この記事で分かること
- 所得税の基本構造(10種類の所得区分、総合課税と分離課税、5〜45%の累進税率)
- オーナー経営者に関係する株式譲渡益・配当・退職金の課税の違い
- 株式譲渡と役員退職金の手取りを整数設例で比較
- 2026年11月時点の改正(防衛特別所得税・極めて高い所得への特例)とM&Aでの確認点
30秒で分かる定義
所得税(しょとくぜい、Income Tax)とは、個人の所得に課される国税で、所得を利子・配当・不動産・事業・給与・退職・山林・譲渡・一時・雑の10種類に区分し、種類ごとに所得金額を計算したうえで税額を求めます。[1]多くの所得は合算して累進税率を適用する総合課税ですが、株式等の譲渡所得や退職所得のように他の所得と分離して課税されるものもあります。英語ではIncome Taxで、法人の所得に課される法人税と区別するため、本ページは個人の所得税を扱います。住民税は地方税として別に課されます。
なぜ実務で重要なのか
事業承継型のM&Aでは、売り手は個人のオーナーであることが多く、受け取る対価が株式の譲渡代金か、役員退職金か、配当かで税率が大きく異なります。M&Aアドバイザー・FASは売り手の手取り額を比較してスキームを提案し、PEは事業承継案件で売り手の税負担を踏まえた価格条件を設計し、ウェルスマネジメントは売却後の資産運用と納税資金を計画します。株式譲渡・事業譲渡・組織再編の課税関係は
計算式(ま たは仕組み)
株式等の譲渡所得:(譲渡価額 − 取得費 − 委託手数料等)× 15%(別に住民税5%)
退職所得:(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2 → 累進税率を適用(分離課税)
| オーナーが受け取る形 | 課税方式 | 税率の目安 |
|---|---|---|
| 非上場株式の譲渡益 | 申告分離課税 | 所得税15%+住民税5%(ほかに復興特別所得税)[2] |
| 非上場株式の配当 | 総合課税(内国法人からの配当は配当控除の対象) | 累進税率。支払時に20.42%を源泉徴収[3] |
| 役員退職金 | 分離課税(1/2課税) | 累進税率。役員等勤続年数5年以下は1/2課税なし[4] |
退職所得控除額は、勤続20年以下が40万円×勤続年数(80万円未満なら80万円)、20年超が800万円+70万円×(勤続年数−20年)です[4]。総合課税の税率は5%から45%の7段階で、課税所得4,000万円以上の部分は45%です[5]。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。創業30年のオーナー社長(役員在任30年)が自社株式100%を譲渡します。2026年分の所得として、復興特別所得税は2.1%で計算します。
- 株式譲渡(単位:百万円):譲渡価額1,000、取得費50、仲介手数料等30 → 譲渡所得 = 1,000 − 50 − 30 = 920
所得税 = 920 × 15% = 138、復興特別所得税 = 138 × 2.1% ≒ 2.90、住民税 = 920 × 5% = 46 → 合計 ≒ 186.90(920 × 20.315% = 186.898 と一致) - 役員退職金(単位:円):退職金2億円、退職所得控除 = 800万円 + 70万円 ×(30 − 20)= 1,500万円
退職所得 =(2億円 − 1,500万円)× 1/2 = 9,250万円
所得税 = 9,250万円 × 45% − 4,796,000円 = 36,829,000円、復興特別所得税 = 36,829,000 × 2.1% = 773,409円 → 合計 37,602,409円(住民税は別途)
退職金2億円に対する所得税等は約18.8%で、株式譲渡の税率(所得税・復興特別所得税で15.315%)と比べてどちらが有利かは、退職金の額、勤続年数、会社側の損金算入の可否(不相当に高額な部分は損金不算入)と、退職金の支払で株式価値が下がる効果まで含めて比較します。
投資判断への影響
売り手の手取りは「対価 − 税負担」で決まるため、同じ企業価値でもスキームによって売り手が受け入れる価格が変わります。株式譲渡は売り手個人に一度だけ課税されますが、事業譲渡で会社に対価が入ると、会社段階の法人税と、会社から個人への配当・清算分配時の所得税の二段階で課税されます(考え方は法人税と配当の二重課税)。退職金を組み合わせる手法は退職金活用による事業承継バイアウトのスキームで扱います。暗号資産と株式で税負担が変わる例は暗号資産と株式の課税比較も参考になります。
財務モデル・Excelでの使い方
- 手取り比較表:列にスキーム(株式譲渡のみ、退職金+株式譲渡、事業譲渡+清算)、行に対価・課税所得・税額・手取りを置き、税率はパラメータ欄で一元管理します。
- 退職所得の計算:勤続年数から控除額を
=IF(年数<=20, MAX(40*年数, 80), 800+70*(年数-20))(万円)で出し、役員等勤続年数5年以下かどうかの判定行を加えます。 - 累進税率:速算表をテーブルにし、VLOOKUPの近似一致で税率と控除額を引きます。復興特別所得税は所得税額×2.1%で別行にします。
この用語を実務で
株式譲渡・退職金・配当のそれぞれで売り手オーナーの手取りを計算し、スキームの違いを数字で説明できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「株式の売却益は一律約20%なので、金額が大きくても税率は変わらない」→ 正しくは、極めて高い所得には追加の負担があり得ます。2025年分以降、基準所得金額が3億3,000万円を超える場合、超える部分の22.5%相当額が基準所得税額を上回るときは、その差額が加算されます[6]。大型の売却では試算が必要です。
