この記事で分かること
- 内部統制評価範囲の決定とは何か、全社的評価と業務プロセス評価の2段階構造
- 売上高等に基づく「重要な事業拠点」の絞り込み方(2/3基準の考え方)
- 整数設例による拠点選定の累積計算と検算
- 拠点内でどの業務プロセスを評価対象にするかの実務(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
内部統制評価範囲の決定(重要な事業拠点の選定、読み方:ないぶとうせいひょうかはんいのけってい)とは、内部統制報告制度(J-SOX)において、全社的な内部統制の評価に加え、売上高等の指標を基準に「重要な事業拠点」を選び出し、評価対象とする業務プロセスの範囲を合理的に絞り込む実務手続です。全事業拠点・全業務プロセスを毎期網羅的に評価することは非効率であるため、リスクに応じて評価資源を集中させる考え方が採用されています。
なぜ実務で重要なのか
経理・内部統制評価担当は、毎期のJ-SOX評価計画の起点として、まずこの拠点・プロセスの絞り込みを行います。内部監査部門は、選定された重要な事業拠点で実際に評価手続を実施する主体になります。監査法人は、経営者が選定した評価範囲の合理性を検証し、範囲が狭すぎないかを確認します。M&A・組織再編担当は、新規に子会社化した拠点が翌期以降の評価範囲に含まれるかを検討する必要があります。
仕組み:評価範囲決定の3段階
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ①全社的な内部統制の評価 | 原則として連結ベースで全拠点を対象に評価(経営者の姿勢・組織風土等) |
| ②重要な事業拠点の選定 | 売上高等の指標で拠点をランキングし、一定の累積割合に達するまでの拠点を選定 |
| ③業務プロセスの選定 | 選定拠点で、原則として売上・仕入・在庫に関連する業務プロセスを評価対象とし、加えて虚偽記載のリスクが高い固有の業務プロセスを個別に追加 |
②の選定基準として実務でよく参照される考え方は、売上高の大きい拠点から積み上げ、連結売上高等のおおむね3分の2程度に達するまでを「重要な事業拠点」とするというものです。これは実施基準が例示する目安であり、絶対的な数値基準として強制されるものではありませんが、実務上の共通言語として広く使われています。
整数設例で確認する
設例(架空数値・単位:百万円)。連結売上高10,000の会社が、事業拠点A〜Gの売上高で重要な事業拠点を選定する場合を考えます。
| 拠点 | 売上高 | 累積売上高 | 累積比率 |
|---|---|---|---|
| A | 3,000 | 3,000 | 30% |
| B | 2,200 | 5,200 | 52% |
| C | 1,500 | 6,700 | 67% |
| D以下(評価対象外) | 1,200/900/700/500 | 10,000 | 100% |
連結売上高10,000の3分の2は 10,000 × 2 ÷ 3 = 6,667(小数点以下切上げ)です。売上高の大きい順に積み上げると、A+B=5,200(52%)ではまだ6,667に届かず、A+B+C=6,700(67%)で初めて6,667を上回ります。したがってA・B・Cの3拠点が「重要な事業拠点」として選定され、D〜Gの4拠点は原則として全社的な内部統制の評価のみで足り、個別の業務プロセス評価の対象外となります。
開示・規制上の位置付け
評価範囲の決定は内部統制報告書には直接の数値としては記載されませんが、範囲の決定プロセスの合理性は監査法人による内部統制監査で検証されます。選定基準を恣意的に操作して重要な不備の発見可能性を下げるような範囲設定をすれば、内部統制監査で問題視されます。セグメント情報の開示区分と重要な事業拠点の選定は必ずしも一致しませんが、セグメント情報の読み方で示される事業区分・拠点別の売上構成は、範囲決定の基礎データとしても利用されます。
実務での確認手順
評価範囲の決定はExcelの拠点別売上高ランキング表で管理するのが一般的です。
- 拠点別売上高(または資産等の代替指標)を降順に並べ、累積額・累積比率を自動計算する
- 累積比率が基準(例えば3分の2)を超える直前の拠点までを重要な事業拠点として抽出する条件式を組む
- 選定から外れた拠点についても、質的リスク(不正の疑い、新規買収拠点、システム統合中の拠点等)があれば個別に追加する例外ルールを設ける
拠点選定後の内部統制報告書の記載様式は有価証券報告書の読み方で確認できます。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「連結売上高の3分の2は法律で定められた固定基準」→ 正しくは、実施基準が示す目安であり、各社が自社の状況に応じて合理的な基準を設定することが前提です。3分の2という水準そのものより、選定プロセスの合理性・一貫性が重視されます。
誤解2:「評価対象外の拠点はまったく見なくてよい」→ 正しくは、全社的な内部統制の評価は全拠点が対象であり、個別の業務プロセス評価の対象から外れるだけです。質的リスクが高まれば評価対象外の拠点も追加対象になり得ます。
実務家はさらに、前期と評価範囲の考え方が大きく変わっていないか、変わった場合はその理由が合理的に説明できるかを確認します。
日本実務での扱い(2 026年8月時点)
金融商品取引法に基づく内部統制報告制度の実施基準は、全社的な内部統制の評価結果が良好であることを前提に、売上高等の指標に基づき重要な事業拠点を合理的に選定する考え方を示しています。連結売上高等のおおむね3分の2程度に達するまでの拠点を対象とする考え方は実務上広く定着していますが、全社的な内部統制に不備がある場合は、この絞り込みを行わず評価範囲を拡大することが求められます。M&Aで新規に子会社化した拠点については、取得後の期間や規模に応じて評価範囲への組み入れ時期を検討します(2026年8月時点)。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:J-SOXで「重要な事業拠点」はどのように選定しますか。
「拠点別の売上高等を降順に並べ、累積比率が連結売上高等のおおむね3分の2程度に達するまでの拠点を重要な事業拠点として選定します。ただし全社的な内部統制の評価結果が良好であることが前提で、これに不備があれば評価範囲を拡大する必要があります。選定された拠点では、原則として売上・仕入・在庫に関する業務プロセスを評価対象とし、これに固有のリスクが高いプロセスを追加します。」
深掘りでは「3分の2という基準はなぜ絶対ではないのか」「新規子会社をいつから評価範囲に含めるべきか」が問われます。
よくある質問(F AQ)
Q. 重要な事業拠点に選ばれなかった拠点は内部統制評価を一切受けませんか?
A. いいえ。全社的な内部統制の評価は原則としてすべての拠点が対象です。個別の業務プロセスレベルの評価対象から外れるだけであり、全社的な評価すら不要になるわけではありません。
Q. 評価範囲は毎期同じにしてよいですか?
A. いいえ。売上構成の変化やM&Aによる拠点の増減を反映し、毎期見直す必要があります。前期と大きく範囲が変わった場合は、その理由を説明できるようにしておくことが実務上重要です。
出典・参考(2 026-08確認)
- 金融庁(財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準・実施基準) https://www.fsa.go.jp/
- 日本公認会計士協会(内部統制監査に関する実務指針) https://jicpa.or.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。