この記事で分かること
- 構造的措置と行動的措置の違いと、当局が構造的措置を選好する理由
- 市場シェアの重複を是正措置で解消する整数設例
- 問題解消措置の提案プロセスと審査タイムラインへの影響
- 公正取引委員会の運用(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
企業結合における構造的措置・行動的措置(Structural and Behavioral Remedies in Merger Control)とは、公正取引委員会等の競争当局が企業結合(合併・株式取得等)を審査した結果、特定市場における競争を実質的に制限すると判断した場合に、結合を承認する条件として当事会社に求める是正措置です。事業や資産を第三者へ売却させる「構造的措置(Divestiture等)」と、一定期間の取引条件・供給義務等を誓約させる「行動的措置」に大別されます。
なぜ実務で重要なのか
企業結合届出の先にある、承認を得るための実務対応です。
- 法務:独禁法対応として、重複事業の分析と是正措置の提案内容を検討します。
- FA/IBD:結合審査の遅延リスクを踏まえたディールタイムラインを設計します。
- 事業部門:構造的措置の対象となり得る重複事業の切り出し可能性を検討します。
仕組み:構造的措置と行動的措置の比較
| 措置 | 内容例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 構造的措置 | 重複事業・ブランドの第三者への売却(Divestiture) | 実行後の継続的な監視負担が小さく、当局が一般に選好 |
| 行動的措置 | 一定期間の価格・供給条件の維持誓約、情報遮断措置 | 実行後も継続的なコンプライアンス監視が必要 |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。A社(国内シェア35%)とB社(国内シェア20%)が合併すると、統合後シェアは35%+20%=55%となり、競争制限の懸念が生じるとします。
公正取引委員会との協議の結果、B社の重複事業(当該事業のシェア20%相当)を第三者へ売却(Divestiture)する構造的措置を講じることになりました。是正後のシェアは55%−20%=35%(A社分のみ)に引き下げられ、審査をクリアできる水準になった、という設例です。
開示・規制上の位置付け
是正措置は当局から一方的に押し付けられるのではなく、当事会社側から問題解消措置を提案し、当局と協議しながら結合審査を進めるのが実務の中心です。構造的措置を原則とし、行動的措置は補完的な位置づけとされます。
実務での確認手順
企業結合審査のタイムライン(届出→第1次審査30日→必要な場合第2次審査90日)と、是正措置提出のタイミングを管理するプロジェクト管理表を作成します。Divestiture対象事業のカーブアウト財務諸表の作成や独立採算性の検討を、審査と並行して進める必要があります。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
- 誤解1「行動的措置の方が事業を手放さずに済むので望ましい」→ 当局は継続的な監視コストが低い構造的措置を一般に選好する傾向があり、行動的措置のみでの承認は限定的な場面に限られます。
- 誤解2「是正措置は当局から一方的に押し付けられるもの」→ 実際には当事会社側から問題解消措置を提案し、当局と協議しながら審査を進める「問題解消措置の提案」プロセスが実務の中心です。
- 確認ポイント:①重複事業の市場シェア分析、②構造的措置の実行可能性(買い手候補の有無)、③審査タイムラインへの影響。
日本実務での扱い(公 正取引委員会の運用・2026年8月時点)
(2026年8月時点)公正取引委員会は独占禁止法上の企業結合審査において、競争を実質的に制限すると認められる場合、当事会社からの問題解消措置の提案を受けて審査を進める運用を取っており、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」でその考え方が示されています。構造的措置を原則とし、行動的措置は補完的な位置づけとされる点は、欧米の競争当局の運用とも共通します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:大型の水平統合型M&Aで、独禁法上の問題が見込まれる場合、どのタイミングで是正措置を検討すべきですか。
「届出前の事前相談段階から、重複事業の規模・市場シェアを分析し、構造的措置(一部事業の売却)を織り込んだディール・ストラクチャーをあらかじめ用意しておくことで、審査の長期化やクロージング遅延のリスクを抑えられます。」
よくある質問(F AQ)
Q. 構造的措置と行動的措置はどちらが日本で多く採用されますか?
A. 公正取引委員会は構造的措置を原則としつつ、事案の性質に応じて行動的措置を組み合わせる例もあり、案件ごとに個別判断されます。
Q. 是正措置の提案に応じない場合はどうなりますか?
A. 当局が問題解消措置なしでは競争制限が解消されないと判断すれば、結合の禁止(排除措置命令)や、当事会社が結合自体を断念する結果につながり得ます。
出典・参考(2 026-08確認)
- 公正取引委員会 https://www.jftc.go.jp/
- e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」 https://elaws.e-gov.go.jp/
- OECD(企業結合審査に関する国際的知見) https://www.oecd.org/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。