この記事で分かること

  • KERP(Key Employee Retention Plan)の定義と設計目的
  • 内部者向けに規制されるKERPと、業績連動型のKEIPの違い
  • 支給スケジュールを13週資金繰り表に反映する整数設例
  • 日本の再生・更生手続における同種の実務上の対応

30秒で分かる定義

KERP(キーエンプロイー・リテンション・プラン、Key Employee Retention Plan、読み方:けーいーあーるぴー)とは、米国Chapter11手続中に、事業継続に不可欠な経営陣・従業員が競合他社等へ離脱するのを防ぐため、裁判所の承認を得て設計する在籍維持を目的とした特別報酬プログラムです。手続中は将来が不透明で人材流出リスクが高まるため、一定期間の在籍を条件に追加の報酬を支給する仕組みとして用いられます。

なぜ実務で重要なのか

CRO(最高再生責任者)・経営陣は、手続の初期段階で人材流出を防ぐ施策としてKERP・KEIPの設計をFA・法務アドバイザーと検討します。クロスボーダー事業再生の人事・法務担当者は、米国子会社の重要人材が離脱すれば事業価値そのものが毀損するため、日本本社としても支給スケジュールと資金繰りへの影響を把握しておく必要があります。支給予定額は13週資金繰り表に組み込んで管理します。債権者委員会は、KERP・KEIPの支給総額が過大でないか、対象者選定が合理的かを審査する立場にあります。

仕組み:KERPとKEIPの違い

米国倒産法上、内部者(インサイダー、経営幹部等)向けに単純な在籍維持だけを条件とするKERPを設計することは原則として制限されており、業績目標の達成を条件とするKEIP(Key Employee Incentive Plan)として設計し直す必要があるのが実務上の重要な論点です。

区分支給条件対象者への適用
KERP(リテンション・プラン)一定期間の在籍のみを条件に支給内部者(経営幹部等)向けは原則として制限される
KEIP(インセンティブ・プラン)事業計画上の業績目標(EBITDA達成等)の達成を条件に支給内部者向けにはKEIP形式での設計が求められる
非内部者(一般従業員)向けKERP在籍維持を条件とする設計が可能な場合が多い裁判所の承認を要するが内部者ほどの制約はない

整数設例で確認する

設例(架空数値、単位:百万円)。対象となる重要従業員5名に対し、Chapter11手続開始から6か月間の在籍を条件とするKERPを設計し、総額60(1人あたり12)を3回に分けて支給する計画とします。

支給スケジュールは、手続開始時に総額の20%、3か月後の時点で40%、6か月後(在籍維持完了時点)に残る40%とします。手続開始時の支給額は60×20%=12、3か月後の支給額は60×40%=24、6か月後の支給額も60×40%=24です。3回の支給額を合計すると12+24+24=60となり、当初の設計総額と一致します。この60は資金繰り表上、3つの異なる週(またはタイミング)でのキャッシュアウトとして反映する必要があります。

PL・BS・CFへの影響

KERP・KEIPの支給額は追加の人件費コストとしてPLに計上されるとともに、支給スケジュールに沿ったキャッシュアウトが発生するため、13週資金繰り表等の短期資金繰り管理に組み込む必要があります。手続中はDIPファイナンスによって運転資金を賄うことが多く、KERP・KEIPの支給がDIPファイナンスの使途・借入枠の設計に影響を与える点にも注意が必要です。

実務での調べ方・確認手順

数値モデルとしては、13週資金繰り表への組み込みが実務での中心的な作業です。

  • 対象者リストと、在籍維持期間・支給タイミング・支給額を一覧化したスケジュール表を作成する
  • 13週資金繰り表の支出項目に、KERP・KEIPの支給予定額を該当する週に計上する
  • 裁判所への承認申立てに必要な資料(支給の合理性・対象者選定理由)を整理する

この用語を実務で「使える」状態にする

重要人材の離脱防止策を短期資金繰り計画に正しく組み込み、資金繰りへの影響を可視化できるようになる。

13週資金繰り・事業再生モデルの教材を見る →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「KERPは会社が自由に設計できる」→ 正しくは、内部者向けには単純な在籍維持型のKERPは原則として制限され、業績目標達成を条件とするKEIPへの設計変更が求められます。

誤解2:「KERP・KEIPは退職金と同じもの」→ 正しくは、目的が異なります。退職金は退職に伴う一般的な給付であるのに対し、KERP・KEIPは手続中の離脱防止・業績達成インセンティブを目的とした特別なプログラムです。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

日本の民事再生手続・会社更生手続には、米国Chapter11のKERP・KEIPに相当する法定の規制枠組みは存在しません。日本の再生局面では、任意の労働契約・賞与制度の範囲で重要人材の引き止め策を設計するのが実務です。ただし、多額の追加報酬の支給は財産の処分・重要な財産行為に該当し得るため、監督委員の同意や裁判所の許可が必要になる場合がある点に留意する必要があります。PE分野におけるMIP(経営陣向けインセンティブ・プラン)と同様、危機時の人材リテンション設計という共通のテーマとして理解しておくと実務に応用しやすくなります。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:Chapter11手続中にKERPを設計する際、なぜ対象者が内部者か否かを区別する必要があるのですか。
「米国倒産法は、内部者(経営幹部等)向けに単純な在籍維持だけを条件とする報酬プログラムを原則として制限しており、業績目標の達成を条件とするKEIPとして設計しなければ裁判所の承認を得にくいためです。非内部者(一般従業員)向けのKERPはこうした制約が相対的に小さく、対象者の区分によって設計の自由度が異なります。」

よくある質問(FAQ)

Q. KERP・KEIPの支給には誰の承認が必要ですか。
A. 米国Chapter11手続では、裁判所の承認が必要です。多くの場合、債権者委員会等の利害関係者との協議を経て、支給の合理性や金額の妥当性が審査されます。

Q. 日本企業の米国子会社がKERPを導入する場合、日本本社の承認は必要ですか。
A. 法律上の要件ではありませんが、追加のキャッシュアウトを伴う重要な意思決定であるため、グループとしてのガバナンス上、日本本社の経営陣への報告・承認プロセスを組み込むのが実務上一般的です。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

共有: