この記事で分かること

  • 2024年4月1日以後に開始する事業年度から何がどう変わったのかの全体像
  • 第1・第3四半期と第2四半期(半期)で扱いが分かれる理由
  • 監査人の関与(レビュー)と虚偽記載時の責任がどこまで変わったか
  • 開示スケジュールの整数設例と、アナリスト・IR担当としての実務対応

30秒で分かる定義

四半期報告書の廃止と決算短信への一本化(英語ではAbolition of Quarterly Securities Reports、読み方:しはんきほうこくしょのはいし)とは、上場会社が金融商品取引法に基づいて提出していた第1四半期・第3四半期の四半期報告書を廃止し、金融商品取引所の規則に基づく四半期決算短信に開示を集約した制度改正です。2023年に成立した金融商品取引法等の改正により、2024年4月1日以後に開始する事業年度から適用されました(2026年8月時点)。3月決算会社であれば2025年3月期の第1四半期から新制度に移行しています。

ポイントは「四半期開示そのものが無くなったわけではない」ことです。第2四半期(中間期)については半期報告書という金商法上の開示書類が新設・維持され、第1・第3四半期は取引所ルールの決算短信に委ねられた、という二層構造の整理になりました。長年「四半期報告書と四半期決算短信で内容が重複している」と指摘されてきた点を解消する趣旨の改正です。

なぜ実務で重要なのか

経理・IR・開示担当にとっては、年間の開示スケジュールと決算業務の設計そのものが変わる論点です。法定開示書類の本数、監査法人のレビューを受けるタイミング、社内の締めスケジュールを組み直す必要があります。監査法人では四半期レビュー業務の範囲が変わり、契約・報酬体系の見直しにつながりました。

アナリスト・株式リサーチ投資銀行・PEでは、情報の取得先が変わる点が重要です。従来はEDINETの四半期報告書で確認できた注記の一部が、第1・第3四半期については決算短信の記載内容に依存するようになりました。有価証券報告書の読み方で扱う年次開示の枠組みは維持されているため、年次情報の相対的な重要度は高まったといえます。

仕組み(旧制度と新制度の対比)

3月決算の上場会社を想定して、旧制度と新制度を並べると次のようになります。

対象期間旧制度(2024年3月期まで)新制度(2025年3月期以降)
第1四半期四半期報告書(金商法)+四半期決算短信四半期決算短信のみ
第2四半期(中間期)四半期報告書(金商法)+四半期決算短信半期報告書(金商法)+決算短信
第3四半期四半期報告書(金商法)+四半期決算短信四半期決算短信のみ
通期有価証券報告書+決算短信変更なし
監査人の関与四半期レビュー3回+年度監査半期レビュー1回+年度監査

半期報告書は金商法上の開示書類であり、上場会社の場合は監査人のレビューを受けたうえで、対象期間経過後45日以内に提出するのが原則です(2026年8月時点)。一方の四半期決算短信は取引所の適時開示制度に基づく開示であり、原則として監査人のレビューは求められません。「四半期の数字に会計士の目が入る回数が減った」ことが、この改正の実質的な変化のひとつです。

なお四半期決算短信は、改正後も当面はすべての上場会社に義務付けられる整理が採られています(将来的な任意化は継続論点として残されています。2026年8月時点)。「短信も無くなった」という理解は誤りです。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。3月決算の上場会社が、旧制度と新制度で年間の開示業務量がどう変わるかを整理します。単位は本・回・時間・百万円です。

  • 法定開示書類の本数:旧=四半期報告書3本+有価証券報告書1本=4本。新=半期報告書1本+有価証券報告書1本=2本。差引2本の減少です。
  • 監査人のレビュー回数:旧=四半期レビュー3回。新=半期レビュー1回。差引2回の減少です。
  • 作成工数:四半期報告書1本160時間とすると旧は160×3=480時間、新は半期報告書1本240時間。差引480−240=240時間の削減です。
  • レビュー報酬:旧=3百万円×3回=9百万円、新=半期レビュー1回4百万円。差引9−4=5百万円の削減です。

日程も確認します。第1四半期は6月30日締めで、旧制度の提出期限(期間経過後45日以内)は8月14日でした(7月31日で31日、残り14日を加算)。新制度ではこの義務が無くなり、8月上旬に開示する四半期決算短信が唯一の定期開示となります。第2四半期は9月30日締めで45日後は11月14日、ここが半期報告書の提出期限の目安です。

投資家から見た「情報が来る日」は大きく変わらない一方、第1・第3四半期については金商法の開示書類が存在しないという構造変化が生じています。なお削減効果は上記の試算どおりには出にくく、決算短信の記載を充実させる方向の対応が入る分だけ小さくなるのが実感に近いところです。

