この記事で分かること
- NDRの目的と、IPOロードショーとの違い
- 株主構成の目標から必要な面談数・投資家数を逆算する整数設例
- 未公表の重要情報を扱うときのフェア・ディスクロージャー・ルール
- 投資家管理表のExcel設計
30秒で分かる定義
ノンディールロードショー(Non-Deal Roadshow、NDR)とは、株式の募集や売出しを伴わずに、経営陣やIR担当者が機関投資家を訪問または面談して、事業戦略・業績・資本政策を説明する活動です。多くの場合、証券会社のセールスが投資家との日程を調整します。IPOや増資に伴うIPOロードショーと違い、その場で投資家に購入を申し込ませる「ディール」がなく、中長期の株主との関係づくりが目的です。
なぜ実務で重要なのか
上場企業のIR・経営企画部門にとって、NDRは決算説明会だけでは届かない国内外の機関投資家に直接説明する機会です。証券会社(株式営業・エクイティリサーチ・ECM)は、投資家の関心を把握し、企業と投資家をつなぐ役割を担います。機関投資家(ファンドマネージャー・アナリスト)は、経営陣と直接対話して業績予想や資本政策への理解を深め、投資判断に使います。株主構成の改善(例えば海外投資家比率の引き上げ)や、将来の資金調達に備えた投資家基盤づくりにも使われます。投資家の絞り込みはIRターゲティングのページで扱います。
計算式(ま たは仕組み)
NDRに計算式はありませんが、案件としての流れは次のとおりです。IPOロードショーとの違いを表にまとめます。
| 項目 | ノンディールロードショー | IPOロードショー |
|---|---|---|
| 資金調達 | 伴わない | 株式の募集・売出しを伴う |
| 主な目的 | 対話・理解促進・株主基盤の形成 | 投資家の需要把握と発行価格の決定材料 |
| 時期 | 通年(決算後などに実施することが多い) | 申込み前の限られた期間 |
| 説明内容 | 公表済みの業績・戦略・資本政策 | 目論見書に基づく事業・財務・調達資金の使途 |
| 成果の見え方 | 株主構成・質問内容・中長期の評価 | 応募状況・発行価格・割当 |
実務の流れは、①目的と訪問地域の決定、②証券会社と投資家候補の選定、③日程調整、④説明資料と想定問答の準備、⑤面談の実施、⑥面談後のフィードバック整理、の順に進みます。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。
①面談数:3日間で、1日5社と面談すると 5社 × 3日 = 15社との面談です。1社あたり参加者2名なら、延べ30名に経営陣が説明します。
②株主構成の目標:発行済株式数100百万株の会社で、海外機関投資家の保有比率を10%から12%へ引き上げる目標を置きます。必要な増加は 100百万株 × (12% − 10%)= 2百万株。1社あたり平均0.5百万株の買い増しなら、2百万株 ÷ 0.5百万株 = 4社に新規または追加で保有してもらう必要があります。株価3,000円なら、0.5百万株は 0.5百万株 × 3,000円 = 1,500百万円です。
面談数と株主構成の変化を結ぶ数値は、このように目標から逆算します。実際の保有比率の動きは、NDR以外の要因(株価・相場・指数入替)にも左右されるため、因果は慎重に判断します。
開示・規制上の位置付け
NDRで最も注意すべきは、未公表の重要情報を特定の投資家だけに伝えないことです。金融商品取引法第27条の36(フェア・ディスクロージャー・ルール)は、上場会社等またはその役員等が、業務に関して、金融商品取引業者、投資法人、あるいは広報業務で重要情報の伝達を受けて売買する蓋然性が高い者として内閣府令で定める者(取引関係者)に、公表されていない重要情報であって投資判断に重要な影響を及ぼすものを伝達する場合、同時に当該重要情報を公表しなければならないと定めています[1]。ただし、伝達を受ける者が、法令または契約により、公表前に秘密を漏らさず、当該会社の上場有価証券等の売買等をしない義務を負う場合は、この限りではありません。
実務では、NDRの説明を公表済みの資料の範囲に絞り、想定問答に「答えてよい範囲」と「答えない範囲」を決めておきます。うっかり未公表の情報に触れた場合に備え、知らずに伝達した場合は、伝達を知った後、速やかに公表すれば足りる扱いも法に置かれています[1]。
財務モデル・Excelでの使い方
NDRの運営は、Excelの一覧表で管理します。
- 投資家管理表:投資家名・所在地域・保有株数・直近の面談日・次回アクションを行に並べます。面談日と保有株数を紐づけると、面談前後の保有の変化を追えます。
- 目標との差:
=発行済株式数*(目標比率-現在比率)で必要な増加株数、=必要株数/想定買い増し株数で必要な投資家数を出します。 - 質問の集計:面談で出た質問をテーマ別に分類し、件数をピボットで集計して、次回の説明資料の改善に使います。
この用語を実務で
NDRの目標
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「NDRは株価を上げるための活動」→ 正しくは、株価の上昇は目的ではなく、企業の戦略と業績を正確に理解してもらうための対話です。株価への影響は相場環境や業績に左右され、一概には言えません。
誤解2:「NDRなら未公表の情報を話してよい」→ 正しくは、公表前の重要情報の伝達には、同時公表の義務が生じ得ます。伝達を受ける投資家が、法令または契約により、公表前の秘密保持と売買等の禁止の両方の義務を負う場合は同時公表を要しませんが、その義務に反した漏えいや売買等を会社が知ったときは、原則として速やかに公表する必要があります[1]。このため、公表済みの情報を中心に説明します。
誤解3:「NDRはIPOのときだけ行う」→ 正しくは、上場後も継続的に行います。むしろ上場後の株主基盤の維持・拡大が主な使い道です。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本の上場会社は、決算説明会、個別面談、海外のNDRなどを組み合わせて、国内外の機関投資家と対話しています。個別面談や海外訪問では、証券会社のセールスが日程を調整する形が多いとされます。法制度の面では、金融商品取引法第27条の36により、公表前の重要情報を取引関係者に伝達する場合の同時公表義務が定められています[1]。このため、多くの会社が、IR担当者の同席、面談記録の作成、想定問答の事前準備などの社内ルールを設けています。日本取引所グループが運営する適時開示制度との関係では、重要な会社情報は適時開示で公表してから説明するのが基本です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:IPOロードショーとノンディールロードショーの違いを説明してください。
「IPOロードショーは、株式の募集や売出しに伴い、発行価格の決定材料となる需要を把握するために行います。ノンディールロードショーは資金調達を伴わず、上場会社が中長期の株主との関係づくりのために行う対話です。ただし、どちらでも、未公表の重要情報の扱いには注意が必要です。」深掘りでは、フェア・ディスクロージャー・ルールの概要や、IR担当者としてのリスクを聞かれます。
よくある質問(F AQ)
Q. NDRは誰が企画しますか?
A. 発行会社のIR部門が目的を決め、証券会社が投資家候補と日程を調整するのが一般的です。株主構成の分析(実質株主の調査)を踏まえて訪問先を決めることもあります。
Q. 海外NDRは日本のNDRと何が違いますか?
A. 時差・移動・現地の規制(海外の情報開示ルール)への配慮が増えます。訪問先の国や投資家の種類によって、説明の言語や資料の形式、質問の傾向が変わります。
出典・参考(2 026-11確認)
- 金融商品取引法 第27条の36(重要情報の公表)第1項〜第4項. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000025(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。