誤解2:「退職金は常に有利」→ 正しくは、役員等勤続年数が5年以下なら1/2課税がありません。また会社側では不相当に高額な部分は損金にならないため、功績倍率などの根拠を整えます。
確認ポイント:取得費が分からない古い株式は、取得費の扱いで譲渡所得が大きく変わるため、資本金の払込記録などを早めに集めます。
日本実務での扱い
(2026年11月時点)復興特別所得税は原則として基準所得税額の2.1%です[5]。2026年度税制改正(所得税法等の一部を改正する法律、令和8年法律第12号。2026年3月31日公布)で防衛特別所得税(基準所得税額の1%)が創設され、復興特別所得税の税率引下げ(2.1%→1.1%)と課税期間の延長(2047年分まで)が行われました。いずれも2027年1月1日施行で、2027年分以後の所得税(源泉徴収では2027年1月1日以後に生ずる所得)に適用されます[7]。源泉徴収では所得税額の1%相当額の防衛特別所得税が併せて徴収され、改正の前後で両税の合計税率は変わらないとされています[3][4][5]。上場株式等の配当は、大口株主等(発行済株式等の3%以上を保有する個人等)を除き申告分離課税を選択できますが、非上場株式の配当や大口株主等の配当は総合課税です[3]。オーナーが3%以上を保有する上場会社株式の配当も総合課税になる点に注意します。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:事業承継M&Aで、売り手オーナーにとって株式譲渡が事業譲渡より有利とされやすいのはなぜですか。
「株式譲渡なら、譲渡益に約20%の分離課税が一度かかるだけです。事業譲渡では対価がまず会社に入って法人税がかかり、その後オーナーが配当や清算分配で受け取る段階で、総合課税の所得税がかかる可能性があります。ただし会社の繰越欠損金や役員退職金の活用で結論が変わるため、手取りベースで比較します。」
深掘りでは「みなし配当になる場面(自己株式の取得など)」「退職金と株式譲渡の組み合わせの最適化」が問われます。
よくある質問(F AQ)
Q. 株式の譲渡損失は給与所得と相殺できますか。
A. 株式等の譲渡所得は申告分離課税で、他の所得と区分して計算します。上場株式等と一般株式等もそれぞれ別の申告分離課税で、上場株式等の損失を一般株式等の所得から控除することはできません[2]。
Q. 退職金の源泉徴収だけで課税は終わりますか。
A. 「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、支払者が税額を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は不要です。提出していない場合は20.42%で源泉徴収され、確定申告で精算します[4]。
出典・参考(2 026-11確認)
- e-Gov法令検索「所得税法」(昭和四十年法律第三十三号)第21条、第23条〜第35条、第89条. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000033(2026年11月参照)
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」(令和8年4月1日現在法令等). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm(2026年11月参照)
- 国税庁「No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)」(令和8年4月1日現在法令等). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1330.htm(2026年11月参照)
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」(令和8年4月1日現在法令等). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm(2026年11月参照)
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」(令和8年4月1日現在法令等). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm(2026年11月参照)
- 国税庁「No.2270 特定の基準所得金額の課税の特例」(令和8年4月1日現在法令等). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2270.htm(2026年11月参照)
- e-Gov法令検索「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」第5条の5、第5条の9(令和8年法律第12号による改正、2027年1月1日施行)、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」第9条、第13条(同). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC0000000069(2026年11月参照)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。