開示・規制上の位置付け

最も理解しておくべきは虚偽記載時の責任の枠組みが書類によって異なる点です。有価証券報告書と半期報告書は金商法上の法定開示書類であり、重要な事項に虚偽の記載があれば課徴金や罰則、投資者に対する損害賠償責任の枠組みが用意されています。これに対し四半期決算短信は取引所規則に基づく適時開示で、金商法の課徴金制度が直接適用される書類ではなく、取引所による改善報告書の徴求や公表措置で対応する整理です(2026年8月時点)。ただし一般法上の責任や不公正取引規制の問題となる余地は残ります。

言い換えると、第1・第3四半期の数値は法的な担保のレイヤーが一段変わったということです。四半期数値をそのまま前提に投資判断を組む際は、この差を意識しておく必要があります。

実務での調べ方・確認手順

この用語はExcelで計算する対象ではありませんが、実務では「どの書類をどこで取るか」を手順化しておく価値があります。

  • 法定開示(有価証券報告書・半期報告書・臨時報告書)はEDINETで検索します。書類種別で絞り込むと、対象会社がいつから半期報告書に切り替わったかを時系列で確認できます。
  • 決算短信・適時開示はTDnetおよび各社IRサイトで取得します。サマリー情報(売上高・各段階利益・EPS・業績予想)はPLの利益段階と同じ順序で並ぶため、四半期進捗の追跡はここで足りることが多くなります。
  • 期間比較の注意:2024年3月期以前と2025年3月期以降では取得できる注記の粒度が変わります。四半期の時系列データを自作している場合、この境目でデータソースの切替ロジックを入れないと欠測が発生します。

開示の全体像は決算短信と四半期開示、半期のレビューはレビュー業務で整理しています。

この用語を実務で「使える」状態にする

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「四半期開示が廃止された」→ 正しくは、廃止されたのは第1・第3四半期の『四半期報告書』であり、四半期決算短信による開示は続いています。四半期の業績が公表されなくなったわけではありません。

誤解2:「第2四半期も短信だけになった」→ 正しくは、第2四半期は半期報告書という金商法の開示書類が残ります。年2回(半期・通期)は法定開示、残り2回は取引所開示、という組み合わせで理解すると整理しやすくなります。

誤解3:「監査人のレビューは全部なくなった」→ 正しくは、半期報告書についてはレビューが必要です。無くなったのは第1・第3四半期のレビューです。

確認ポイントは、①事業年度開始日から適用時期を特定する、②短信の記載内容が各社で差異を持ち得ることを踏まえて分析項目を選ぶ、③期間比較では開示粒度の変化を注記する、の3点です。

日本実務での扱い

(2026年8月時点)本改正は金融商品取引法等の改正によるもので、内閣府令の改正と東京証券取引所の有価証券上場規程の改正が組み合わさって実現しています。制度の趣旨として、金融審議会での議論では「企業と投資家の対話の質を落とさずに、重複する開示を整理する」ことが目的として説明されてきました。IFRS適用会社か日本基準適用会社かによって制度の適用に差はなく、上場会社であるかどうかで整理されます。

日本固有の論点は決算短信の位置付けの重さです。東証が決算内容の開示を決算期末後45日以内に行うことを要請し、30日以内が望ましいとしてきた経緯があり、投資家の一次情報は実質的に短信でした。今回の改正はこの実態に法制度を寄せたものと理解すると腹落ちします。一方、四半期の財務諸表に第三者のレビューが入らない期間が増えたため、内部統制や決算早期化の体制、業績予想の修正タイミングの妥当性は、従来以上に自社で説明できる状態にしておく必要があります。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:四半期報告書の廃止で、投資家にとって何が変わったのかを説明してください。
「第1・第3四半期については金商法の開示書類が無くなり、取引所規則に基づく四半期決算短信に一本化されました。開示のタイミング自体はほぼ変わりませんが、監査人のレビューが入らないこと、虚偽記載時の枠組みが金商法の課徴金制度の直接の対象ではなくなったことが実質的な差です。第2四半期は半期報告書としてレビュー付きの法定開示が残るため、年2回は担保の効いた開示、残り2回は取引所開示、という理解になります。」

深掘りでは「なぜ第2四半期だけ法定開示を残したのか」といった政策論に踏み込まれます。開示コストと投資家保護のトレードオフとして整理できると強い回答になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 上場していない会社にも影響はありますか?
A. 非上場の有価証券報告書提出会社はそもそも四半期報告書の提出義務がないケースが多く、影響は限定的です。上場会社の子会社では、親会社側のスケジュール変更に合わせた社内締め日の見直しが論点になります。

Q. 過去の四半期データと接続して時系列分析をしたい場合はどうしますか?
A. 2024年3月期以前は四半期報告書、2025年3月期以降は四半期決算短信および半期報告書へデータソースを切り替えます。項目定義が完全には一致しない場合があるため、接続点の四半期で新旧の数値を突合し、差異が生じる項目を明示して時系列を作成します。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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