この記事で分かること
- 職務発明・IP帰属の確認の定義と、DDで重視される理由
- 日本の職務発明制度と米国PIIAとの構造的な違い(表)
- 未締結の発明譲渡契約が及ぼす影響を確認する整数設例
- 日本の特許法上の位置付け(2026年8月時点)
30秒で分かる定義
職務発明・IP帰属の確認(IP Assignment and Employee Invention Rights in Startup Due Diligence、読み方:しょくむはつめいききぞく)とは、創業者・従業員が業務の過程で開発した発明・技術に関する知的財産権が、会社に適切に譲渡・帰属しているかを確認する、技術系スタートアップのVCデューデリジェンスにおける重要チェック項目です。技術そのものが企業価値の中心である場合、IPの帰属が不明確であれば投資対象の資産価値そのものが揺らぐため、法務DDの中でも優先度の高い論点になります。
なぜ実務で重要なのか
VC・投資担当は、投資先の中核技術の権利関係がクリアであることを、投資実行の前提条件(クロージング条件)として求めます。創業者・技術責任者は、前職での開発と現在の会社での開発の境界が曖昧な場合、前職の企業から権利侵害を主張されるリスクを抱えます。買収側(M&A・アクハイア)にとっても、対象会社の特許・ノウハウの帰属が不明確であれば、買収後にそれらを使用できないリスクが残ります(アクハイア参照)。
仕組み:日本の職務発明制度と米国PIIAの違い
| 項目 | 日本(職務発明制度・特許法35条) | 米国(PIIA) |
|---|---|---|
| 権利の原始的帰属 | 契約・勤務規則等の定めがあれば使用者に原始帰属可 | 雇用契約(PIIA)の譲渡条項により従業員から会社へ譲渡 |
| 対価 | 従業員に「相当の利益」を受ける権利あり | 原則として別途の対価は不要(給与に包含という整理が一般的) |
| 未整備の場合 | 発明が従業員個人に帰属したままになるリスク | 同様に会社への譲渡が成立しないリスク |
整数設例で確認する
設例(架空数値)。技術系スタートアップY社のDDで発覚したケースです。
- コア特許出願件数:7件 / 創業メンバー:5名
- 入社時に発明譲渡契約(職務発明規程への同意)を締結していないメンバー:2名
- 未締結の2名が発明者に含まれる特許出願:2件
ステップ1:契約未締結メンバーの比率。2 ÷ 5 = 40%の創業メンバーが発明譲渡契約を締結していません。
ステップ2:帰属未確定リスクのある特許の比率。2 ÷ 7 = 約28.6%の特許出願について、会社への権利帰属が契約上明確でないリスクがあります。
検算:2÷5=0.40、2÷7≒0.286。コア特許7件のうち約3割弱に帰属未確定リスクがあることが判明したため、投資実行の前提条件として、当該2名との間で発明譲渡契約(または権利確認書)を追加締結することが求められます。
案件プロセス上の位置付け
職務発明・IP帰属の確認は、投資契約締結前の法務DDのチェックリストに組み込まれ、未整備の項目は投資契約のクロージング条件(Condition Precedent)として、投資実行までに是正を求める形で対応されます。発見されたリスクは投資稟議書(Investment Memo)のリスクセクションに明記し、投資委員会で共有するのが実務です。前職からの技術持ち出しの疑いがある場合は、前職の就業規則・秘密保持義務との抵触の有無も併せて確認する必要があります。
実務での調べ方・確認手順
- 創業メンバー・従業員全員について、入社時の発明譲渡契約・職務発明規程への同意書の有無を一覧化する
- 特許出願の発明者欄と、上記の契約締結状況を照合し、未確定リスクのある案件を特定する
- 創業者の前職の業務内容と、現在の中核技術の開発時期・内容に重なりがないかを確認する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「会社の業務中に作った発明は自動的に会社のもの」→ 正しくは、日本の特許法上、契約や勤務規則で使用者への原始帰属を定めていない限り、発明は発明者個人に帰属するのが原則です。職務発明規程の整備が前提になります。
誤解2:「創業者自身が発明した技術だから権利関係の確認は不要」→ 正しくは、創業者であっても、前職在籍中に着想した技術であれば前職の会社との関係で権利の帰属が問題になり得ます。創業者自身のケースこそ慎重な確認が必要です。
日本実務での扱い
(2026年8月時点)日本の特許法35条は、契約・勤務規則等の定めにより、職務発明について使用者への特許を受ける権利の原始帰属を認めており、その場合、発明者である従業員は「相当の利益」を受ける権利を持ちます。多くのスタートアップでは、成長初期に職務発明規程の整備が後回しになりがちで、VCのDDで初めて未整備が発覚するケースが少なくありません。米国のPIIA(Proprietary Information and Invention Assignment Agreement)は雇用契約の一部として発明の譲渡を定める点で日本の職務発明規程と機能は近いものの、対価の考え方に構造的な違いがあるため、海外展開時にはそれぞれの法制に応じた契約整備が必要です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:技術系スタートアップのDDで、IPの権利関係をどう確認しますか。
「まず創業メンバー・従業員全員の入社時における発明譲渡契約・職務発明規程への同意の有無を一覧化し、主要な特許出願の発明者欄と照合してリスクの範囲を数値で把握します。未整備が見つかった場合は、投資実行の前提条件として契約の追加締結を求めるのが実務対応です。あわせて創業者の前職での業務内容と現在の技術の関連性も確認します。」
よくある質問(FAQ)
Q. 業務委託の外部エンジニアが開発した部分の権利はどうなりますか?
A. 業務委託契約に著作権・特許を受ける権利の譲渡条項がなければ、成果物の権利が受託者側に残る場合があります。業務委託契約書の確認も職務発明の確認と併せて重要です。
Q. 職務発明規程が未整備の場合、投資は実行できませんか?
A. 未整備自体が即座に投資見送りにつながるわけではなく、投資実行の前提条件として是正を求めるのが一般的な対応です。ただし是正に応じない場合はリスクとして評価に反映されます。
出典・参考(2026-08確認)
- 特許庁(職務発明制度に関する解説資料) https://www.jpo.go.jp/
- e-Gov法令検索「特許法」(第35条) https://elaws.e-gov.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。