この記事で分かること
- 固定負債の定義と、財務諸表等規則が定める区分(社債・長期借入金・リース負債・繰延税金負債・資産除去債務など)
- 1年基準による流動負債との振替を、長期借入金の整数設例で確認
- 固定負債のうち有利子負債・負債類似項目・繰延税金負債をEVブリッジで分ける考え方
- 固定長期適合率と、日本基準・IFRSでの表示の違い(2026年11月時点)
30秒で分かる定義
固定負債(非流動負債、Non-Current Liabilities、こていふさい)とは、決算日の翌日から1年を超えて支払期限が到来する負債で、長期借入金、社債、リース負債、退職給付に関する負債、繰延税金負債などが含まれます。財務諸表等規則は、流動負債に属しない負債を固定負債とし[1]、社債、長期借入金、関係会社長期借入金、リース負債、長期未払法人税等、繰延税金負債、引当金、資産除去債務などの区分で表示するよう定めています[1]。IFRSでは非流動負債と呼びますが、分類は1年基準の単純な置き換えではなく、決済を少なくとも12か月延期する権利の有無などで判断します[2]。
貸借対照表全体の構造は貸借対照表のページで扱います。
なぜ実務で重要なのか
固定負債は、会社がどれだけ長期の資金を他人資本に頼っているかと、将来の返済・支払の負担を示します。融資担当は、固定負債の内訳と返済スケジュールから長期の返済能力を見ます。IB・PE・FASは、EVブリッジで固定負債のどれを有利子負債や負債類似項目として扱うかを確認し、株式価値を求めます。経営企画は、設備投資を長期資金で賄えているかを固定長期適合率などで点検します。流動負債との境目を作る方法は1年内返済予定の長期借入金を切り出すで整理しています。
計算式(ま たは仕組み)
流動か固定かは、主に「1年基準」で分けます。買掛金や支払手形など通常の営業循環の中で発生する負債は流動負債とし、そのほかの負債は1年内に支払・返済されるかどうかで区分します[1]。長期借入金のうち、決算日の翌日から1年以内に返済期限が来る部分は、固定負債から流動負債に振り替えます(「1年内返済予定の長期借入金」)。
| 固定負債の項目 | 性格 | EVブリッジでの一般的な扱い |
|---|---|---|
| 社債 | 有利子負債 | 有利子負債に含める |
| 長期借入金(関係会社分を含む) | 有利子負債 | 有利子負債に含める(1年内返済予定分も合算) |
| リース負債 | 有利子負債に近い | 含める方法が多い。EBITDAの定義と整合させる |
| 退職給付に関する負債 | 負債類似項目 | 未積立分を負債類似項目として扱うことが多い |
| 資産除去債務 | 負債類似項目 | 将来の除去費用。扱いはDDで確認 |
| 繰延税金負債 | 会計上の将来の税負担 | 一般に有利子負債には含めない |
退職給付に関する引当金は、退職給付引当金その他設定目的を示す名称の科目で掲記します[1]。連結では、退職給付に関する会計基準により「退職給付に係る負債」として計上されます。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円。長期借入金の残高5,000を、毎年1,000ずつ5年で返済する契約とします。
- 1年内返済予定の長期借入金(流動負債)= 1,000、長期借入金(固定負債)= 5,000 − 1,000 = 4,000
- 固定負債の内訳:社債2,000、長期借入金4,000、リース負債600、退職給付に係る負債800、資産除去債務200、繰延税金負債500 → 合計 = 2,000 + 4,000 + 600 + 800 + 200 + 500 = 8,100
- 有利子負債(固定負債側)= 2,000 + 4,000 + 600 = 6,600。1年内返済予定の1,000を加えると 7,600
- 負債類似項目 = 800 + 200 = 1,000、繰延税金負債500は有利子負債に含めない
- 固定長期適合率:固定資産20,000、純資産15,000とすると、20,000 ÷ (15,000 + 8,100) = 20,000 ÷ 23,100 = 約86.6%(100%以下で、固定資産が長期資金の範囲に収まっている)
固定負債の合計8,100のうち、EVブリッジの有利子負債へ入るのは6,600(1年内返済予定を足して7,600)、負債類似項目として別途検討するのが1,000、繰延税金負債の500は通常含めません。固定負債の合計をそのまま引くと、株式価値を誤ります。
PL・BS・CFへの影響
