は、売買契約の表明保証条項(対象不動産に権利の瑕疵・未解消の越境がないことの表明)と、価格調整・エスクロー条項に反映されます。特に埋設物のように調査時点で全容を把握しきれないリスクについては、引渡し後一定期間内に判明した場合の補償(インデムニティ)条項を設けるのが一般的です。地役権のように登記上明確なものは価格調整で処理し、越境や埋設物のように将来判明する可能性があるものは表明保証・補償条項でカバーする、という役割分担が実務的です。
実務での調べ方・確認手順
- 登記事項証明書(不動産登記法に基づく全部事項証明書)で、地役権・地上権等の権利関係を確認します。
- 公図・地積測量図と現地測量結果を突き合わせ、越境の有無を確認します。越境がある場合は越境覚書の有無・内容(将来の建替え時に無償で是正する旨の合意等)を確認します。
- 地歴調査(旧土地利用の変遷確認)とエンジニアリングレポートを併用し、埋設物・土壌汚染の可能性がある履歴(旧工場・ガソリンスタンド跡地等)を洗い出します。
- DDの結果は「権利関係チェックリスト」として1枚にまとめ、各項目のリスク評価(高・中・低)と想定コストをExcelで一覧化するのが実務的です。近年はレントロールや賃貸借契約の確認作業にAIを活用する動きも広がっています。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「登記事項証明書を見れば地役権は全て分かる」→ 正しくは、慣行的に利用されているが未登記の通行地役権等が存在することがあります。現地確認・近隣ヒアリングを併用する必要があります。
誤解2:「越境があれば契約できない」→ 正しくは、越境覚書(将来の建替え時に無償で是正する合意等)があれば取引実務上は許容範囲として扱われることが多いです。覚書がない場合に初めて価格調整や解消交渉の対象になります。
実務家はさらに、越境が「越境している側」なのか「越境されている側」なのかで負担すべき是正義務の当事者が変わる点にも注意します。
日本実務での扱い
日本では、不動産登記法に基づく登記事項証明書による権利関係の確認と、民法の相隣関係規定(境界・越境に関する規律)を前提に、越境覚書という商慣行を通じて実務上の解決が図られてきました(2026年8月時点)。埋設物については法定の統一調査基準があるわけではなく、各社のDD実務・エンジニアリングレポートの発注仕様に委ねられています。REIT・私募ファンドへの現物出資・売買では、こうしたDD結果が取得意思決定の稟議資料や、投資法人の資産運用会社によるリスク管理体制の一部として整理されます。
実務での想定問答
Q:不動産取得のDDで、越境が見つかった場合の対応はどう検討しますか。
「まず越境覚書の有無を確認します。覚書があり、将来の建替え時に無償で是正する合意が明確であれば、実務上は取引を進める障害にはなりません。覚書がない場合は、是正費用を見積もった上で価格調整するか、引渡し前に売主負担で解消してもらうかを交渉します。越境の程度(軽微か重大か)によって対応の優先度を判断します。」(30秒回答例)
よくある質問(FAQ)
Q. 埋設物の存在は事前にどこまで把握できますか?
A. 地歴調査(旧地図・登記記録からの土地利用履歴の確認)や試掘調査で一定程度は把握できますが、完全な把握は困難です。そのため契約上は、引渡し後一定期間内に判明した埋設物への対応(補償条項)をあらかじめ定めておくのが実務的です。
Q. 権利関係DDは誰が担当しますか?
A. 法的な権利関係(地役権・越境の法律関係)は弁護士・司法書士、物理的な状態(埋設物・土壌汚染の可能性)はエンジニアリング会社が担当し、両者の調査結果を取得担当者・アセットマネージャーが統合して投資判断に反映するのが一般的な役割分担です。
出典・参考(2026-08確認)
- e-Gov法令検索(不動産登記法、民法)(https://elaws.e-gov.go.jp/)
- 法務省(不動産登記制度の概要)(https://www.moj.go.jp/)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。