BS:固定負債は貸借対照表の負債の部の後段に表示され、返済期限の接近に伴い流動負債へ振り替わります。PL:固定負債に付く利息は営業外費用の支払利息、社債利息として表示されます。リース負債に係る利息費用も営業外費用に区分されます。CF:長期借入金の借入・返済や社債の発行・償還は財務活動によるCFに表示されます。退職給付費用や資産除去債務の時の経過による調整額のように、損益に計上されたが現金が出ていない部分は営業CFで調整され、実際の支払の時期にキャッシュが出ていきます。固定負債が多いほど、将来の元利払いが資金繰りを圧迫するため、返済スケジュールを借入返済表で確認します。
財務モデル・Excelでの使い方
- 借入明細:借入ごとに期首残高・借入・返済・期末残高を管理し、
=MIN(期末残高, 次期返済額)で1年内返済予定を切り出して流動負債へ、残りを固定負債へ置きます。 - BSの接続:固定負債の期末残高をBSに、利息を営業外費用に、元本の借入・返済を財務CFに接続します。
- EVブリッジ:有利子負債・負債類似項目・非現金項目をタグ付けし、
=SUMIF(タグ列,"有利子負債",金額列)で集計します。 - BSの読み方:貸借対照表の見方はBS
(貸 借対照表)の読み方で整理しています。
この用語を実務で
借入明細から1年内返済予定を切り出し、固定負債の内訳をEVブリッジの有利子負債・負債類似項目に仕分ける表を組めるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「固定負債の合計=有利子負債だ」→ 固定負債には、繰延税金負債や退職給付、資産除去債務など、利息のつかない項目も含まれます。EVブリッジでは項目ごとに分けます。
誤解2:「1年内返済予定の長期借入金は固定負債だ」→ 決算日の翌日から1年以内に返済期限が来る部分は流動負債です。有利子負債を集計するときは、固定負債と流動負債の両側から拾います。
誤解3:「リース負債は固定負債だから借入と無関係だ」→ リース負債は、実質的に借入に近い性質があります。有利子負債に含めるか、EBITDAの定義とそろえるかを事前に決めます。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)日本基準の貸借対照表では、財務諸表等規則に基づき、固定負債が社債・長期借入金・リース負債・繰延税金負債・引当金・資産除去債務などに区分されます[1]。有価証券報告書では、借入金の内訳(短期・1年内返済予定・長期、平均利率、返済期限)が附属明細表や注記に記載されます。財務DDやLBOでは、リース負債や退職給付に係る負債、資産除去債務の金額と性質を、注記から拾って有利子負債・負債類似項目の一覧表に整理します。
IFRS適用会社は、流動・非流動の区分を基準に従って表示するため、科目名は「非流動負債」になります。比較するときは、科目の対応を確認します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:貸借対照表の固定負債のうち、EVブリッジで引くものはどれですか。
「社債、長期借入金、リース負債のような有利子負債は引きます。退職給付に係る負債や資産除去債務は負債類似項目として、金額や性質を確認して引くかを判断します。繰延税金負債は、通常は有利子負債に含めません。1年内返済予定の長期借入金は流動負債ですが、有利子負債として加えます。」
深掘りの観点:流動・固定の振替/リース負債の扱い/固定長期適合率の意味。
よくある質問(F AQ)
Q. 固定負債が多い会社は危険ですか。
A. 一概には言えません。設備投資を長期の資金で賄うのは健全な設計です。返済スケジュール、金利、担保、コベナンツを見て、返済の負担が営業CFの範囲に収まるかを確認します。
Q. 固定長期適合率はどのくらいが目安ですか。
A. 100%以下であれば、固定資産が純資産と固定負債の範囲で賄われている状態です。業種により水準は異なるので、同業と比べます。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和三十八年大蔵省令第五十九号) 第47条・第51条・第52条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=338M50000040059(2026年11月参照)
- IFRS Foundation「IAS 1 Presentation of Financial Statements」(流動・非流動の分類、2022年改訂「特約条項付の非流動負債」). https://www.ifrs.org/issued-standards/list-of-standards/ias-1-presentation-of-financial-statements/(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。